大学をやめたい!中退のメリット・デメリットと相談先について解説

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「周囲となじめない」「授業についていけない」など、さまざまな理由で「大学をやめる」と決断する大学生の方は珍しくありません。しかし、中退は将来に大きな影響を与える重大な決断ですので、慎重に考えたいところです。

そこで本記事では、大学中退の主な理由や大学をやめるメリット・デメリット、悩みの相談先、就活支援機関などを紹介します。また、近年増加傾向にある発達障害*¹の大学生に特有の大学をやめる理由や対処法についても紹介しています。

よりよい決断をするために、ぜひ最後までご覧ください。

大学をやめたいは甘え?大学中退の主な理由

大学をやめる決断は、決して甘えとはいえません。就職に影響が出たり、学業が中途半端に終わったりするなどのデメリットがあるため、誰にとっても勇気のいる重大な決断です。多くの人は、やむを得ない事情や将来への前向きな目的があって大学をやめる道を選んでいます。

文部科学省の「大学等における令和4年度前期の授業の実施方針等に関する調査及び学生の修学状況(中退・休学)等に関する調査の結果について(周知)」は、中途退学者の現状を調べた資料の1つです。

資料によると、令和3年(4月~翌年3月まで)で大学を中退した学生は全国で5万7,875人であり、全学生に占める割合は1.95%でした。

中退の理由の上位5つと割合は下記のとおりです。

  • 転学等(16.3%)
  • 学生生活不適応・就学意欲低下(15.7%)
  • 就職・起業等(14.3%)
  • 経済的困窮(13.5%)
  • 学力不振(7.7%)

5つの理由について、学生の事情や特徴を解説します。

転学等

転学等(他の大学や専門学校などへの転校)を理由に大学をやめる人の多くは、現在の大学が自分に合わないと感じています。例えば、「学びたい内容と実際の授業が違った」「思っていたような学生生活が送れない」などの理由です。

こうした理由で大学をやめる場合、努力や辛抱が足りないと恥じる人もいるかもしれません。しかし、社会人の転職と同様に、よりよい環境を求めて転学するのはポジティブな側面もあります。

学生生活不適応・就学意欲低下

大学生活になじめなかったり、学業への意欲が低下したりして大学をやめる人もいます。理由はいろいろあり、一概にはいえません。

近年注目されている要因としては、発達障害が挙げられます。発達障害とは、先天的な脳の機能障害により、言語理解や言語表現、注意力、記憶力、思考方法などに偏りが出る障害です。

発達障害の大学生には、知能が高く社会生活で目立った問題が出ていないケースもあります。しかしながら、発達障害の人は大学生活で生きづらさを感じているケースが多々あります。

一例を挙げると以下のような悩みです。

  • ゼミやサークルで、先生や学生とのコミュニケーションがうまくいかない
  • 物忘れや遅刻がひどく学校生活に影響が出ている
  • 視覚や聴覚などが過敏で疲れやすい

上記は発達障害の症例のごく一部です。なぜ周りの学生と同じように学生生活に順応できないのかと悩んでいる場合、もしかすると発達障害かもしれません。

就職・起業等

就職や起業のために大学をやめる決断をする人もいます。例えば、大学に通いながらでは得られない経験やスキルを積むため、いち早くビジネスの世界に飛び込む人がいます。中退の理由が就職や起業の場合、大学や学業が嫌になったというより、他にやりたいことがみつかったというポジティブな理由を挙げる人も多いでしょう。

経済的困窮

経済的困窮により学費や生活費を払えず、大学を中退するケースも少なくありません。例えば、バイトをして学費を支払っていたけれども学業との両立が難しくなってしまうケースや、家族の経済状況が悪化し、大学を辞めて地元に戻るケースなどが挙げられます。

つまり、本人は大学生活を続けたいにもかかわらず、やむを得ず中退を決断する場合があります。

学力不振

学力不振が理由で大学を中退する場合もあります。具体的には、大学の講義レベルに付いていけなくなる、単位が取れない、などの理由で退学を考えるケースが一般的です。特に学年が上がり高い学力が求められるにしたがって、学力不振の影響が大きくなる傾向があります。

理由としては、単に勉強不足の人もいるかもしれません。しかし、努力しているのに学力が上がらない場合、先に説明した発達障害が関係している可能性があります。

例えば、発達障害の一つである学習障害*²の人は文字の読み書きが苦手です。講義のノートを取るのが間に合わなかったり、教科書の内容を理解するのに通常以上に時間がかかってしまったりする場合があるでしょう。

同じく発達障害の一種のASD(自閉スペクトラム症)の人は、興味や関心の偏りがあることが特徴です。例えば、特定の科目は非常に優れた成績でありながら、別の科目は著しく苦手で進級できないといった状況が起こる可能性があります。

