聴覚情報処理障害(LiD/APD)に向いている仕事はある?対策や支援サービスを解説

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聴覚情報処理障害(LiD/APD)は近年になって認知度が高まり始めたため、周囲の理解が得られず苦しんでいる方も多いと思います。仕事でも満足な成果が発揮できず、転職を考えている方もいるのではないでしょうか。

聴覚情報処理障害があっても無理なく働ける仕事を探すためには、まず障害の特性を知ることから始めましょう。この記事では、聴覚情報処理障害の症状や仕事上の困りごとへの対処法、向いている仕事を探すポイントなどを解説します。

聴覚情報処理障害(LiD/APD)とは

聴覚情報処理障害(LiD/ADP)とは、聴力に異常はないと診断されるものの、自分に必要な音を聞き分けることが困難なことから、雑音が多い場所や多人数での会話、電話といった日常生活の場面において言葉が聞き取りにくくなる症状が見られる障害です。

この症状は、耳から得た音声を脳が処理する際に何らかの障害が発生しているために起こるとされています。音声を言葉として聞き取るのが難しい一方で、耳自体には問題がないため耳鼻咽喉科を受診しても発見されないことがあります。

ちなみに、日本ではAPD(Auditory Processing Disorder/聴覚情報処理障害)と呼ばれることが多いですが、海外ではLiD( Listening difficulties/聞き取り困難症)という言葉が広く使用されています。

聴覚情報処理障害の症状

聴覚情報処理障害にはまだ明確な定義がありませんが、2024年3月に日本医療研究開発機構(AMED)が公表した「LiD/APD診断と支援の手引き」によると、以下の定義が示されています。

  • 聞き取り困難の自覚症状を持っている
  • 末梢性の聴覚障害を認めない
  • 聞き取り困難の訴えを自覚
  • 音聴力検査が正常、両耳の語音明瞭度が正常範囲のもの

主な症状としては、聞き間違いや聞き返しが多い、グループでの会話を聞き取るのが困難、ザワザワしたところで声が聞き取りづらいなどが挙げられます。

聴覚情報処理障害と難聴(聴覚障害)の違い

聴覚情報処理障害と難聴(聴覚障害)の大きな違いは、聴力異常の有無です。聴覚情報処理障害が脳や神経の障害であるのに対して、難聴は耳の機能に何らかの障害があり、音が聞きづらくなる障害です。

なお、難聴には外耳や中耳に障害が認められる「伝音性難聴」と内耳や聴神経に問題が認められる「感音性難聴」、これらの両症状が組み合わさった「混合性難聴」の3種類に分けられます。

聴覚情報処理障害と発達障害の関係

聴覚情報処理障害の原因はさまざまですが、最も多いのは発達障害*であると考えられています。「LiD/APD診断と支援の手引き」によると、小児を対象とした167例のうち、聴覚情報処理障害の疑いがある101例においては、約半数が神経発達症(発達障害)を合併していると報告されています。

聴覚情報処理障害と発達障害の具体的な関連性は分かっていませんが、発達障害の方は聴覚にも問題を抱えている傾向があり、同手引きによればASD(自閉スペクトラム症)の感覚過敏やフィルタリング機能の異常なども一因になっているのではないかと推測されています。

聴覚情報処理障害の方の仕事での困りごと

聴覚情報処理障害の方は聞き取りが苦手という特性上、日常生活や仕事などにおけるコミュニケーションに問題を抱えていることが多いです。例えば、電話や口頭でのやり取りが困難であったり、複数人での会話が聞き取れなかったり、話の内容が分からず注意散漫になったりといった問題があります。

先述した同手引きによると、聴覚情報処理障害と診断された方・症状を自覚している方639例を調査したところ、職場や学校におけるコミュニケーションに問題を抱えている割合が高く、どの年代でも割合がおおむね60~70%という結果になっています。

聴覚情報処理障害の方に向いている仕事

聴覚情報処理障害の方は、雑音の多い環境や音声で情報を取り入れる業務をなるべく避け、静かな環境や文字で情報のやり取りができる仕事を選ぶと働きやすいでしょう。例としては以下のような職種が挙げられます。

  • ライター
  • データアナリスト
  • イラストレーター
  • プログラマー
  • デザイナー
  • 電話対応の少ない事務職

最近ではフルリモートの仕事も増えているので、在宅での仕事も選択肢に入ります。仕事の連絡もチャットツールを使うことが多いので、連絡事項を聞きもらす心配も軽減されるでしょう。

