パニック障害(パニック症)のパニック発作は突然やってくるもの。自分でコントロールできないので、仕事で迷惑をかけてしまわないか不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、パニック障害の症状や原因、パニック障害に対する環境面や身体面の対策や、パニック発作が起きた時の対処法を解説します。また、障害と向き合いながらより良い職場環境に身を置けるように、自分に合った仕事を探すための方法も紹介します。
パニック障害(パニック症)とは
パニック障害(パニック症)は、突然の強い不安や恐怖、不快感などが突然発生する不安障害の1つです。症状が現れると心の不調だけでなく、めまいがする、呼吸が苦しくなる、心臓がドキドキするといった身体症状も現れます。
パニック障害の症状
パニック障害はいろいろな心身の症状を引き起こしますが、症状が出る要因によって大きく「パニック発作」「広場恐怖」「予期不安」「イップス」に分けられます。どの症状が出ているか自覚できれば、対処しやすくなるでしょう。
パニック発作
パニック発作は、場所や状況にかかわらず、心身の不調が突然起こる症状です。具体的には以下のような症状が出ます。
- 動悸
- めまい
- 息苦しさ、過呼吸
- 発汗、悪寒
- 吐き気
- 手足の震え
- 強い恐怖感、非現実感
パニック発作は通常、10分以内にピークに達し、20分程度で収まります。
広場恐怖
広場恐怖は、パニック発作がもしも起きたら「逃げられない」「助けを求められない」と感じる状況や場所において、強い不安を抱く症状です。広場恐怖という名前から広い場所で起きる症状と思われがちですが、実際にはエレベーター、満員電車、映画館など、閉鎖的な状況で起きやすい症状です。
例えば、通勤電車でパニック発作を経験した結果、同じ状況を避けるために電車に乗れなくなることがあります。
予期不安
予期不安とは、パニック発作を繰り返すうちに「また発作が起きるのではないか」と感じる強い不安のことです。発作が実際に起きていない時でも、不安感や恐怖感が続くため、心身に負担がかかります。特に、「次はもっと激しい発作が起きるに違いない」などと、自ら不安を高めてしまうと、症状が悪化する可能性があります。
イップス
イップスとは、心の状態が原因で身体が思うように動かなくなる心理的な症状です。普段は自然にできていた動作が、極度の緊張やプレッシャーによりできなくなります。イップスは、スポーツ選手や演奏家などのように、強いプレッシャーがかかる職業の人に起きやすい症状として知られています。
パニック障害の原因
パニック障害の原因はまだ明らかになっていません。ただ、脳機能が関与していることが分かっており、扁桃体、海馬、中脳、前頭前野との関係が示唆された研究報告があります。
また、予期不安や広場恐怖はパニック発作に対する恐怖に起因する場合が多いです。予期不安と広場恐怖が強くなると常に不安がつきまとい、場合によっては外出自体が難しくなることもあります。
近年ではマスクの着用により、パニック発作を誘発するリスクが高まる可能性が示唆されています。マスクをつけることで息苦しさを感じた経験のある人は多いかもしれません。息苦しさで浅い呼吸を繰り返すと、過呼吸に陥る可能性が高まります。
過呼吸は脳血流を減らすという研究もあり、脳血流が不足することでめまいなどの症状が誘発されるのです。これらの症状はパニック発作とよく似ており、「もしかしたら発作が起きる(起きている)かもしれない」という予期不安にもつながります。マスクを着用する際は、呼吸を意識することが大切です。
パニック障害と発達障害の関連性
発達障害*とは自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)など、脳機能の発達に関係する障害の総称です。発達障害がある場合、発達の特性や生きづらさなどが影響し、二次障害としてパニック障害を含む後天的な精神障害が引き起こされるケースがあります。
二次障害とは、ある障害が原因となって新たな障害を引き起こすことです。発達障害によってさまざまな不安を感じながら日々を過ごしている方は多く、この不安がパニック障害の一因になっている場合があります。二次障害によりパニック発作を何度も繰り返している場合には、発達障害の特性への対策やアプローチも重要です。
パニック障害による仕事への影響
パニック障害があると、仕事中にパニック発作が起こるかもしれないと不安に思い、以下のような困りごとが生じる場合があります。