大学をやめるメリット・デメリット

大学をやめることで得られるメリットもあれば、注意するべきデメリットもあります。

【メリット】

  • 学業に拘束される時間をなくし、自分の興味や夢に専念できる
  • 人間関係や学校生活のストレスから解放される
  • 学費を払う必要がなくなり、経済的な負担が軽くなる

【デメリット】

  • 最終学歴が高卒であるため、求人の選択肢が狭くなる可能性がある
  • 大学をやめた理由によっては、就職が不利になる可能性がある
  • 奨学金をもらっていた場合、返済が始まり経済的な負担が増える
  • 図書館や学生支援センターなどの大学の支援を受けられなくなる
  • 大学関係の友人・知人との関係が薄くなり、社会的なつながりが減る可能性がある

上記のように、メリット・デメリットの両面があります。大学をやめる決断をする前には、これらの要素を慎重に検討し、自分にとっての最良の選択をみつけるとよいでしょう。

大学をやめる前に検討したい選択肢

大学をやめる前には、信頼できる誰かにアドバイスや支援をもらう方法をおすすめします。

大学をやめるか自分一人で悩んでいると、どうしても視野が狭くなってしまうものです。自分の性格や特性、置かれている状況などについて、客観的に理解できていない部分があるかもしれません。

ここでは、家族や友人に相談する方法や、大学、医療機関に相談する方法などを紹介します。

家族や友人に相談する

家族や親しい友人など、心を打ち明けられる人に悩みを相談すると、冷静に状況を考えやすくなります。たとえ役立つアドバイスをもらえなかったとしても、自分の考えを言語化することで具体的な問題や悩みが明確になります。違った角度から物事を考えられる場合もあるでしょう。

親しい人に対してであれば、「どのように他人と付き合えばよいかわからない」「大学で勉強する意味がどうしてもわからない」といった深い悩みも相談しやすい面があります。まずは誰かに悩みを打ち明けて、心の負担を軽くしてはいかがでしょうか。

大学に相談する

大学に相談するのもよい方法です。状況に応じて、学生支援センター・学生相談室や保健管理センターなどに相談してみましょう。

まず、学生支援センター・学生相談室は、学業の悩みや進路相談、人間関係の問題などを相談できる窓口です。例えば、就職や起業を考えている人や、経済的な問題を抱えている人、学力不振に悩んでいる人などが向いています。ただし、メンタルサポートをしているカウンセラーが在籍している場合は、心の問題についても相談可能です。

次に、保健管理センターは心身の健康管理を担当している大学の機関です。保健管理センターは、病気やけがの応急処置だけでなく、健康増進や学生生活を送る上での不安や悩みごとの相談も含めて幅広く相談に応じています。

保健管理センターには、医師や臨床心理士などの専任のカウンセラーが在籍しているため、例えば、「学生生活に適応できない原因が発達障害にあるのではないか」といった専門的な内容についても、適切なサポートを受けられます。

医療機関に相談する

心身に不調を感じている人は、医療機関に相談してみるとよいでしょう。医療機関での診断や治療を受けることで、原因の判明や症状の改善が期待できます。心身のストレスが多い学生生活で徐々に不調が悪化するケースは珍しくないため、早めに医療機関に相談することが大切です。

医療機関に相談するべきなのは、明らかに体調が悪い人や、抑うつ感や不安などのメンタルヘルス不調が出ている人ばかりではありません。生きづらさの原因がわからない人や、他の人と比べたときに認知や感覚の偏りがあると感じる人も、医療機関に相談したほうがよいでしょう。

先述したように、学生生活に適応できなかったり学力不振に陥ったりする人の中には、発達障害を自覚していない人や、発達障害とはいえないまでも、その特性を持ったグレーゾーンの人もいるためです。

日本学生機構の調査によれば、発達障害のある学生は、把握されているだけで令和5年で1万1,706人おり、決して珍しい障害ではありません。医療機関に相談すれば、自分の特性を知り、対処の仕方がわかる可能性があります。

参考:日本学生支援機構「令和5年度(2023年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」結果の概要について発達障害のある学生への対応について

休学や留年をする

大学をやめる前に、まず休学や留年を検討し、時間を置いて自分の進路や将来について考える方法もあります。大学から一時的に離れて冷静に自分の進路について考える時間を持てます。また、心身を回復させて復学に向けた意欲を取り戻す期間として活用できるでしょう。

この期間中にゆっくり休む方法もありますが、福祉制度を活用する方法もあります。具体的には、「自立訓練(生活訓練)」を利用する方法です。自立訓練は、一部のケースを除いて実質無料で利用できます。

以下のような悩みや目標がある人は「自立訓練(生活訓練)」がおすすめです。

  • 学業を休んで自分の将来を見つめ直したい
  • コミュニケーションスキルや日常生活のスキルを習得したい
  • 自分の障害特性を知りたい

学生生活に適応できない発達障害の方が休学して自立訓練を受けた結果、自分の強みを理解したり、人と関わる際の不安を減らす訓練を受けたりして、大学に復帰できた事例もあります。

ただし、自立訓練(生活訓練)は、発達障害や精神障害、身体障害などがある方への公的な福祉サービスです。サービスを受けるには医師の診断書または意見書と、市区町村の許可が必要です。

大学をやめたあとの選択肢とは?

大学をやめたとしても、次のように多くの選択肢が存在します。自分の目標や希望、現在の状況に応じて、自分に合った道を探していくとよいでしょう。

  • 正社員・公務員として働く
    企業の正社員や公務員として働き、安定した収入とキャリアを目指す
  • アルバイトや契約社員として働く
    フルタイムの正社員としてではなく、アルバイトや契約社員として柔軟に働きながら生活する
  • 資格を獲得する
    就職に向けた準備として語学やIT、福祉などの資格を取得し、特定の分野での即戦力的なスキルを身につける
  • 別の学校に通い直す
    別の大学や専門学校などに再入学し、自分に合った学問や技術を学び直す
  • 留学する
    海外の大学や語学学校に通い、異文化を体験しながら語学力や国際感覚を養う
  • 起業する
    自分のアイデアやスキルを活かして会社を立ち上げる

上記はあくまで一例です。若い大学生には無限の可能性がありますので、選択肢をあまり狭めず、周囲の人に相談しながら焦らず決めていくことが大切です。

大学をやめて就職を目指す人の相談先

大学をやめてしまうと、学生支援センター・学生相談室や保健管理センターの支援を受けられなくなってしまいます。そこで活用したい相談先が、ハローワークと就労移行支援事業所の2つです。

ハローワーク

ハローワークは、国が運営する公的な就職支援機関です。求人情報や職業相談サービスなどを提供しています。ハローワークは全国各地に設置されており、誰でも無料で利用可能です。

大学をやめる人にとってのハローワークのメリットは、製造業の技術訓練やITプログラミングコースなどのように、就職活動を有利に進めるための職業訓練を受けられる点です。中退したために実践的な知識や技術がない人に向いています。

発達障害などの障害を持った人におすすめなのは、障害者専門窓口です。障害に対して専門的な知識を持ったスタッフに対応してもらえます。また、障害者向けの求人(障害者雇用枠)を紹介してもらえることもメリットです。

就労移行支援

就労移行支援は、障害者総合支援法に基づくサービスの一つであり、一般企業への就労を目指す障害者に対して、必要なスキルや知識を身につけるための支援を行う事業所です。

就労移行支援では、主に以下の4つの支援を受けられます

  • 求人紹介と、適職についてのアドバイス
  • 仕事に必要な実践的スキルを習得するための職業訓練
  • 面接対策と応募書類の作成支援
  • 就職後に仕事や生活の悩みについて相談できる職場定着支援

就労移行支援は、在学中でも利用可能です。つまり、就職が決まってから大学をやめる方法もあります。ただし条件があり、医師の診断書や意見書に加えて、就労支援機関の利用が有効であると市区町村に認めてもらうことが必要です。詳しくは以下の記事をご覧ください。

就労移行支援は学生でも利用できる?利用条件とメリットを紹介

自立訓練(生活訓練)

障害者総合支援法に基づくサービスには、先に紹介した「自立訓練(生活訓練)」もあります。具体的には、自己理解を深める講座や、適職をみつけるための職業訓練、得意/不得意を把握するための心理検査などが利用できます。

休学中の学生も利用できるため、大学をやめたいと悩んでいる人は一旦休学して、自立訓練(生活訓練)を利用してみるのもおすすめです。

大学をやめる以外の選択肢も多い

学校生活への不適応や経済的困窮など、さまざまな理由で学生が大学をやめています。中退の決断は将来に大きな影響を与えるため、家族や大学、医療機関などに相談しながら、慎重に考えることが大切です。

大学をやめる場合、多くの人は就職活動をスタートすることになるでしょう。しかし、発達障害が原因で大学をやめた人の場合、通常の就職支援サービスではサポートが不十分な場合が少なくありません。

Kaienは発達障害の方に特化した就労移行支援事業所です。発達障害の強みを活かした支援により、就職率86%(他社54%)、1年後の離職率9%(他社20~30%)という確かな実績を残してきました(2024年8月時点)。

Kaienでは自立訓練(生活訓練)も提供しています。就活をスタートする前に、まずはコミュニケーションや生活のスキルを習得したい人におすすめです。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます