適応障害で休職している人のなかには復職する自信が持てないため、もう少し休職を延長して体調を整えてから復帰したいと思う人や、復職は難しいと考えて退職を検討している人もいるかもしれません。
しかし、退職を決断するのはとても勇気が必要です。そのため、もう少し休職を延長して検討したいと考えている人もいるでしょう。
この記事では、適応障害で休職できる期間や、休職を延長する際の流れ・復職の流れを解説します。休職中で、復職に不安がある人は参考にしてみてください。
適応障害での休職を延長したい!休職可能な期間とは
適応障害で休職している場合、休職が延長できるかどうかは、休職可能な期間によって異なります。
国家公務員の場合、法令では下記のように定められています。
“三年を超えない範囲内でにおいて、それぞれ個々の場合について、任命権者が定める。
この休職の期間が三年に満たない場合においては、休職にした日から引き続き三年を超えない範囲内において、これを更新することができる。”
引用:人事院規則一一―四(職員の身分保障) | e-Gov 法令検索
つまり、休職期間が3年以内なら、延長が可能です。
しかし、民間企業の場合は、就労規則によって休職できる期間は異なり、3ヶ月から3年超まで様々です。
休職を延長したい場合は、就労規則で決められている休職期間を超えない限り延長できると考えられますが、その点も企業によって異なります。
まずは勤務先の就業規則を確認してみましょう。
適応障害での休職を延長したいと伝えても認められないことも
適応障害による休職を延長したい場合、認められるケースもあれば、認められないケースもあります。
たとえば、延長した結果、就業規則で決められている休業期間を超えてしまうような場合は認められません。
また、回復の見込みが薄く、復職が難しいと判断される場合も認められない場合があるでしょう。
適応障害は、環境の変化や日常生活のストレスにうまく対処できないケースが続くと起こる急性のストレス障害です。一般的に、ストレスの原因となる環境や出来事から離れられれば、半年以内に症状が改善するといわれています。
しかし、復職にあたって環境調整が難しかったり、休職前と同じストレスにさらされたりすれば、症状が悪化してしまう可能性が否定できません。
他に休職の延長が難しい・認められないケースとして、給与の支払いや人員配置など休職期間中の企業側の環境調整が難しいケースもあります。
適応障害での休職を延長するか復職するかの5つの判断基準
適応障害で休職していて症状が安定してくると、復職を考える余裕も出てきます。しかし、復職に対してさまざまな不安もあるでしょう。
ここからは、休職を延長するか復職するかを判断する基準をご紹介します。
もし、復職するか迷う場合は、焦らずに医師や職場に相談してみましょう。心と体の調子が回復していない時は、焦らないようにするのが大切です。
一般的に適応障害の場合は、数ヶ月で復職できるケースがほとんどです。しかし、数ヶ月経っても体調が改善しない・延長の必要性がある場合は、適応障害以外の要因が隠れている可能性があります。そういったケースでは、病院で相談するなどによって、医療的に何が回復を妨げているのか確認する必要があります。
規則正しい生活を送れているか
まずチェックしたいのが、規則正しい生活を送れているかどうかです。
適応障害になると、夜眠れなくなったり、朝起きられなくなったりする人もいます。その状態で休職すると、夜更かしが習慣になってしまったり、朝起きて活動を開始する時間が遅くなったりします。
しかし、復職するにあたって、決まった時間に起きて職場に行くのは避けられません。
もし現在、昼夜逆転の生活を送っていたり、決まった時間に起きるのが難しかったりする人は、生活リズムが整うまで休職を延長したほうがよいでしょう。
休職直後は強いストレスにさらされるため、疲れ切った心と体を休めるために、睡眠時間を十分に確保する必要があります。症状が落ち着いて復職を考え始めたら、朝早く起きて夜にはぐっすり眠れるように、少しずつ生活リズムを休職前に近づけていきましょう。
精神的に安定しているか
適応障害になると、人によっては感情が不安定になり、些細な出来事で精神的に落ち込みやすくなったり、逆に攻撃的になったりする人もいます。しかし、精神的に不安定な状態で仕事をするのは、難しい場合が多いでしょう。
仕事をしていると、アクシデントやトラブルに見舞われる場面もあります。職場の人とのコミュニケーションがうまくいかない日もあるでしょう。
適応障害から回復するまでには、波があります。落ち込んで何もやる気が起きない日もあれば、調子がよく何でもできそうに感じる日もあります。また、些細な刺激にも敏感で、適応障害になる前は気にも留めなかったような出来事で心が傷つくのも珍しくありません。
