障害者手帳とは?取得のメリットや申請方法、よくある質問を解説

HOME大人の発達障害Q&A制度障害者手帳とは?取得のメリットや申請方法、よくある質問を解説

障害者手帳は自治体が交付する手帳で、取得すると各種サービスの利用や税金の減免などさまざまな支援が受けられます。「障害者手帳を取得すべきか迷っている」「自分は障害者手帳の対象なのか知りたい」という人もいるでしょう。

この記事では、障害者手帳の種類や取得するメリット、具体的な申請方法などを詳しく解説します。ご自身やご家族が障害者手帳の取得を検討しているという方は、ぜひ参考にしてくださいね。

障害者手帳とは

障害者手帳とは、何らかの障害を抱える人に対して自治体が交付する手帳です。障害者手帳を持っている人は障害者総合支援法の対象となり、法律にもとづくさまざまな支援が受けられます。自治体や事業者が独自のサービスを提供していることもあり、障害者手帳を持っていると受けられる支援の幅が広がるのが特徴です。

詳しくは後述しますが、障害者手帳にはいくつか種類があり、障害の内容や状態に応じた手帳が交付されます。

障害者手帳の種類と等級

障害者手帳には、次の3つの種類があります。

  • 身体障害者手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 療育手帳

この3つの障害者手帳はそれぞれ異なる法律に基づいていて、障害の内容に応じた手帳が交付されます。また、障害者手帳には等級もあり、日常生活にどれくらいの支障があるかや症状の程度に応じた等級に区分されます。

身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳のそれぞれについて、対象となる人や等級の区分を詳しく見ていきましょう。

身体障害者手帳

身体障害者手帳は、身体の機能に一定以上の障害を持つと認定された人に交付される手帳です。具体的には、以下の障害を持つ人が対象です。

  • 視覚障害
  • 聴覚・平衡機能障害
  • 音声・言語・そしゃく障害
  • 肢体不自由(上肢不自由、下肢不自由、体幹機能障害、脳原性運動機能障害)
  • 心臓機能障害
  • じん臓機能障害
  • 呼吸器機能障害
  • ぼうこう・直腸機能障害
  • 小腸機能障害
  • HIV免疫機能障害
  • 肝臓機能障害

参考:厚生労働省「障害者手帳」

身体障害者手帳は、原則として更新は必要ありません。ただし、障害の状態が軽減される可能性がある場合には、手帳の交付から一定期間を置いて再度認定を行うケースがあります。

身体障害者手帳の等級は、1〜7級の7区分です。等級の数字が小さいほど障害の程度が重いことを表し、障害の分類と等級ごとに細かい定義が定められています。例えば、聴覚障害の場合、2級は「両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上のもの(両耳全ろう)」に該当する人に交付されます。

参考:厚生労働省「身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)」

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害を持つ人に交付されます。交付対象となるのは、次の精神障害です。

  • 統合失調症
  • 気分(感情)障害
  • 非定型精神病
  • てんかん
  • 中毒精神病
  • 器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)
  • 発達障害*
  • その他の精神障害

参考:厚生労働省「障害者手帳」

精神障害者保健福祉手帳には、原則2年の有効期限があります。有効期限を超えても継続して手帳を保有したい場合には、更新手続きが必要です。

精神障害者保健福祉手帳の等級は1〜3級の3区分で、精神疾患の状態と能力障害の状態の2つから判断されます。精神疾患の状態は障害の種類ごとに細かく症状が定義されていて、能力障害の状態は日常生活や仕事における支障の程度が判断基準になります。

参考:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」

発達障害を持つ人は、精神障害者保健福祉手帳の対象です。発達障害専用の障害者手帳はないため、障害者手帳の交付を希望する発達障害の人は精神障害者保健福祉手帳を申請しましょう。

療育手帳

療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所で知的障害があると判定された人に交付される手帳です。自治体によっては、「愛の手帳」などの名称で呼ばれることもあります。

療育手帳の有効期限は、原則2年です。ただし、成人してからは有効期限が長くなったり更新不要になったりすることもあり、対応は自治体によって異なります。

療育手帳の等級の区分は「重度・それ以外」「重度・中度・軽度」「最重度・重度・中度・軽度」など、自治体ごとに異なるのが特徴です。18歳以下は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所で知能指数と日常生活への支障の程度を判定し、自治体が定める基準に応じて等級が決まります。

