指定難病は障害者手帳を取得できる?利用できる支援や相談窓口も紹介

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障害者手帳を取得すると、医療面や就労面などでさまざまなサポートを受けられるようになります。しかし、この障害者手帳は指定難病を持つ人でも取得できるのでしょうか。

この記事では指定難病と診断される条件や、障害者手帳の取得状況、障害者手帳のほかに利用できる制度や相談窓口について解説しています。日常生活や社会生活でのサポートを増やしたいとお考えの際は、ぜひ最後までご覧ください。

指定難病とは?

指定難病とは、難病(治りにくい病気、治し方がわからない病気)のなかで、国が難病法に基づいて医療費の助成対象としている病気です。ここでは指定難病の解説の前に、そもそも難病とは何か、難病と指定難病との違いについて解説します。

そもそも難病とは?

難病とは、厚生労働省の定義によると、次の3つの条件すべてを満たす病気です。

  1. 病気の原因がわからない、または病態が解明されていない
  2. 治療法が確立していない
  3. 希少な病気で長期にわたって療養を必要とする

なお、未知のウイルスによる感染症は1に含まないルールになっています。

難病と指定難病の違い

指定難病とは、前述した難病の3条件に加えて、次の3つの条件を満たす病気です。

  1. 国内の患者数が人口の0.1%程度に達しない
  2. 客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立されている
  3. 厚生労働大臣が指定した病気

したがって、指定難病は難病のなかに含まれます(下図参照)。

出典:甲府市「難病とは?」

また、指定難病は医療費助成の対象となるのに対し、それ以外の難病は対象外であるという違いもあります。指定難病は「良質かつ適切な医療を確保できるか」「療養生活を向上できるか」という国民保険の観点から指定されているからです。

指定難病はどれくらいある?

2024年4月時点において、指定難病の数は341です。指定難病は国の指定難病検討委員会によって毎年指定されています。平成26年から平成27年にかけては社会保障の拡大方針によって110から306に急増しましたが、その後はほぼ横ばいで推移しています。

患者数が多い指定難病の一例は次のとおりです。

  • 潰瘍性大腸炎(消化器系疾患)
  • パーキンソン病(神経・筋疾患)
  • 全身性エリテマトーデス(免疫系疾患)
  • クローン病(消化器系疾患)
  • 後縦靭帯骨化症(骨・関節系疾患)
  • 全身性強皮症(免疫系疾患)

最新情報については、難病情報センターにてご確認ください。

指定難病の人は障害者手帳をもらえる?

指定難病と診断されてさまざまな福祉サービスを利用している人でも、同時に障害者手帳を取得できます。障害者手帳とは障害を持っていることを証明するための手帳で、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類があります。

種類対象となる障害
身体障害者手帳・視覚や聴覚などの障害
・手足などの不自由
・臓器の機能障害
・免疫機能の障害、など
療育手帳・知的障害
精神障害者保健福祉手帳・うつ病、総合失調症など精神に関する病気
・てんかん
・発達障害*
・アルコール、薬物中毒、など

指定難病の多くは身体の障害に関係するため、指定難病の人のほとんどは身体障害者手帳を取得します。なお、3種類の障害者手帳は複数取得することも可能です。

難病の方の障害者手帳の取得状況とは?

難病の人における障害者手帳の取得状況を、厚生労働省が令和3年に作成した資料からみてみましょう。

この資料によると、平成28年12月1日時点における難病患者(※指定難病に限りません)の人数は942人で、そのうち56.3%の530人が障害者手帳を所持しています。この人たちが持っている障害者手帳の種類は以下のとおりです。

所持している障害者手帳の種類 人数(複数回答可)
身体障害者手帳501人
療育手帳37人
精神障害者保健福祉手帳45人

ご覧のように、難病の人のほとんどは身体障害者手帳を取得しています。

参考:厚生労働省「障害者雇用率制度・納付金制度について関係資料」

障害者手帳取得のメリット

障害者手帳を取得すると、以下のように多くのメリットがあります。

メリット具体例
医療面の支援を受けられる・障害者医療費の助成制度の対象になれる
保育面・教育面の支援を受けられる・保育園に優先的に入園できる
・特別支援学校への入学を希望する際に証明書類になる
就労支援を受けられる・就労面でのさまざまな支援が受けられる
・障害者雇用枠での就職が可能になる
税務的支援を受けられる・所得税、住民税、相続税の障害者控除
・自動車税、軽自動車税の減免
・預貯金の非課税措置(350万円まで)
割引制度を利用できる・公共交通機関の割引
・NHK料金の減免
・駐車場料金の割引
・美術館・博物館などの各種施設での割引

上記のうち、障害者医療費の助成制度と就労支援については後ほど詳しく解説します。

一方、障害者手帳を取得するデメリットは基本的にないといえるでしょう。障害者であると知られたくない人もいるかもしれませんが、障害者手帳の所持は本人が伝えない限り他人に知られません。

