統合失調症の人は働かない方がいい?よくある困りごとや向いている仕事を解説

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統合失調症は幻覚や幻聴、意欲や判断力の低下など、さまざまな症状が出る精神疾患です。統合失調症を発症して、これまでと同じ仕事をするのが難しくなると、「働かないほうがいいのでは?」と思ってしまう人もいるかもしれません。

しかし、特性や症状に合わせて無理なく働ける職場を見つけることは可能です。この記事では、統合失調症の人が抱える困りごとや仕事選びのポイントなどを詳しく紹介します。統合失調症の人が利用できる支援制度についても紹介しているので、就職を希望している人はぜひ参考にしてください。

統合失調症とは

統合失調症は精神疾患のひとつで、思考がまとまらなくなったり、幻覚や妄想に悩まされたりする病気です。原因はまだ解明されていませんが、神経伝達物質の異常やストレスなどの相互作用によるものだと考えられています。

発症するのは10代から30代が多く、約100人に1人が発症すると言われています。そのため誰にでもなる可能性があり、決して珍しい病気ではありません。

統合失調症の症状

統合失調症の症状は、大きく次の3つに分けられます。

  • 陽性症状
  • 陰性症状
  • 認知機能障害

それぞれの概要と具体的な症状について、以下で解説します。

陽性症状

陽性症状とは、実際には存在しないものが本当に存在するかのように感じる症状です。具体的には幻覚や幻聴、妄想などの症状が当てはまります。統合失調症と聞くと、多くの人がこれらの陽性症状を思い浮かべるでしょう。

例えば、「誰かにずっと監視されている」「常に自分の悪口が聞こえる」といった症状は、陽性症状のひとつです。そのほか、会話にまとまりがなくなったり、強い苛立ちを感じたりするのも、陽性症状に該当します。

陰性症状

陰性症状とは、これまであった感情や意欲がなくなってしまう症状のことです。喜怒哀楽といった感情の変化が少なくなったり、何事にも意欲が低下して無気力になってしまったりします。そのほか、「会話が理解できない」「人との関わりを避ける」「身なりに気を使えない」といった症状も陰性症状のひとつです。

陰性症状が出ると、部屋に引きこもったりベッドから起き上がれなかったりする人もいます。陽性症状は統合失調症の発症初期に現れやすいのに対して、陰性症状は発症から少し期間を置いて現れるケースが多いです。

認知機能障害

認知機能障害とは、日常生活に必要な記憶力や判断力、注意力などに支障がある状態をいいます。例えば、記憶力が低下して物事を覚えるのに時間がかかったり、判断力が低下して物事の優先順位を決められなくなったりします。

認知機能障害が現れると仕事や人間関係に支障をきたすため、日常生活を送るのが難しくなる原因のひとつです。統合失調症の場合、この認知機能障害は発症から数年経つと症状が目立ち始めるといわれています。

統合失調症の人はどれくらい働いている?働かない方がいい?

統合失調症を発症していても、適切な治療と周囲のサポートによって問題なく働いている人は多くいます。統合失調症の人だけを対象にした調査データはありませんが、厚生労働省は統合失調症を含む精神障害を持つ人の雇用状況を公開しています。

厚生労働省の「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、令和5年6月1日時点で民間企業に雇用されている障害者の数は642,178人でした。そのうち統合失調症を含む精神障害者は130,298人で、前年と比べて18.7%増加しています。また、調査対象である身体障害者・知的障害者・精神障害者のなかで、精神障害者の伸び率が特に大きいものでした。

このように、精神障害を持つ多くの人が働いていて、雇用数も年々伸びています。そのため、「統合失調症だから働けない」と諦める必要は決してありません。

一般雇用と障害者雇用の違いとは?

統合失調症は精神障害のひとつのため、障害者雇用枠を利用できます。障害者雇用は障害を持つ人が特性に合わせた働き方を選べるようにするための制度であり、企業や自治体はその規模に応じて一定割合数の障害者を雇用するよう法律で定められています。

障害者雇用枠で就職すると障害の特性に応じた配慮を受けやすいのが特徴で、職場と相談して勤務時間や業務内容の調整が可能です。障害を持つ人を前提とした雇用枠のため、周囲から障害について理解してもらいやすいというメリットもあります。

一方、一般雇用は障害者雇用以外の雇用枠です。障害の有無に関わらず幅広い人が対象で、統合失調症の人は障害者雇用枠と一般雇用枠のどちらにも応募できます。

障害者雇用は特性への配慮を受けやすいのがメリットですが、求人の少なさや給与水準の低さがデメリットです。一方、一般雇用は求人や職種は豊富ですが、障害に対する理解や配慮が不十分な職場もある点に注意しなければなりません。

統合失調症の人の仕事でのよくある困りごと

統合失調症の人が働く場合、以下のような困りごとを感じるケースが多いです。

  • 疲れやすく体調を崩しやすい
  • 幻聴や幻覚で集中できない
  • 陰性症状でやる気・気力がわかない
  • 認知機能障害でパフォーマンスが低下する

上記4つの困りごとについて、以下で詳しく見ていきましょう。

疲れやすく体調を崩しやすい

統合失調症の人は認知機能障害によって集中力や判断力が低下することがあるため、疲れやすく体調を崩しやすいのが特徴です。例えば統合失調症の発症後、発症前と同じ業務に取り組んだときに大きな負担を感じる人もいます。

また、陰性症状によってやる気や意欲が低下すると、職場に行くだけでも大きな疲れを感じるでしょう。

幻聴や幻覚で集中できない

統合失調症の陽性症状で幻聴や幻覚などが現れることがあり、幻聴・幻覚がある状態では仕事になかなか集中できません。「本当に見えている・聞こえているわけではない」とわかっていても、大きな負担やストレスになります。

「周囲の人が自分の悪口を言っている」「常に見られている」と感じることもあり、このような状態で仕事に集中するのは困難です。幻聴や幻覚によって仕事に支障が出るのは、統合失調症の人の多くが抱える悩みです。

陰性症状でやる気・気力がわかない

やる気・気力がわかないといった陰性症状が強いと、思うように仕事を進められません。期限までに仕事を終えられず迷惑をかけることもあり、それが精神的ストレスになってしまう人もいます。

統合失調症であることを職場にオープンにしていない場合は特に、「サボっている人」「納期を守れない人」などと思われてしまうこともあります。周囲から厳しい目を向けられたり人事評価に影響が出たりすることも考えられ、職場に行くこと自体が大きな負担となってしまうケースも少なくありません。

認知機能障害でパフォーマンスが低下する

認知機能障害では、記憶力や判断力の低下が見られます。これにより、発症前はスムーズに行えていた業務でも、ミスが増えたり時間がかかりすぎたりすることがあります。このように仕事のパフォーマンスが低下するのも、統合失調症の人が感じやすい困りごとのひとつです。

以前は問題なく行えていた仕事が統合失調症によってスムーズに進められなくなるのは、大きなストレスになります。自分を責めたりもどかしく感じたりする人も多く、働き続ける支障となってしまいます。

統合失調症の人の仕事選び・仕事探しのポイント

統合失調症の人が働く際の負担やストレスを少なくするために、仕事選び・仕事探しのときに押さえておきたいポイントがあります。

以下で仕事選び・仕事探しのポイントを6つ紹介するので、ぜひチェックしてみてください。

医師と相談する

はじめに、働きたいという希望について医師に相談しましょう。心身ともに回復しないまま就職活動を始めると症状が悪化する場合もあるため、就職活動を始めるタイミングやステップは主治医と相談しながら決めていくことが大切です。

仕事を始めると環境がガラリと変わり、新しい仕事を覚えたり人間関係を築いたりすることが大きな負担になる人もいます。そのため、就職活動は症状がある程度回復してから始める必要があり、そのタイミングは自己判断でなく主治医の意見を聞くようにしましょう。

自己分析を行い特性を理解する

自分に合った仕事を選ぶには、まず自分の特性やストレスを感じやすい場面などを理解しておく必要があります。そのため、就職活動を始める前にしっかりと自己分析を行いましょう。

自己分析の方法はさまざまで、Webサイトや書籍で紹介されている方法を自分で試してみるほか、就労支援機関やキャリアコンサルタントなどの専門家のサポートを受けながら進める方法もあります。

無理せず自分のペースで働ける職場を選ぶ

統合失調症の人は疲れやすいため、無理せず自分のペースで働ける職場を選ぶことも大切です。時短勤務や時差出勤など、なるべく負担が少ない働き方ができる職場を探してみてください。

職場に統合失調症の症状があることを相談すると、「最初は短時間勤務からスタートして、症状が安定してきたら勤務時間を少しずつ伸ばしてみる」といった配慮が受けられるケースもあります。

障害者雇用枠では上記のような合理的配慮を受けやすいため、選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。

統合失調症の症状の前兆を理解する

統合失調症の症状が回復している場合でも、仕事中に症状が現れる可能性があります。症状の前兆を見逃してそのまま働き続けると悪化することがあるため、症状の前兆を理解して対処法を身につけておきましょう。

例えば、「誰もいないのに声が聞こえる」「気分が落ち込んで食欲がない」などは、統合失調症の前兆です。仕事中になにか心身の不調を感じたら、すぐに医師や職場に相談してください。早めに対処し、できるだけ症状の悪化を抑えることが大切です。

特性にあった職場・症状に理解のある職場を選ぶ

統合失調症の人が長く働き続けるには、特性にあった職場・症状に理解のある職場を選ぶのがポイントです。例えば、疲れやすい人は短時間勤務ができる職場、人混みが苦手な人はラッシュ時間を避けられる時差出勤を取り入れている職場を選ぶと、負担を少なくできるでしょう。

集中力が続かなかったり陰性症状でやる気がわかなかったりする場合は、このような症状に対して理解のある職場を選ぶことも大切です。理解や配慮が受けられない職場を選んでしまうと対人関係が悪化するケースがあり、ストレスによってさらに症状が悪化するという悪循環に陥ってしまうおそれがあります。

支援や制度をうまく利用する

統合失調症などの精神疾患を抱える人の就労をサポートする支援機関や制度は多くあります。このような専門の機関や制度をうまく利用するのも、統合失調症の人が仕事を探す際の大切なポイントです。

専門機関のスタッフは、精神疾患を抱える人の就職活動に関する知識やノウハウを持っています。そのため、自分の症状や特性からどのような職場を選ぶべきかアドバイスを受けられたり、就職先と相談して業務内容や仕事量の調整をしてくれたりするケースもあります。

統合失調症の人が利用できる支援や制度については後ほど詳しく紹介しているので、ぜひそちらもチェックしてみてください。

統合失調症の人が向いている仕事とは?

統合失調症の人には、以下のような仕事が向いています。

  • 事務
  • 軽作業
  • 商品管理
  • 製造 など

これらの仕事は、しっかりマニュアル化されていて個人の判断に委ねられる部分が少ないという特徴があります。統合失調症の人は認知機能障害によって判断力や記憶力が低下してしまうことがありますが、マニュアルのとおりに進められる仕事なら負担が少なく済みます。

人と接する機会が少ないのも、これらの仕事の特徴です。そのため、対人関係のストレスを感じにくく、陽性症状が現れても周囲の目が気になりにくいというメリットがあります。

ただし、事務職は来客対応や電話応対が必要になる点に注意してください。人と接することが負担になる場合は、職場に相談して来客対応や電話応対の担当から外してもらうなど、対策が必要です。

統合失調症の人が仕事を続ける上でのコツと注意点

統合失調症の人が仕事を長く続けるためには、まず通院や服薬を勝手にやめないことが重要です。統合失調症は薬物療法が中心で、自己判断で薬を飲まなくなると症状が悪化するおそれがあります。

「症状が安定していると感じる」「薬の副作用がきつくて仕事に支障が出る」など服薬をやめたいと思ったら、まず主治医に相談してください。治療薬を切り替えたり量を減らしたりするのは、医師の判断のもと行うことが大切です。

一方、治療や服薬以外の日常生活や仕事については、定期的なカウンセリングを受けるようにしましょう。自分では平気だと思っていても、実はストレスが蓄積しているケースもあります。定期的に臨床心理士などのカウンセリングを受けることで症状の前兆を見落とさず、悪化や再発の防止につながります。

普段の生活では、生活習慣を整える意識を持ちましょう。生活リズムが乱れるとストレスや体調を崩す原因となり、仕事に影響が出る可能性があります。

統合失調症の人が利用できる支援や制度

最後に、統合失調症の人が利用できる支援や制度を4つ紹介します。就職を検討している人は、ぜひ以下の支援や制度をうまく活用してくださいね。

ハローワーク

ハローワーク(公共職業安定所)では、仕事を探している人や人材を求める事業主に対するサービスを提供しています。ハローワークは全国に500箇所以上あり、障害者関連窓口も整備されています。

障害に対して理解のある専門の担当者が在籍しているので、現在の症状を踏まえて希望する仕事内容などについて相談が可能です。面接指導など就職のサポートから職場への定着まで、一貫した支援が受けられます。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、ハローワークや地域の就労支援機関と連携しながら、障害を持つ人に専門的な職業リハビリテーションを提供する施設です。全国47都道府県に設置されていて、一人ひとりのニーズに合わせた支援計画を作成してサポートを行います。

例えば、センター内での作業体験などを通して就職に必要な能力を向上させてから、ハローワークでの職業紹介につなげるなど、各機関と連携しながら就職へのステップを着実に進めていけるのが特徴です。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害を持つ人の雇用の促進と安定を図るための支援を行う施設です。就業面だけでなく生活面についての支援を実施しているのが特徴で、利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付いて、一体的な相談・支援を行います。

就業面での支援内容は、職場実習のあっせんや特性・能力に合った職業の選定、就職活動の支援などです。一方生活面については、生活習慣の形成や健康管理、金銭管理など日常生活に関する助言を行います。

就労移行支援

就労移行支援は、障害を持つ人が一般企業への就職を目指す際に利用できる支援制度です。就労移行支援事業所に通いながら、就職に向けたトレーニングを受けたり職場見学や職場実習に参加したりできます。

実際の就職活動に関しても、応募書類の作成支援や模擬面接などのサポートを受けられます。また、就職後も職場での困りごとなどを相談でき、必要に応じて相談員が職場との間に入って調整を進めてくれるのも特徴です。

統合失調症の人も働くことができる!支援や制度をうまく活用しよう

統合失調症は陽性症状・陰性症状・認知機能障害と症状の幅が広く、就職や働き続けることにハードルの高さを感じている人も多いでしょう。しかし、統合失調症を含め精神障害を抱えながら働いている人は多くいるため、決して不可能ではありません。

統合失調症の人が長く働き続けるには、医師と相談しながら就職活動を進め、自分に合った仕事内容や職場を選ぶことが大切です。障害者雇用枠を活用し、配慮を受けやすい職場を選ぶという選択肢もあります。

ハローワークの障害者関連窓口や就労移行支援など、障害を持つ人の就職をサポートする支援機関や制度の活用もおすすめです。特性や症状に応じて、一人ひとりに合った支援が受けられます。

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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

統合失調症はおよそ100人に1人が発症し、特に男性では発症年齢が若い方が多い特徴があります。陽性症状、陰性症状、認知機能障害が症状としてあるのは本文の通りですが、近年の薬物療法の進歩もあり、特に陽性症状に関してはすっかり無くなる、もしくはほとんど気にならない状態になることが多くなりました。一方で、陰性症状がとても強かったり、認知機能障害がある場合には、学業を再開したり、働いたりするときに問題となることも確かです。特に、社会参加への意志が強い場合には、認知機能障害に応じた対応が必要となります。統合失調症だから働けない、ということは決してありませんが、現実にできること、をしっかりと把握し、必要な対策を講じるには、やはり支援機関が頼りになります。また、疾患の性質として、自分の状態の正確な判断がし辛い、ということもあります。働くことを考えたときには、大丈夫な状態か、どういった方向性が良いのか、どのくらいの頻度で働き始めるのが良いのか、などを主治医の助言を聞いたり、支援機関をしっかりと利用しながら検討してみることをお勧めします。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。