休職を延長するかどうかを判断する時は、精神的に安定しているかどうかを忘れずにチェックしましょう。
自分で自分の精神状態を把握するのは難しいと感じるかもしれませんが、日頃から日記をつけて感情の波を把握すると、精神的に安定してきたかどうか客観的に判断しやすくなります。
集中力や判断力が回復しているか
仕事に必要な集中力や判断力が回復しているかどうかも、大切な基準です。仕事では、さまざまな場面で集中力や判断力が求められます。
適応障害になると、自分が思っている以上に集中力・判断力が鈍ります。長時間集中して作業ができない以外にも、考えにまとまりが無くなる・ぼーっとすることが増える・物忘れが多くなるといった症状も、適応障害によって集中力や判断力が鈍っているサインです。
長時間、仕事に集中して取り組めているか、トラブルやアクシデントに見舞われた時に適切な判断ができているのかという点は、自分だけでなく周囲の人の意見も聞いて、できているかどうか判断しましょう。
自分では問題なく集中できていると思っていても、周囲から見ると落ち着きがなさそうに見えたり、適応障害になる前に比べて物忘れが増えたりしている場合もあります。
また人によっては、特定の作業なら長時間集中して取り組めたり、マニュアルがあればトラブルやアクシデントにも対処できたりするケースもあります。
休職前と同じように仕事に集中できるか不安だったり、判断力に自信がなかったりする場合は、復職にあたって異動を相談したりマニュアルを整備したりしてもらえないか相談してみるとよいでしょう。
体調不良がみられていないか
適応障害になると、体調不良が見られるケースもあります。現れる症状は人によってさまざまですが、代表的な不調には次のようなものがあります。
- 不眠・過眠
- 胃腸症状(腹痛や嘔吐・下痢)
- 食欲不振・過食
- 頭痛
- めまい
- 耳鳴り
- 動悸
- 息苦しさ
- 発熱
上記のような体調不良が続いている人は、もう少し休職が必要かもしれません。
適応障害が良くなってくると、体調不良も徐々に治まってくる場合が多いです。体調不良が続く・悪化する場合は、早めに主治医に相談して必要に応じて検査を受けましょう。
体調不良の有無と同時にチェックしたいのが、体力の衰えです。毎日通勤していた休職前に比べると、休職中は活動量が減って体力が落ちてしまう人もいます。
復職すれば、毎日職場に通って、決まった時間働かなければならないため、ある程度の体力が必要です。
復職を考え始めたら、軽い運動を日課にして体力づくりに励むのもよいでしょう。
医師や家族から改善しているように見られているか
適応障害から回復しているかどうかは、自分だけで判断しないようにしましょう。
自分では十分に回復したと思っていても、家族や周囲の人から見るとまだまだ調子が悪そうに見える場合もあります。
面と向かって本人に「まだ体調が悪そうだね」と言わなくても、内心「復職するのは心配だ」と思っている場合もあります。
復職するか休職を延長するか迷ったら、周囲の人に率直に自分の体調について尋ねてみましょう。
チェックリストを作って、一緒にチェックしながら心と体の調子を確認するのも1つの方法です。
そして家族や友人の意見だけでなく、専門家である医師の意見も非常に重要です。
医師は、これまでにたくさんの適応障害の患者さまを診察してきているからこそ、復職しても良いタイミングについても深い知見があります。
自分の感覚だけを頼りにせず、復職する際は必ず周囲の人や医師などの専門家の意見も聞きながら準備を進めていきましょう。
適応障害での休職を延長したい時の流れ
ここからは、適応障害で休職を延長したい時の流れを解説します。
休職を延長したい場合は、まず就業規則を確認しましょう。就業規則によっては、延長できないケースもあります。
延長できそうな場合は、次の流れで休職期間を延長してもらいましょう。
医師に延長を希望している旨を伝えて診断書を書いてもらう
まず、休職期間が延長できる場合は、医師に延長したい旨を相談して診断書を書いてもらいましょう。
診断書の費用は病院によって異なりますが、保険が適用されないため、全額自費となります。多くの病院では、1通あたり3,000~5,000円で書いてもらえます。
診断書の作成には、その内容によって、即日発行の場合もあれば、1〜4週間程度かかることもあります。特に会社独自の書式が要求される場合には時間がかかるでしょう。休職期間延長の手続きに間に合うように逆算して早めに依頼してください。
診断書の他に必要な書類があれば、あらかじめ調べて取り寄せておくと延長の手続きがスムーズに進みます。
上司や担当部署に延長したい旨を相談する
診断書ができあがったら、上司や担当部署に休職期間を延長したい旨を相談しましょう。
