在職者向けのキスド会(土曜夕方に秋葉原と新宿で開催している、発達障害*のある在職者向けのしゃべり場)での会話を皆さんの承諾をもとに記事にしています。今回は「大人になってから診断を受けたときに家族や周囲に伝えるかどうか」について議論しました。
70を越える親に伝えたい でも・・・
Aさん) 十年前かな、発達障害のことが発覚しました。実家に帰ったときに、親に話すことに抵抗がありました。父親はもう70をこえて、こういうことを話すは父親にとっても負担になるからやめたほうがいいと思ったからです。一方で母親には言ったんですね。でも、世代特有の考え方なんだと思うんですけども、「障害を持っている人っていうのは世の中にいくらでもいるし、それはお前にとってただの甘えなんじゃないか」って言われました。やっぱりそういう感じかと思いましたね、私は。
Bさん) それでも言ったのですね。言わない方が良かったという心境ですか。
Aさん) そうですね。今就職活動中で障害者枠で働くことも考えていますので、親にも黙っていられないって考えもあったので、身内でも限られた人だけですけれど話したものの、ダメでしたね。親もそうなんですけど、姉は頭だけはいいんですね。旦那さんも結構優秀な商社マン。そうすると子供とかがお受験するような家なので、身内に障害者って言っちゃあれですけど、知られちゃったりすると影響があるのかないのかとか、という話になっちゃうんです。なので、理解ある家庭がホント羨ましいです。そういう家庭とうちの家庭は全然違うという気がします。
親からしてみたら、徹底したスパルタというか、とんでもないくらい厳しく躾けられたんですよ。修正修正で…。だけど二次障害としての鬱もこうやって出てきちゃったんですね。診断のことを伝えると、年老いた70の父親に教育に関する価値観を転換させる必要がある気がして…。もちろん親に本当の自分を分かってもらいたい気持ちはあるんですけどね。
Cさん) 私も大人になってから発達障害が分かりました。割とAさんと家庭環境は似ているかも知れません。世代的にも、親の性格的にも、子どもに厳しくしたいという人だったんです。私は親には発達障害のことは言ってないです。理解してくれないだろうと思って最初から言わないです。
どうして親に伝えたいのか?
Dさん) 私ちょっと話が長くなりがちなんで…。年齢は高めなので、少し話分かるなと思いました。
スタッフ) どうぞ。
Dさん) Aさんに聞きたいのですが、ご家族にはやっぱり発達障害のことを理解して欲しいですか?
Aさん) して欲しい気持ち、もちろんありますね。ただ、伝えた時のリスクも考えてしまうのです。
Dさん) 結論から言うと、ご両親に理解してほしいという風に最終的に思うんだったら、お姉さんときちんと話した方がいいと思うんですね。それはなぜかというと、お姉さんが頭がいいとおっしゃっていたので、私よく思うんですけど、発達障害のことってすごく概念的みたいになってくるので、頭がいい人となると理解しやすいような気がちょっとするんですよね。そういうところで、目に見えないところでなかなかそういったことを理解する、ということには頭がいいというところなのかな、と思います。
Kaienに来ると、親御さんと一緒に来ている方もいますよね。そういうご家族のみなさんとお話をすることもあって、自分というのは小さい頃いかに育てにくい子供だったのか、ということを考えているんですね。そうすると、親にすごく申し訳ない気持ち、本当に苦労させて申し訳なかったな、という風に思うんですね。昔はちょっと荒れて、普通に産んでくれたらこんなに苦労しなくて済むのに、とかいろいろ悪態つきたくなることがあったんですけど…。
Aさんは今普通に振舞えるということは、小さい頃矯正されたということで、ご自身としてはすごく大変で苦しいことだったかもしれないんですけど、それだけご両親もご本人も努力した結果だと思うんですよね。私が両親に言ったときは、母は「でも頑張ればできるんでしょって言う。ちゃんとやればできるはずだから」という風に言っていたし、父に関しては、私は父から遺伝したんじゃないかと思っているので、言わないようにしているんですね。「俺までキチガイにする気かよ」みたいに言われてちょっと喧嘩になるかって思われるからです。親の年代からしても必ずしも今から言わなくていい、自分の気持ちの中である程度消化していく、ということもありのかなって。色々言ってすいません。
Aさん) いえ、Dさんの話を聞いて参考にした上で、でもやっぱりちょっと言わないでおこうかな、と言うふうに傾いてきました。でも、やっぱり父親としても、「本当に自分の育て方がおかしいからこうなってしまった」みたいな思いを持っているかもしれないんですね。「この発達障害の類は、難しい子で、自分も頑張って育てたけれどもしょうがなかったんだな」と、発達障害のことを知ることで過去の子育てについて楽になるような感じで、親側としても気が楽になる要素があるかもしれないですからね。
言わなくても良いんじゃないか?
Eさん) Aさん自身が伸び伸びやれることが大切だと思うので、伝えなきゃというのに縛られない方が良いと思います。伝えることで自分が居心地がいいとか生きやすくなるのだったら、「僕は苦労した」と伝えるべきだし、そうじゃないものは概念的に伝えても仕方ないと思います。
Aさん) ありがとうございます。
Fさん) 参考になるかは分かんないんですけど私の場合は親には全く言っていないです。何でかというと、今もうほとんど親とのつながりっていうか関わりもなくなってきていて言う必要もないし、昔の本当に昭和一桁のような家なので、”障害”って言葉がついただけで、ネガティブなイメージばかり持ってしまうと思うからです。
Aさん) ですよね。
Fさん) 何かあるとなんかネガティブなことを私に言っている、そういう性質の親なので、下手に言わない方がいいかなって思っています。一応なんとか派遣で働いて仕事をしているので、とりあえず仕事はしているという事だけは親に知らせて、生活している場所も知らせるけれど、障害者手帳を持ったこととか、メンタルクリニックに通っているということまでは言ってないですね。
元々クリニックに通おうかなって言った時にそんなことやめろとどなられたくらいなので家なので…。兄には実は自分こういう状況なんだけどもって話す機会があったんですけどね、そうしたら「実は自分の奥さんも一時期鬱になっていたから、気持ちはわかるよ」とは言っていたんです。でも、実際自分がなってるわけじゃないから、奥さんが鬱だということについて、苦しんでいることを軽視しているなって発言とか態度とかされたことがあったんですよね。そういうのもあって、まだ兄と関係が修復できない状態になっているので、言わなくてもよいんじゃないかと。
なので、手帳を持ったとか障害の認定を受けたとかそういうのを気楽に言えるのをそういう状況が作られるか、それとも先に理屈のコミュニケーションが取れるようになっていえる状況になのか、どっちかになるまで無理して親に言う必要ないのかなって私は思う。他の当事者と話をしていたら、無理して自分を追い込む必要はない、そういう障害とかも言ってお互いに苦しくなるぐらいだったら無理して言う必要はないと。ただそういう時期が来たら言わなきゃいけない言えばいいじゃないって。
Aさん) 自分も結構先を長く考えたい部分もあるんですけど、多分そう言っているうちに父は亡くなっちゃうかなって思いますね。
Fさん) 子どもは頑張って生きてることさえ分かっていればいいのかなって思う、私はそういう考え方で生きています。参考にはならないかもしれないですけど。
Aさん) みなさんありがとうございます。
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監修者コメント
理解してもらいたい、という切実な気持ちはよく分かります。一方で、世代や住む世界が違うと、親子であっても、あるいは親子だからこそ、お互いの見解がなかなか伝わっていかない、この難しさも分かるのです。そういう点で世界は残酷で、伝えることは本当に難しい。すぐに解決できる問題ではないし、一人ひとりが頑張れば急に変わる問題でもないでしょう。だからこそ、僕ら治療者・支援者は、普段から啓蒙活動に励み、皆様の力になれたら、と思うのです。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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