障害を持つ人が自立した生活を送れるよう支援するために、2013年に障害者総合支援法が施行されました。法律が施行されたあとも必要に応じて改正が行われていて、2024年4月にも制度の見直しや創設を含む法改正が実施されています。
この記事では、障害者総合支援法の概要や改正のポイント、この法律に基づいて提供される障害福祉サービスについて詳しく見ていきましょう。
障害者総合支援法とは
障害者総合支援法は、障害を持つ人が自立した日常生活および社会生活を送れるよう支援するために作られた法律です。この法律に基づいて、介護や日常生活についての相談や支援、就労機会の提供や就職活動のサポートまで、さまざまな支援サービスが提供されています。
障害者総合支援法が施行されたのは2013年ですが、支援のさらなる充実や利用促進、多様化するニーズへの対応などを目指して、施行後も適宜改正が行われています。
障害者総合支援法の基本理念と対象者
障害者総合支援法の基本理念は、次の6つです。
- 障害の有無に関わらず全ての国民が個人として尊重されること
- 障害の有無に関わらず全ての国民が相互に尊重し合いながら共生する社会を実現すること
- 全ての障害者および障害児が可能な限り身近な場所で日常生活や社会生活に必要な支援を受けられること
- 社会参加の機会が確保されること
- 地域社会において選択の機会があり、他者との共生が妨げられないこと
- 障害者および障害児が日常生活・社会生活を営むうえでの障壁を取り除くよう資すること
出典:厚生労働省「障害福祉サービスの利用について」
上記の通り、障害者総合支援法では障害によって差別されたり機会を奪われたりしないこと、そのために必要な支援を提供することが理念として掲げられています。
障害者総合支援法の対象者は身体障害者・知的障害者・精神障害者に加えて、従来から支援の充実が求められていた難病等を抱える人も範囲に含まれます。発達障害*については精神障害に含まれているため、発達障害を持つ人も障害者総合支援法の対象です。
障害者総合支援法に至るまでの障害福祉施策の流れ
日本の障害福祉施策は、さまざまな変化を経て現在の障害者総合支援法に至っています。
障害者総合支援法のもととなっているのは、2003年に公布された支援費制度です。支援費制度が導入される以前は、行政側が主体となって支援内容などを決める措置制度が採用されていました。一方支援費制度は、利用者が利用するサービスを選択できるのが特徴です。
支援費制度によって障害福祉施策の在り方は大きく変わりましたが、財源の確保や自治体間の格差などの課題も多く、開始から数年で改正されることとなります。
2006年、支援費制度の改正法として障害者自立支援法が施行されました。しかし、利用者に利用料の1割負担を求めるなど障害を持つ人とその家族への負担が増えたことで、こちらの法律も改正を余儀なくされます。
権利の主体を障害者(児)とする基本理念を定め、障害者自立支援法を改正して施行されたのが、現在の障害者総合支援法です。2013年に施行されてから、2018年と2024年にもそれぞれ改正が行われていて、支援の拡充が続けられています。
2024年度に施行された障害者総合支援法の改正のポイント
2024年度に施行された障害者総合支援法の改正案では、次の6つがポイントとなっています。
- 障害者等の地域生活の支援体制の充実
- 障害者の多様な就労ニーズに対する支援および障害者雇用の質の向上の推進
- 精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備
- 難病患者および小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実および療養生活の強化
- 障害福祉サービス等、指定難病および小児慢性特定疾病についてのデータベースに関する規定の整備
- その他
このようにさまざまな制度の見直しや創設が含まれていますが、大きくは「障害者の地域生活」「社会的ニーズに対する対応」「持続可能かつ質の高いサービスの実現」の3つが柱となっています。
各ポイントの詳しい内容については以下の記事で解説しておりますので、改正のポイントについて知りたい方はあわせてご覧ください。
【2024年度施行】障害者総合支援法改正案の概要と就労に関する項目について解説
障害者総合支援法による具体的な支援とは?
障害者総合支援法による支援は、「自立支援給付」と「地域生活支援事業」の大きく2つに分かれます。ここでは、障害者総合支援法によって具体的にどのような支援が受けられるのか、詳しく見ていきましょう。
自立支援給付
自立支援給付は、障害の種類や程度などに合わせたサービス等利用計画案をもとに、個別に支給決定が行われる支援サービスです。以下で、自立支援給付として提供されている5つのサービスを紹介します。
介護給付
介護給付は、障害を持つ人が自立した日常生活を送るために必要な介護を受けられるサービスです。以下の9つのサービスのなかから、個々の障害の種類や程度に合ったものを利用できます。
- 居宅介護(ホームヘルプ)
- 重度訪問介護
- 同行援護
- 行動援護
- 重度障害者等包括支援
- 短期入所(ショートステイ)
- 療養介護
- 生活介護
- 障害者支援施設での夜間ケア等(施設入所支援)
介護給付では食事や入浴、排泄といった介護から、視覚障害を持つ人の外出や移動をサポートする同行援護や、自己判断能力が制限されている人の行動を支援する行動援護など、障害の内容に応じたサービスを提供しています。
訓練等給付
訓練等給付は、自立した日常生活や就労を目指すための訓練・支援が受けられるサービスです。具体的には、以下のようなサービスが提供されています。
- 自立訓練
- 就労移行支援
- 就労継続支援(A型・B型)
- 就労定着支援
- 自立生活援助
- 共同生活援助(グループホーム)
訓練等給付は、それぞれの障害の種類や状態、希望に応じたものを選んで利用できます。例えば就労を希望する場合、一般企業への就職を希望する人は就労移行支援、一般企業での就労が困難な人は就労継続支援(A型・B型)が適しています。
相談支援
相談支援は障害を持つ人やそのご家族が適した支援サービスを利用できるよう支援するサービスで、「計画相談支援」と「地域相談支援」の大きく2つに分けられます。
計画相談支援は、先ほど紹介した介護給付や訓練給付などを利用するために必要なサービス等利用計画案の作成や、サービス事業者との連絡調整を行います。また、利用中のサービスの検証も計画相談支援のひとつです。
地域相談支援では、障害者支援施設や精神科病院などを退所する人が地域生活に移行するために必要な支援を行います。具体的な支援内容は、相談による不安解消や外出時の同行支援、住居の確保などです。単身で生活している人に対しては、常に連絡がとれる体制を築いてトラブル時に必要な支援を実施します。
自立支援医療
自立支援医療は、障害を持つ人が医療サービスを受ける際の自己負担額を軽減する制度です。自立支援医療の対象は、以下の3つです。
- 精神通院医療
- 更生医療
- 育成医療
精神通院医療は、統合失調症やうつ病などの精神疾患で通院する人が対象です。発達障害も精神障害に含まれるため、通院時には精神通院医療のサービスを利用できます。
更生医療は身体障害者手帳を持っている人が対象で、その障害を除去もしくは軽減するための手術や治療を受ける際の医療費の負担を減らせます。
育成医療は、身体障害を持つ児童(18歳未満)を対象とした制度です。対象の障害を除去もしくは軽減するための手術や治療を受ける場合に利用できます。
補装具
補装具とは障害を持つ人が日常生活で必要となる用具のことで、補装具の購入費や修理費の一部が自治体から支給されます。制度の対象は、補装具を必要とする身体障害を持つ人や難病患者などです。
対象となる補装具には、以下のようなものがあります。
- 義肢
- 義眼
- 視覚障害者安全杖
- 補聴器
- 車椅子
- 電動車椅子
- 歩行器 など
地域生活支援事業
地域生活支援事業は、障害を持つ人が自立した日常生活や社会生活を送れるよう、それぞれの自治体が中心となって実施する事業です。地域の特性やニーズに応じて各自治体が柔軟な形態で実施しています。
地域生活支援事業は市町村事業と都道府県事業の大きく2つに分かれていて、それぞれ以下のような支援サービスがあります。
市町村事業
- 理解促進研修・啓発
- 自発的活動支援
- 相談支援
- 意思疎通支援
- 移動支援 など
都道府県支援
- 専門性の高い相談支援
- 広域的な支援
- 専門性の高い意思疎通支援を行う者の養成・派遣 など
対象者や利用料、実施内容などは自治体によって異なるため、詳細はお住まいの自治体の公式ホームページや窓口で確認してみてください。
障害者総合支援法のサービスの利用方法とは?
障害者総合支援法のサービスを利用したい場合、大まかに以下の流れで手続きを進めます。
- お住まいの自治体の窓口に申請して障害支援区分の認定を受ける
- 指定特定相談支援事業者で「サービス等利用計画案」を作成し、自治体に提出する
- 自治体が申請内容を確認し、問題なければ支給が決定
- 指定特定相談支援事業者がサービス担当者会議を開催する
- サービス事業者等と調整して「サービス等利用計画」を作成する
- 利用計画に基づいたサービスの提供が開始
ただし、先述のとおり障害者総合支援法のサービスは種類が多く、利用するサービスによって細かい手続きの内容や必要書類が異なる点に注意してください。例えば、訓練給付の一部は障害支援区分の認定が不要だったり、自立支援医療や補装具は医師の診断書が求められたりします。
それぞれのサービスの詳細な手続きの流れについては、自治体のホームページや窓口で確認が必要です。
障害者総合支援法のサービスの利用料と負担上限
障害者総合支援法のサービスの利用料の一部は、利用者が負担することとなっています。具体的な利用料はサービスの種類や利用回数などで変わりますが、負担上限が設けられているので上限額を超える利用料の負担は発生しません。
負担上限は、所得に応じて以下のように決まっています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯 (年収が概ね600万円以下) | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
ただし、障害福祉サービスに含まれない料金については実費負担が必要です。例えば入所型施設での食事や光熱費、医療型施設では医療費などがかかるケースがあります。
障害者総合支援法について理解を深めよう
日本の障害福祉制度は、変遷を重ねて現在の障害者総合支援法となりました。障害者総合支援法も適宜改正が行われていて制度の拡充が進められているので、利用を検討している人は最新の法改正やお住まいの自治体の制度についても調べてみてくださいね。
障害者総合支援法に基づいて提供されるサービスは、介護サービスや就労を目指す人のサポート、医療費の負担軽減など多岐にわたります。本記事で紹介したサービスのなかで利用を希望するものがあれば、お住まいの自治体の窓口で手続きを進めましょう。
Kaienでは、発達障害を持つ人のための就労移行支援や自立訓練を実施しています。見学・個別相談会を実施しているので、就労に関するサービスの利用を検討している人は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
障害サービスを巡る法律は、今回話題の障害者総合支援法をはじめとして生活困窮者自立支援法や障害者雇用促進法など実は複数あります。その中でも、障害者総合支援法は就労移行支援や、AB型の就労継続支援、グループホームなどの利用に関する根拠法になっていますから、そういう意味では生活にとても関係の深い、馴染みのある法律と言えます。普段意識することは余り無いですが、様々なサービスは法律によって規定されていることが多いことを考えると、支援を実現させるための法制化というのはとても大事なことだともわかりますね。就労移行支援などの利用にあたっては、受給者証を役所からもらう必要があります。必要に応じて、通院をしている根拠に診断書を求められますから、主治医に要請してください。そのとき、診断名にはICD-10によるFコード(例えばうつ病ならF32)も必要になりますので、主治医に忘れないようリマインドしてくださると効果的です。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。