心身の不調で休職している人のなかには、「休職しても思うように体調が回復しない」「復職した後、今まで通りに働けるか不安だ」と悩んでいる人もいるでしょう。
休職は復職が前提の制度ですが、復職せずにそのまま退職することも可能です。しかし、復職せずにそのまま退職する際はいくつか注意したいポイントがあります。
この記事で退職希望の伝え方のポイントや退職後の注意点を解説しますので、参考にしてみてください。
休職中にそのまま退職することは可能?
体調を崩して休職したものの、思うように復職できずに悩んでしまう人は少なくありません。休職が復職前提の精度であることから、退職してもいいのか迷っている人もいるでしょう。
一般的には、休職から復職せずに退職することもできます。ただし、職場の就労規則によっては、復職せずに退職する場合は自己都合での退職ではなく、会社都合での解雇となるケースもあるので、まずは就労規則を確認してみましょう。
休職中に復職せず退職するまでの流れ
ここからは、休職中に復職せず退職するまでの流れを解説します。復職せずに退職する場合、休職期間が終わるまでに手続きを済ませる必要があります。
手続きに時間がかかるケースもあるため、時間にゆとりを持って準備していきましょう。
休職中に医師へ相談する
休職するにあたって、病院を受診している場合が一般的なため、それぞれかかりつけの主治医がいるでしょう。その場合は、退職を決断する前にまず医師へ相談してみるのが良いでしょう。
医師に相談すると職場に退職したい旨を伝える際に、「医師から長期的な休養が必要と言われたため退職の方が良い」など理由を伝えやすくなるケースがあります。
そもそも精神的な不調に陥っているときは、自分だけで重大な決断はしない方が賢明です。精神的に不調なときに退職のような重大な決断をすると、ひどく後悔したり自分を責めたりしやすくなります。
もし相談できそうなら、家族や友人にも相談して、様々な意見を踏まえて判断しましょう。
職場へ退職したい旨を連絡する
退職すると決めたら、職場に退職したい旨を早めに連絡しましょう。正社員の場合、民法上は2週間前までに退職の意思を伝えれば問題ないとされていますが、休職期間が終わる1ヶ月半前までに伝えておいたほうが、様々な手続きを余裕を持って終えられます。
退職したい旨を連絡する際は、いきなり担当部署に「退職したい」と伝えるのではなく、まずは上司に連絡しましょう。休職中に面談を予定している場合は面談の際に相談してみるのも良いでしょう。
このとき、なぜ退職を考えたのか理由を伝えられると、相手に納得してもらいやすくなります。
退職に必要な書類や返却物をまとめる
退職する意思を伝えたら、退職に必要な書類や職場に返却する物をまとめましょう。
退職に必要な書類には次のようなものがあります。
- 退職願
- 退職届
退職願は、退職を打診するための書類です。退職届とは異なります。企業によっては提出が不要の場合もあるので、就労規則で提出が必要かどうか確認しておきましょう。
退職届は、退職することを届け出るための書類です。民法で退職届の提出は義務付けられていませんが、提出するのが通例となっています。
退職したい日の1ヶ月から14日前までに退職願を提出して、退職が認められたら退職届を提出します。退職届は退職日の14日前までに提出するようにしましょう。
退職する際に職場に返却しなければならないものは、次のようなものがあります。
- 健康保険証(扶養家族分も含む)
- 社員証
- 貸与されていたPCや携帯電話
- 通勤定期券
- 制服
- 印鑑
- 仕事に関連する資料やデータ
- 取引先の名刺
- 自身の名刺
職場から貸与されていたものは、ボールペン1本でも返却する必要があります。返却しなければならない物は、勤務先の担当者にあらかじめ確認しておきましょう。
なお、社用のPCや携帯電話を返却する際は、中のデータを勝手に削除してはいけません。
健康保険証は退職日まで有効なので、退職日が過ぎてから郵送または持参で返却するのが一般的です。
書類や返却物を職場へ届ける
退職に必要な書類と職場への返却物がまとまったら、これらを職場に届けましょう。職場に直接行って届けるのが基本ですが、郵送で提出・返却できるところもあります。
どうしても体調が優れず、直接職場に行くのが難しいときは、郵送で提出・返却できないか相談してみましょう。
退職後に書類を受け取る
退職後は、職場からいくつか書類が発行されます。発行される主な書類は次のとおりです。
- 離職票
退職後に雇用保険の失業給付を受けるのに必要な書類です。本人の退職後に、会社側がハローワークで雇用保険の被保険者資格喪失手続きを行うと発行されます。
離職票には「離職票-1」と「離職票-2」があり、「離職票-1」には雇用保険の被保険者番号や氏名などが書かれています。「離職票-2」には離職前の賃金の支払い状況や離職理由が書かれているので、手元に届いたら速やかに書かれている事柄に間違いがないか確認して署名しましょう。
- 雇用保険被保険者証
雇用保険の被保険者であることを証明する書類です。細長い書類で、転職する際に必要です。
- 年金手帳
本人が加入している公的年金の情報を記載するための小さな冊子です。入社時にコピーを取ってそれを保管するのが一般的ですが、原本を預かって保管している職場もあります。手元にない場合は、職場の担当者に確認してみましょう。
なお、令和4年4月に冊子型の年金手帳は廃止されました。令和4年4月以降に初めて公的年金に加入する人には基礎年金番号通知書が発行されています。
- 源泉徴収票
退職した人に対して1年間に会社から支払われた給与の金額と源泉徴収税額のほか、配偶者控除や扶養控除、各種保険の控除(生命保険料・社会保険料)などが書かれた書類です。転職したときに、転職先の企業から提出を求められます。
- 退職証明書(希望者のみ)
退職した人が一定の事柄について証明書を請求した場合に発行が義務付けられている書類です。希望者にのみ発行されるもので、退職証明書には下記の内容が記載されます。
・使用期間
・業務の種類
・その事業における地位
・賃金の金額
・退職の事由(解雇による退職の場合はその理由)
いずれの書類も、退職後の手続きを行う上で必要な書類です。手元に届いたら、大切に保管しておきましょう。
休職中に退職する時の伝え方のポイント
休職から復職せずに退職する場合、退職する旨を自分で伝えなければなりません。しかし、どう伝えれば良いのかわからず、困っている人もいるでしょう。
ここからは、職場に退職したい旨を伝える際のポイントを解説します。
休職への感謝とお詫びの気持ちを伝える
まず、休職させてもらっている状況に対して、感謝とお詫びの気持ちを伝えましょう。
「長期にわたりご心配・ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
皆様のご配慮により、療養できていることに感謝申し上げます。」
のように、相手に心配や迷惑をかけていることに対するお詫びと、現在療養できていることに対する感謝を素直に伝えるのがポイントです。
医師からも退職を勧められていると伝える
自分の意思を伝えるのも大切ですが、それだけでは相手が納得しない場合もあります。そのようなときは、医師からも退職を勧められている旨を伝えましょう。
「療養を続けていましたが思うように調子が戻らず、医師からも退職して休養するよう勧められております」
「私自身、1日も早く復職したい気持ちでおりましたが、まだ体調に波があり、医師から退職して休養するよう勧められました」
など、現在の自分の状況も踏まえながら、医師からも退職を勧められていると伝えるのがポイントです。
これまでお世話になったという感謝の意を伝える
穏便に退職するためには、職場の人に対して感謝の気持ちを伝えるのが大切です。たとえネガティブな理由での退職だったとしても「お世話になりました」「ありがとうございました」の一言は忘れずに伝えましょう。
社内に向けて一言挨拶などを求められた場合は、シンプルに感謝の気持ちを伝えるのがポイントです。詳しい退職理由などは離さずに「長い間お世話になりました。ありがとうございました」と伝えたほうが印象は良いでしょう。
休職中にそのまま退職したあと失業保険はもらえる?受け取れる手当とは
休職から復職せずに退職した場合、すべての要件を満たしていれば、雇用保険の失業給付(基本手当)が受けられます。失業給付を受けるための条件は次の3つです。
1. 離職日からさかのぼった1年間にAまたはBの被保険者期間がある
A:自己都合・懲戒解雇等により離職した場合
離職日前の2年間に、退職日からさかのぼって1ヶ月ごとに区切った期間に賃金の支払の基礎となった日数が11日以上ある月が12ヶ月以上ある
B:倒産、解雇等により離職を余儀なくされた場合
離職日前の1年間に、退職日からさかのぼって1ヶ月ごとに区切った期間に賃金の支払の基礎となった日数が11日以上ある月が6カ月以上ある
2. 働きたい意思があるにも関わらず、働けない状態である
3. ハローワークに求職の申込みをしている
休職して復職せずに退職すると、休職中は賃金が支払われていないケースがあるため、1の条件を満たせない場合があります。
失業給付(基本手当)以外に受け取れる可能性がある手当には「傷病手当金」や「退職金」などがあります。
傷病手当金は、病気やケガで会社を休んだときに受けられる手当で、次の4つの条件を満たすと受け取れます。
- 業務外の理由による病気やケガの療養のための休業である
- 仕事に就けない
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
- 休業した期間、給与が支払われていない
詳しい制度の内容については、職場の担当者に確認してください。
なお、傷病手当金をもらっている場合は、傷病手当金をもらい終えた後に失業保険を受給するのがおすすめです。
傷病手当金をもらっているのにもかかわらず、退職後に失業保険を受給してしまうと傷病手当金の給付が終了してしまいます。
傷病手当金をまずもらい切った後に失業手当に切り替えるケースが、最も長く手当を受け取れて金銭的に安心できるでしょう。
そして退職金は、退職する際に雇用主から支払われるお金です。その職場に勤めてから3年以上経過したタイミングで退職金を支給すると定めている企業が多く、受け取るには一定期間勤め続ける必要があります。
自己都合で退職する場合、退職金の額が少なくなるケースがあるので、詳しくは就労規則や退職金規程を確認してみましょう。
参考:第10回 メンタルヘルス不調で休職中の社員が退職する場合雇用保険はもらえるの?
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
休職中にそのまま退職した人におすすめなサービスや制度を紹介
最後に、休職してそのまま退職した人におすすめのサービスや制度を紹介します。
再び働きたいと思ったら、いきなり転職活動を始めるのではなく、次のようなサービスや制度を使って、徐々に心と体の調子を取り戻していきましょう。
デイケア
休職すると、人によっては生活リズムが乱れてしまいます。夜更かしが習慣になっていたり、決まった時間に起きられなかったりする場合は社会復帰が難しくなります。
そのような場合は、再就職の前に病院のデイケアを利用するのもおすすめです。
デイケアとは、精神的な病気や障害を抱える人の生きづらさを和らげ、その人らしく生活するためのリハビリテーションを行う場です。医師や看護師のほか、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士といった専門家が担当します。
主に次のような人がデイケアを利用する対象です。
- 病気の再発を予防したい人
- 生活リズムを整えたい人
- 同じ悩みを抱える仲間や友人が欲しい人
- 人付き合いのコツを学びたい人
- 再就職に向けた準備をしたい人
- 日中の居場所が欲しい人
- 将来についてじっくり考えたい人
デイケアでは時間割が決められています。内容は、音楽鑑賞や手芸などの趣味から軽い運動、認知行動療法やパソコンスキルの習得など多種多様です。
決まった時間割で活動する習慣を身につけるのは、毎日決まった時間に通勤して仕事をすることへの自信にもなります。
労働局の職業訓練
労働局では「ハロートレーニング」という職業訓練を実施しており、仕事に必要な様々なスキルを身につけられます。
国が行なっている支援なので無料で利用でき、全国各地のハローワークで申し込み・相談できるのが魅力です。
職業訓練を受講できる人は、現在求職中の人だけではありません。就職先が決まらないまま学校を卒業した人や主婦の人、フリーランスの人も受講できます。
職業訓練には、様々なコースが用意されています。代表的なコースは次のとおりです。
- 介護サービス科
- 医療事務科
- OA事務科
- 電気設備技術科
- スマート情報システム科
これらのコースで学ぶ過程で、資格も取得できます。
職業訓練についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
職業訓練とは?種類やコース、受講のメリットから申し込みの流れまで解説
障害福祉サービス
日常生活や社会生活を送るうえで困り事や不安な事が多い場合は、障害福祉サービスも利用できます。
障害福祉サービスとは、障害者総合支援法に基づいた総合的な支援サービスを指し、介護給付と訓練等給付があります。
代表的なサービスは次のとおりです。
~介護給付に含まれるサービス~
- ホームヘルパーによる訪問介護
- 外出への同行援護(視覚に障害がある人の外出支援)
- 外出時の行動援護(知的障害または精神障害によって外出が難しい人の外出支援)
- 重度障害者等包括支援
- 短期入所(ショートステイ)
- 療養介護
- 生活介護
- 施設入所支援
~訓練等給付に含まれるサービス~
- 自立生活援助
- 共同生活援助
- 自立生活訓練
- 自立機能訓練
- 就労移行支援
- 就労継続支援(A型・B型)
- 就労定着支援
障害福祉サービスについてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
なお、Kaienでは「じぶんを再定義し、みらいを再設計する場」として、自立訓練(生活訓練)サービスを提供しています。
自立訓練では、週5回の通所を通じて自分の持つ特性への理解を深め、朝起きてから夜寝るまで安定して暮らせるスキルを身につけます。
見学・個別相談会も実施していますので、お気軽にご参加ください。
就労移行支援
「再就職したいけれど、少し不安がある」という人には、就労移行支援の利用がおすすめです。
就労移行支援とは、毎日決まった時間に施設に通い、職業訓練や日常生活に関する指導を受けながら就労を目指す制度です。
就労移行支援は、次に当てはまる人が利用できます。
- 企業等への就職を希望する18歳以上65歳未満の人
- 身体障害や知的障害、精神障害、発達障害などの障害がある人
就労移行支援を利用すると、自分の障害とうまく付き合いながら就労するスキルが身につきます。週に5日、決まった時間に施設に通う習慣を身につけることは、働きはじめる際の自信にもなるでしょう。
就労移行支援を利用した場合、就職後の定着支援が受けられるのもメリットのひとつです。定着支援では、職場の環境に慣れ、その職場で長く働き続けるために必要な支援が受けられます。環境が変わって出てきた課題や仕事での悩みを専門のスタッフに相談できるので、不安を和らげながら働き続けられるでしょう。
Kaienでは、一人ひとりの希望や特性に応じた就労支援を提供しています。専門家推奨の充実したプログラムと、様々な専門知識・経験をもったスタッフが皆さんの就職をサポートしますので、興味がある方はお気軽にお問い合わせください。
Kaienの就職支援については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
就労移行支援とは?受けられる支援や利用方法をわかりやすく解説
自立訓練(生活訓練)
就労には自信がないものの、生活リズムの改善や生活に必要なスキルを身につけたいという方は、自立訓練(生活訓練)の利用がおすすめです。
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気持ちを落ち着かせる方法や、気持ちをコントロールする方法も学べるため、長期的な就労だけではなく、健やかに人生を送りたいと考えている方にもおすすめのサービスです。
Kaienの自立訓練(生活訓練)については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
自立訓練(生活訓練)とは?就労移行支援との違いや併用についても解説
休職中にそのまま退職した人は就労移行支援の利用がおすすめ
休職して療養しても思うように体調が回復しなかったなどの理由でそのまま退職するケースは少なくありません。そういった人の多くは、体調が回復したらまた働きたいと思っているでしょう。
体調が落ち着いてきたら、デイケアや職業訓練、就労移行支援などを利用して、少しずつ生活リズムを整えるのがおすすめです。
Kaienでは、3つの強みを生かした就労移行支援を行っています。
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