パニック障害(パニック症)で仕事がつらい方へ|症状への対処法や支援先を解説

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パニック障害(パニック症)のパニック発作は突然やってくるもの。自分でコントロールできないので、仕事で迷惑をかけてしまわないか不安に思っている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、パニック障害の症状や原因、対処法などを解説します。また、障害と向き合いながらより良い職場環境に身を置けるように、自分に合った仕事を探すための方法も紹介します。

パニック障害(パニック症)とは

パニック障害(パニック症)とは、めまいや呼吸困難、動悸、激しい不安といった「パニック発作」が、前触れなしに突然起こる不安障害の1つです。発作時間はおおむね20分以内に治まる傾向にあり、パニック発作のピークは発作が起こってから10分以内であることが多いと言われています。

パニック発作は繰り返し起こるので、日常生活に支障が出たり再発する不安から行動が制限されたりといった弊害があります。このパニック発作に対する不安を「予期不安」、パニック発作を起こした場所に不安を感じることを「広場恐怖」と呼び、パニック発作と合わせてパニック障害の主な症状として扱われています。

パニック障害の原因

パニック障害の原因はまだ明らかになっていません。ただ、脳機能が関与していることが分かっており、扁桃体、海馬、中脳、前頭前野との関係が示唆された研究報告があります。

また、予期不安や広場恐怖はパニック発作に対する恐怖に起因する場合が多いです。予期不安と広場恐怖が強くなると常に不安がつきまとい、場合によっては外出自体が難しくなることもあります。

近年ではマスクの着用により、パニック発作を誘発するリスクが高まる可能性が示唆されています。マスクをつけることで息苦しさを感じた経験のある人は多いかもしれません。息苦しさで浅い呼吸を繰り返すと、過呼吸に陥る可能性が高まります。

過呼吸は脳血流を減らすという研究もあり、脳血流が不足することでめまいなどの症状が誘発されるのです。これらの症状はパニック発作とよく似ており、「もしかしたら発作が起きる(起きている)かもしれない」という予期不安にもつながります。マスクを着用する際は、呼吸を意識することが大切です。

パニック障害と発達障害の関連性

発達障害*とは自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)など、脳機能の発達に関係する障害の総称です。発達障害がある場合、発達の特性や生きづらさなどが影響し、二次障害としてパニック障害を含む後天的な精神障害が引き起こされるケースがあります。

二次障害とは、ある障害が原因となって新たな障害を引き起こすことです。発達障害によってさまざまな不安を感じながら日々を過ごしている方は多く、この不安がパニック障害の一因になっている場合があります。二次障害によりパニック発作を何度も繰り返している場合には、発達障害の特性への対策やアプローチも重要です。

パニック障害による仕事への影響

パニック障害があると、仕事中にパニック発作が起こるかもしれないと不安に思い、以下のような困りごとが生じる場合があります。

  • 通勤時に電車やエレベーターに乗れない(通勤困難)
  • プレゼンのような強い緊張を感じる仕事ができない
  • 席を外しにくい環境下で予期不安が強くなる

また、実際にパニック発作が起こった場合は予期不安がさらに強くなったり、広場恐怖につながったりする恐れがあります。これらが悪化すると、仕事に行くこと自体が困難になるケースもあるため注意が必要です。

パニック障害への対策方法

パニック障害への対策は大きく環境面の対策と身体面の対策の2つに分けられます。それぞれの主な対策方法は以下の通りです。

環境面の対策

  • 通勤時間帯や経路の変更
  • 可能であれば勤務形態を在宅勤務に変える
  • 勤務先にパニック障害であることを伝える

身体面の対策

  • リラックスできる方法を身につける
  • 生活習慣を見直し生活リズムを整える
  • 悪化要因を避ける(ストレス、睡眠不足、過労など)

パニック発作が起こる要因は1つではなく、複数の要因が関係しています。そのため対策も一度で終わるわけではありません。まずは可能な対策から始めていき、不安要素を1つずつ取り除いていきましょう。

パニック障害の症状がつらいときは休職も視野に

パニック障害の症状がつらいときは無理をせず休職するのも1つの手段です。無理をして働き続けると、症状の悪化や発作の頻発などにつながる恐れがあります。まずは会社に休職制度があるか確認してみましょう。

休職中はまず身体を休ませることが第一です。また症状が落ち着いてきたら、環境を根本から変えるための転職も視野に入れておきましょう。

休職や転職を不本意に思う方もいると思いますが、自分が安心して働ける環境を手に入れるための1つの選択肢として考えてみてください。

パニック障害の方の就職・復職・転職のポイント

一時的にパニック障害の症状が落ち着いても、復職や転職、再就職することを考えると、多くの方が「また発作が起きたらどうしよう」と不安に思うことでしょう。では、無理なく働き続けるためにはどうすればよいのか、ここでは代表的な3つの方法を紹介します。