実際に休職期間を延長できるかどうかは、企業によって異なります。相談した結果、休職期間の延長が認められないケースもあります。
また勤め先に産業医がいる場合は、産業医も交えて企業側と面談が設けられる場合もあります。
延長期間に応じて次回の診察や報告面談を計画する
休職期間の延長が認められたら、次回の診察や報告面談を計画しましょう。休職はあくまでも復職を前提にした制度です。診察や面談の計画は忘れやすいですが、復職を目標に心身を回復させるためにも忘れずに計画して受診や面談を受けるようにしましょう。
報告面談とは、休職中の状況を把握するための面談です。おおむね月に1回程度を目安に、産業医や上司と面談します。
もし復職後に心配なことがあれば、報告面談で事前に相談しておくとよいでしょう。
休職を延長してから復職するまでの流れ
休職を延長した結果、体調が落ち着き復職できるようになった際の流れを解説します。
休職中から復職までの流れは次のとおりです。
- 体調・生活習慣を整える
- 主治医に復職したい意思を伝える
- 職場に復職したい旨を相談する
- 医師に復職可の診断書を書いてもらう
- 診断書を職場に提出する
- 産業医との面談や職場環境の調整を通じて復職の準備をする
- 職場で復帰計画が作成される
- 復職
休職するにあたって診断書が必要ですが、復職する場合にも診断書が必要です。診断書の作成には時間がかかるので、休職期間が終わる前に余裕を持って依頼しましょう。
診断書は「復職診断書」や「就労可否診断書」と呼ばれるもので、形式によっては医師の意見を記入する場合もあります。職場指定の形式がある場合は、事前に診断書用紙を取り寄せておきましょう。
休職を延長してから復職せず退職するまでの流れ
休職を延長したものの、思うように体調が回復しなかったり、復職に強い不安があったりする場合は、復職せずに退職する場合もあります。
復職せずに退職したほうが良いかどうかは、次の項目をチェックしてみましょう。
- 職場の環境調整が難しい
- 復職に必要なサポートが受けられない
- 働く意欲がない
- 回復までさらに時間がかかりそうだ
適応障害は、日常生活や仕事でのストレスにうまく対応できない状況が続くと起こる急性のストレス障害です。ストレスの原因が取り除かれれば速やかに回復する病気ですが、再び同じストレスにさらされると症状が再発してしまう場合があります。
復職しても、強いストレスを受けた環境と同じ環境に身を置くことになれば、適応障害を再発してしまうリスクが高まります。
もし、配置転換など職場の環境調整が難しかったり、時短勤務や業務量の調整といった復帰に必要なサポートが受けられなかったりする場合は、退職を考えてもよいでしょう。
また、働く意欲がない状態で復職しても、仕事そのものがストレスになって再び心身の調子が悪化しやすくなります。休職中に働く意欲が失われた場合も、退職したほうが良いかもしれません。
休職から復職せずに退職する場合の流れは次のとおりです。
- 休職期間が追わるまえに職場に退職の意思を伝える
- 退職願を提出する
- 必要に応じて業務の引継ぎや取引先への挨拶を済ませる
- 借りている備品などがあれば返却する
- 退職
- 健康保険や年金、税金などの公的な手続きを行う
退職するかどうか決断する際は、医師や家族、周囲の人に相談したうえで決断しましょう。周りに相談できる人がいない時は、厚生労働省や市町村が設けている公的な相談窓口を利用するのも良い方法です。
適応障害で退職する際の流れについてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
適応障害で退職する流れとは?後悔しない方法や退職後に受けられる支援制度を紹介
休職から退職後に再就職したい時に利用できる制度やサービス
休職後そのまま復職せずに退職して、しばらくすると「もう一度働きたい」と働く意欲が出てくる人もいるでしょう。
最後に再就職したい時に利用できる制度やサービスをご紹介します。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)は、仕事を探している人や求人を出したい事業所に無料でサービスを提供する国の機関です。
ハローワークでは求人情報が閲覧できるほか、職業相談・職業紹介が受けられたり、就職に必要な職業スキルや知識を身につける「職業訓練」が受けられたりします。
職業訓練については、こちらの記事でも詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
職業訓練とは?種類やコース、受講のメリットから申し込みの流れまで解説
障害者雇用への就職
障害者雇用で就職するという方法もあります。
