「医師に適応障害だと診断された」「ストレスが溜まって身体に不調が出ている」といった場合、気になるのが仕事への影響ではないでしょうか。適応障害になっても仕事を続けたいと考える方もいるかもしれませんが、状況を悪化させないためには治療のポイントや仕事への影響を知っておくことが大切です。
この記事では、適応障害になったときに仕事を続けられるのかどうかや治療のポイントなどを解説します。適応障害の方が就職・転職に利用できる支援機関も紹介しているので、ぜひチェックしてみてくださいね。
仕事ができない・怖いと感じたときはどうすればよい?
ストレスやプレッシャーなどで「仕事ができない」「仕事が怖い」と感じて、どうすればよいか戸惑うことも少なくないでしょう。ここでは、仕事ができない・怖いと感じたときの対照法について解説します。
仕事量を調整する
仕事ができないと思った場合には、仕事量が多すぎる可能性があるため、仕事量を調整するように働きかけてみましょう。
対人ストレスを抱えやすい人は、お願いされたことを断れずに仕事量が増えてしまったり、人に任せることができずに仕事を抱え込んでしまったりすることがあります。業務量が多い場合は、上司など周囲に相談して、仕事量を調整してもらうようにしましょう。
周囲に相談することで、業務の割り振りを変えてもらえたり、効率的に業務を進めるためのアドバイスをもらえたりします。まずは仕事の量を減らし、負担を軽くすることが大切です。
環境を変える
職場の人間関係や業務内容、勤務体制などの環境が大きな負荷となって、仕事ができない、怖いと感じる場合もあります。そうした場合には、環境を変えることを検討してみましょう。
ストレスを感じている原因をつきとめ、改善に向けて働きかけることが大切です。例えば、人間関係に問題があり、シフトの変更や部署異動といった社内の対応で解決しそうであれば、会社に相談してみましょう。
社内で対応できない事情がストレスの原因であれば、転職も視野に入れて考える必要があります。
上司や専門家に相談する
自分でも原因がよくわからない、とにかく仕事がつらい・怖いといった場合には、会社の上司、あるいは医師やカウンセラーといった専門家に率直に相談することも大切です。
会社におけるあなたの業務や状況を理解している上司に話すことで、業務の負荷を加減してもらうことができます。また、医師やカウンセラーといった専門家に相談することで、専門的な診断や治療を受けられるでしょう。
状況を改善するためにも、一人で抱え込まずに、まずは上司や専門家など、人に相談するようにしましょう。
仕事ができない・怖いと感じるのは適応障害?適応障害の症状と仕事への影響
適応障害とは、職場や学校など周囲の環境からのストレスが原因で心身に不調をきたしてしまう病気です。適応障害の原因の例としては、長時間労働やパワハラといったストレスのある職場環境が挙げられます。
症状は人によってさまざまですが、不安感や抑うつ、集中力の低下といった心に関するものと、倦怠感や不眠、食欲低下など身体に関するものがあります。これらの症状によって、仕事のミスが増えたり人間関係のトラブルを起こしたりすることがあり、職場に通うのが難しくなってしまうケースも少なくありません。
適応障害を発症するかどうかは環境ストレスだけでなく、遺伝的な問題も影響します。遺伝的に強くても高ストレスの環境に身を置くと発症する人もいますし、比較的ストレスの少ない環境でも遺伝的にストレスに弱い場合は適応障害を発症することがあります。
適応障害とうつ病との違いとは?
適応障害とうつ病の症状は重なることも多く認められます。どちらも抑うつや食欲の低下、自尊心の低下といった症状が表れます。また、どちらも人によって症状が違うため、「この場合は適応障害、この症状ならうつ病」と簡単に判断はできません。
症状は似ていますが、うつ病のほうがより重く、一旦症状が良くなってもまた不調を繰り返してしまうイメージです。一方、適応障害ではほとんどの場合、ストレスの原因となっている環境から離れることで、比較的はやく症状が良くなっていきます。
プロである医師が診断する際は、患者さんの様子から適応障害なのかうつ病なのか、ある程度の区別は可能です。しかし、定義をもって明確に2つを区別するのは難しいため、医療機関を受診せずに自分で判断してしまうのはやめましょう。
適応障害で仕事を続けることは可能?
適応障害を発症したら、まずストレスの原因となっている環境から離れて休むことが重要です。仕事によるストレスが原因の場合、仕事を続けることで症状が悪化したり長期化してしまったりするおそれがあるため、基本的には仕事から離れることをおすすめします。
無理して仕事を続けると、集中力の低下によって仕事のミスが増えたり、イライラしやすくなって人間関係のトラブルを起こしてしまったり、仕事に悪影響を与える可能性もあります。これらがさらにストレスとなって、適応障害の症状がよりひどくなってしまう方もいるでしょう。そうなると悪循環に陥ってしまいます。
さまざまな事情で仕事を続けたいと考える方も多いかと思いますが、適応障害の症状が出ている間は仕事から離れて休養することが理想です。
適応障害の治療のポイント
ストレスによって心身に不調が出ている場合、症状を改善する必要があります。しかし、具体的にどのような治療法があるのかわからないという方もいるでしょう。
ここでは、適応障害の治療のポイントを2つ紹介します。適応障害による心や身体のつらい症状に悩んでいる方は、ここで紹介する2点を意識して過ごしてみてくださいね。
まずはゆっくり休む
適応障害になってしまったら、まずはゆっくり休むことが大切です。先ほども紹介しましたが、適応障害の治療ではストレスの原因となる環境から離れるのが基本です。勤務先に休職制度が用意されているなら、休職も検討しましょう。
「仕事を休むと収入が途切れてしまう」などお金のことが気になる方も多いかと思いますが、休職中は傷病手当金など経済的負担を減らしてくれる制度があります。たしかに給与はもらえませんが、完全に収入がゼロになってしまうとは限りません。
会社の人事などに確認すると、休職制度があるかどうかや休職中の各種手当、具体的に必要な手続きなどについて教えてもらえます。「働きたい」「休職するのはこわい」といった気持ちを抱えている方もいるかもしれませんが、まずはゆっくり休んで症状を良くすることを考えましょう。
適応障害による休職については、以下の記事で詳しく紹介しています。併せてチェックしてみてくださいね。
適応障害で休職はできる?利用できる制度や復職までの流れとポイント
環境の調整も重要
休職制度などを利用して、ストレスの原因となっている環境から離れてゆっくり休むことで、3ヶ月から半年程度で職場に復帰できるケースも多いです。ただ、職場そのものが適応障害の原因となっている場合は、同じ環境に復帰してもまた体調を崩してしまうかもしれません。
人事や上司と相談して働く環境を変えたり、別の部署に異動させてもらったりして、環境を調整することも重要です。場合によっては、転職を視野に入れたほうが良い場合もあるでしょう。
休む前とまったく環境が変わらないと、一時的には働けたとしても高いストレスがかかる職場では長く働くのは難しいでしょう。適応障害は長引くとうつ病などに移行してしまう可能性もあるため、「同じ仕事を続けるべきか」「転職できる可能性はないか」などを見つめ直すことが大切です。
適応障害の方に向いている仕事・働き方
現在の仕事が適応障害の原因となっている場合は、同じ仕事を続けるよりも、もっと向いている仕事はないかと考えることもあるでしょう。ここでは適応障害の方に向いている仕事・働き方について解説します。新たな仕事を検討する場合の参考にして下さい。
ルーティンワークが多い仕事
適応障害の中でも臨機応変な対応にストレスを感じやすい人には、毎日やることが決まっているようなルーティンワークが多い仕事が向いているといえます。
ルーティンワークが多い仕事には、事務や経理、営業サポート、データ入力、工場・倉庫スタッフ、警備員、清掃員などがあります。
ルーティンワークが多いと、仕事のペースを掴みやすく、イレギュラーな対応に頭を悩ませたり、スケジュールが読めなくてストレスを感じたりすることも少ないといえます。
コミュニケーションの機会が少ない仕事
適応障害でも特に人間関係や人とのコミュニケーションを負担に感じやすい方は、黙々と一人で進められるコミュニケーションの機会が少ない仕事が向いているでしょう。
コミュニケーションの機会が少ない仕事には、一般事務や経理、校正士や校閲士、清掃員、工場・倉庫スタッフなどが挙げられます。
