令和4年度(2022年度)に行われた内閣府の調査によると、ひきこもりの当事者は全国で推計146万人にのぼります。ひきこもりに対して、ご本人やご家族に問題があると捉える方もいますが、ひきこもりは誰にでも起こりうる状況です。心の病や発達障害*が原因で社会参加が難しい方も決して少なくありません。
この記事では、ひきこもりから脱して自立するためのポイントや、相談できる専門機関、就職に成功した事例などを紹介します。ひきこもりからの自立は、できることから少しずつ取り組んでいけば十分に可能です。一歩前に踏み出すために、ぜひ最後までご覧ください。
ひきこもりからの自立はスモールステップが重要
ひきこもりの状態にあるご本人やそのご家族のなかには、現在の状況からなかなか抜け出せないことに焦りを感じておられる方も多いでしょう。
しかし、ひきこもりの状態を脱して就職したり、学業に戻ったりする方はたくさんいます。ひきこもりが社会問題化している現在では、多くの公的な支援が利用でき、自立した生活に戻ることは十分可能です。
ひきこもりからの自立は段階的に進めるとよいとされています。急に同世代と同じような社会生活を始めることは難しいため、規則的な就寝・起床や短時間の外出などできることから始めて、必要な支援先に相談し、新たな道を探していくといった段階的な取り組みが大切です。
ひきこもりから脱して自立するためのポイント
ひきこもりの方のなかには、精神疾患や発達障害を抱えている方が少なくありません。症状が疑われる方は、医療機関や専門的な支援機関への相談をおすすめします。また、自分で活動する際には、生活リズムを整えることと、他人と比べないようにすることが大切です。
ひきこもりから脱して自立するためのポイントについて、詳しく解説します。
医療機関を受診する
ひきこもりの背景には、精神疾患や発達障害が隠れている場合があります。特に、発達障害は大人になるまで気づかないケースもあるため、受診を通じて自分の状態を把握することが重要です。
発達障害のように障害の特性と付き合い続ける必要がある障害においては、能力の凹凸や行動パターンなどを理解しておくことで自立に向けて準備がしやすくなるでしょう。例えば、就活を始める際に、自分の特性に合った職種や就職先を選んだり、必要な職業訓練を受けたりしやすくなるでしょう。
ただし、家族が無理に受診を押し付けるのは避けるべきです。本人が受診の必要性を理解し、自らの意思で行動することが最も重要です。
専門機関に相談する
ひきこもり地域支援センターや精神保健福祉センター、就労移行支援など、専門的な支援機関に相談することも役立ちます。ひきこもりの問題は当事者や家族だけでは解決が難しいことが多いため、1人で抱え込まず、専門機関を上手に活用することが重要です。
専門機関には、ひきこもりや福祉サービスに詳しいスタッフや、発達障害や精神障害などの医学的な知識を持つスタッフが在籍しています。こうした専門的なスキルを持つ中立的な第三者の力を借りることで、自立への一歩を踏み出しやすくなります。
生活リズムを整える
ひきこもりの状態にある人は、世間との交流が減って日常的な活動が減るため、昼夜逆転や不規則な生活リズムを抱えているケースが多くみられます。ひきこもりから脱するための第一歩は、朝起きて夜寝るという基本的な生活習慣づくりです。これにより、社会人としての生活に向けた準備が整います。
また、働くための最低限の体力をつけるためにも、生活改善が欠かせません。ひきこもり生活で体力が低下しているなら、まずは室内での簡単な運動や家事などから始めてみましょう。体力がつきはじめたら、近所への散歩や買い物などに移行するなど、少しずつ強度をあげていくとよいでしょう。
他人と比較しない
他人と比較するのではなく、自分の成長に注目することが大切です。就職活動や外出が増えると、同世代の人が活躍する姿を目にし、他人と比較してしまうものです。しかし、ひきこもりだった自分を後悔する気持ちが強い方は、他人と比べるとネガティブな感情が生まれ、自信を失うことになりかねません。
それに対して、今の自分を自分の過去と比べれば、少しずつでも前進している実感が得られ、自己肯定感が高まりやすくなるでしょう。これにより、次の活動のモチベーションが高まるでしょうし、自分のペースで無理なく自立への道を進みやすくなります。
ひきこもりについての相談先となる専門機関
ひきこもりの方やそのご家族には、次の相談先があります。
専門機関 | 利用に向く人 |
ひきこもり地域支援センター | 支援の受け方が分からない方 |
地域若者サポートステーション(サポステ) | 職業スキルを身につけたい方 |
精神保健福祉センター | 心の不調があり、専門的な支援を求める方 |
地域の保健所や保健センター | 心身の健康について、地域の支援を求める方 |
家族会・当事者会 | 同じ悩みを抱える人たちと交流したい方 |
就労移行支援 | 職活動から職場定着まで、一貫したサポートを受けたい方 |
自立訓練(生活訓練) | 生活や社会的なスキルを習得したい方 |
各機関について詳しく解説します。なお、地域によっては支援内容が異なる場合がある点にご留意ください。
ひきこもり地域支援センター
ひきこもり地域支援センターは、全国の都道府県や指定都市に設置されている、ひきこもりに特化した相談窓口です。ひきこもり地域支援センターはひきこもり状態にある本人やその家族からの相談に応じ、適切な支援につなげる役割を果たしています。どこに相談しようか迷った際は、こちらに相談するとよいでしょう。
ひきこもり地域支援センターは、電話や来所による相談を受け付けています。「ひきこもり支援コーディネーター」と呼ばれる専任のスタッフが相談を受け、適切な専門機関につなげます。必要に応じて、家庭訪問(アウトリーチ)も依頼可能です。
地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーション(サポステ)は、15~49歳までの働いていない方や就学していない方を対象とした厚生労働省委託の支援機関です。「働きたいけど自信がない」「社会で役立つスキルを身につけたい」という方たちに向けて、無料で就労支援を行っています。
サポステの就活支援は実践的です。キャリアコンサルタントや臨床心理士などの専門家が、個別相談やキャリアサポートを行います。ビジネスマナー講座やコミュニケーション講座、ジョブトレ(就業体験)、パソコン講座など、職業スキルを身につけられるプログラムも豊富です。
ただし、ひきこもりに対する特別な支援や配慮はない点に注意する必要があります。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、心の健康の保持や精神疾患の予防・治療を支援し、社会復帰や自立を促進している機関です。各都道府県や指定都市に設置されています。
具体的なサービスは次の通りです。
- 相談業務:心の健康に関する問題、アルコール依存や薬物依存の相談、青年期の精神的問題など、精神保健に関する相談対応
- 社会復帰支援:精神的な問題を持つ方々の自立を目指し、生活面での指導や社会適応力の向上を支援
- デイケアサービス:少人数制の通所型デイケアを提供し、精神障害の方の社会復帰を支援するプログラムを実施
- 医療機関との連携:精神科や心療内科などの医療機関を紹介や退院後や治療後のフォローアップ
ひきこもりの原因となった心の病や、ひきこもりの状況によって生じた心の不調などを相談できます。
地域の保健所や保健センター
保健所は都道府県が運営し、専門的で広域的なサービスを提供する機関です。心の健康相談やひきこもり相談を行っており、保健師や精神保健福祉士などの専門職が対応します。必要に応じて、家庭訪問や他の専門機関への紹介も行っています。
保健センターは市町村が運営し、住民に身近なサービスを提供している点が保健所との違いです。地域住民の日常的な健康管理の助言や福祉に関する問い合わせ対応のほか、障害福祉サービスの申請や相談も受け付けています。
家族会・当事者会
家族会や当事者会は、ひきこもりの当事者や家族が集まり、互いに支え合う場です。活動目的は個々に違いがありますが、主に相談や学習会、居場所づくりなどの活動を通じて、孤立を防ぎ、安心と希望を取り戻すことを目指しています。
相談会や学習会では、家族や当事者が、ひきこもりの問題や対応策について学び、経験を共有します。また、居場所づくりは、当事者の方が安心して集まれる場所を提供するための活動です。交流を通じてご本人の自信や意欲を取り戻しながら、社会参加を目指します。
就労移行支援
就労移行支援は、障害を持つ方が一般企業への就職を目指すために、必要なスキルや知識を習得するための通所型の福祉サービスです。発達障害や精神障害、身体障害を持つ方が、自立して社会に参加するためのステップとして利用されています。
- 職業訓練:就労に必要なスキル(ITスキル、ビジネスマナーなど)を学び、事業所内での作業や企業での実習を通じて、実際の仕事に備える訓練
- 就活支援:求人選びや面接対策、書類作成など、就職活動全般のサポート
- 定着支援:就職後も、職場での適応や業務の課題解決を支援し、長く働き続けるためのフォローアップ
就労移行支援は、就職活動から職場定着まで一貫したサポートを提供しています。一般的な職業訓練や転職エージェントなどより手厚く、障害に配慮のある支援を受けたい方におすすめです。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した日常生活を送るためのスキルを習得し、社会参加を促進するための福祉サービスです。以下のようなサービスを提供しています。
- 生活基礎スキルの習得:食事管理、セルフケア、金銭管理、家事など、日常生活を自立して営むための基礎スキルを身につける訓練を実施
- 社会参加に向けたトレーニング:地域生活や就労に向けた準備として、コミュニケーションや対人関係の構築などの訓練を実施
- 相談と助言:生活面での悩みや困難に対して、専門家からの相談や助言を提供
自立訓練(生活訓練)は、ひきこもりから社会へと復帰したいと考えている方々が、焦らずじっくりと生活力を身につけるためのステップとなる支援です。
就労移行支援を利用してひきこもりから就職した事例
山崎さん(仮名)は学校の環境に適応できず、高校2年生で中退し、4年間ひきこもりの状態にありました。自宅でゲームやプログラミングに没頭する日々を送っていましたが、孤独感と社会からの疎外感を抱えていたといいます。
一念発起して就職活動を始めた山崎さんは、医療機関にかかって発達障害の診断を受け、就労移行支援に通うことを決めました。Kaienでの職業訓練では、EC店舗の運営や販売業務に携わって自信を取り戻し、社会との接点を実感できたということです。
この職業訓練で得た実績と自己PRを武器に、山崎さんは障害者採用に絞って、応募を続けました。そして、EC店舗での成功体験を通じて得られたシステム効率化の提案力や業務の向上心をアピールできたことが大きな強みになり、サザビーリーグHRの内定を勝ち取りました。
就職当初はWebサイト更新などの事務作業が中心でしたが、エンジニアとしての能力を認められ、現在ではIT開発チームのエースとして活躍しています。
高校中退・引きこもり4年・職歴なし 山崎さんがSEとして活躍するまで
ひきこもりからの自立は焦らずゆっくり進めていこう
ひきこもりから自立を目指すには、自分のペースで焦らず進むことが大切です。早急に結果を求めず、日常生活のリズムを整えながら、少しずつ社会に戻る準備をしていくとよいでしょう。自分に合った支援機関を積極的に活用することも、負担を減らしながら自立するために大切なポイントです。
Kaienの就労移行支援は、就職を目指す発達障害の方に対し、職業訓練やサポートを提供しています。発達障害の特性や強みを生かした就活支援と、実践的な訓練プログラムにより、就職率84%(他社54%)、1年以内の離職率9%(他社20~30%)の高い実績を出してきました。
Kaienでは、生活に必要なスキルを学ぶための自立支援も提供しています。生活リズムを整える方法や、金銭管理、コミュニケーション能力など、社会生活に必要なスキルを着実に身につけるプログラムを用意しています。社会参加の第一歩を踏み出すための準備として、ご活用ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます