大人の発達障害の相談先は?家族との関わりや支援機関について解説

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就職などを機に社会に出てから対人関係や仕事で困難をたびたび感じ、発達障害*があることに気付く「大人の発達障害」。幼少期から診断が出ている場合とは異なり、大人の発達障害は当事者とその家族が発達障害との付き合い方や関わり方、相談先や支援先についてわからないことが多く、不安を感じるケースも少なくありません。

本記事では、大人の発達障害との付き合い方や対処法、支援機関などを解説します。発達障害の方やそのご家族向けの相談先も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

大人になってから気づく発達障害とは

発達障害とは生まれつき脳機能の発達にかたよりがあるために、物事のとらえ方や行動パターン、周囲との関わり方などに独特な特性が見られ、社会生活に支障をきたす状態のことです。

発達障害は先天性であり、大人になってから発症することはありません。そのため診断には、当事者の小児期の症状の確認が重要です。発達障害の診断がつかないまま成人して社会人になり、人間関係や仕事の失敗、生きづらさといった困難さを抱えて発達障害の特性に気付くといったケースも多く存在します。この場合、年齢が若い頃は当人が自身の特性に気付けず、周囲が困ってしまうことも少なくありません。

なお一般的に大人になってから発達障害が顕在化し、そこで初めて発達障害が発覚する場合、知的障害は伴わないといわれています。

発達障害の特性は基本的に子どもの頃からほとんど変わることはありませんが、症状の発現具合や困りごとには個人差があり、また周囲の環境や状況によっても変化します。

大人の発達障害の方の困りごと

社会人になってから発達障害の特性に気付く、いわゆる「大人の発達障害」と呼ばれるものには、どのような困りごとがあるのでしょうか。ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の方の、それぞれの症状で起こりうる困りごとを解説します。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASD(自閉スペクトラム症)の方は、主に以下のような困りごとがあるといわれています。

  • 曖昧な指示の理解が難しい
  • 急な予定変更があると混乱する
  • 会社の「暗黙のルール」の理解が困難
  • 他人の仕事のやり方やルール違反が気になる
  • 相手の目を見て話せない
  • 指示からズレてしまう

ASDの方は、幼少期から「特定のものや行動においてこだわりや反復性がある」「対人関係や社会的コミュニケーションが困難」「感覚が過敏、または鈍麻」といった特性がみられます。そのため、職場で曖昧な指示や暗黙のルールの理解が難しい、些細なルール違反も許せず衝突してしまうといった困りごとが起こりやすいです。

ADHD(注意欠如多動症)

ADHD(注意欠如多動症)の方は、主に以下のような困りごとがあるといわれています。

  • 注意散漫になりうっかりミスが多い
  • タスクの優先順位がつけられない
  • マルチタスクが苦手
  • 人が話している最中に被せて話してしまう
  • 衝動的な感情・行動により人間関係が険悪になりやすい

ADHDの方は、集中力を持続させることが難しい「不注意」と、じっとしていることが苦手で落ち着きがない「多動性・衝動性」といった特性がみられます。そのためうっかりミスが多く、計画管理が苦手でタスクの優先順位がつけられないといった困りごとが起こりがちです。また、衝動性から突然何かを思いついて話し続けてしまう、衝動的に行動し人間関係が険悪になってしまうこともあります。

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の方は、主に以下のような困りごとがあるといわれています。

  • 指示書やマニュアルを読むことが難しい
  • お金の管理やお釣りの計算が苦手
  • 上司の指示や会議内容を聞きながらメモを取ることが困難
  • 不正確な文字を書いてしまう

SLD/LDの方は知的障害は伴わないものの、読むことが難しい「読字障害(ディスレクシア)」、書くことが難しい「書字表出障害(ディスグラフィア)」、数字や計算などの理解が難しい「算数障害(ディスカリキュリア)」といった特性があります。そのため、お金の計算や管理が困難だったり、メモを取ることやマニュアルを読むことが苦手だったりします。

大人の発達障害かもしれないと思ったら

もし自分が大人の発達障害かもしれないと思ったら、自己判断はせず、必ず医療機関を受診するようにしましょう。医療機関の診断を受けることが、適切な対処への一歩となります。

発達障害の診断は発達障害専門外来のほか、精神科や心療内科で行われます。発達障害は先天性のため、診断の際は生育歴や幼少期の様子、既往歴などが細かく聞かれます。母子手帳や幼少期の連絡帳、通知表といった資料を持っていくとスムーズです。また必要に応じて、心理検査や脳波検査、発達障害に関するスクリーニング検査を行う場合もあります。

現在の症状のほか、こうした問診や検査から得られた情報を国際的な診断基準(DSM-5-TR)に照らし合わせ、総合的に判断して診断が行われます。

発達障害の当事者と家族の関連性

発達障害を含む精神疾患は、家族内集積性が高いといわれています。家族内集積性とは、例えば子どもに発達障害があると、兄弟や親などの他の家族にも発達障害やその他の精神疾患がある場合が多いことを指します。そのため、当事者の家族(保護者)も医療機関を受診しているケースが少なくありません。

子ども時代の発達障害の発見や支援には、保護者の状態が大きな影響をもたらします。保護者が子どもや自身の障害を認められなかったり、また障害の存在を認めても医療や行政の関与を拒否したりする場合、発達障害の早期発見や支援が遅れ、適切なケアが受けられません。発達障害のケアには家族の寄り添いが必要不可欠で、家族の理解や協力がない場合、問題事例化しやすいともいわれています。

子ども時代に発達障害が見過ごされやすい理由

子ども時代に発達障害が見過ごされやすい理由として、前述の他に、特性が個性として問題視されない点も挙げられます。発達障害の一部の特徴は年齢相応の行動として見なされやすく、特性のあらわれ具合にも個人差があるため、必ずしも顕著にみられるわけではありません。

また、明確なルールや基準がある学校生活だと特性が目立ちにくくなるケースがあるほか、周囲の環境に自分を無理に合わせようとする「過剰適応」が起こるなど、家庭や学校環境などの外的要因によって見過ごされてしまう場合もあります。

さらに、発達障害に関する支援経験や知識が不足している教育現場の場合、子どもの特性に気付かず適切な認知や評価に至らないという点も理由の1つです。こうした要因が組み合わされることで、子ども時代に発達障害が見過ごされやすくなるといわれています。

知っておきたいカサンドラ症候群とは

カサンドラ症候群とは、ASD(自閉スペクトラム症)の方をパートナーや家族に持つ方々が、コミュニケーション面でのストレスによって心身に不調が出てしまう状態を指します。「症候群」と名付けられているものの、カサンドラ症候群はあくまでも状態を指す名称で、病名ではありません。

カサンドラ症候群の症状は、不眠や頭痛、動悸といった身体的不調と、抑うつや自己肯定感の低下、無気力といった精神的不調の2種類があります。これは、ASDの方の特性によって、感情的なつながりや共感、相互関係を保つことが困難であることが要因です。カサンドラ症候群にならないためには、専門機関へ相談したり、一緒に生活する上でのルールを決めたりといった対策が重要になります。

大人の発達障害の当事者や家族が利用できる相談先

大人の発達障害は自分たちだけでどうにかしようとするのではなく、適切な支援機関のサポートを受けることが大切です。大人の発達障害の当事者や家族が利用できる相談先には、発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなどが挙げられます。1つずつ詳しく見ていきましょう。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害の方とその家族をサポートする支援機関です。専門家が発達障害の特性に応じて個別の支援プログラムを提供するほか、家族に対する相談や情報提供を行います。困りごとが起こった際に気軽に相談できる場づくりも重要な役割の1つです。また、学校や職場、労働関係機関と連携し、発達障害の方が学びやすく、働きやすい環境づくりをサポートします。

そのほかにも、地域社会と協力し、発達障害への理解を深めるための啓発活動を行っているのも特徴です。

精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは発達障害や精神疾患のある方々やその家族に対して、治療に関する相談や支援を行う公的機関です。専門家によるカウンセリングやリハビリテーションプログラムの提供、心理検査などを行い、地域の医療機関とも連携します。

各都道府県および指定都市に精神保健福祉センターが設置されており、心の問題や病気で困っているご本人や家族が利用できる相談窓口として支援を行います。

当事者会・自助グループ

発達障害の当事者会・自助グループとは、発達障害の方やその家族が情報の発信や共有、仲間づくりを目的に集まり活動するものです。規模や開催頻度、参加者の年齢層、発達障害の種類などはグループによって異なり、ワークショップや講演会を行う会もあります。交流場所は公民館や民間のレンタルスペースなど幅広く、近年ではオンライン上で開催されることも少なくありません。

当事者会・自助グループは病院や相談窓口の情報交換のほかに、当事者や家族同士の気持ちを分かり合えるなど、精神的な支えにもなりえます。自分に似たタイプや境遇の人と出会い話をすることで、新たな気付きを得られるというメリットもあります。

親の会・家族会

親の会・家族会とは、発達障害を含めた精神疾患、知的障害、依存症などの身内がいる方が集まり、それぞれの体験や気持ちを共有する集まりです。病気や障害などにより家族会は分かれており、さまざまな地域に発達障害の親の会・家族会があります。

家族会には地域を基盤とした「地域家族会」や病院を基盤とする「病院家族会」、有志が結成した会など、いくつかの種類があります。団体によって人数は変わるものの、1回の開催で約10~20人、多いところで30人ほどが集まるようです。

親の会・家族会には、1人で気持ちを抱え込まないためのセルフケアとしての側面もあります。前述したカサンドラ症候群にならないためにも利用したい相談先の1つです。

大人の発達障害の方が利用できる就労支援機関

大人の発達障害の方が利用できる主な就労支援機関として、以下の4つがあります。

  • 就労移行支援所
  • ハローワーク
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 地域障害者職業センター

就労移行支援所とは、発達障害などの障害のある方を対象に一般就業を目指したサポートを行う支援機関です。「職業訓練」「就活支援」「定着支援」などを通して、スキルの習得から職場定着まで一貫したサポートが受けられます。また、ハローワークは障害の有無を問わず誰でも利用できますが、障害に関する専門知識のある職員が配置されていることが多く、障害のある方の就職・転職支援も行っています。

障害者就業・生活支援センターでは個別相談や就労支援プログラムを提供しているほか、企業と連携し障害のある方への雇用促進をサポートしているのが特徴です。地域障害者職業センターでは、障害のある方に対して職業リハビリテーションなど、さまざまなサポートや講習を提供しています。基本的な労働習慣を身につけられ、職場でのコミュニケーション方法も学ぶことが可能です。

Kaienの就労移行支援

Kaienは就労移行支援所として、発達障害の方に対して「職業訓練」「就活支援」「定着支援」を行っています。

職業訓練では、自分の特性を活かせる適職を見つけるため、常時100種類以上の職業体験を実施しています。職種はさまざまで、プログラミングやデザインを極めたい方には専門のクリエイティブコースもご用意しています。また、ライフスキル講座やスキルアップ講座も毎日開催されているので、困りごとへの対処法を学べるのも強みです。

就活サポートでは、発達障害や精神疾患に理解のある企業200社以上と連携し、あなたに合う職場を見つけていきます。Kaienのスタッフが二人三脚でサポートするので、就職活動に不安がある方でも安心です。

就職した後も定着支援として、Kaienのスタッフが業務の悩みや生活上の問題の解消に向け

手厚くサポートします。

Kaienでは随時無料の見学会や体験利用を実施していますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

Kaienでは、発達障害の方が自分らしく自立した生活を送れるよう、自立訓練(生活訓練)を行っています。Kaienがこれまでサポートした数千人のデータをもとに自立に必要なスキルを厳選し、実践的な内容を取り入れている点が当プログラムの特徴です。

プログラムは、生活スキルやコミュニケーションについて学ぶ「ソーシャルスキル講座」、講座で学んだ内容を2~8週間かけて実践する「マイ・プロジェクト」、スタッフと1対1で日々の振り返りや将来に向けての強みを探す「カウンセリング」の3段階に分かれています。ご家族とも連携し、あなたがより目標を達成しやすいよう手厚くサポートします。

大人の発達障害は家族や支援機関に早めに相談を

大人の発達障害のケアには、家族の理解や寄り添いが大切です。しかし家族内ですべてまかなおうとすると、孤立したりストレスや疲労で家族の方がカサンドラ症候群などの不調を引き起こしたりしかねません。重要なのは支援機関に早めに相談し、適切なケアを受けることです。

Kaienでは、「10代以降の発達障害を考える」をテーマに、大人の発達障害の方のご家族向けに「ペアトレ(勉強会)」を実施しています。ペアトレは将来を見据えた進学・進路の決定方法や就職活動の支援の仕方、経済面で考えておくこと、支援先の探し方など、ご家族の方の疑問や不安にお答えし、家族として何ができるのかを学べるセミナーです。興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

大人の発達障害が現在、大きな問題となっています。当院の初診にも「会社に勤務するようになってから問題が多発するようになり、発達障害を疑っている」とおっしゃって来る方が多くいらっしゃいます。良くお話を伺うと、小学生時代に忘れ物が多かったとしても親御さんがかなりカバーしてくれたとか、高校・大学までのんびりした環境だったので多少そそっかしい面があっても問題にならなかった、ということを聞きます。

これは、発達障害は個人と環境(学校、会社、周囲の人々)との相互作用で問題となったり、ならなかったりすることを意味していると言えるでしょう。環境が発達障害を持つ方に対して大らかであれば、問題は大きくならないのです。言い換えると、大人になって自分は発達障害かもしれないとメンタルクリニックを受診する方が増えているのは、会社や社会という環境が障害特性に対して大らかでないと言うことなのです。少し専門的に言い換えると、新自由主義に規定される資本主義経済と、いわゆる「発達障害」を持つ人たちとの内面が、齟齬を起こしていると言うことです。

それでは、新自由主義による資本主義経済とは一体何でしょうか?端的に言うと資本の本質は、「拡大し剰余価値をどこまでも求める存在」です*。以前であれば、お金に換算することのできなかった人間の良心、信条、価値観が今はSNSでつぶやき、画像、動画となって世界各地で発信され、フォロワー数が増えると収入になるシステムになっています。つまり、新自由主義は資本の進出をどこまでも許容し、ついには人間のこころまでが資本化されているのです。

不可解の極致である人間らしさ、と古典的に考えられてきたこころの中が、価値として数値化されると、そこに差異化、差別化、そして上下関係ができます。ここでの差異化、差別化はスキルを持って他人を惹きつけることができることで、上下関係はフォロワーの多い人、つまり稼いでいる人とそうでない人のことです。こうして、あらゆる人間の価値はSNSを通してランキング化されるのです。

集中力が続かない、他者の意図を理解するのが苦手、自分の感情をうまく表現できない、などの特性を持つ発達障害者は、社会に出て労働者になった途端に、資本家から「スキルがない(差異化・差別化の武器がない)」、「アピールに乏しい(何をすればウケるか周囲の期待が分からない)」と言う烙印を押されてしまうのです。

この問題を解決する方法は2種類ありそうです。一つは発達障害者が健常者に近づくべく、スキルを身に着け、なるべく相手の意図を理解できるようトレーニングすること、つまりノーマライゼーションです。これは社会の大勢に乗っかっているのでやりやすいです。ただし、発達障害者のこころがさらに数値化、機械化されるという問題を解決できません。もう一つは、人間の内面まで資本化してしまう新自由主義はおかしいのではないか、そのような社会はどこかで破綻しているのではないか、と疑うことです。これは社会の大勢に逆らうことなので、勇気のいる難しいことです。容易な解決策もありません。

しかし、「ポスト・トゥルース」(事実を軽視し、自分の思い込みを正当化する社会・世論)と言う言葉が2016年頃から頻出するようになり、民衆の突発的な怒りや思い込みで、社会の価値観が変動していると感じるのは私だけではないでしょう。私は一介の臨床医に過ぎませんが、社会情勢が変わり新たな弱者が出るたびに、新たな精神疾患の名称が誕生する歴史を見ていると、現在は大勢とされる社会通念にも必ずどこかに脆弱性を含んでいると感じざるを得ません。

*白井聡、武器としての資本論、東洋経済新報社

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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