- 通勤時に電車やエレベーターに乗れない(通勤困難)
- プレゼンのような強い緊張を感じる仕事ができない
- 席を外しにくい環境下で予期不安が強くなる
また、実際にパニック発作が起こった場合は予期不安がさらに強くなったり、広場恐怖につながったりする恐れがあります。これらが悪化すると、仕事に行くこと自体が困難になるケースもあるため注意が必要です。
パニック障害への対策方法
パニック障害への対策は大きく環境面の対策と身体面の対策の2つに分けられます。ここでは、多くの方が実践しやすい環境面の対策と、身体面の対策を紹介します。
環境面の対策
パニック発作は理由なく突然起こる場合がありますが、特定の環境で引き起こされる場合も少なくありません。そのため、パニック発作に対しては、環境面の対策が効果的です。
通勤時間帯や経路を変更する
パニック障害の方の中には、満員電車やバスのような人の多い場所や、閉鎖的な空間で強い不安を感じる方がいます。こうした環境がパニック発作を引き起こしている場合には、通勤時間帯や経路を工夫することが効果的です。
例えば、朝早めに家を出て、混雑が少ない時間帯の電車を利用する方法があります。また、各駅停車を利用したり、乗降ドア付近に乗ったりして「その場から逃れられる」という安心感を確保することも効果があります。可能であれば、自転車や徒歩通勤など、公共交通機関以外の移動を試してみるのもよいでしょう。
可能であれば勤務形態を在宅勤務に変える
通勤や職場の環境がストレスになっているパニック障害の方は、可能であれば、在宅勤務に変えることが効果的です。通勤の負担がなくなることで、発作の引き金となる不安要素を減らせます。また、自宅は安心感を得やすいうえ、万一発作が起きたとしても落ち着いて対処できるため、心身に余裕が生まれます。
在宅勤務に変更したい際は、上司や人事担当者などに働き方の変更について相談しましょう。この際、パニック障害を明かしてよい場合は、医師の意見書を提出すると、具体的な状況を会社に理解してもらいやすくなります。完全な在宅勤務が難しい場合でも、週に数日の在宅勤務や時差出勤を組み合わせられる場合もあります。
勤務先にパニック障害であることを伝える
勤務先にパニック障害であることを伝え、業務の調整をお願いする方法もあります。この場合、まずは信頼できる上司や人事担当者、または産業医に相談するのが基本です。職場にカウンセラーや支援担当者がいる場合は、そちらに相談するのもよいでしょう。
パニック障害について伝えることで、働きやすい環境を整えてもらえる可能性が高まります。例えば、「会議室のような閉鎖的なスペースに長時間いることが難しい」といった症状を伝えておけば、配慮してもらえるでしょう。また、「発作が起きた時は、静かに見守ってほしい」といった具体的な対応をあらかじめ伝えておくのもよい方法です。
身体面の対策
パニック障害は直接的には脳機能に関係しているとされていますが、心身が弱っている時に症状が出る頻度が増えたり、程度が強まったりする場合もあります。ここでは身体面の対策について解説します。
リラックスできる方法を身につける
心身の負担を軽くするリラックス方法を取り入れると、パニック障害の症状が和らぐ可能性があります。日常生活で取り入れたいリラックス方法としては、以下のようなものがあります。
- ぬるめのお湯にゆっくりつかる
- 瞑想や音楽鑑賞など、心を落ち着ける時間をつくる
- 散歩やランニングなど適度な運動をする
リラックスできる方法は、人によってさまざまです。自分に合う方法をみつけて、1日の中でリラックスする時間を意識的につくるとよいでしょう。
生活習慣を見直し生活リズムを整える
規則正しい生活を送ることで、心身のストレスが軽減され、不安を感じにくくなります。規則正しい生活は、疲労回復や自律神経の安定、ホルモンバランスの改善などに効果があるとされています。これらの効果は、パニック発作や予期不安などを間接的に起きにくくするうえでも有効です。
具体的な方法としては、以下が挙げられます。
- 毎日同じ時間に寝起きして、身体のリズムを一定に保つ
- 1日3回、栄養バランスのよい食事をとる
- アルコールやカフェインのとりすぎに注意して、睡眠の質を向上させる
パニック障害の方は心身に不安定な側面がある分、より生活を整える必要があります。
悪化要因を避ける(ストレス、睡眠不足、過労など)
仕事や日常生活のストレスや、過労、睡眠不足などが、パニック障害に悪い影響を与えている可能性があります。どのような仕事や生活の状態の時に、症状が現れやすいか分析してみるとよいでしょう。
例えば、残業が多い時期にパニック発作の頻度が増えるのであれば、無理をしすぎないように注意する必要があります。また、睡眠不足の際に「また発作が出たらどうしよう」と予期不安が強まる傾向がある場合には、なるべく早く寝て睡眠時間を確保するなど工夫するとよいでしょう。
パニック発作が起きた時の対処法
突然襲ってくるパニック発作は、対処法を知っているだけで不安を軽くできます。効果的な対処法として、「深呼吸」「意識を切り替える方法」「薬の服用」の3つの方法を解説します。
深呼吸をする
深呼吸は、不安や緊張を和らげる効果があります。パニック障害では、息苦しくなったり、逆に過呼吸になってしまったりする場合があるため、深呼吸は有効な方法です。
効果的な呼吸法の1つとして「4・4・8呼吸」を紹介します。
- 可能であれば、椅子に座るか何かにもたれかかり、楽な姿勢をとります
- 4秒息を吸います(余裕があれば、「1……、2……」と秒数をカウントします)
- 4秒息を止めます
- 8秒息を吐きます
- 発作が収まるまで、2~4を繰り返します
上記はあくまで一例ですので、自分が落ち着く呼吸法や医師から勧められた呼吸法がある場合は、そちらを行ってください。
意識を別のところに向ける
パニック発作中、不安に意識を集中させすぎると、状態が悪化する場合があります。別のことに意識を向けることで、不安を増幅させる悪循環を断ち切り、心身を落ち着かせる効果があります。
ただし、発作の最中に違う物事を考えるのは難しいため、以下のようなメンタルテクニックを活用するとよいでしょう。
- 好きな歌の歌詞を思い浮かべながら、ゆっくり口ずさむように心の中で歌う
- 時計の秒針を見て動きを追う
- 目の前の物を数える
- アメを舐めたり、飲み物を一口飲んだりして、味覚に意識を集中する
- 簡単な暗算をする
自分に合った方法を幾つか用意しておくとよいでしょう。
薬を服用する
処方されている頓服薬(とんぷくやく:その場での症状を抑えるための薬)は、発作が起きた際に効果的です。速やかに服用することで、強い不安や動悸などの症状を和らげる効果が期待できます。
頓服薬として使われる抗不安薬は、効果が現れるのが早いため、パニック発作の緩和に適しています。ただし、医師の指示に従い、必要以上に服用しないことが大切です。
薬を処方されていない場合には、医師に相談することをおすすめします。自分に合った薬物療法をみつけることで、不安や発作の頻度を減らせる可能性があります。
パニック障害の症状がつらいときは休職も視野に
パニック障害の症状がつらいときは無理をせず休職するのも1つの手段です。無理をして働き続けると、症状の悪化や発作の頻発などにつながる恐れがあります。まずは会社に休職制度があるか確認してみましょう。
休職中はまず身体を休ませることが第一です。また症状が落ち着いてきたら、環境を根本から変えるための転職も視野に入れておきましょう。
休職や転職を不本意に思う方もいると思いますが、自分が安心して働ける環境を手に入れるための1つの選択肢として考えてみてください。
パニック障害の方の就職・復職・転職のポイント
パニック障害を発症した方の中には、休職したり、離職してほかの職場を探したりする方もいます。こうした場合には、どのような支援制度を活用できるのでしょうか。また、パニック障害と上手につきあいながら働く方法を探している方もいらっしゃることでしょう。
そこで、就職や復職に向けて利用できる制度や、パニック障害への理解がある職場選びのポイント、障害者雇用という選択肢について解説します。
就職や復職に向けた制度を利用する
一時的にパニック障害の症状が落ち着いても、就職や復職することを考えると、多くの方が「また発作が起きたらどうしよう」と不安に思うことでしょう。では、無理なく働き続けるためにはどうすれば良いのか、ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
リワーク
リワークとは、精神疾患で休職をしている方を対象に、作業訓練やリハビリテーションなどを通じて職場復帰を支援する制度です。
リワークを実施しているのは医療機関や就労移行支援事業所、地域障害者職業センターなどで、それぞれ主な目的や費用などが異なります。
医療機関 | 就労移行支援事業所 | 地域障害者職業センター | |
主な目的 | 病状の安定・回復及び再休職の予防 | 復職・就職または再就職の支援 | 職場への適応に向けた支援 |
