自分は頑張っているのに上手に働けない。職場の上司・同僚から配慮がほしい…。発達障害*¹ゆえの苦手な部分に配慮を受けることで、安心した働き方を求めている方はとても多いでしょう。配慮を受けるには、①原因の特定、②合理的配慮の理解、③適切な配慮要求の3つのステップが重要なのはご存知でしょうか。この記事では発達障害の方が職場で配慮を受ける方法をお伝えします。
より良く働くための3つのステップ
①仕事で失敗しているところを特定しよう!
発達障害の特徴と言っても職場で失敗している部分は人それぞれです。まずは失敗の内容と原因を特定する必要があります。職場での失敗が重なるとうつや不安障害など二次障害も関わって、より失敗の頻度が増えてしまう悪循環に陥りますので、周囲のアドバイスを受けながら自分の失敗を分析しましょう。例えば下記の失敗の内容・理由であなたが思い当たる点はありますか?
理解の困難
- 想像 相手の状況を理解しづらい 相手の気持ちをくんだ行動が苦手
- コミュニケーション(受信) 指示を取り違えている 指示を覚えられない
- 読み取り マニュアルだけでは仕事がイメージできない
- チームワーク チームで動く場合、自分のタスク分担が分かりづらい 自発的には動けない
実行の困難
- 段取り タスクをどのような順で行うかが不明 優先順位がつけられない
- 業務習得 すべきことはわかっているが、時間をかけないと習得できない
- 同時並行 複数業務を担当すると効率が悪い いくつかの業務を同時にすると抜け漏れる
- 処理速度 テキパキと仕事をするのが苦手
- ミス・抜け漏れ 何度見返してもミスをしてしまう チェックリストがあっても抜け漏れる
その他の困難
- コミュニケーション(発信) 適切な人に、適切なタイミングで、適切なことを伝えられない
- 集中 寝落ちしてしまう 集中力にムラがある 周辺の物音・行動に気が散りやすい
- 体調維持 生活リズムを崩しやすく勤怠に出やすい ビクビクしながら働くので疲れやすい
- 人間関係 職場の雰囲気についていけない どうしても仲間はずれになりやすい
②知っておきたい 合理的配慮
合理的配慮は2016年度から障害関連の法令に盛り込まれました。①障害特性は一人ひとり異なるため、雇用主に個々の事情にあった配慮を要求することが出来ること。また②雇用主は経済的・人員的に合理性があれば配慮をしないといけないこと。さらに③障害のある人と雇用主側との対話を絶えず続けてより良い環境を整えていくこと。この3つが柱になった制度です。
【参考】改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」 (厚労省)
実は障害者雇用だけではなく、一般雇用の場でも合理的配慮を求める権利はあります。さらに言えば障害者手帳の有る無しに限らず、障害の証明ができれば、合理的配慮の考えに当てはまるケースとなります。(なお職場だけではなく、例えば大学内でも合理的配慮が必要となっています。)
障害の証明がなぜ必要なのかというと、障害がない場合も主張すると職場や社会が混乱するからです。例えば学習障害*²の書字障害がない人がテストで制限時間を伸ばす配慮を求めることは公平さを欠くため、他の人よりも著しく書く行為に困難があることを証明する必要があります。証明には医師の診断書やそれまで受けてきた配慮の記録などが必要になります。
なお勘違いしやすいのは「配慮によって求められる仕事のハードルが下がる」「苦手な仕事は配慮によって免除されて当然」と考えてしまうこと。配慮はあくまでも給与に見合った成果を出すために提供されるもので、給与とパフォーマンスのバランスを障害のために崩しても許される、と考えるのは誤りです。
職場での合理的配慮 まとめ
- 当事者が自ら配慮希望を伝える
- その時に障害の証明や過去の配慮の記録を提出する
- 合理的な範囲内と決めた配慮を事業主が約束する
- 当事者と職場とのやりとりは継続し、より適切な配慮を目指す
一般雇用であっても障害への合理的配慮を希望できますが、その質・量はやはり異なります。すなわち助成金や人員体制の手厚さが認められている障害者雇用に比べると一般雇用の配慮は限定されたものになるでしょう。
障害者雇用では雇用率を満たす存在である点が評価されるポイントです。つまり法令遵守というコンプライアンスのための戦力という位置づけです。助成金なども企業にもたらされる経済的なメリットもあります。このため支援員がついたり、業務が得意なものに限られたり、ストレスの少ない職場環境にしてもらえたり、労働時間に配慮を受けたり出来るでしょう。
一般雇用の場合も自分の力を発揮するために必要な配慮は当然受けることが出来ます。受けられる配慮も種類・内容としては変わらないでしょう。しかしあくまで受けた配慮以上の成果・結果を出さないといけません。給与分の実績・結果がシビアに求められる傾向があることは知っておきましょう。
一般雇用と障害者雇用での配慮 まとめ
- 一般雇用でも障害者雇用でも、配慮の種類・内容は変わらない
- 障害者雇用は「居ること」が一つの戦力であり、配慮はより充実する傾向あり
- 一般雇用は配慮で受けた以上のパフォーマンスを残す必要あり
③トラブルを防ぐために 上手な配慮要求の出し方
では具体的にはどのような配慮を求めることが出来るのでしょうか? 場面ごとに見ていきます。
対人面での配慮希望例
- 上司を固定してもらう
- 指示系統を一つにしてもらう(※実質やりとりの相手を絞り込むことになる)
- 知らない人とのやりとりが少ない部署・業務に変更してもらう
