発達障害*を持っている方は、「自分には得意なことがない」と感じることがあるかもしれません。発達障害を持つ人は特定の分野で突出した才能を発揮するといったイメージが広がっていますが、実際にはそうでない人も多くいます。しかし、得意なことがないからといって、適した仕事が見つからないということではありません。
この記事では、得意なことが見つからない発達障害の方に向けて、仕事選びのポイントや向いている仕事を解説します。発達障害の方が利用できる就労系の支援についても紹介しているので、ぜひチェックしてみてくださいね。
発達障害の人は得意なことがないとだめなの?
発達障害を持つ人は苦手なことがある一方で、他の人と比べて突出した才能や得意なことがある、というイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、それは誤解です。確かに、特定の分野について高い能力を発揮する発達障害の人もいますが、そのような人ばかりではありません。
発達障害を持つ人が自分の得意分野を探すときに大切なのは、他者との比較ではなく自分との比較で得意・不得意を考えることです。「他人よりも上手にできること」ではなく、自分が何に興味を持ち、何を楽しめるかを考えてみましょう。「比較的苦労せずにできること」を見つけるという方法もあります。
また、得意なことが必ずしも仕事に直結するわけではないという点も覚えておきましょう。仕事探しのために得意なことを見つけようとすると、どうしても「仕事に役立つのか」と考えてしまいがちです。しかし、強み・弱みがわかるだけでも仕事選びの方向性は見えてくるので、気負いすぎず自分の得意分野を探してみてくださいね。
得意なことがない発達障害の方の仕事選びのポイント
「自分には得意なことがない」と感じる発達障害の方は、仕事選びで次の3つのポイントを意識しましょう。
- 特性を活かせる仕事や働き方を模索する
- 障害者雇用も検討する
- 就労移行支援などの支援の利用も検討する
これら3つのポイントについて、以下で解説します。
特性を活かせる仕事や働き方を模索する
得意なことが見つからない人も、苦手なことや弱みは自覚している人が多いのではないでしょうか。発達障害の方の仕事選びでは、このような特性に合わせた仕事や働き方を探すことが大切です。一度、「苦手ではないこと」「やっていて苦にならないこと」という視点で、仕事を選んでみましょう。
また、本人が得意なことに気づいていないだけ、というケースも少なくありません。「得意」という言葉にハードルの高さを感じる場合は、「やっていて楽しいと思えること」「継続して取り組めていること」などがないか考えてみてください。これらも、自分に合った仕事選びの参考になります。
障害者雇用も検討する
発達障害の方が就職する際には、「一般雇用」と「障害者雇用」という2つの選択肢があります。一般雇用は、障害の有無に関わらず全ての人を対象とした雇用枠です。
一方、障害者雇用は発達障害を含め障害を持つ人を対象とした雇用枠で、それぞれが持つ障害や特性について理解や配慮を受けやすいというメリットがあります。例えば、特性に合わせた働きやすい職場環境の整備や仕事内容の変更、勤務時間の調整などの配慮が受けられます。
障害者雇用は一般雇用と比べて求人数が少ない傾向にあるため、希望の仕事が見つかるとは限りません。しかし、希望や条件に合う求人があれば働きやすい環境で仕事ができるため、障害者雇用の求人も一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
就労移行支援などの支援の利用も検討する
発達障害によって就職活動に難しさを感じる場合は、就労系の障害福祉サービスの利用も検討してみましょう。就労移行支援や自立訓練(生活訓練)など、さまざまな種類の支援制度があります。
就労移行支援は、障害を持つ人が一般企業への就職を目指す際に利用できるサービスで、就職に必要なスキルを身につける訓練や面接対策、就職後の定着支援といった支援が受けられます。
自立訓練(生活訓練)は、障害を持つ人が自立した生活を送れるよう支援するサービスです。規則正しい生活やお金の管理、他者とのコミュニケーションなどが円滑にできるよう、それぞれの特性や状況に応じた支援を提供します。
これらの支援を受けることで、自分の特性に合った仕事内容や職場環境を見つける手助けになります。「得意なことが見つからず就職活動が難航している」という人は、利用を検討してみてください。
発達障害の人の強みと向いている仕事
発達障害には種類によって特性が異なります。ここでは、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の強みと向いている仕事について紹介するので、仕事選びの参考にしてみてください。
ASDの強みと向いている仕事
ASDの強みには、次のようなものがあります。
- 興味のある分野であれば高い集中力や記憶力を発揮できる
- ルールや規則を守るのが得意
- ルールに納得できれば常に一定水準の仕事ができる
- 論理的思考力を持っている
- 几帳面で正確性が高い
ASDには、こだわりが強いという特性があります。これを弱みとして捉えている人もいるかもしれませんが、集中力の高さやルールを守れるといった強みとして捉えることもできるでしょう。
これらの特性を踏まえると、ASDの人には次のような仕事が向いています。
- 経理
- 法務
- コールセンター
- プログラマー
- 塾での問題作成
- 設計士 など
ADSの強みと向いている仕事については、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひこちらもチェックしてみてください。
ASDの方に向いている仕事とは?仕事での強みや利用できる支援先を解説
ADHDの強みと向いている仕事
ADHDの強みには、次のようなものがあります。
- 発想力があり斬新なアイデアを出せる
- 好奇心が旺盛で学習意欲が高い
- 行動力や決断力がある
- 興味のある分野に対する集中力が高い
ADHDには不注意や多動性、衝動性などの特性がありますが、働く上では発想力や好奇心、行動力といった部分が強みとなります。アイデアが求められるクリエイティブな仕事や、フットワークの軽さが求められる仕事なら、強みを活かして働けるでしょう。
具体的には、次のような仕事が向いています。
- 編集
- カメラマン
- 料理人
- デザイナー
- プログラマー
- 研究者
- 塾講師
- 教員 など
ADSの強みと向いている仕事については、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひこちらもチェックしてみてください。
大人のADHD(注意欠如多動症)とは?向いている仕事や困りごとへの対処法
自分の得意・不得意を知るために活用できる心理検査とは
自分の得意・不得意についてより詳しく知りたいという人は、心理検査を受けるのもひとつの方法です。心理検査とは知能や発達の水準、パーソナリティなどを調べる検査のことで、大きく次の3種類があります。
- 発達・知能に関する検査
- 脳の機能に関する検査
- 心の状態に関する検査
個別の検査を数えると数百種類もあり、検査できる機関も自治体や病院、相談室などさまざまです。受験にかかる料金も無料から数万円かかるものまで差があるので、検査を受ける場所や検査の種類に関しては自分に合ったものを選びましょう。かかりつけ医や自治体の福祉窓口に相談してみるのもおすすめです。
心理検査のほかに活用できる検査としては、GATB(厚生労働省編 一般職業適性検査)というものもあります。GATBは筆記での検査と器具を使った検査を行い、適正のある職業を判定します。GATBはハローワークで受験ができるので、受験を希望する人は問い合わせてみましょう。
自身の特性にあわせた仕事選びが重要
発達障害の方が「得意なことがない」と感じるケースは珍しくありません。いわゆる「ギフテッド」と呼ばれるような突出した能力を持つ人ばかりではなく、得意なことがないからといって仕事が見つからないというわけではないので安心してください。
「得意」というとハードルが高くなってしまうので、「苦手ではないこと」「比較的楽にできること」という視点で考えてみましょう。自分に合う仕事がわからない人は、発達障害の特性にあわせた仕事選びに取り組んでみてください。障害者雇用や各種支援を利用するのもおすすめです。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)の利用を検討している人は、ぜひKaienにご相談ください。発達障害の強みを活かした就労移行支援・自立訓練(生活訓練)を実施していて、高い就職率や定着率が特徴です。見学・個別相談会も実施しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
得意なことを仕事にする、ということがいかに難しいかは、発達障害と診断されたことのない方でも経験されたことがあると思います。これは現代社会が仕事に比重を強く置いていること、そして個性の発揮が大切とされていているにも関わらずその王道がないこと(当たり前と言えば当たり前なのですが)と強い相関があると私は考えます。
人類の歴史を見ても、これほど一人一人が人生の主役であり、生きる意義を時代に刻みつけないといけないと要求された時代はないと思います。なぜなら古代では絶対的な神がいて、中世では絶対的な王や大名がいて、個人の存在は危ういちっぽけなものだったからです。しかし、近世の自然科学と工業の発展がこれらの絶対性を切り崩し、ついに現代では一人一人のこころの中(内面)が絶対的なものになりました。絶対的だった神の不在に続き、紛争の続くこの数年間を見ると、国家の不在も遠い未来の話ではないかもしれません。
個人の内面が絶対的になったために出てきた問題が、不安です。これにいち早く着目し、こころの問題の一般化・普遍化に成功したのが精神分析家のフロイトでした。社会が物質的に豊かになり、とりあえずの平和を獲得すると出てくるのが差異(違い)の問題です。他人との違い、コミュニティとの違いが個人(あなたや私)を苦しめます。皆平等と言いながら、この差異は水平面から垂直面に偏位します。端的に言えば差異が貧富の差に直結します。世界がグローバル化しているように見えて、逆説的にムラ化しているのです。
発達障害は高度に都市化された社会や地域に特有の、わずかな差異がクローズアップされた病ではないかと私は考えますが、正誤は後世に問いたいと思います。ともかく、一日一日無事に、穏やかに毎日を送ることができる仕事に就けることが、後から振り返って得意なことと言えるのではないでしょうか。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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