費用 | 健康保険適用(3割負担/医療費の助成あり) | 世帯収入に応じて算出(無料~月額37,200円) | 無料 |
リハビリ出勤
リハビリ出勤とは、企業における職場復帰をする前に心身を慣らすための試し出勤制度です。実際に仕事環境に身を置くことにより、職場復帰の可否を具体的に判断できるほか、早期の職場復帰に結びつける効果も期待できます。
リハビリ出勤は法で定められていないため、制度の有無や具体的な内容は会社によって異なります。内容の例としては、職場と自宅の往復や模擬的な出勤、短時間の勤務などがあり、段階的に実際の業務に環境を近づけていきます。
就労移行支援の利用
就労移行支援とは、障害がある方を対象に職業訓練や就活支援、定着支援などを行い一般就労を目指す障害福祉サービスです。職業訓練や講義の受講などでスキルアップやマインドの安定などに取り組み、障害の種類や個人の特性などに合う職場への就職・定着を目標としています。
利用対象者は18歳以上65歳未満の身体障害・知的障害・精神障害・難病がある方のうち、一般就労を目指している方で、利用料は世帯収入に応じて算出されます(無料~月額最大37,200円)。
パニック障害への理解がある職場を選ぶ
転職や就職を考える際には、パニック障害に対する理解がある職場かどうか確かめておくことが大切です。理解のある職場であれば、パニック障害の負担が少ない働き方を選びやすくなります。
働きやすい職場のポイントは、症状によって異なりますが、以下のようなものがあります。
- 勤務時間の柔軟性(時差出勤やフレックスタイム制があるか)
- 在宅勤務の有無
- 相談窓口の有無(常勤の産業医がいるか、メンタルヘルス窓口があるか)
- 広場恐怖を引き起こす職場環境でないか(閉鎖的な作業場でない、人が密集していない、など)
就職後に後悔しないためにも、事前に職場環境や業務内容を調べておくとよいでしょう。
障害者雇用も検討する
障害者雇用とは、一定以上の従業員がいる企業に、障害のある方を雇用することを義務付けた制度です。障害者雇用枠で就職した方に対しては、障害による差別禁止や、障害の特性に応じた合理的配慮が義務付けられています。障害者雇用枠に応募できるのは、障害者手帳を取得している方です。
具体的な配慮は個別に違いますが、障害について事前に伝えることで、業務量や内容を調整してもらえる可能性が高いでしょう。在宅勤務や時短勤務など、多様な働き方を提供している企業もあります。
障害者雇用では、給与額や待遇が一般雇用より見劣りする場合もありますが、働きやすい環境を優先したい方におすすめの選択肢です。
パニック障害の方の仕事探しは就労移行支援がおすすめ
パニック障害がある方が仕事を探すうえで心配なのが、実際に仕事を始めたあとの環境や働きやすさだと思います。仕事が決まってもパニック発作に対応できる環境やスキルがないと、不安は残り続けるのではないでしょうか。
そんな悩みを抱えている方にこそ就労移行支援の利用がおすすめです。
Kaienの就労移行支援では、障害の内容や特性を共有したうえで就職先を探すので、パニック障害を前提とした環境での就職が見込めます。
また、サポート面でも障害への理解を深める講座やビジネススキルの習得、適職探しから就職後の定着支援まで一貫したサポートプログラムが用意されているのが特徴です。
実績としては、過去10年間の就職者数は約2,000人を超え、就職先の業界はITやコンサル、金融、メーカー、サービスなど多岐にわたります。また給与額も3人に1人が20万円以上と高い水準です。
利用者の約9割の方は、自己負担額0円で訓練を受けています。相談は実際に足を運んでいただくだけでなく、オンラインや電話でも可能なので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
パニック発作で仕事がつらいときは休養も大切
パニック障害は職場環境や生活習慣の見直しである程度対策ができますが、すべての職場において対策を実施できるわけではありません。職場での対応が難しく、パニック発作がつらいときは休職や退職も視野に入れてまずは休養をとることが大切です。
改めて復職や転職、再就職を検討するときは、就労移行支援のようなサービスの利用を検討しましょう。パニック障害について理解を深め、自身に適した職場環境を見つけられれば、あなたは今よりさらに活躍できるはずです。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます