転職への考え方 「普通」と思われやすく配慮されづらい発達障害の人の場合

発達障害の人の視点で議論してもらいました ~キスド会 2017年4月 開催報告~
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 在職者向けのキスド会(土曜夕方に秋葉原と新宿で開催している、発達障害*のある在職者向けのしゃべり場)での会話を皆さんの承諾をもとに記事にしています。今回のテーマは発達障害と思ってもらえないものの苦しんでいる方々の転職についての議論です。

 

周囲の評価と自己評価のギャップに苦しむ

Aさん) 今、休職しています。私は、自分が出来ることと出来ないことをはっきりさせて、出来ないことに対してはどういう対処をして、というのをかなり事細かに対応してきました。それで、ようやく今の自分がいます。

自分が仕事ができない、周りに追い付いてないと感じていたんですが、一方で会社からかなりいい評価をもらってしまいました。そのギャップに苦しくなって、自分の中でのギャップを埋めようと1ヶ月間すごい仕事を頑張ったんですけれども、それが埋められなくて、とうとう休職してしまったという感じです。

今回休職に至った原因としては、白黒思考(注:完璧にできないと全くできていないも同然と認識してしまう)とか、自分ができることとできないことについて人より気になってしまうということもあるのかなと思います。

Bさん) できないと思っていたことを他人からできていると評価されるとどうして嫌なのか、Aさんの心の仕組みが分かりません。私にはむしろ喜ばしいことに聞こえますので。

Aさん) その評価に対して自分で責任が持てないので、すごく嫌です。自分で「これはどうなんだろう…」と思っている自分の業務の成果に良い評価をもらっても、「えっ?」て思ってしまう。私は好きじゃない気持ちです。

努力して「普通」に見えている 手を抜けばたちまち「ゼロ」になる

Cさん) Aさんの業界・仕事はどういうものなんでしょうか?

Aさん) IT系の、ショッピングサイトの作成やテストです。

Cさん) すみません、最初に聞き忘れたんですけど、Aさんが発達障害であることを周りの上司や同僚の方が認識されてる職場なんでしたっけ?

Aさん) はい。

Cさん) 職場で発達障害への理解がないっていう感じなんですか?

Aさん) 理解はそんなに……。多分忘れられています。

スタッフ) Kaienから定期的にスタッフが定着支援に行っている職場ですが、Aさんはあまりにも普通。障害があることが分からないって言われます。Aさんは感覚過敏は非常に強いので、そこへの配慮は周囲もされています。でもITの仕事をさせても出来るし、他の人が苦手なプレゼンの資料を作る作業もすごく上手という評価ですね。「なんで障害者枠なんだっけ。他のスタッフよりもはるかに優秀なんだけど。」と毎回定着支援に行く度に言われるんです。

Bさん) 高機能ゆえの悩みという感じですかね。

Cさん) 今回の仕事は、いつものようにパワーポイントや図で作られた分かりやすい指示書じゃなくって、開発の人が見る仕様書のような膨大な資料を基に品質管理の仕事をしていたんです。

スタッフ) それが、普通の指示書に比べると、読み込む量が多いから辛かったというわけですか?

Aさん) はい。

スタッフ) なるほど。それだと、周囲も「いや、誰でもそんな読み込むの辛いから頑張ってよ」みたいな感じに言っちゃうと思います。

Aさん) はい……(笑)

Cさん) それは完璧主義みたいな感じですか?それはちょっと違う?

Aさん) 職場でも理想が高いのではと言われたんですけど違いますね。「手を抜いたらゼロになるけどいいの?」みたいな感じです。自分が元々できると思っているところに関しては、手を抜いてもある程度出来ます。でも元々出来ないと思っている部分で、分析的に後天的に出来るようにしているものに関しては、手を抜いたらゼロになってしまうのです。

Bさん) 手加減ができないってことですか?

Aさん) 手加減の仕方ができる分野と、できない分野がある感じですね。

「普通」に「変身」するのは限られた時間しか持たない

スタッフ) なるほど。僕、よくウルトラマンに例えるんです。発達障害の人は、大きく分けて3種類あります。1つ目が自分と他人のずれをそもそも認識できていない人。2つ目が自分と他人のずれはわかるけれども、そこで「変身」ができない人。

Bさん) 「変身」?

スタッフ) 「自分のままじゃなくて、自分を変えられる」人という意味です。自分を変えるのが難しい人。3つ目が、認識もできて変身もできるんだけど、そこの変身に力をかけすぎて疲れちゃう人です。もう一回言うと、「自分と他人のずれがそもそも分かんなくってずれちゃう人」と、「ずれてることは分かんだけど変身の仕方が分かんない人」と、「ずれてるのも分かって変身出来るんだけど、すごく疲れる人」の3つです。3番目の人を、僕はウルトラマンに似ていると思っています。変身状態では3分とは言いませんが、非常に短い期間しかエネルギーが持たないんです。だから、変身状態のことを評価されても、超疲れ果てたところを評価されていることになるし、それをまた求められると非常に辛いということなのではないでしょうか。

Bさん) 周囲はその頑張りがわかってない、ってこと……

スタッフ) じゃないかなと思うんですけど、どうですかね?

Aさん) そうですね。「辛い」っていう話を上司にしたら、「みんな辛いんだから」というような言い方をされたんです。自分だけが辛いと思わないで仕事しなさいみたいなことを言われて……。

Bさん) 要するに、下痢の腹痛と、がんの腹痛を同じ腹痛として一緒に捉えて、「お腹が痛いのくらい我慢しなさい」って言われてる。

Aさん) そうですそうです。

Bさん) そういう感じですかね。

Aさん) うん、そんな感じです。

「時々休む人」というキャラで働き続ける

スタッフ) でも、白旗あげて「出来ませんでした」とか、今回みたいに「休んじゃいました」っていうのは、別に、何ていうのかな、それでいいような気がする。それでいいって言うと変だな。上手にその辺のニュアンスが伝えられなくってもどかしいんですけど、もう自分がどんな仕組みでつらくなっているかは職場の人にはうまく伝えられないって諦めて、「時々休む人です」みたいな、そういうキャラで通していいんじゃないかな。

Dさん) でも、適応障害にまでなっちゃったら、「休んでいいです」という対応では違う気がします。

スタッフ) というのは?

Dさん) 多分、「ちょっと休みたいな」っていうレベルじゃないから、適応障害になってるんだと思うんですね。「ちょっと休みたいな」ってレベルだったら、休めばいいと思うんですけど。多分、そのような診断が出る状態にまでなっていること考えると、ちょっと休めばいいっていう話とは違うのかなと思ったんですけど。

スタッフ) 時々休めばっていうのは、「ガス抜き」みたいな感じじゃなくって、もう、「完全にガス欠になって止まって」しまって休むっていうことです。だから、自分も結構ボロボロになる。だけど、多分途中でガス欠にならないように止めることが難しいから、ボロボロになった末に休むっていうのが、1年に1回とか、2年に1回とか、今後も起こってしまうだろうし、それを回避する方法は残念ながらない。現状に耐えられそうもないからそういう休み方になるけど、胸張ってそうやってたまに休みながらまた働き続ける、みたいな。

Dさん) 修羅場ですね。

スタッフ) ピアニストとか芸術家とか、結構そういう人多いです。何年間か演奏活動が止まっちゃう。

Bさん) 作家さんとかもそうですね。

スタッフ) そう、疲れちゃって。で、また復活してくる。それで許されるのは、実力が認められてるから。Aさんの場合実力が認められてるから、それでもOKって言われると思います。もちろんそんな贅沢が許されない人もいると思いますが。

Cさん) 正直な気持ちとしては、「辞めたいなー」と思ってますか?

Aさん) はい。辞めたいと思っています。

「ヤドカリ」のように転職するのもアリ

スタッフ) 当社の場合、就職したら絶対にやめないほうが良いという方針ではないです。はじめは上手く行っていても数年で適応が難しくなるタイプの人は相当数いらっしゃいます。適応が徐々に難しくなって、これ以上は勤務が難しいという一線を越えちゃう時期が、3年の人もいますし5年ぐらいの人もいます。同じ職場でも会社には変化がつきものなので、自分のいろんな面を出しながらその変化についていくのが中々難しいタイプの人ですね。そういう人はヤドカリのように、その時の自分に合った職場に移っていく必要があって、それはそれでいいんじゃないのって私は言っちゃってます。

Bさん) 横暴な理論かもしれないですが、こちら側の問題というよりも、非自閉圏の人たちが抱える、距離感の流動性っていうんですか?仕事でどれぐらい付き合ってるかとか、相手のタイプがどういうタイプなのかとかによって、色々見せてくる面が変わる気がするんですね。定型発達の人や職場の環境が不変であれば、私たちもヤドカリ人生にはならないと思うんです。

スタッフ) そうですね。でも会社も周囲の人も変わりたいと思って意識的に変わっているというよりも、徐々にその時折の”色”に染まっていく感じです。まったく変わらずブレずにというのは、意識的に調整しなければならないので難しいんですよ。発達障害の人はそのブレが嫌で困惑することになるのでしょうけれどもね。

Kaienを興したときは、発達障害の人を雇ってくれるところがなかったので、求人を取ってくるだけで褒められました。その頃Kaien経由で就職した人で順調に行っていると思っていた人が、最近になってポロポロ辞めている。やっぱり4・5年。もちろんキャリアアップのためにという人もいます。だけど徐々に徐々に職場と本人との間にズレが生じていった結果辞めることになったという人もいます。いわゆる定型発達の人は修正できる、微妙な違いなのでしょうけれども。

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監修者コメント

診察室で初めて患者さんにお会いした時「この人はどこが障害なんだろう?」と首をかしげてしまうようが場面があります。よくよく話を聞いてみると、家の中が荒れてしまっていたり、週に何度も遅刻をしてしまったり、出勤前には涙が出てしまうことがあったり、とようやく彼らの苦しさや悩みが分かるのです。

僕ら精神科医でもそうなのですから、発達障害のことを知らない普通の人たちにとっては、皆さまの苦しみが理解しにくいものだとおもいます。「がんばればなんとかなるよ、みんなそうだよ」という何気ない励ましも、プレッシャーに感じたり、理解のない言葉に聞こえてしまったりして、辛いですよね。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修 : 益田 裕介 (医師)

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