やり取りをする人によってパフォーマンスが大きく変わる場合は上司を固定してもらうなどの配慮を要求することが良いでしょう。ただし人事の範囲に注文をつけることになりますので、他の対策をまずとった上での2番目、3番目の要求となることが多いでしょう。このため、まずは指示系統を一つにしてもらうことをお勧めします。実質的には上司は一人になりますが、いろいろな人から仕事を頼まれて混乱することを防げるだけではなく、フィット感のある人からの指示を受ける形になり、一石二鳥になる可能性があります。
体調面での配慮希望例
- 職場での仮眠を認めてもらう
- 休憩を30分に一度取るなど通常よりも頻度高く取らせてもらう
- 時差通勤、時短などを認めてもらう
- 原則、通勤時間が短いオフィスでの勤務を認めてもらう
残念ながら発達障害の人では二次障害や感覚過敏などのため、ラッシュアワーの電車が極端に苦手だったり、他の人よりも睡眠時間が多く必要だったり、体調面や精神面でのタフさを要求されるとむしろ休みがちになってしまう方が多くいます。普段から限られたエネルギーを効果的に使ったり、休み休みでエネルギーを補充しやすいようや勤務体系・休み方を要求したりしましょう。この時大事なのも、生産性を上げるのが配慮の目的ということ。単なるワガママだと思われないように、配慮要求の言葉には気をつけましょう。
指示の受け取り面での配慮希望例
- 業務指示を口頭だけでなく文書でもらう
- 業務の連絡はメールでやり取りする
- ミーティングなどの際は他の人がつくった議事録を共有してもらう
- スマホのカメラやボイスレコーダーなどの利用を認めてもらう
困り感によって変わりますが、指示が受け取りづらい場合は、上司との理解のズレが原因であることが多いです。ズレを防ぐためには文書やメールなど文字情報で残すこと、頻度高くやり取りすることが対策になります。このためにITやアプリなどを使うことを許可してもらうことをお願いすることも合理的配慮の一つと考えられます。上司にすると文書やメールで指示を出すのは時間・手間がかかり嫌がられることが多いでしょう。特に成果が出やすい部分から配慮をもらいはじめ、文書やメールで指示を出してもらうとあなたのパフォーマンスが高いことがわかってくれば、自然と上司も配慮を合理的だと理解してくれるでしょう。
責任範囲・業務面での配慮希望例
- 担当業務を限定してもらう(実際に箇条書きにするなどしてもらいましょう)
- 担当業務について頻繁に定期的に相談する相手・機会をつくる(話す内容を予め決めておきましょう)
- ダブルチェック作業(他人によるミス抜け漏れチェック)の体制を作ってもらう
もともと出来ないものは無理をして行うよりも業務自体を避け、出来るところに集中させてもらってチームとしてのパフォーマンスを高めることが重要です。通常よりも限定した部分で活躍することになりますから、担当した業務での結果は残す期待が高まるでしょう。チームで円滑に仕事をしていく上で、業務をカバーしてくれる先輩や同僚などへの感謝の気持ちを言葉として伝え続けることも重要になります。
期待度のコントロールによる配慮希望例
- 新しい業務の場合は習熟に時間がかかることを事前に理解してもらう
- 気温差や気圧差が大きい日は休みがちであることを事前に理解してもらう
- 飲み会やランチタイムなど、一人でのんびり過ごす(あるいは参加しない)ことを理解してもらう
いわゆる”見えない障害”を理解してもらうためには、事前に自分の特徴について具体例を交えて伝えておくことが重要です。また具体的な配慮をどのようにしたらよいのかなど、周囲から見ただけではあなたが困難に陥っているかわからないため、声のかけ方や確認の仕方も合わせて伝えると良いでしょう。
作業環境面での配慮希望例
- 耳栓・イヤホンの利用を認めてもらう
- アラームやポップアップ機能のアプリを利用する
空調を大きく変えたり、オフィス自体の照明を替えたりするなど、自分以外の人にも影響を与えることは認められづらいかもしれませんが、他人に迷惑をかけない範囲で心地よく働くことを求めるのは良いでしょう。また上述の内容と重なりますが集中を高めるためのスマホやPCのアプリ、ツールを使うことも考えられるでしょう。配慮を求める時に注意すべきなのは、会社のルールに抵触していないかということです。配慮を申し出る時は個人情報や企業秘密に関わる部分を持ち出すことを上司に心配させない方法を一緒に検討していこうという態度が必要です。
*** 配慮の内容・求め方については求職者向けの就労移行支援でアセスメントとアドバイスを行っています ***
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
経営者・上司が社員をマネジメントすることは当然のことなので、発達障害の人が部下の場合、そのマネジメントの幅を広げることは、ある種の「責任」だと僕は思っています。
合理的配慮というと、こちらが下手にでている感じですが、そこまで言われる筋合いはないよな、と僕は個人的に思ってしまいます。と、ネットの記事なのでこんなことを言えますが、実際の上司にはそんなことを言えるはずもなく「合理的配慮をお願いします」と言っています。
医者とはいえ、まだまだ立場は弱いのです。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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