発達障害*¹の特性を持ちつつも、発達障害と明確に診断されないケースを発達障害グレーゾーンと呼ぶことがあります。
中学生になってから、落ち着きのなさや対人トラブルなどが目立つようになり、発達障害グレーゾーンではないかと、不安や疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では発達障害グレーゾーンの中学生の特徴について解説します。発達障害グレーゾーンの場合の進路や相談先についても解説しますので、ぜひ最後まで目を通してみて下さい。
発達障害グレーゾーンとは
冒頭でも触れた通り、発達障害グレーゾーンとは、発達障害の特性を持ちつつも、発達障害との診断基準を満たさない状態を意味する言葉、通称です。
発達障害にはいくつかの種類があり、主なものとして次の3つがあります。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- LD(学習障害*²)
ASD(自閉スペクトラム症)とは、相手の感情を読み取ったり自分の考えを伝えたりすることが苦手で、特定の強いこだわりを持つ特性のある発達障害です。
ADHD(注意欠如多動症)とは、集中できない、失くしものが多いといった「不注意」や、体を絶えず動かし落ち着きがない「多動性」、待てない、行動が抑えられない「衝動性」を特徴とする発達障害です。
LD(学習障害)とは、知的な発達や理解力については問題がないにもかかわらず、読み書き、計算などといった特定の課題の習得が苦手だという特性を持つ発達障害です。LDには、読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3タイプがあります。
ASD、ADHD、LDと思われる特性があるのに、発達障害と正式に診断されない場合などは、発達障害グレーゾーンといえるでしょう。
発達障害グレーゾーンについては、下記のページで詳しく紹介してるので、ぜひご参照ください。
発達障害グレーゾーンとは?特徴や困りごと、対策についても解説
発達障害の特性があるのに診断されないのはなぜ?
発達障害の特性があるのに、発達障害と診断されないのはなぜなのか、不思議に思う方もいるでしょう。
理由の1つには、発達障害とそうでない人との明確な線引きが難しいということがあります。
発達障害は医療機関で診断されますが、絶対的な数値の基準が存在するわけではありません。医師が、問診や心理検査などの結果を踏まえて、診断基準に沿って総合的に判断します。
いくつかの特性が出ていても、重症度がガイドラインに達していない、他の基準を満たしていないといったことで、発達障害と断定されないこともあります。また、受診した当日にたまたま症状があまり強く出なかったことで、発達障害と診断されないといったケースも少なくありません。
発達障害の特性の出方は「スペクトラム(連続体)」といわれるように、個人それぞれに濃淡があります。また、そうした濃淡が年齢や環境によっても変化しやすいことも、発達障害と断定しにくい理由といえるでしょう。
発達障害グレーゾーンの中学生の特徴
発達障害と断定されないからといって、発達障害グレーゾーンの症状や特性からくるお困りごとの度合いが軽いというわけではありません。以下では発達障害グレーゾーンの中学生の特徴について解説します。
ASD傾向のある中学生の特徴
ASD(自閉スペクトラム症)とは先述の通り、対人関係が苦手で特定のことにつよいこだわりを見せるといった特性のある発達障害です。
ASD傾向のある中学生の特徴や抱えがちなトラブルには次のようなものがあります。
- 曖昧な表現や暗黙のルールが理解しづらい
- 場の空気が読めずに思ったことを口に出してしまう
- 興味のあることにしか集中できない
- 先生の話を聞きながらノートを取るといった同時の複数作業が苦手
- 定期テストなど計画的に物事を進めることが苦手
- 忘れ物や物忘れが多い
- 集団行動になじめず学校行事で浮いてしまう
中学生になると学校行事や部活など集団で取り組む活動が増えます。そうしたときに、相手の感情や空気を読むことが苦手なASD傾向の人はトラブルを抱えやすいといえるでしょう。
また、同時に複数の作業を進めることや計画的に物事を進めることが苦手な傾向があることから、学習に遅れが出ることも少なくありません。
ADHD傾向のある中学生の特徴
ADHD(注意欠如多動症)とは、先述の通り不注意や多動性、衝動性を特徴とする発達障害です。
ADHDの傾向がある中学生の特徴や抱えがちなトラブルには次のようなものがあります。
- 自分の話ばかりして歯止めがきかない
- 思ったことをすぐに口にしてしまう
- 注意力散漫で授業に集中できない
- 忘れ物やなくしものが多い
- 極端に飽きっぽく集中できない
- 好きなことしか集中できない
- グループで行動することが苦手
- 定期テストなど計画的に物事を進めることが苦手
- 同時に複数の作業をすることが苦手
中学校に上がると、周囲の生徒たちが小学生のときよりも落ち着いた行動をするようになるため、授業中に歩き回る、じっとしていられないといった特性が目立つようになります。
自分のことばかり話してしまう、思ったことを言ってしまうなどといった点で同級生とのコミュニケーションにトラブルを抱えることも多いといえるでしょう。
LD傾向のある中学生の特徴
LD(学習障害)は、先述の通り、読み書き、計算などが苦手という特性を持つ発達障害です。