聴覚情報処理障害の方におすすめの仕事対策

聴覚情報処理障害のある方が仕事をする際には、自分のできる対策を講じるか、職場に理解を求めることが必要となります。具体的には以下のような対策が有効です。

  • 補助機器を活用する(デジタル補聴器・音量調整付き耳栓・ノイズキャンセリング機能付きイヤホンなど)
  • 音声文字変換アプリを使う
  • ボイスレコーダーを使用する
  • 職場や周囲に症状を伝えて配慮を求める

これらの方法から、自分にできそうなことや合いそうなものを取り入れてみましょう。なお、デジタル補聴器などを使いたい場合には、まず耳鼻科に相談してから機器を選びましょう。

聴覚情報処理障害の方の仕事探しのポイント

聴覚情報処理障害の症状が強い場合は、環境の配慮が望める仕事を探すのも手です。そこで検討したいのが、障害者手帳の取得と就労移行支援サービスの利用です。

利用に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、障害があるという前提条件のもと仕事を探せるので、より快適な環境で働けたり求人元とのミスマッチを減らしたりできることが期待できます。

障害者手帳の取得

現在、聴覚情報処理障害は障害者手帳の交付対象になっていませんが、ASDやADHDなどの発達障害がある場合には取得が認められるケースがあります。発達障害の場合、一定の条件を満たすことで「精神障害者保健福祉手帳」と「療育手帳」の取得が可能です。

障害者手帳が交付されれば、各種福祉サービスを受けられるほか、障害者雇用として働くこともできるようになるため、職業選択の幅が広がります。

就労移行支援サービスの利用

就労移行支援とは、障害のある65歳未満の方を対象に一般就労を目指すための支援が受けられる福祉サービスです。

サービス内容は就労に必要な知識・スキルの習得や求職活動の支援、就職後の定着サポートなど多岐に渡ります。障害に理解のある専門のスタッフが、就労環境のすり合わせや困りごとへの対策などをトータルサポートしてくれるので、自分で障害を説明するのが苦手な方や就労に対する不安を抱えている方にとっても、心強い味方となってくれるでしょう。

Kaienの就労移行支援

就労移行支援サービスを提供している事業所の1つに、弊社「Kaien」があります。Kaienはこれまでに、約2,000人以上の就職をお手伝いしてきました。就職率は86%と高く、1年後の離職率も9%と低い水準で、特性に合わせた求人のマッチングを提供できるのが強みです。

就職先の業界はコンサルティングやサービス、IT、金融・保険、不動産・建設など多岐にわたります。また、充実した職業訓練や豊富なカリキュラムにより、自分に合った職業探しから目的に合わせたスキル向上、独自求人の提供まで一貫したサポート体制が整っているのも魅力です。

利用料は前年度の所得にもよりますが、約9割の方が自己負担額0円で利用できるので、利用のしやすさにも定評があります。無料で見学会や相談会、体験利用も実施していますので、まずはお気軽にご相談ください。

就労移行支援で向いている仕事に出会おう!

聴覚情報処理障害は聞き取りがしづらいという特性上、職場環境により業務に支障が生じる場合があります。環境の改善が難しい場合は、転職なども視野に入れ、就労移行支援サービスの利用も検討してみましょう。

就労移行支援サービスは、あなたの特性に合った仕事を見つける場所です。Kaienのように、困りごとへのスキル取得や実践的な職業訓練を通し、さまざまな職種で働く機会を提供できるサービスもあるので、興味のある方はぜひご連絡をお待ちしています。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

聴覚情報処理障害(APD)に関して、私自身は専門的にコメントできる立場ではありません。また、現状ではまだ独立した診断として扱われるべきか、世界的にも論議があります。とはいえ、聴覚情報を的確に処理することが難しい方がいる、のは確かであり、そこには聴覚情報を処理する脳内のプロセスが何かしらの形で関係していることも確実でしょう。

外来では、ADHD特性のある方に多い、ワーキングメモリの障害(低さ)との区別が正直難しいときが多いと感じます。誤解されている方も多いですが、ワーキングメモリの障害とAPDとはそのメカニズムに違いがあり、重なって持っている方もおられますが、基本的には別物です。ただ、APDがあると、ワーキングメモリにも影響したり、その発達が阻害されてしまうということもあるでしょう。現状ではその診断や社会的支援の不足がありますので、APDの問題を抱える方は、ご自身の持つ困難さが何であるのかを理解ある耳鼻科や言語聴覚士さん、難聴の専門家の協力を得て、何が助けになるか一緒に考えてもらうのが良いでしょう。APD当事者会に出て、それぞれの方の工夫や役立ったことを聞いてみるのも良さそうです。精神科医が役立てるとすれば、他の発達障害特性や、精神疾患と併存しているときです。そのような時には、直接ではなくても、間接的にAPDを持った生活の中で改善できる部分を作れるはずです。今後の研究の進展によって、より良く理解が進んでくるのを期待します。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。