障害者手帳申請の流れ

障害者手帳申請の流れは次のとおりです。

  1. お住まいの自治体の障害福祉窓口で必要書類や手続きの手順を確認する
    窓口で手続きの流れと必要書類を説明してもらえます。また、医師の診断書が必要な場合に「指定医師診断書」を渡されます。
  2. 必要に応じて医師から診断書をもらう
    医療機関で簡単な問診、検査を受け「指定医師診断書」に診断結果を記入してもらいます。
  3. 必要書類を準備する
    「指定医師診断書」、証明写真、印鑑、障害者手帳(障害の程度変更の場合)を用意します。
  4. 障害福祉窓口に必要書類を提出
    提出後、審査に1カ月半程度かかります。審査終了後に市役所福祉課から承認文書が届くので、障害福祉窓口に出向いて身体障害者手帳を交付してもらいます。

障害者手帳以外の利用できる制度

ここでは指定難病の人が利用できる次の制度を解説します。

  • 医療費助成
  • 障害年金
  • 障害福祉サービス

医療費助成

医療費助成制度とは、特定の病気に対する予防や治療のための医療費や、介護サービスの利用料の自己負担分について、一部または全額の助成を受けられる制度です。指定難病の人が利用できる医療費助成制度の種類は「難病医療費助成制度」といいます。

対象者

難病医療費助成制度の対象者は、指定難病と診断された人のうち、次の条件のどちらかを満たす人です。

  1. 重症度分類に照らして病状の程度が一定程度以上
  2. 軽症高額該当

「重症度分類」とは、難病の種類ごとに厚生労働省が定めた分類です。例えば「潰瘍性大腸炎」の場合、「潰瘍性大腸炎の臨床的重症度を用いて中等症以上を対象とする」と条件が定められています。重症度分類を確認したい場合は、難病情報センターで病名を検索して「概要・診断基準等」タブを開いて、「要件の判定に必要な事項」の「重症度分類」の項目をご覧ください。

また「軽症高額該当」とは、重症度分類等を満たさないものの、月ごとの医療費総額が3万3,330円を超える月が年間3月以上あることです。つまり、医療費の負担が多い人は、病状を問わず助成を受けられる仕組みになっています。

自己負担額上限

難病医療費助成制度の助成内容は以下のとおりです。

  1. 医療費の自己負担が3割から2割に軽減される(もともと1割、2割負担の人は変更なし)
  2. 所得状況によって決まる自己負担上限額を越えた分は全額助成される

自己負担上限額の条件をまとめたのが以下の表です。

階層区分受給者証での表記階層区分の基準一般高額かつ長期人工呼吸器等装着者
生活保護00円0円0円
低所得11区市町村民税非課税(世帯)かつ本人年収80万以下2,500円2,500円1,000円
低所得22区市町村民税非課税(世帯)、かつ本人年収80万超5,000円5,000円1,000円
一般所得3区市町村民税課税以上7.1万円未満1万円5,000円1,000円
一般所得4市町村民税7.1万円以上25.1万円未満2万円1万円1,000円
上位所得5区市町村民税25.1万円以上3万円2万円1,000円
入院時の食事全額負担

出典:難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」

障害年金

障害年金とは、病気やケガによって生活や仕事が制限された場合に、現役世代から受け取れる年金です。国民年金の加入者は「障害基礎年金」、厚生年金の加入者は「障害厚生年金」として請求できます。ただし障害基礎年金は、年金未加入の20歳前に発病した場合も受給可能です。

受給要件には、病気の診断時期に関する要件と、保険料の納付要件があります。また、支給額は法令により定められた障害等級と、子どもがいるかどうかによって変わります。詳しい内容は以下のサイトでご確認ください。

参考:日本年金機構「障害年金」

障害福祉サービス

障害福祉サービスとは、障害を持った人の日常生活や社会生活を支援するためのさまざまな福祉サービスを指します。指定難病の人で身体に不自由がある場合には、身体障害者手帳が必要です。

サービスの概要を以下に示します。

サービスの種類具体例
介護給付・居宅、訪問介護
・行動援護、同行援護
・療養介護
・施設入所支援など
訓練等給付・自立生活のための訓練
・共同生活の援助(グループホーム)
・職業訓練
・生活訓練
・就労支援など

指定難病の方の相談窓口

指定難病の人が利用できる代表的な相談窓口は以下のとおりです。

  • 難病相談支援センター
  • 難病情報センター
  • 患者団体
  • 障害福祉窓口
  • ハローワーク
  • 就労移行支援事業所

それぞれの対応範囲や特徴を解説します。

難病相談支援センター

難病相談支援センターとは、難病のある人やそのご家族が、日常生活や療養、仕事などについて相談できる機関です。難病相談支援センターは各都道府県と指定都市に設置されています。

難病相談支援センターには、難病診療連携コーディネーターや難病診療カウンセラーといった専門的な知識や経験を持ったスタッフが在籍しているのが特徴です。例えば、専門的な見地から健康管理のアドバイスをもらったり、自分に合った医療機関を紹介してもらったり、就業時間や労働環境についての助言を受けたりできます。

難病情報センター

難病情報センターは、指定難病について情報収集する際の入り口になるような機関です。指定難病を持った人やそのご家族、医療関係者などの参考になる情報を集めて提供しています。

難病情報センターのサイトでは、以下の情報が掲載されています。

  • 病気の解説
  • 指定医療機関・指定医の案内
  • 難病の研究状況
  • 各種の福祉サービスや相談窓口の紹介
  • 患者団体、患者会の情報

確かな情報を知りたい場合は、難病情報センターのサイトにアクセスするとよいでしょう。

患者団体

患者団体とは、同じ病気や難病全般にかかっている患者やそのご家族が中心となって構成されている団体です。患者会や家族会などと呼ばれる場合もあります。

患者団体の主な目的は次のとおりです。

  • 同じ病気を持つ人、家族同士で支え合う
  • 病気を科学的に捉えるための情報を共有する
  • 難病を解明、治療するための働きかけを医療機関や国に対して行う

患者団体の情報は、先に紹介した難病情報センターのサイトに掲載されています。

障害福祉窓口

障害福祉窓口とは、一般的に、住んでいる市区町村の役所の福祉窓口を指します。障害福祉窓口では、障害を持った人が日常生活や社会生活をしやすくなるように、柔軟な対応ができる相談窓口としての役割があります。

障害福祉窓口では、次のように指定難病に関連すること全般が相談可能です。

  • 障害手帳の取得について
  • 障害福祉サービスの利用について
  • 各種の制度や手当の申請手続きについて
  • どの相談窓口に行けばよいかの相談
  • 介護支援に関すること

困ったときは気軽に相談してみるとよいでしょう。

ハローワーク

ハローワークとは、仕事を探している人が職業相談や求人情報の閲覧、職業訓練の申し込みなどをできる機関です。また、労働条件や職場環境、不当な解雇などについて相談や、離職時の雇用保険の手続きなどもハローワークで行えます。

ハローワークを活用するメリットは、難病の人を対象にした雇用支援を受けられる点です。「難病患者就職サポーター」という専門的な知見を持ったスタッフがおり、指定難病の特性を踏まえたきめ細やかな就職支援を受けられます。また、在職中に難病を発症した人に対しても、雇用継続のための総合的な支援を行っています。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、身体障害や知的障害、精神障害、難病のある人が一般就労を目指す際に、職業訓練や就職支援、職場定着支援を受けられる機関です。障害者総合支援法に基づいて国からの支援を受けた民間企業や団体が運営しています。

就労移行支援事業所の利用者は基本的に失業中の人です。つまり、以前は働いていたものの、指定難病によってやむをえず離職した人などが活用しています。

以下のような希望を持っている人は、就労移行支援事業所の利用がおすすめです。

  • 就労に必要になる実践的な知識や技能を身に付けたい
  • 難病と付き合いながら働ける職種、職場を紹介してもらいたい
  • 健康管理のスキルを高めるために体調管理の指導を受けたい
  • 就労後に職場定着のためのサポートを受けたい

就労移行支援事業所の利用は通算24カ月間までです。

指定難病の人も障害者手帳は取得できる!必要に応じて取得を検討してみよう

指定難病を持つ人の多くは身体障害者手帳を取得して、医療面や就労面など広い範囲で支援を受けられます。また障害者手帳以外にも、医療費助成制度や障害年金、障害福祉サービスなど、さまざまなサポートがあります。相談できる窓口も多いので、必要に応じて活用するとよいでしょう。

Kaienが運営している就労移行支援事業所も、指定難病を持つ人が活用できる機関の一つです。Kaienでは指定難病とうまく付き合いながら働ける職種や職場を見つけるお手伝いをしています。また、希望の就労に合わせた職業訓練や自立訓練(生活訓練)のプログラムを提供しています。一般就労を目指す際に活用をご検討ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

指定難病の数は現時点で341。結構多い数ですよね。医療的支援は当然のこと、経済的支援を是非受けてください。障害者手帳取得や各種助成制度は安心に繋がるはずです。病気を抱えながら就労を考える際には、就労移行支援をはじめとした社会資源は、心強い味方となるでしょう。そして、心理的支援も必要に応じて。精神科医が役立つ部分もあろうかと思います。

また、多くの方々が様々な難病と共に生活していることを考えると、まだ発見(診断)されていない難病の方もいるはずです。昨年、私の外来患者さんの中に、メンタルの相談が主ではあったのですが、これまでしっかり取り上げて来られなかった症状に難病と一致する部分のある方がおられました。大学と共同して診断ができ、治療が開始されました。そして、実はその方の治療には莫大な費用がかかる薬があるのです。そのために難病医療費助成制度が役立っていることは言うまでもありません。治療を諦めていた症状に、診断が隠れていることがあるのだという教訓もありましたが、指定難病であることで使える制度があることにほっとしました。病気で苦労されることは勿論あるわけですが、社会資源の利用により、少しでもほっとできる部分ができることを願います。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。