LDの傾向がある中学生の特徴や抱えがちなトラブルには次のようなものがあります。
- 黒板の内容をノートに書き写すのが苦手
- 漢字の書き取りが苦手
- 誤字脱字が多い
- 文章を読むのが遅い
- 数の概念を理解するのが苦手
- 計算が苦手
- 応用問題や証明問題、図形問題が苦手
中学生になると勉強の難易度も上がるため、LDの学習困難な特性がより表面化しやすいといえるでしょう。勉強ができないことで、学校になじめず不登校につながるケースもあります。
思春期心性により発達障害のように見える場合もある
思春期心性とは、思春期の子どもに一般的に見られる特性です。発達障害の有無にかかわらず思春期になれば見られる特性ですが、これが発達障害のように見える場合も少なくありません。
例えば、思春期心性では下記のような特性が見られます。
- 抽象・理想的な考えを持ちやすい
- 自分自身を客観視して、自己を卑下する考え方になりやすい
- 自己中心的な行動を取りやすい
- 大人・社会に対する反抗心を持ちやすい
- 性衝動と葛藤する傾向にある
これらの特性により、気分の落ち込みが激しくなったり、反抗的な態度を取ったり、イライラして暴言を吐いたりといった思春期に特有の行動が現れます。
発達障害の傾向があると思っている場合や、発達障害の診断を受けている場合には、特性と混同されてしまうことが少なくありません。
しかし、こうした変化は、一般的な思春期年代に多く起こる変化のため、大きな心配は不要といわれています。基本的には、見守りつつ、話を聞き、理解的な対応をするとよいとされています。
発達障害グレーゾーンの中学生の進路はどう考えたらよい?
発達障害グレーゾーンの中学生の進路をどう考えればよいか頭を悩ませている保護者の方も多いのではないでしょうか。以下では、発達障害グレーゾーンの中学生の進学およびその後の就職について解説します。
進学について
進学を希望する場合には、下記のような選択肢があります。
- 全日制高校
- 定時制高校
- 通信制高校
発達障害でも全日制高校で学ぶことももちろん可能です。不安がある場合には、支援が必要な生徒をサポートする「通級制度」のある学校を選ぶのもよいでしょう。
ただし、中学校において普通学級でなく支援学級に在籍している場合には、内申点が低くなり、内申点が受験に影響する全日制高校への進学が難しくなることがあります。全日制を目指す場合は、内申点があまり影響しない全日制高校を選ぶことがおすすめです。あるいは、内申点が影響する学校を目指す場合は、中学校は普通学級に在籍しておくのがよいでしょう。
また、発達障害の場合は、マイペースに学ぶことのできる定時制高校や通信制高校もよいといえます。
定時制高校の場合、1日の授業時間が全日制と比べて短く、朝から夜までの時間帯から学ぶ時間を選べるなど、時間の自由度が高いといえます。定時制というと、夜間に通うイメージが強いかもしれませんが、夜間の定時制だけではありません。朝と昼の時間帯に授業を行う二部定時制や、朝・昼・夜の時間帯に授業を行う三部制といった定時制高校も選べます。
また通信制高校は、場所を選ばずに通信教育で勉強できる高校です。課題の提出やテストはありますが、学校に通う必要や授業に出席する必要がないため、マイペースに学ぶことができます。
定時制高校も通信制高校も必要な単位数を取得すれば、高校卒業資格が得られるため、その後大学進学も可能です。
大学や短期大学、専門学校についても、障害のある学生に対して支援を行う学校も多く、発達障害者を持つ在学生は、2022年度は10,288人(前年度8,698人)と増加傾向にあります。
就職について
発達障害および発達障害グレーゾーンの方でも、大卒・短大・専門学校を卒業後、多くの人が就職しています。
例えば、発達障害との診断書がある場合の大卒・短大・専門学校の卒業生総数は1,548人、卒業後進学したのは204人、就職したのは674人です。
発達障害との診断のないグレーゾーンの場合の大卒・短大・専門学校の卒業生総数は652人、卒業後進学したのは69人、就職したのは313人です。
ただし、その特性によっては就職活動が難しかったり、就職後の業務で苦労をしたりすることは少なくありません。
その際には、就労移行支援などの障害福祉サービスの利用を検討することがおすすめです。就労移行支援サービスを利用することで、特性に合った職場へ就職することも可能です。
発達障害のグレーゾーンの人でも、医師の診断書があれば、就労移行支援などのサービスを受けられる可能性があります。ただし、自治体ごとに判断が異なるため、実際の利用に際しては、市区町村に問い合わせるようにしましょう。
参考:独立行政法人日本学生支援機構「令和4年度(2022年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査_結果報告書」
発達障害グレーゾーンの相談先
発達障害グレーゾーンについて相談できる主な相談先として、次の4つが挙げられます。
- 発達障害者支援センター
- 保健センター
- 医療機関
- 親の会
詳しくは次の通りです。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障害児や発達障害者に総合的な支援を行う公的な専門的機関です。都道府県や指定都市、あるいは都道府県知事指定の社会福祉法人、特定非営利活動法人などが運営しています。
医療機関受診前の相談もでき、グレーゾーンの方でも相談可能です。発達障害児と家族からの日常生活、人との関わり方、学校生活などに関するさまざまな相談ができます。それぞれの相談に対して、医療、福祉、教育などの関係機関と連携して指導と助言を行ってくれます。
発達障害者支援センターは、全国47都道府県に1カ所以上あり、お住まいの県の発達障害支援センターはインターネットなどで検索可能です。また、下記の一覧からもご確認いただけます。
保健センター
保健センターは、地域住民の健康づくりのための対人保健サービスを行う機関です。市区町村に設置されており、地域住民の健康相談や保健指導、各種健診などを行っています。
日常の健康に関する相談のほか、子どもの発達に関する相談や、家庭内暴力やひきこもり、不登校など思春期の問題に関する相談、不眠やうつなどこころの病気に関する相談もできます。医師などの専門家が相談に乗ってくれます。
なお、地域住民の健康と保健を支える公的機関ということで、保健所と混同されることもありますが、保健所は公衆衛生上の行政業務全般を行う機関です。行政機関としての意味合いが強いため、一般的には、保健センターの方が、個人の身近な相談がしやすいといえるでしょう。
お近くの保健センターはインターネットなどで簡単に検索できます。あるいは、下記厚生労働省のホームページなどからもご確認いただけます。
厚生労働省・保健所管轄区域案内
医療機関
発達障害について、これまで医療機関にかかったことがないのであれば、医療機関に相談することもおすすめです。
実際に受診することで、子どもの持つ特性や発達障害の傾向を確認することができます。特性や発達障害の傾向を踏まえた対処法なども相談できます。
また、医師の診断で支援が必要と診断されれば、グレーゾーンであっても支援を受けられる可能性が広がります。学校に対して、子どもの特性に応じた個別の教育支援や合理的配慮を求めるためにも、医師の診断はあった方がよいといえるでしょう。
親の会
親の会とは、病気や障害を持つ子の親を主な構成員とした自助グループです。
子どもの障害や特性などについて共通の悩みを抱える親同士が集まり、情報交換や相互交流を図ります。参加する親がそれぞれ、自分の体験を語り、互いに励まし、アドバイスをし合うことができます。
「親の会」は通称で、それぞれの団体には目的に応じて、発達障害の特性のある子どもの親の会などといった名称がつけられています。
活動規模も、全国的に展開しているグループもあれば、少規模に活動しているグループもあります。情報交換だけでなく、専門家を呼んで講演会やイベントをするなど活動内容もさまざまです。参加費は無料の場合も有料の場合もあります。
参加する親の会を探したい場合は、インターネットなどで検索し、活動内容をよく確認して選ぶようにしましょう。
特性にあわせたサポートと進路選びが重要
発達障害グレーゾーンとは、発達障害の特性を持ちつつも、発達障害との診断基準を満たさない状態のことです。
発達障害グレーゾーンだからといって、症状や特性が軽いとは限りません。特性に合わせたサポートや進路選びが重要といえます。
進路は、特性や本人の希望に合わせて全日制高校、定時制高校、通信制高校の選択肢があります。大学についても、障害のある学生に対して支援を行う大学や短期大学、専門学校も多く、発達障害者を持つ在学生も増えています。大学卒業後に就職している人も多く、就労に困った場合には、就労支援サービスの利用も可能です。
子どもの特性に合わせた教育支援や就労支援を求めるためにも、もし、医師の診断を受けていないようであれば、診断を受けることがおすすめです。グレーゾーンであっても、支援が必要との医師の診断が出れば、受けられる支援の選択肢が広がります。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます。
監修者コメント
グレイゾーンという言葉はもともと軍事用語で平和でも戦争でもない状態、あるいは紛争地域と非紛争地域の間のエリア、というようにバッファーに近い意味で使われていたようです。
医療では、病気と健康の間ですぐには病気と判断がつかないものという意味で解釈されます。グレイゾーンの代わりにサブクリニカルという言葉も良いと思います。例えば「少し虫歯のように見えるけど、よく歯磨きして様子を見ましょう」と言われた方はいらっしゃるかもしれません。また、もし問題ない状態なのに治療を始めてしまうと、患者さんに来ていただく労力や経済的な問題も発生するため、医療者にリスクとベネフィットを天秤にかけて様子を見る意味もあります。
発達障害のグレーゾーンという言葉もよく知られるようになりました。特にアメリカの操作的診断基準であるDSM-5はASDにスペクトラムという概念を導入したため、症状に軽重があるため、軽い症状であまり日常や社会生活に支障が出ないとグレーゾーンと言われることが多いでしょう。
最後にグレーゾーンと疾患の医学的な差異にこだわるのではなく、より社会的な文脈で患者さんがどう社会の中で個性を発揮するかに注目する「ニューロダイバーシティ」という言葉もあることを付言しておきます。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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