適応障害は障害者手帳を取得できる?取得の流れやメリットについても解説

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適応障害は、自分の置かれた環境に適応できずにストレスを抱え込み、気分の落ち込みや不安などの症状が出る障害です。適応障害の方やそのご家族のなかには、障害者手帳を取得して、さまざまな支援を受けたいと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、適応障害で障害者手帳を取得できるのか、取得するメリット、障害者手帳の1つである精神障害者保健福祉手帳を取得するまでの流れについて解説します。また、障害年金の受給や障害福祉サービス受給者証の取得などの関連情報についても説明します。

就業状況や日常生活の負担を減らすために、ぜひ最後までご覧ください。

適応障害は障害者手帳を取得できる?

結論からいうと、適応障害のみで障害者手帳を取得するのはむずかしいといえます。

というのも、障害者手帳は長期にわたって大きな障害が生活に出ている人のための制度であるからです。原因となる環境を離れれば、通常6ヶ月を超えて症状が持続することがない適応障害は、多くの地方自治体が障害者手帳の対象外としています。

しかし、特別の事情が認められたり、発達障害*やうつ病など別の精神障害を併発したりしていれば、障害者手帳を取得可能です。この場合は、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」と3種類ある障害者手帳のうち、精神障害者保健福祉手帳が該当します。

参考:熊本県「精神障害者保健福祉手帳用診断書の留意事項(別紙)」

障害者手帳を取得するメリット

障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得すると、さまざまな支援を受けられるようになるのがメリットです。ここでは、主に成人(社会人)の適応障害の方やそのご家族に向けて、障害者雇用や各種の支援について解説します。

障害者雇用を利用できる

障害者雇用とは、障害のある方の就職活動を支援するための制度です。一定以上の従業員数を雇用している企業は、障害のある方を一定割合以上雇用することが義務付けられています。

この障害者雇用の求人に応募すると、一般求人に応募するときに比べて、障害が合否に影響してしまう部分を少なくできるのがメリットです。また、採用後は、障害の特性や強み・弱みに配慮した職場環境づくりや、業務分担といった「合理的な配慮」が保証されています。就労の不安を軽くしながら、職場定着を目指せるでしょう。

障害者雇用はハローワークで応募できます。ハローワークでは、障害について専門的な知識を持つ職員や相談員が配置されており、求人情報の提供や、就職に関する相談に応じてもらえます。

税金の優遇や各種割引を受けられる

障害者手帳を取得すると、以下のように、さまざまな支援や割引を受けられるようになります。

種類具体例
税金・所得税、住民税の控除・相続税の控除・自動車税・自動車取得税の控除
移動・電車、バス料金の割引・タクシー料金の割引・飛行機の割引
余韻(娯楽やリフレッシュなど)・一部の映画館や商業施設の割引・美術館や水族館など公共施設の割引
医療・医療費の補助(地方自治体による)

上記は、適応障害の方が一般的に取得する精神障害者保健福祉手帳3級の内容を中心にまとめたものです。利用できる支援や割引は障害の程度(1~3級)や自治体の制度によって変わります。

このため、地方自治体のホームページで事前に内容を調べておくとよいでしょう。また、障害者手帳の交付を受けた際に、行政窓口で確認しておくことをおすすめします。

精神障害者保健福祉手帳を取得する流れ

精神障害者保健福祉手帳を取得する流れは以下のとおりです。

  1. 精神科を受診する

医師の診断書をもらうために精神科を受診します。精神障害者保健福祉手帳を取得したいと伝えておくとよいでしょう。

  1. 医師に診断書を書いてもらう

お住まいの市区町村の窓口で「申請書」「指定の診断書書式」を受け取り、主治医に診断書を作成してもらいます。適応障害だけでの取得はむずかしいため、発達障害やうつ病など他の症状も記載してもらったほうがよい場合があります。

  1. 申請手続きをする

お住まいの市区町村の窓口で申請手続きを行います。自治体により違う場合がありますが、必要な物は以下のとおりです。

  • 申請書
  • 診断書
  • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
  • 証明写真(縦4センチ×横3センチ、脱帽、1年以内に撮影したもの)
  • 官製はがき1枚(63円、手帳が準備できたことを通知するため)
  • 委任状(代理申請する場合)
  1. 審査

申請後、通常2ヶ月~3ヶ月かかります。

  1. 手帳を受け取る

手帳が交付されたことが通知されるので、市区町村の窓口に出向いて受け取ります。

参考:国分寺市「精神障害者保健福祉手帳」

適応障害で障害年金はもらえる?

障害年金とは、病気やケガによって仕事ができなくなり、収入が途絶えたり生活に大きな支障が出たりしたときに、現役世代のうちから受け取れる年金です。障害基礎年金を受けるには、「国民年金法施行令別表」における障害の程度1級または2級と認定される必要があります。

参考:厚生労働省「国民年金法施行令別表 厚生年金保険法施行令別表第1及び第2 」

しかし、適応障害では、障害年金は原則として受け取れません。適応障害は神経症性障害の1つであり、障害年金の対象にはなりません。

ただし、適応障害に加えて、発達障害やうつ病、持続性気分障害といった別の障害をお持ちの方は、こちらで申請手続きが可能です。

障害の程度は「ICD-10(国際疾病分類)」に基づいて判断されるため、適応障害の「F4(神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害)」以外で障害の程度1級、2級に該当する症状がないか、医師に相談するとよいでしょう。

参考:厚生労働省「ICD-10(国際疾病分類)第5章 精神および行動の障害」

障害者手帳がなくても利用できるサービスも多い

障害者手帳がもらえなかった場合でも、「障害福祉サービス受給者証」を取得すれば、多くの障害福祉サービスを利用できます。障害福祉サービス受給者証とは、障害者総合支援法や児童福祉法に基づいて運営している事業所の障害福祉サービスを利用する際に必要な証明書です。

障害福祉サービス受給者証は、お住まいの市区町村で申請して交付を受けますが、この際、必ずしも障害者手帳は必要ありません。障害者手帳がない場合は、医師の意見書があれば申請でき、認定調査で支援が必要だと認められれば交付を受けられるのです。

障害福祉サービス受給者証を取得すると、例えば「就労移行支援」が利用できます。就労移行支援とは、就職に必要な訓練や日常生活の指導、就労先の紹介などを通じて、障害をお持ちの方が一般企業に就職できるようにサポートする制度です。 

全国各地には、国から許可を受けた就労移行支援事業所があり、専門的な知識や経験を持つスタッフからのサポートを受けられます。

まずは医療機関に相談してみよう

適応障害をお持ちの方は、それだけでは障害者手帳を取得するのがむずかしい面があります。しかし、発達障害やうつ病などを併発している適応障害の方は珍しくなく、この場合、障害者手帳を取得できる可能性があります。

また、障害者手帳を取得できなかったとしても、障害福祉サービス受給者証を取得すれば、就労移行支援など多くの障害福祉サービスを利用可能です。まずは医療機関に相談して、診断を受けるとよいでしょう。

Kaienでは、就労移行支援・自立訓練を行っています。発達障害の方の支援に特に強みを持つKaienは、就職率85%、1年後の離職率9%の実績があります。専門家が推奨する充実したプログラムを用意しておりますので、ぜひご活用ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

適応障害はメンタルクリニックで非常にポピュラーな疾患です。メンタル疾患では原因と結果を一対一対応で表すことができないことが多いのですが(これを「非線形応答」と言います)、適応障害は職場の上司との人間関係や長時間残業によって不眠が現れるなど、因果関係がはっきりしている(「線形応答」と言います)数少ないメンタル疾患なのです。このため、原因を除去すれば症状も消失すると言え、実際に休職や配置転換によって多くの患者さんが改善に向かっています。

しかし、適応障害と診断されて休職なり配置転換なりしても、症状が一向に良くならない患者さんがいらっしゃるのも事実です。適応障害と診断されて半年経っても改善が見られない場合、ICD-11*では他の診断名に変更するよう指示しています。これは適応障害が障害者手帳や年金診断書の対象とならない理由でもあります。

結局、障害者手帳や年金診断書に該当する疾患は、「非線形応答」をするもの、と言えます。つまり、Aさんには問題にならないことが、Bさんには疾患となり、同じ疾患を持つCさんにとって効いた治療法が、同じ疾患を持つDさんには効かない、と言ったことが起こるのです。そのため、我々は治療に試行錯誤し、症状の改善まで長期間を要するのです。

*ICD-11では適応障害の他に「適応反応症」の病名を用意していて、不適応な反応を起こすことを重視しています。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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