リワーク

リワークとは、精神疾患で休職をしている方を対象に、作業訓練やリハビリテーションなどを通じて職場復帰を支援する制度です。

リワークを実施しているのは医療機関や就労移行支援事業所、地域障害者職業センターなどで、それぞれ主な目的や費用などが異なります。

医療機関就労移行支援事業所地域障害者職業センター
主な目的病状の安定・回復及び再休職の予防復職・就職または再就職の支援職場への適応に向けた支援
費用健康保険適用(3割負担/医療費の助成あり)世帯収入に応じて算出(無料~月額37,200円)無料

リハビリ出勤

リハビリ出勤とは、企業における職場復帰をする前に心身を慣らすための試し出勤制度です。実際に仕事環境に身を置くことにより、職場復帰の可否を具体的に判断できるほか、早期の職場復帰に結びつける効果も期待できます。

リハビリ出勤は法で定められていないため、制度の有無や具体的な内容は会社によって異なります。内容の例としては、職場と自宅の往復や模擬的な出勤、短時間の勤務などがあり、段階的に実際の業務に環境を近づけていきます。

就労移行支援の利用

就労移行支援とは、障害がある方を対象に職業訓練や就活支援、定着支援などを行い一般就労を目指す障害福祉サービスです。職業訓練や講義の受講などでスキルアップやマインドの安定などに取り組み、障害の種類や個人の特性などに合う職場への就職・定着を目標としています。

利用対象者は18歳以上65歳未満の身体障害・知的障害・精神障害・難病がある方のうち、一般就労を目指している方で、利用料は世帯収入に応じて算出されます(無料~月額最大37,200円)。

パニック障害の方の仕事探しは就労移行支援がおすすめ

パニック障害がある方が仕事を探すうえで心配なのが、実際に仕事を始めたあとの環境や働きやすさだと思います。仕事が決まってもパニック発作に対応できる環境やスキルがないと、不安は残り続けるのではないでしょうか。

そんな悩みを抱えている方にこそ就労移行支援の利用がおすすめです。

Kaienの就労移行支援では、障害の内容や特性を共有したうえで就職先を探すので、パニック障害を前提とした環境での就職が見込めます。

また、サポート面でも障害への理解を深める講座やビジネススキルの習得、適職探しから就職後の定着支援まで一貫したサポートプログラムが用意されているのが特徴です。

実績としては、過去10年間の就職者数は約2,000人を超え、就職先はITやコンサル、金融、メーカー、サービスなど多岐に渡る業界に就いています。また給与額も3人に1人が20万円以上と高い水準です。

利用料は約9割の方が自己負担額0円で訓練を受けています。相談は実際に足を運んでいただくだけでなく、オンラインや電話でも可能なので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

パニック発作で仕事がつらいときは休養も大切

パニック障害は職場環境や生活習慣の見直しである程度対策ができますが、すべての職場において対策を実施できるわけではありません。職場での対応が難しく、パニック発作がつらいときは休職や退職も視野に入れてまずは休養をとることが大切です。

改めて復職や転職、再就職を検討するときは、就労移行支援のようなサービスの利用を検討しましょう。パニック障害について理解を深め、自身に適した職場環境を見つけられれば、あなたは今よりさらに活躍できるはずです。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

パニック障害でクリニックを訪れる患者さんはたくさんいらっしゃいます。厳密にはパニック障害と広場恐怖 (agoraphobia: アゴラフォビア) は異なるのですが、逃げ場の少ない特定の場所で起きることや、治療法がほとんど変わらないことから、臨床的にはパニック障害の範疇で理解して差し支えないと思います。

それにしても、人口密度の高い日本で暮らしていると広場が怖いと言うのは奇異な感じもするのですが、アゴラは古代ギリシャ時代の言葉で、広場にさまざまな市場や集会があったので、人の数はかなり多かったと思います。ヘレニズム文化の影響を受けたイタリアに行ったことのある方は、ローマのスペイン広場やフィレンツェのシニョーリア広場の混み具合で人疲れした経験があるかもしれません。

パニック障害で地下鉄は辛いけど、外の見えるバスなら大丈夫という方もいらっしゃいます。そのような方はリモート勤務を加えて、ご自宅に近い職場を選ぶなど工夫されています。スタッフに相談してご自分に合った職場を見つけられると良いですね。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。