強迫性障害があっても仕事はできる?安心して働くためのポイントや支援制度を解説

HOME大人の発達障害Q&A就職・転職強迫性障害があっても仕事はできる?安心して働くためのポイントや支援制度を解説

強迫性障害(強迫症)がある場合、症状の影響などにより仕事に支障をきたしている方もいるのではないでしょうか。障害がありながら仕事を続けるためには、強迫性障害について正しい知識を身につけ、対処法や支援先を知ることが大切です。

本記事では、強迫性障害の症状や仕事への影響について解説します。無理なく働くためのポイントや対処法も紹介しているので、自身の障害についてしっかりと理解を深めていきましょう。

強迫性障害(強迫症)とは

強迫性障害(強迫症)は、強い不安やこだわりなどから強迫症状が起こる病気です。強迫症状とは主に、不安感や恐怖心が高まる「強迫観念」と、強迫観念を消し去るために自分の意思で行う「強迫行為」の2つです、

強迫性障害は、自分でもおかしな行動だと分かっていても行為を止めることができず、就労や日常生活にまで支障が出てしまうことも少なくありません。必要以上に強迫行為を繰り返している自覚はあることから、「変な人だと思われてしまう」という恐怖感が高まり、行動範囲が縮小されてしまうケースもあります。

強迫性障害(強迫症)の主な症状

強迫性障害の症状の1つである強迫観念には、「手の汚れ」や「家の鍵の施錠」をしたか気になるなど特定の対象物に対する不安と、「誰かに危害を加えたかもしれない」という加害恐怖など対象物のない不安が含まれます。

強迫観念が生まれることで発生する強迫行為は、鍵の施錠やガス栓、電気の消し忘れなどが気になって不安になる強迫観念に対して、何度も繰り返し確認してしまう行為などを指します。

また、物の配置などに過度のこだわりがあり、必ず自分の決めた位置にないと不安で何度も位置を直すといった行動も強迫行為の1つです。このように、強迫観念と強迫行為を繰り返してしまうのが、強迫性障害の主な症状となります。

強迫性障害(強迫症)と発達障害の関連性

不安障害の1つである強迫性障害は、発達障害*との関連性が指摘されています。日常生活や将来に大きな不安を感じ、強いこだわりなどの特性がある発達障害は、不安障害と区別がつきにくいのが特徴です。ただし、発達障害は生まれつきの障害であるのに対し、強迫性障害などの精神障害は後天的な精神疾患であるという大きな違いがあります。

発達障害は生まれながらに特性があり、その特性により多くの困りごとや不安を抱えているケースが多いです。日常生活や仕事などにおける生きづらさやストレスが原因で精神障害を発症する場合があり、これらは後天的な障害であることから二次障害と呼ばれます。

二次障害がきっかけで発達障害が分かることもありますが、二次障害の症状が辛い場合には、発達障害の特性の対処よりも二次障害への治療や対応を優先することが大切です。

強迫性障害(強迫症)による仕事への影響

強迫性障害の方は、こだわりや不安などから仕事に支障をきたすケースが多いです。症状による仕事への影響として、考えられる困りごとは以下の通りです。

  • 強迫行為に時間がとられることで、遅刻や納期に遅れる
  • こだわりが強い難しい人などと誤解を受けやすい
  • 強迫観念により業務に集中できなくなる
  • 障害として認知されず理解を得られない

上記のように、納期のある仕事に対しても自分の強迫行為を優先してしまうため、時間が余計にかかって間に合わなくなる傾向があります。また、数字や物の配置など細かなことへのこだわりが周囲にとって近寄りがたい印象を与え、職場内の人間関係に影響を及ぼす可能性も少なくありません。

強迫性障害(強迫症)の方が無理なく働くポイント

強迫性障害の方が無理なく働くためには、ストレスを溜めない生活を心がけることが大切です。そのためには、主治医や家族、周囲の人などの協力が必要で、働く場合は職場への理解も重要となります。

また頼れる人がいない場合や仕事への不安が強い方は、就労支援機関を頼るのも1つの手段です。ここでしっかりと無理なく働くポイントを抑えておきましょう。

早めに医療機関を受診する

強迫性障害の症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。しかし、クリニックによっては強迫性障害に対応できないこともあるため、受診する前に実績や評判などを確認し、自分に合いそうな医療機関を選択しましょう。

自分は大丈夫と思って無理して仕事を続けると、症状の悪化や長期化を招く恐れがあります。自己判断せず、専門家の診断を仰ぎましょう。

リラックスした生活を心がける

強迫性障害は強いストレスから発症するケースもあるため、まずはストレスを溜めずリラックスした生活を心がけることが大切です。しかし、家族や周囲の人に専門知識がない場合、安易な行動や言動からストレスが溜まり症状を悪化させる可能性があります。

例えば「がんばれ」や「我慢しなさい」などの言葉は負担になるケースが多く、ストレスが溜まる原因の1つです。強迫性障害の方だけでなく、家族や周囲の人も障害への理解や正しい知識が必要といえます。

生活環境にストレスを感じる場合は、可能であればそこから離れて生活することも有効な対処法です。

職場に理解を求める

職場の上司などに障害への理解を求めるのも無理なく働くポイントです。強迫性障害は周りから障害であると気づかれない場合も多く、こだわりが強い特徴からマイナスな印象を与えやすくなります。

上司に障害について相談することで、働き方や職場環境などの配慮が求めやすくなるでしょう。仕事が大きなストレスになっている場合は、ストレスのある環境から離れることが改善につながるケースも多いため、休職も視野に入れて今後を考える必要があります。医師による診断書があると会社側の理解を得やすくなるので取得するのも有効です。

支援機関を頼る

自分だけでは対処しきれない場合は、支援機関を頼るのも1つの手段です。強迫性障害の方が休職や転職を考えた際に利用できる支援機関は以下のようなものがあります。

  • 就労移行支援
  • ハローワーク
  • 地域障害者職業センター
  • 精神保健福祉センター
  • 障害者就業・生活支援センター

これらの支援機関は強迫性障害などの障害への知識のある支援経験が豊富なスタッフが在籍していることも多く、症状や特性に合わせたサポートを行ってくれるのが特徴です。利用に障害者手帳の有無は問われないので、まずはお近くの支援機関に相談してみましょう。

強迫性障害(強迫症)の方は就労移行支援の利用がおすすめ

就労移行支援とは障害のある方を対象とした通所型の福祉サービスの1つです。一般就労を目指すためのあらゆる支援を受けることができ、障害者手帳がなくても「障害福祉サービス受給者証」を取得すれば18歳以上65歳未満の方なら誰でも利用できます。

主な支援内容は、「職業訓練」「就活支援」「定着支援」などです。強迫性障害の方の困りごとや症状に合わせたカリキュラムやプログラムを通じて、自分に合った仕事内容を見つけ、無理のないペースでスキルアップを目指せます。

利用の際は、事業所の雰囲気や習得できるスキルなど、自分の希望とマッチしているかどうかを考えながら選ぶようにしましょう。

就労移行支援のサービス内容

Kaienでも就労移行支援を行っており、就職実績は約2,000人(過去10年)、就職率86%、離職率9%を誇ります。Kaienでは発達障害の方や強迫性障害などの二次障害がある方に対し、専門家も推奨する充実したプログラムを提供しているのが特徴です。

職業訓練は、100職種以上の実践的な職種体験から自分に合う職業を探せるのが魅力で、経理や人事などのデスクワークや軽作業などから選べます。Kaien独自の豊富なカリキュラムも強みで、ビジネススキルや就活講座などを通じて、自己分析から新しい発見のきっかけをつかむことも可能です。

企業の求人は、発達障害や精神障害に理解のある求人が200社以上と充実しており、Kaienしか扱っていない独自求人も多いため、自分に合った就職先がきっと見つかるでしょう。定着支援も手厚く実施しており、就職後も安心して仕事に集中できます。

適切な支援と対策で安心して働ける足場固めを

強迫性障害の方は、症状や特性から就労が困難になるケースも少なくありません。そのため、家族や医療機関、職場、支援機関などとの協力や連携が必要です。強迫性障害は、周囲から障害として認知されにくいため、職場に前もって相談しておくなどの対策をとると良いでしょう。

働くことへの不安や、ストレスの原因が仕事にある場合は、就労移行支援などの支援機関を頼り、対処法やスキルを習得することも有効です。Kaienでは無料で体験利用や見学会を実施していますので、ぜひお気軽にご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

映画「恋愛小説家」で売れっ子小説家のメルヴィンは、同じレストランの同じ席、同じ料理を同じウェイトレス(キャロル)に運んでもらわないと不安が爆発してしまう性格です。売れっ子作家の華やかなイメージとは裏腹に、ベースに不安があり、ばかばかしいと思いつつも同じ行動が止められない、強迫性障害の辛さが良く描かれています。

強迫性障害を持っていてもメルヴィンのように、仕事には支障のない人もいます。しかし、日常生活での強迫行動が止まらなくなり、仕事ができなくなってしまう場合もあります。本コラムにもあったように、まずはしっかり治療を受けていただきたいと思います。そして、日常生活が安定したら、少しずつ仕事について周囲に相談すると良いでしょう。主治医やスタッフが力になってくれるはずです。


監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。