障害者雇用とは、障害がある人(身体障害者手帳・精神保健福祉手帳・療育手帳を持つ人)のための雇用枠です。障害者雇用で就職すると、一般枠に比べて配慮が受けられたり、障害の程度や特性に合わせて仕事の内容を調整してもらったりしやすくなります。
現在は「障害者雇用促進法」に基づき、企業に対して一定の割合で障害者を雇用することが義務付けられているだけでなく、合理的配慮の提供が必要で、不当な差別の禁止も定められています。
障害者雇用での就労については、こちらの記事でも詳しく解説していますので参考にしてみてください。
障害者雇用とは?対象者や一般雇用との違い、メリットと注意点を解説
参考:事業主の方へ|厚生労働省
就労移行支援
いきなり企業に就職するのが不安だという人は、就労移行支援を利用するのもおすすめです。
就労移行支援とは、施設に通ってトレーニングをしながら就職を目指す福祉サービスです。
就労移行支援を利用すると、次のようなメリットが得られます。
- 規則正しい生活習慣が身につく
- 毎日通勤して働ける自信になる
- 就職後もサポートが受けられる
適応障害などの病気で休職した人のなかには、休職期間中に生活リズムが乱れてしまう人もいます。しかし、就労移行支援は基本的に、決まった時間に施設に通ってトレーニングを行うため、徐々に規則正しい生活習慣を取り戻す助けになります。
毎日きちんと通って、決められたカリキュラムをこなせるようになれば、就職後も働き続けられるという自信がつくでしょう。
また、就労移行支援では、就職後の定着を促すためのサポートが設けられています。
環境が変わって新しく出てきた課題への対処法や働き続けるうえでの困り事など、専門知識を持つスタッフに相談に乗ってもらえるため、働き続けることへ不安を感じる人にも安心してご利用いただける場所です。
自立訓練(生活訓練)
すぐ再就職する自信はないものの、長期的な視点で「自立」を目指したいという方には自立訓練(生活訓練)の利用もおすすめです。
自立訓練(生活訓練)が就労移行支援と異なっている点は就労ではなく「自立」を目指す点です。
再就職をする前に、休職中に乱れてしまった生活リズムを整えたり、料理や洗濯、金銭面の管理など、自立して生活するのに必要となる生活スキルを獲得したりしたいと考えている方もいるでしょう。
また再就職してから、すぐに休職や退職しないためにも自己理解を深めてストレスの対処法を知っておきたいと考えている方もいるかもしれません。
自立訓練(生活訓練)では生活リズムを整えたり生活に必要なスキルを身につけたりできるだけではなく、自己理解についても深めることができます。
また他者とのコミュニケーションスキルや、感情をコントロールする方法について学べるため、長期的な視点で健全に人生を送りたい方に最適なサポートと言えるでしょう。
自立訓練(生活訓練)について気になる方は、合わせて下記の記事もご覧ください。
自立訓練(生活訓練)とは?就労移行支援との違いや併用についても解説
休職を延長したい時はまずは専門家へ相談を!再就職にはサービスの利用もおすすめ
適応障害で休職した人のなかには「もう少し療養したい」「復職するのが不安だ」と考える人もいるでしょう。そのような場合には、休職期間を延長できる場合があります。
どの程度休職期間を延長できるかは就業規則によって異なるため、休職期間を延長したいと思ったら、まずは専門家に相談してみましょう。
復職せずに退職して、また再就職したくなったら就労移行支援などのサービスを利用するのもおすすめです。
監修者コメント
適応障害は、通常は何かしらのストレス因があり、そこから離れることが大事になります。職場に原因があるときには休職が必要なことがあるでしょう。復帰を考える時には、ストレス因が100%でなくてもある程度は解消されていることと、休職前の状態にかなりな程度まで戻っていることが望ましいと言えます。職場のストレス要因がそのままなのに復職しても同じように辛くなってしまうことが多いですし、十分な休息無しには休職前のパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。また、ストレス因がなくなればすぐにすっかり回復するかといえば、そうとも言えません。ストレスの内容にもよりますが、一定程度の期間は休息が必要であり、特に辛かった時期が長いほど、回復には時間がかかるでしょう。そのため、もう少し期間が必要な場合には本記事を参考に休職期間の延長を主治医と検討してください。最近では産業医との面談が必要とされていることも多いでしょう。産業医は人事と通じており、適切な会社対応を助言する役割を持っています。産業医面談がある際には、今の自分の回復度合いを伝えると同時に、是非会社にはどうして欲しいのかも併せて伝えてください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。