気分の高まりと落ち込みの波がとても激しい状態の双極性障害(双極症)。症状によって就労が困難になり、休職や転職を考えている方もいるかもしれません。双極性障害の症状が見られ、仕事に対して不安や悩みを抱えている方は、働き方のポイントを押さえることが大切です。また、障害のある方が利用できる支援制度も積極的に活用することをおすすめします。
本記事では、双極性障害の概要や向いている仕事、働き方のポイント、就労に関する支援先などについて解説します。双極性障害と付き合いながら仕事を続けていきたい方は、ぜひ参考にしてください。
双極性障害(双極症/躁うつ病)とは
双極性障害(双極症/躁うつ病)とは、活動的になる「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」がくり返されることで起こる気分障害です。躁状態とうつ状態の波があるため、生活に支障をきたす人も少なくありません。
従来は双極性障害と呼ばれていましたが、DSM-5-TRにおいて診断名が「双極症」に変更されました。DSMは米国精神医学会が発行している「精神疾患の診断・統計マニュアル」で、DSM-5-TRは2022年に出版されたその最新版です。
※双極性障害は現在、「双極症」という診断名となっていますが、『DSM-5-TR』以前の診断名である「双極性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「双極性障害」と表記しています。
双極性障害の原因は、現在の医学では明らかになっていませんが、薬物療法などの適切な治療により症状をコントロールすることは可能です。
双極性障害は躁状態とうつ状態があるのが特徴です。躁状態とうつ状態では症状が大きく異なるため、それぞれの状態を理解しておきましょう。また、双極性障害では躁状態とうつ状態が切り替わる際に、双方の症状が現れるケースもあります。
- 躁状態
躁状態では、異常なまでに気分が高揚し、気持ちが大きくなります。例えば、睡眠時間が少なくても活動的であったり、ハイテンションでおしゃべりが止まらなかったりと、さまざまなことをしたいという欲求が行動に現れます。中には多額の買い物をして浪費する、飲酒量が増加するといった場合もあるので注意が必要です。
- うつ状態
うつ状態では、気持ちが落ち込み自責の念が強くなる傾向にあります。通常のうつ病と違うのは、躁状態からの落差が激しく、より強くうつの症状が現れてしまうことです。また、異常な高揚感のある躁状態の自分に罪悪感を覚え、強い自己否定をしてしまうケースも少なくありません。メンタル面の不調に伴い、頭痛や吐き気、不眠など、身体的な症状も現れ、生活に支障をきたす場合もあります。
双極性障害は主に2種類に分類されます。それぞれの特徴について見ていきましょう。
双極Ⅰ型の特徴
Ⅰ型の場合、躁うつの波がはっきりしているのが特徴です。躁状態ではエネルギーがあふれているため、異常な高揚感により生活上でも不都合が生じます。万能感にとらわれ気が大きくなる、落ち着きがなくなる、多弁になるといった状態になる場合もしばしばです。
またⅠ型の場合には、躁状態からうつ状態になると途端に意欲が低下して、食欲不振や不眠などの症状が現れます。
双極Ⅰ型の傾向として、決まった時期に躁状態とその後にうつ状態が起こることが挙げられます。躁状態のときは、弾みでマンションを購入したり、多額のお金を寄付したりと、派手な行動を起こしやすいです。毎年同じ時期に調子を崩す場合、双極Ⅰ型である可能性が疑われます。
双極Ⅱ型の特徴
Ⅱ型の特徴としては、躁状態が軽度で、うつ状態がはっきりしていることが挙げられます。Ⅰ型と比べると、躁状態が軽度なため、本人も周りも双極性障害であることを認識するのが難しくなります。そのため、Ⅰ型と比べると診断がつきづらいのも特徴です。
またⅠ型と比べるとうつ状態の期間も長くなり、躁状態で周りが困ることも少ないため、うつ病との判断が難しいとも言われています。
双極Ⅱ型の場合、環境の変化にともなって症状が出ることが多いです。転居や昇進、仕事の繁忙期などで軽い躁状態になり、休日出勤がやめられなくなったり、会社に泊まる日が増えたりします。軽い躁エピソードが積み重なり、軽躁期よりはるかに長い抑うつ期を過ごすことも珍しくありません。
双極性障害の方が仕事が続かない理由
双極性障害の方は、症状が原因でなかなか仕事が続かない場合も多いです。仕事が続かない主な理由として挙げられるのは、以下の3つです。
- コミュニケーションが上手くいかない
- 気分にムラがあり業務に支障をきたす
- 感情をコントロールできない
双極性障害の場合、感情の波が大きく躁状態のときは多弁や異常なハイテンションさが見られるため、コミュニケーションに支障をきたすケースが多いです。また、それと並行して感情が抑えられないときや、気持ちを切り替えられないときがあり、業務に影響が出る姿も見られます。
これらの理由で仕事が続かないと悩んでいる方は、職場側に理解を求める姿勢も重要です。今の仕事が自分に合っていないと感じたら、休職や転職なども視野に入れて考えてみましょう。
双極性障害と発達障害の関係
治療をしても改善が見られない、何度も再発するなど症状をくり返す場合、双極性障害が二次障害である可能性があります。二次障害とは、発達障害*などの先天性の障害による特性や生きづらさの影響で、後天的な精神障害を引き起こしている状態を指します。
双極性障害の場合、躁状態の衝動性や気分のムラが発達障害の特性と似ているため、見分けにくいのが特徴です。特に女性の場合、特性なのか双極性障害なのか見分けがつきづらい傾向にあります。いずれにせよ、発達障害と双極性障害を併発している場合には、症状が重い方を優先的に治療していくことが大切です。
双極性障害は本人の行動や判断力などを材料に診断を行わなくてはならず、誤診が多いことでも知られています。双極性障害の方の約77%が誤診を受けた経験がある、正しい診断を受けるまでに平均7~8年かかるといった調査結果もあるため、正しく見極めてもらうことが大切です。
またASD(自閉スペクトラム症)の薄い自閉(グレーゾーン)の方で、過剰適応を起こしている場合、不安による過活動の結果、疲弊することがあります。このタイプは、双極性障害のうつ状態における不適応や抑うつとも混同されやすいので注意が必要です。また、躁状態についてはADHD(注意欠如多動症)による衝動性や、過剰適応による過活動などと見分ける必要があります。
双極性障害の方に向いている仕事
双極性障害と付き合いながら仕事を続けるためには、症状や特性に合った職場環境や働き方を見つけなければなりません。向いている仕事はその人の状態や特徴により異なりますが、一般的には以下のような条件が双極性障害の方に適していると言われています。
- 人との交流が少ない
- 自分のペースで仕事を進められる
- 障害に理解がある
これらの条件を踏まえた働き方となると、在宅ワークや業務量が決まっている職種がおすすめです。例えば、事務職やライター、デザイナー、プログラマーなど、在宅ワークでも働ける職種であれば、自分のペースで仕事を進められます。他の人を意識しなくても良いため、対人ストレスも感じなくて済むでしょう。
業務量が決まっている仕事では、体調などにより仕事の量の調整も可能です。うつ状態になってしまったときは仕事を抑えるなど、自分のペースを維持できます。
双極性障害の方の働き方のポイント
双極性障害の方が働きやすさを向上させるためには、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。障害の特性を理解する、周囲の人に協力を求めるといった工夫を凝らし、より長く働くための体制を整えてみてはいかがでしょうか。
ここからは、双極性障害の方が働きやすさを向上させるポイントを4つ紹介します。
自己理解を深める
双極性障害の方が働くうえで、自身の障害について自己理解を深めることが重要です。躁状態とうつ状態の波やサインをつかめば、症状が仕事に影響を与える前に対策を講じやすくなるでしょう。
自己理解を深めたいときにおすすめの方法がセルフモニタリングです。その日の体調や睡眠時間、人と会う予定など、日常生活をこまめに記録することで症状の予兆に気づきやすくなります。
気分や体調が不安定になる予兆を把握したら、サインが現れた段階で症状緩和のための対策がとれるよう準備しておきましょう。家でゆっくりする、主治医に相談するなどの対策をセットで考えておくのがおすすめです。
合理的配慮を求める
合理的配慮とは、障害のある方が働きやすくなるように、職場側が講じる対策や気遣いのことです。現在、障害のある方へ合理的配慮を提供することがすべての事業者に義務づけられています。
合理的配慮の具体例としては、通勤ラッシュの時間帯を避けられる勤務形態にしてもらうことなどが挙げられます。その他、上司と一緒に体調を確認する、短い時間の勤務から始めて徐々に慣らしていくなども合理的配慮の一例です。
より具体的に、睡眠時間を確保できない日が3日続いたら有休を使えるようにするなど、サインと合わせて対策を講じる方法もあります。職場で合理的配慮を求めることで、仕事の負担を軽減させられるでしょう。
障害者雇用の検討
一般雇用で働いている方は、障害者手帳を取得して障害者雇用を検討するのも一つの方法です。障害者雇用とは、障害のある方を対象とした雇用枠のことです。従業員数が一定の水準を超えている企業では、障害者雇用枠を設けることが義務づけられています。
障害者雇用の場合、一般雇用よりも障害特性への理解が得やすいため、働きやすさが向上する可能性が高いです。規模の大きな企業では相談員が選任されており、困ったときに相談しやすいメリットもあります。
転職も視野に入れる
双極性障害の方が無理して仕事を続けると、症状の悪化や二次障害を招く恐れがあります。今の職場が自分に合っていないと感じるなら、転職も有効な選択肢だといえるでしょう。
双極性障害の方が転職する際は、自分の希望に合った就業先を見つけるためにも、福祉サービスの利用がおすすめです。障害のある方が利用できる福祉サービスの種類を知り、効率的に転職活動を進めましょう。
双極性障害の方が仕事を探すときに利用できる支援先
双極性障害は気分に波があり、症状をコントロールしながら自分に合った仕事を探すのは負担が大きいかもしれません。一人で抱えてしまうと症状の悪化を招く場合もあるため、適切な支援を頼るのも一つの手です。
福祉サービスの中には、双極性障害などの障害がある方に向けた就労に関する支援先がたくさんあります。それぞれの支援内容や特徴を確認し、自分に合った支援先を探してみましょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所では、障害のある方を対象とした手厚い就労サポートが受けられます。就労移行支援とは通所型の福祉サービスで、さまざまな訓練を通して自己理解やビジネスマナーなど、就労に関するあらゆるスキルの習得が可能です。
双極性障害で退職してしまった方の就活支援のほか、休職中の方の職場復帰のサポートも行っています。個別の支援計画を基に専門のスタッフがついて指導してくれるため、自分に合った仕事や職業に出会えるはずです。
精神保健福祉センター
精神保険福祉センターは、精神疾患に対して幅広い支援をしてくれる福祉施設です。各都道府県に設置されており、精神保健福祉士など専門の資格を持ったスタッフが心の病気に関するあらゆるサポートをしてくれます。精神保健福祉センターでは本人はもちろん、家族や周囲の人々も相談可能です。
また、匿名での相談も受け付けています。地域障害者職業センターでは、双極性障害をはじめとする障害のある方に対する専門的な職業リハビリテーションや、事業主に対して障害者雇用のサポートを行っています。ハローワークと協力して、各都道府県に設置されているのが特徴です。就労に関する相談から職場適応のための訓練まで、医療関係者と連携をとりながら就労に関するあらゆるスキルを習得でき、ハローワークによる職業紹介も受けられます。
ハローワーク
ハローワークとは公共職業安定所とも呼ばれ、求職中のすべての方が利用できる総合的な雇用サービス機関です。国(厚生労働省)が運営しており、全国500箇所に存在します。障害のある方ももちろん利用でき、専門知識のスタッフによる職業相談などが利用できる専門窓口を設けているところもあります。相談をしたい場合には、障害者関連の窓口があるかどうか、事前に電話などで確認しておきましょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターでは、障害のある方を対象に就労に関わる自立を図るための支援を行う機関です。就活や生活についての相談から、雇用が決まってからの事業主との調整まで、福祉機関などと連携してトータル的にサポートします。障害の特性や職務経験を踏まえた仕事選びやアドバイス、生活習慣を整えて自立を促す支援なども行っており、2023年4月時点で全国に337箇所設置されています。
双極性障害の方の適職や職場探しのコツ
双極性障害は、うつ病などとも症状が似ており、診断がとても難しい病気です。発達障害の二次障害として双極性障害の症状が現れている場合は、双極性障害の治療をしても発達障害の特性から就労が困難になるケースも少なくありません。
双極性障害の方が自分に合った仕事を探すには、就労移行支援事業所の支援サービスの利用がおすすめです。Kaienでは、双極性障害と併存や誤診も多いとされる発達障害に特化したサポートを実施しています。
Kaienの就労移行支援は、100種類を超える職業訓練や50種類以上の講座により、就労に必要なスキルを習得できるのが特徴です。個別にカウンセラーがつくので、自分の強みや弱みを整理し、仕事の苦手分野や困りごとへの対処方法を身につけられます。
双極性障害などの障害に理解がある企業と連携しており、独自求人をはじめとした幅広い職種の求人も紹介できます。就職が決まった後は、安心して働き続けられるよう、企業訪問や生活相談などの定着支援を行っているのも強みです。
また就労の前に自己理解を深めたい、まずは自立したいと考えている方は、Kaienの自立訓練(生活訓練)の利用がおすすめです。講座や実践的なプロジェクト、カウンセリングを通じて自分を見つめ直し、将来のあり方を再設計することができます。
ご興味がありましたら、説明会や体験会なども随時開催していますので、雰囲気やサポート内容を知るためにも、ぜひお気軽にご連絡ください。
長く仕事を続けるために適切な支援を
双極性障害は、躁うつ状態をくり返す気分障害です。仕事を続ける場合は、自分に適した業務内容や職場環境を選ぶようにし、ストレスを減らして働くことを心がけましょう。自己理解を深める、職場に合理的配慮を求めるなどの対策も、働きやすさを向上させるうえでは効果的です。
また、適職を探したい場合や、転職・復職を考えている方には、福祉サービスの利用がおすすめです。Kaienの就労移行支援では、双極性障害への理解を深め、適切な仕事に就くためのお手伝いをしています。無料見学会や相談会も随時実施していますので、ぜひお気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
監修者コメント
ドイツの偉大な詩人・作家であるゲーテは生涯に渡り8回の躁状態になり、その度に「若きウェルテルの悩み」や「ウイルヘルム・マイスター」、そして晩年には「ファウスト」などの名作を上梓しました。若いときは情熱的な恋愛を繰り返しますが、常軌を逸するほどではなく、後年の研究者からゲーテは双極II型障害だったのではないかと推測されています*1。
ゲーテのように双極性障害を持つ人にはクリエイティビティが高く、芸術方面で活躍する方が多いのが特徴です。このため、双極性障害を持つ患者さんは何か得意な表現を伸ばしていかれると良いのではないかと思います。そうすることでご自分にマッチした仕事を見つけられるのではないでしょうか。
ただし、双極性障害の方は感情の浮き沈みから、波乱万丈な人生を送りやすい傾向があり(有名人・芸能人の奇行を見て、もしかしたらこの人は双極性障害かな、と思ったことはありませんか?)、本人を献身的に支える人物の存在が欠かせない気がします。
*1: 松浦雅人編著, 『内科医のための抗不安薬・抗うつ薬の使い方』, p. 19, 診断と治療社, 2016
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。