SSTとは?発達障害との関連性や具体的な方法、受けられる場所を紹介

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社会の一員として生活していくために必要となるスキルを、ソーシャルスキルといいます。このソーシャルスキルを身につけるためのトレーニングが、SST(ソーシャルスキルトレーニング)です。

この記事では、SSTについて詳しく見ていきましょう。SSTと発達障害*の関係性や具体的なトレーニング内容、受けられる場所などを紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは

SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、社会生活や日常生活を円滑に送る際に必要となるスキルを身につけるためのトレーニングのことです。SSTでは、対人関係を築くのに必要なコミュニケーション力や日常生活を送るための生活スキルなどの習得を目指します。

例えば、「自分の気持ちをどのように相手に伝えるか」「毎日決まった時間に薬を飲むにはどのような工夫をすべきか」など、日常生活のさまざまなシーンを想定して対応方法をシュミレーションします。このように、SSTは「日々の生活の予習」のようなものだと考えてください。

SSTと発達障害

発達障害を持つ人は、その特性によりソーシャルスキルをスムーズに身につけることが難しいケースがあります。例えば、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の特性によって、人とのコミュニケーションや日々の生活に支障を感じている人もいるでしょう。このような場合、SSTを受けてソーシャルスキルを身につけることは有効です。

SSTを受講すると、実際の場面を想定した会話の練習などを通して「このようなシーンではどのように行動したらいいか」が学べます。具体性のある練習を重ねることで成功体験を積み、社会生活や日常生活に自信が持てるようになるでしょう。

SSTの目的と期待できる効果

SSTの主な目的は、具体的なシーンを想定して練習を重ねることで、スキルや自信をつけて日常生活における支障やストレスを減らすことです。その人の特性や実生活に応じたトレーニングを受けることで、「生活の中でできること」が少しずつ増えていきます。これによって、SSTを受ける前よりも生活しやすくなるという効果が期待できます。

友人や同僚とのコミュニケーション、感情のコントロール、金銭管理や服薬管理などに負担や困難を感じている人も少なくありません。このようなさまざまな困りごとに対して「自分なりの対処法」を見つけていくのがSSTです。

SSTの実施の流れ

SSTは、一般的に以下の流れで進めます。

  1. 行動分析
  2. 教示
  3. モデリング
  4. リハーサル
  5. フィードバック
  6. 般化

行動分析はそれぞれの行動パターンを明らかにして、その人の「できること・できないこと」を見つける作業です。行動分析によって、具体的なトレーニング内容を決めていきます。

教示とは、SSTを受講する人に対して支援員が具体的なトレーニング内容を説明することです。「このトレーニングがなぜ必要なのか」「いつどのように練習するか」などを、わかりやすく解説します。

モデリングは、支援員がソーシャルスキルのお手本を示すことです。お手本だけでなく、悪い例を示すこともあります。

リハーサルは、教示やモデリングで提示されたトレーニングを繰り返し行うことです。その後、リハーサルの内容を踏まえて、自身で良かった点や改善が必要な点を評価するフィードバックを行います。

最後のステップである般化とは、SSTで身につけたスキルを実際の生活の中で使えるようにすることです。

SSTを実践するための方法

SSTを実践するための方法はさまざまです。その中でも多く活用されている方法として、以下のようなものが挙げられます。

  • ロールプレイ
  • ディスカッション・ディベート
  • ソーシャルストーリー・ワークシート
  • 共同行動
  • ゲーム

それぞれの内容について、以下で詳しく見ていきましょう。

ロールプレイ

ロールプレイは、支援員や参加者が実際のシーンを想定して演技をしながら対応方法を学ぶトレーニングです。人形を使って該当のシーンを再現することもあります。実際のシーンを疑似体験できるため、日常生活に応用しやすいのがメリットです。

ロールプレイの内容は、参加者が現在抱えている課題に応じたシーンを再現するとより効果的です。「こう対応したらいいのでは」という言動を実際に試せるため、実践的なソーシャルスキルを身につけられます。

ディスカッション・ディベート

ディスカッションは議論をすること、ディベートは特定のテーマについて賛成派と反対派に分かれて話し合うことです。ディスカッションやディベートは相手の意見を聞いたうえで自分の考えを話す必要があり、会話やコミュニケーションの訓練になります。

SSTでディスカッション・ディベートを行う際は、参加者の特性や興味、現在のスキルなどに応じて、話し合いのテーマや時間、参加人数などを設定します。

ソーシャルストーリー・ワークシート

ソーシャルストーリーとは、社会生活や日常生活のさまざまなシーンを短い文章と絵で表したものです。ソーシャルストーリーを用いると、シーンごとに適した言動が学べます。具体的なシーンを思い浮かべることで、参加者が抱える課題を意識化することが目的です。また、参加者が自分の課題やとるべき行動などを書き込めるワークシートを使う方法もあります。

ソーシャルストーリーやワークシートは自作も可能で、参加者の課題や特性に合わせてアレンジしたものを用いるのも効果的です。

共同行動

共同行動は、他の人と一緒にひとつのゴールに向かって物事に取り組むことです。工作や調理など、楽しみながらできる共同作業を進めることで、周囲の人との会話や役割分担、協力といったスキルを身につけられます。

共同行動では実際の作業に取り組むため、より実践的なソーシャルスキルを身につけられるのがメリットです。取り組む内容については、参加者の年齢や特性などを考慮して決めます。

ゲーム

特定のルールが設定されているゲームも、SSTによく用いられます。ゲームには「決められたルールに従う」「勝ち負けがある」「周囲の人と相談や協力をする」といった側面があり、これらは社会生活や日常生活でも対応が求められる内容です。

SSTでは参加者の特性や課題などを考慮して、楽しみながらソーシャルスキルを身につけられるような内容のゲームに取り組みます。支援員は必要に応じてゲームの進行や参加者へのサポートなどを行います。

日常生活でもSSTは実践できる

SSTを実践する方法としてロールプレイやディスカッションなどを紹介しましたが、このような特別な取り組みだけでなく日常生活の中でもSSTは実践できます。日常生活で取り組めるトレーニングとして、以下のようなものがあります。

  • あいさつ
  • 人の気持ちを察する
  • 会話

あいさつはさまざまなシーンで求められる、コミュニケーションの基本です。あいさつの練習によって、人に声をかけるタイミングや「あいさつをすると気持ちがいい」ということが学べます。

コミュニケーションを円滑にするには、人の気持ちを察する練習も必要です。日常生活の中で「相手は今どんなことを考えているのだろう」といったことを意識的に考えてみてください。

普段から会話の練習をするのも効果的です。会話に苦手意識がある場合は「決められた質問に答える」「あらかじめ作成したシナリオに沿って会話を進める」といった練習に取り組んでみましょう。

SSTを受けられる場所

SSTはさまざまな場所で受けられます。SSTを実施している施設の例として、以下が挙げられます。

  • 就労移行支援事業所
  • 就労継続支援A型・B型事業所
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 自立訓練事業所
  • 地域活動支援センター
  • 地域若者サポートステーション
  • 精神科のデイケア・ナイトケア など

上記のような福祉施設や医療機関のほか、学校や職場でもSSTを実施しているケースがあります。SSTの受講に条件が設けられていることもあるため、SSTを実施しているかどうかを含めてお近くの施設に問い合わせをしてみましょう。

SSTの活用シーン

SSTは子どもから大人まで幅広い人を対象としていて、活用シーンもさまざまです。ここでは就労関係の活用シーンとして、就労支援・定着支援・リワークの3つをご紹介します。

就労支援としてのSST

SSTを受けられる場所として就労移行支援事業所を紹介しましたが、障害を持つ人の就労支援にSSTが活用されるケースがあります。例えば、ASDやADHDなどの発達障害を持つ人がソーシャルスキルを身につけるために、SSTは効果的な手段のひとつです。

仕事をするうえで、周囲の人とのコミュニケーションは欠かせません。そのため、支援の一環としてSSTを取り入れている就労移行支援事業所も多くあります。利用者はSSTを通して、質問の仕方や話しかけられたときの返事の仕方などを学びます。

定着支援としてのSST

障害や精神疾患を持つ人が職場に定着できるよう、企業がSSTを導入しているケースもあります。企業が行うSSTは、実際の職場で想定されるシーンや求められるスキルが明確になっているため、より具体的な練習ができるのが特徴です。

参加者側の「このような場面で困ったことがある」、企業側の「このようなスキルを身につけてほしい」という内容を双方で共有し、それをトレーニング内容に盛り込めます。そのため、定着支援としてのSSTはより目的や効果を実感しやすいでしょう。

リワークとしてのSST

リワークとは、精神疾患などで休職している人が職場復帰を目指して取り組むリハビリテーションのことです。コミュニケーションの負担などソーシャルスキルが原因で休職している場合は、リワークの一環としてSSTを活用することがあります。

リワークとしてのSSTでは、休職の原因や復職後に想定されるシーンを考慮したトレーニング内容を設定するのが特徴です。復職後の生活を想定したトレーニングに繰り返し取り組むことで職場復帰への不安を和らげ、自信をつけられます。

ソーシャルスキルを学ぶことで仕事や日常生活に活きる

円滑な社会生活や日常生活を送るには、ソーシャルスキルが必要です。ソーシャルスキルを身につける方法のひとつがSSTで、施設で受講するほか日常生活の中でも取り組めます。

SSTは子どもから大人まで、幅広い人がさまざまな目的で取り組んでいます。就労移行支援事業所や精神科、職場や学校などで受講できるため、希望する人はこれらの施設に問い合わせてみましょう。

発達障害を持つ人の就労移行支援や自立訓練(生活訓練)に取り組んでいるKaienでは、支援の一環としてSSTも取り入れています。ソーシャルスキルを身につけたい人は、ぜひKaienにご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群といわれます。

監修者コメント

SST(ソーシャルスキルトレーニング)はもともと、1940年代にアメリカのリーバーマンという精神科医が、統合失調症の方の社会復帰プログラムとして作成しました。

例えば外出して買い物に行くという場面のお手本を見て、それを真似してみて、スタッフからフィードバックをもらい(良い評価と改善点の両方が指摘されます)、次回の宿題を出されるという構成です。

このシステマティックで反復可能な構造は、認知行動療法(CBT)にも見られ、ヨーロッパの精神分析療法を頂点とする手作り型の治療から、患者さんを効率的に扱うフォーディズム型の治療として大転換を遂げたのです。

個人的には第二次世界大戦によって世界の覇権国がアメリカになったのと同時に、それまでヨーロッパ哲学や神学をベースとして個別に患者の治療をしていた精神医学も、アメリカ式の実践的合理主義や経済的効率性を応用したマスプロ治療になったと理解しています。

現在の行き過ぎた新自由主義的資本制によって、善とされる人間観(端的に言うと社会に価値を提供できる人間になりましょう)が、本当に精神医学が求める人間観なのかは疑問がありますが、余談になるのでこの辺りで止めましょう。

最後にSSTはトレーニングですので、難しい理解より模倣して慣れるという点で、発達障害の方にも適応できます。なぜなら、発達障害では幼少期の数年で獲得すべき、他者への共感を核とした向社会的(プロソーシャルと言います)なやりとりが圧倒的に少ないため*、他者との関係性をトレーニングすることには意義があるからです。このため、現在では就労支援施設を始め、多くの施設でSSTを取り入れています。

*Garvey, B., “Ten things I wish you knew about your child’s mental health”, pp. 55-57, 2024, Penguin Life (Australia).

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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