発達障害*を抱えつつ大学進学を検討している場合、どのように大学を選べばいいのか選び方に悩むことも多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、発達障害の人に向けた大学の選び方について解説します。さらに、発達障害の人が大学生活において抱えやすい悩み事や相談先についても紹介します。
大学生活をスムーズに進めるため、あるいは、自分の特性にあった進学を選択するためにもぜひ最後まで目を通してみて下さい。
発達障害の大学生の割合
日本学生支援機構の調査によると、2023年度の全国の大学、短期大学および高等専門学校の学生のうち障害のある学生の在籍割合は1.79%で、発達障害の学生の割合は0.36%です。0.36%とは、280人の学生がいれば発達障害の方が1人いる計算です。
人数にすると、11,706人の発達障害の学生が大学や短期大学、高等専門学校に通っています。内訳では、大学に通う発達障害の学生は 10,046人、短期大学は351人、高等専門学校は1,309人となります。
また、時系列でみると、発達障害の学生は、2019年度の7,065人から2023年度の11,706人まで年々増加しています。
参考:独立行政法人日本学生支援機構「令和5年度(2023年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」結果の概要について」
高校と大学は何が違う?
発達障害の人が戸惑うことの多い、高校と大学との違いについて解説します。
具体的には主に次の3点が挙げられます。
- 時間割を自分で組まなければいけない
- クラスや学級がない
- 授業時間が長く出席者が多い
詳しくは次の通りです。
時間割を自分で組まなければいけない
高校までは決められた時間割に沿って授業を受けることができますが、大学では、自分で履修する科目を選択し、時間割を組まなければなりません。
大学では、卒業に必要な履修科目を、授業時間が重ならないように自由に選択し組み合わせて登録できるのですが、この履修登録を苦手とする発達障害の人は少なくありません。
「どう組み合わせたら必要な単位がそろうのかがわからない」「週に何コマいれるべきなのかわからない」などと混乱してしまうケースがよくあります。
クラスや学級がない
大学では、高校や小・中学校のようにクラスや学級といったものはありません。
高校までは、毎日登校すれば決まった自分の席があって、決まったクラスメイトや担任の教師と顔を会わせるといったことが可能でしたが、大学ではそういった体制はありません。
クラスメイトと自然と顔なじみになって友だちになるといったこともなく、担任が必要な情報を提示してくれることもないといえます。
人間関係を築くためには、自ら積極的に人に関わっていく必要があるほか、必要な情報を自ら積極的に収集する必要があるといえるでしょう。
授業時間が長く出席者が多い
高校と大学とでは、授業時間や授業の規模も異なります。
授業時間については、高校では50分前後が一般的ですが、大学になると90分や100分と長時間になります。高校の時の倍近くの時間となるため、発達障害の方の場合、集中力が持続せずにうまく対応できないケースが少なくありません。
また、高校では授業を受ける1クラスの人数は多くとも40人ほどですが、大学の場合は授業によって人数はさまざまです。10人程度の小規模から300~400人といった大規模の授業もあります。大人数の場合は、ざわざわとした雰囲気で授業に集中できないといったこともよくあります。
発達障害の方が大学生活で抱えやすい悩み事
発達障害の方が大学生活で抱えやすい悩み事について紹介します。
具体的には下記のようなことが挙げられます。
- 授業に出席できない
- 板書がうまくできない
- レポートを提出できない
- ゼミや実験などグループでの活動がうまくいかない
詳しくは次の通りです。
授業に出席できない
発達障害の方の場合、下記のような理由から、授業に出席できなくなるという悩みを抱えるケースが少なくありません。
- 朝起きられなくて授業に間に合わない
- 自宅から大学までが遠くて授業に間に合わない
- 新しい授業の環境になじめず心理面で不安定になりやすい
- 実験や実習の手順がわからなくてついていけない
発達障害を抱えている場合、時間に間に合うように行動できないことや、授業ごとに変わる人間関係や環境に馴染めないことから、授業に出席できなくなることがあります。
こうした場合には、午前中の授業の履修を避けたり、出席重視ではない授業を受けたりするといった対応が必要といえるでしょう。
板書がうまくできない
大学では、板書がうまくできないことに悩むケースもよくあります。
大学の授業は、必ずしもテキスト通りに進むわけではありません。授業によっては、テキストでなく板書ベースで進められることが少なくありません。テストなどに向けて、板書を書き写しておくことが必要になりますが、発達障害の方の場合、文字の読み書きやノートを手書きで写すのに人の何倍も時間や手間がかかることがよくあります。
板書の写真撮影やICレコーダーによる録音を許可してもらうといった対応が必要になるといえます。
レポートを提出できない
大学ではレポートの提出などを求めるケースが多いものの、発達障害の方の場合、下記のような理由からレポートを提出できないといった悩みを抱える傾向があります。
- レポートの課題内容や提出期限を忘れてしまう
- スケジュール管理ができず期限までにレポートを仕上げられない
- 長文のレポートを書くことが難しい
課題内容や提出期限を忘れてしまう場合やスケジュール管理が難しい場合は、学生支援課の職員、友人などに相談をして、課題内容や提出期限のリマインドをしてもらったり、レポート提出の計画を立てるのを手伝ってもらったりするとよいでしょう。
また長文のレポートを書くのが難しいといった場合には、教員や学生支援課の職員に、内容や提出方法の変更ができないか、相談する必要があります。
ゼミや実験などグループでの活動がうまくいかない
発達障害の方の場合、ゼミや実験などグループでの活動がうまくいかないといった悩みを抱えることも少なくありません。
ゼミや実験では、先生や学生とのコミュニケーションを図る必要があるものの、うまく会話ができないといったケースや周囲の反応が気になるといったケースが見られます。
また、実験や実習の授業の場合は、その手順や器具の操作がわからないといったこともよくあります。こうしたグループでの授業にうまく対応できないことが悩みやストレスとなる傾向があります。
対処法としては、教員や学生支援課の職員、友人などに相談をして、サポートをしてもらう必要があるでしょう。
発達障害の方が大学を選ぶポイント
大学を選ぶ際には、学びたいことがあるかなどさまざまな注目ポイントがあります。発達障害の方が大学を選ぶ際には、下記のような学びやすい体制が整っているかについても着目することが大切です。
- 入試時の配慮があるか
- 受け入れ体制があるか
詳しい内容は次の通りです。
入試時の配慮があるか
大学入試を受験する際に、どのような配慮が受けられるかを確認することもポイントです。
2024年4月から私立を含むすべての大学などにおいて障害のある学生への合理的配慮の提供が義務化されました。義務化以前は合理的配慮に基づく入試対策を行う大学は比較的少数であったといえます。しかし義務化に伴い、全ての大学が、大学入試における合理的配慮の対応が求められることとなりました。
なお、大学入試における合理的配慮とは、評価基準の変更や及第点を下げることではなく、障害のある学生の能力や適正を適切に判定するために、障害のない学生と公平に試験を受けられるよう配慮することです。
具体的な対応は大学によって異なるものの、発達障害の方への配慮の例としては次のようなものがあります。
- 試験時間の延長
- 拡大文字・拡大解答用紙による出題
- 特定試験場での受験許可
- 座席指定の工夫
- 文書による注意事項の伝達
- 試験室入り口までの付添者の同伴
- 介助者の配置
受験上の配慮を受けるためには、事前相談や申請書・診断書の提出などが必要です。事前相談の時期や手続き方法などは大学によって異なるため、事前に確認しましょう。
受け入れ体制があるか
大学に入学してからどういった配慮を受けられるか、受け入れ体制を確認することも大切です。
2024年4月から私立を含むすべての大学において障害のある学生への合理的配慮の提供が義務化されたことは既にお伝えした通りです。学内での配慮については、多くの場合、障害学生支援の窓口・機関を設けて支援を実施していますが、支援の内容や手厚さは学校によって異なります。
入学後の具体的な支援内容としては下記のような例があります。
- 定期的なカウンセリング・面談の実施
- 希望する支援内容を教員・関係者で共有しサポート
- スケジュール管理の指導
- 板書のサポート
- 講義内容の録音を許可
- 試験時間・レポート提出日の延長
- 講義内容の録音を許可
- 休講や諸行事などの履修に関する情報を個別に提供
大学によって支援機関の名称や内容が異なるため事前に確認しましょう。
発達障害の方の大学生活に関する相談先
発達障害の方の大学生活に関する相談ができる学内の相談先について紹介します。具体的には、下記の3つが挙げられます。
- 学生支援センター・学生相談室
- 保健管理センター
- 障害学生支援室
詳しくは次の通りです。
学生支援センター・学生相談室
学生支援センター・学生相談室は、学生の大学生活における相談や支援を行う学内の機関です。学業や進路、就職などの相談に限らず、課外活動、アルバイト、人間関係、健康、性格に関する相談まで生活全般の相談が可能です。
専任のカウンセラーが、あらゆる相談に応じ、カウンセリングやアドバイスを行い、必要に応じて関係機関(学内関係部署、学外機関など)と連携しサポートをしてくれます。
保健管理センター
保健管理センターは、学生や教職員の心身の健康を保持・増進するために設けられた学内の機関です。定期健診や病気や怪我の応急処置などの対応のほか、体や心の健康に関する相談もできます。学生生活上の不安や悩みごとの相談も可能です。
医師、カウンセラー 、保健師、看護師などの専門家が対応しています。必要に応じて外部の病院の紹介もしています。
障害学生支援室
障害学生支援室は、障害のある学生が他の学生と平等に教育を受けられるように調整や支援を行う学内の機関です。障害のある学生が必要とする支援について、当の学生と協議し、意向を尊重して支援の内容と方法を決めてサポートしています。
なお、障害学生支援は、修学への平等な参加を支援するもので、成績評価についての基準変更などの調整を行ったり、単位取得や卒業を保証したりするものではありません。
支援が必要な場合に相談すると、関連部署や教職員とつなぎ、必要な調整を行ってもらうことが可能です。
発達障害の悩みについての大学以外の相談先
大学内でのサポートが十分でない場合には、学外の相談先を活用することもできます。
発達障害の悩みについての大学以外の相談先には下記のものがあります。
- 発達障害者支援センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 精神保健福祉センター
- 当事者会
詳しくは次の通りです。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障害者や発達障害児への支援を総合的に行うことを目的とした専門的機関です。
発達障害者とその家族が豊かな地域生活を送れるように、さまざまな相談に応じ、指導と助言を行っています。また、地域の保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、総合的な支援ネットワークを構築しながら、サポートをしてくれます。
ただし、自治体の規模や事情によって支援体制の整備状況に差がある点に注意が必要です。お近くの発達障害センターは下記のページなどで確認できます。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害者の就業と生活の双方について一体的な相談・支援を行う機関です。職業生活や日常生活の双方のお困りごとの相談が可能です。医療、福祉、雇用などの地元の関係機関と連携してサポートをしてくれます。
例えば、就労面については、特性に合わせた職業の選定や就職活動の支援などをしてもらえます。生活面については、健康管理や金銭管理などについての相談や助言を受けることが可能です。お近くの障害者就業・生活支援センターは下記ページなどで確認できます。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターとは、心の問題や病気についての相談ができる精神保健福祉の専門機関です。医師や精神保健福祉士、心理相談員といった専門家が対応し、必要なサポートや情報を提供してくれます。
各都道府県に設置されていますが、名称は「心と体の健康センター」「こころの健康センター」など地域によって異なります。お近くの精神保健福祉センターは下記ページなどで確認して下さい。
当事者会
当事者会とは、発達障害の当事者である人々が集まって、当事者以外にはなかなか理解してもらえない悩みや困りごとなどを話したり、情報交換をし合ったりする集団のことです。
全国に大小さまざまな規模の当事者会があり、実施主体や活動内容などはそれぞれの会によって異なります。当事者会はインターネットなどで検索して探すことができます。当事者会を選ぶ際には、自分のニーズに合うかどうか、下記の点などに注目して選ぶとよいでしょう。
- 開催内容(懇親会かセミナーかなど)
- 開催日時・頻度・場所(オンラインが可能かどうかなど)
- 参加者の年齢層・性別・人数
- グループの雰囲気
- 参加費
大学以外の選択肢も知っておこう
発達障害で大学に進学する場合について解説しましたが、進路を検討する際には、大学以外の選択肢についても把握しておくことがおすすめです。
大学以外の選択肢としては次のものがあります。
- 専門学校への進学
- 一般雇用での就職
- 障害者雇用での就職
- 就労の準備(就労移行支援の活用)
専門学校では、特定の職業に就くための実践的なスキルを習得することができます。手に職を付けたい方に向いているといえるでしょう。調理師や美容師、看護・保育・歯科衛生、外国語、経理・簿記、情報処理などあらゆるジャンルの専門学校があります。
就職を選ぶ場合には、一般雇用で応募するケースと障害者雇用で応募するケースとがあります。一般雇用とは、障害の有無に関係のない一般の求人枠に応募することです。障害者雇用は、企業が障害者を雇用するために設けている求人枠です。入社後は障害に配慮された環境で働くことが想定されています。
また、高校卒業後、すぐに働くことが難しい場合には、働く準備として就労移行支援制度を利用するのもよいでしょう。
就労移行支援とは、一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、職業訓練・就活サポートなどを行なう福祉支援サービスのことです。就労移行支援所に通って、ビジネスマナーやPCスキルなどの就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートを受けることが可能です。また、自分の適正に合った職場探しや、就労後の職場定着といった支援もしてもらえます。
自分の特性も考慮し進路を選ぼう
発達障害の方が大学に進学した場合、「授業に出席できない」「板書がうまくできない」「レポートを提出できない」「ゼミや実験などグループでの活動がうまくいかない」などといった悩みを抱えがちです。
大学選びに際しては、学びやすさを判断する上で、「入試時に配慮があるか」「受け入れ体制があるか」といった点に留意して選ぶとよいでしょう。
また、大学生活をスムーズに送る上では、学生支援センター・学生相談室や保健管理センター
障害学生支援室などの相談先も活用しましょう。学内に支援体制が整っていない場合は、学外の相談先を活用するのもおすすめです。
これらの情報を踏まえて、高校卒業後は、自分の特性を考慮した進路を選ぶようにしましょう。
なお、就職や就職に向けた準備でお悩みの場合には、Kaienにご相談下さい。Kaienでは、発達障害・グレーゾーンの学生に向けた「ガクプロ」をご利用いただけます。
「ガクプロ」は、発達障害・グレーゾーンの学生に向けた就活支援サービスです。リクナビやマイナビ、学校のキャリアセンターだけでは就活が難しい学生、障害雇用も検討してみたい学生に多く利用されています。
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見学や個別相談会も実施しています。就活など進路にお悩みの場合には、お気軽にお問い合わせ下さい。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。