人間関係に振り回されることが少ないため、大きなストレスを感じることなく作業を進められるでしょう。
自分のペースですすめられる仕事
適応障害で体調が不安定になりやすい人は、自分のペースで進められる仕事が向いているでしょう。
例えば、在宅ワークがメインの仕事であれば、自分のペースで仕事を進めても、プレッシャーがかかりづらく、負担が少ないといえます。在宅ワークには、Webライター、Webデザイナー、プログラマー、エンジニア、翻訳家などといった仕事があります。
自分の采配で働く時間帯を自由に調整できるため、体調が悪ければ休憩するといったことがしやすく、働きやすいといえるでしょう。
適応障害の方に向いていない仕事・働き方
適応障害の方に向いている仕事がある一方で、適応障害の方に向いていない仕事・働き方もあります。
適応障害の方に向いていない仕事・働き方の例としては、下記のようなものが挙げられます。
- ノルマが厳しい仕事:保険や不動産の営業など
- 労働時間が長くなりやすい仕事:エンジニア、ドライバーなど
- クレームに対応する仕事:コールセンター、カスタマーサポートなど
ノルマが厳しい営業といった仕事は、精神的・体力的にもプレッシャーが大きく、仕事の重圧によるストレスで適応障害になっている人には向いていないといえるでしょう。
労働時間が長くなりやすくエンジニアなどの技術職も、心理的・肉体的負荷が大きく、体調が不安定になりがちな適応障害の人には向かないといえます。
コールセンターなどのクレーム対応の仕事も、人間関係からのストレスを受けやすい適応障害の人には不向きです。
適応障害の人でもストレスを感じやすい事柄はさまざまですが、自分のストレスを感じやすい原因を把握し、そうした要素の強い仕事や働き方は避けるようにしましょう。
適応障害の方が就職や転職するときに利用できる支援先
今の環境を変えるために、就職や転職を考えている方も多いでしょう。適応障害の方が就職や転職をするときに支援してくれる場所は多くあるので、国や自治体の支援についても知っておくと心強いです。
ここでは、適応障害の方が就職や転職をするときに利用できる支援先を6つ紹介します。ぜひ活用してくださいね。
就労移行支援
就労移行支援は、「職業訓練」「就活支援」「定着支援」の3段階の支援が受けられる制度です。国が実施する支援事業で、就職前から就職後まで一貫した支援を実施しています。
職業訓練では、就労移行支援事業所に通って働くために必要なスキルやマナーを身につけます。就活支援は、就活の進め方をスタッフと相談しながら実際の求人に応募するステップです。事業所によっては、独自の求人を取り扱っているところもあります。
定着支援では、就職した職場で長く働けるようにスタッフによるヒアリングやサポートが行われています。長く働き続けられる転職先を探したい方は、就労移行支援を活用してみましょう。
就労移行支援は、退職済みの方だけでなく休職中の方も利用できるので、元の職場への復帰を目指す方にも有効です。
ハローワーク
ハローワークは厚生労働省が設置する雇用に関する手続きを行う施設で、公共職業安定所ともいいます。全国に500箇所以上あるので、自宅の最寄りのハローワークを調べてみましょう。
ハローワークでは、求人情報の閲覧や履歴書の添削、面接の指導など、就職・転職に関するさまざまな支援が受けられます。就活についてのアドバイスも受けられるので、就職や転職の方向性が決められないという方も、ハローワークの窓口で相談してみるのがおすすめです。
また、ハローワークでは障害のある方の就活を支援するために、専門知識を持つ職員・相談員も在籍しています。きめ細かいサポートが受けられるので、適応障害の症状に応じてハローワーク障害者専門窓口の利用も検討してみましょう。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、心の病気を持つ方の自立や社会復帰をサポートする機関です。各都道府県に設置することが法律によって定められていて、心の病気に関する相談やアドバイス、医療機関に関する情報提供などさまざまな支援を行っています。
精神保健福祉センターには医師や臨床心理士など心の病気に関する専門家が在籍しているので、適応障害に関して困ったことや不安なことがあればなんでも相談してみましょう。
センターによっては、精神科デイケアや当事者同士のグループ活動といったプログラムを実施しているところもあるので、お近くの精神保健福祉センターの取り組みについて調べてみるのがおすすめです。
地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーションは15歳から49歳までを対象とした支援機関で、現在就労や就学をしていない方の就活から職場定着までを全面的にサポートしてくれます。厚生労働省委託の機関で、全国に177箇所あります。
主な支援内容は、コミュニケーション講座やビジネスマナー講座、就業体験や就活セミナーなど、就職のために必要なあらゆる支援を実施しています。自信の回復や資格の取得、就職に必要な基礎能力の獲得などを目指す「集中訓練プログラム」も実施しているので、「なにから始めたらいいのかわからない」という方にもおすすめです。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークと連携して障害のある方の就職や復職に関する専門的な支援を提供する施設です。全国47都道府県に設置されていて、一人ひとりのニーズに合わせた支援を実施しています。
本人の希望を踏まえて職業能力を評価したり、ハローワークでの職業紹介に進む前の作業体験や社会生活技能訓練を行ったり、支援の内容は多岐にわたります。また、求職者だけでなく人材を雇用する事業主への働きかけとして、障害者雇用に関する課題の分析や雇用管理に関する専門的な助言を実施しているのも特徴です。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の仕事と生活の両方をサポートする機関です。全国に337箇所設置されていて、ハローワークや保健所、医療機関などの関係機関と連携して障害のある方の雇用促進と安定した就労を目的に支援を実施しています。
具体的な支援内容は就業支援と生活支援の大きく2つに分かれ、就業支援はハローワークと連携した就活支援や事業主と連携した職場適応支援などがあります。生活支援としては、福祉事務所と連携して福祉サービスの利用を調整したり、医療機関に医療面の相談をしたり、内容はさまざまです。
必要に応じて専門機関と連携して支援してくれるので、就職だけでなく生活面にも不安を抱えている方は相談してみましょう。
適応障害は休養と環境の調整が鍵となる
適応障害は周囲の環境からのストレスが原因で発症する心身の不調で、治療を進めるうえで重要となるのがストレスの原因から離れることです。休職制度などを利用して休養をとりながら、部署異動や転職など復帰する環境の調整を進めましょう。まったく同じ職場に復帰しても、また適応障害を発症してしまうかもしれません。
適応障害の方の就職・転職を支援する機関は多くあるため、本記事で紹介した支援先の利用も検討してみてくださいね。
監修者コメント
適応障害は、うつ病と並んで休職の原因となることが非常に多い診断です。名前の示す通り、「何らかのストレス」に対する適応不全、という側面が強いため、多くの場合、不調となった原因が明らかな時に診断されます。そう考えると、同じ環境に居続けると回復が非常に困難なはずですから、回復のためには、不調の原因を作った環境へのアプローチが必要となります。仕事量が多さや、対人関係の問題に対する調節を必要とするわけです。時には仕事の質と、自分の能力適性が合っていない、ということもあるでしょう。その意味で、医療的側面、特に薬物療法はあったとしても対症療法的に過ぎず、職場/学校/家庭といった環境面を調整できる方との相談も必要になることが多いです。主治医の力だけでは役不足のことも多いため、どなたか、自分の曝されている環境下で相談のできる人であったり、就労移行支援事業所をはじめとした各種相談機関の方と、協調しながら解決がされていくことを目指して欲しいですね。
尚、最新の診断基準、DSM-5の改訂版、「DSM-TR」では、「適応反応症」という診断名が訳語として当てられました。段々と、呼び名が変わっていくかもしれません。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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