障害者手帳のメリット

障害者手帳を取得した人は障害者総合支援法の対象となり、さまざまな支援を受けられるのがメリットです。具体的には、以下のような支援が受けられます。

  • 障害者雇用の求人に応募できる
  • 就労に関する支援を受けられる
  • 医療費の助成や公共料金の割引など経済的な支援を受けられる

ここでは、障害者手帳を持つことでどのようなメリットがあるのかを詳しく解説します。

障害者雇用の求人に応募できる

障害者手帳を持っていると、就職や転職の際に障害者雇用枠に応募できます。障害者雇用枠は障害者雇用促進法に基づく制度で、規模が一定以上の企業は一定割合人数の障害者を雇用しなければなりません。

障害者雇用枠の求人は障害を持つ人の採用を前提としていることから、理解や配慮のある職場環境で働けるのがメリットです。具体的な対応は企業によって異なりますが、障害特性に応じて職場環境を整えたり指示の仕方を工夫したりしている企業もあります。

障害者手帳を持っていると通常の一般雇用枠と障害者雇用枠のどちらにも応募できるため、就職・転職の選択肢の幅が広がるのもメリットです。

就労に関する支援を受けられる

障害者手帳を持つ人が就労を希望する場合、自治体や専門機関でさまざまな支援を受けられます。職業訓練の実施から就職活動のサポート、就職先への定着支援まで、障害を持つ人が安定して就労できるようにあらゆる面での支援策が用意されています。

ハローワークや就労移行支援事業所、地域障害者職業センターなど、障害を持つ人の就労を支援している機関は多くあるため、就職を希望する人は利用を検討してみてください。いきなり職業訓練などに進むのではなく、まずは不安や悩みの相談から始めることも可能です。

医療費の助成や公共料金の割引など経済的な支援を受けられる

障害者手帳を取得すると、助成や割引などさまざまな経済的支援を受けられるのも大きなメリットです。具体的な支援には、以下のようなものがあります。

  • 医療費の負担軽減
  • 各種税金の控除や減免
  • 公共交通機関の運賃割引
  • 住宅リフォーム費用などの助成
  • NHK受信料の減免
  • 博物館などの施設の利用料割引 など

実際に受けられる経済的支援は自治体や手帳の種類、等級などによって変わってきます。上記のような支援を希望する場合は、お住いの自治体の障害福祉窓口で詳細を確認してみてください。

障害者手帳のデメリットはある?

障害者手帳を取得するとさまざまな支援やサービスが受けることができ、基本的にデメリットはありません。ただし、障害者手帳を取得することに精神的な抵抗があるという人もいるようです。

その他のデメリットとしては、申請や更新の手間がかかることが挙げられます。障害者手帳を取得するにはお住まいの自治体への申請が必要で、書類や顔写真などを用意しなければなりません。自治体によっては、申請から交付まで数ヶ月かかることもあります。

身体障害者手帳なら基本的に更新は不要ですが、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳は原則2年の有効期限があるため、定期的な更新手続きも必要です。また、手帳を失くしたり別の自治体に引っ越したりした際にも、それぞれ手続きを行わなければなりません。

障害者手帳に関するよくある質問

「そもそも障害者手帳は取得が必要?」「取得したら周りにバレる?」など、障害者手帳について疑問や心配事を持っている人も多いのではないでしょうか。ここでは障害者手帳に関するよくある5つの質問を紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。

障害者手帳は必ず取得しなければならない?

障害者手帳は条件を満たせば自動的に送られてくるものではなく、申請した人にのみ交付されます。申請するかどうかは本人の意思に任されているので、取得が必須というわけではありません。医師の診断があれば障害者手帳がなくても利用できる支援もあるため、必要性を感じたときに取得するという選択肢もあります。

障害者手帳を取得すると周りにバレる?

「障害者手帳を持っていることを周りに知られたくない」という人もいるかと思います。自分から障害者手帳を持っていることを話したり実物を見せたりしない限り、周りにバレることはないので安心してください。ただし、障害者控除を受けていると年末調整の際に会社に知られる可能性はあります。

障害者手帳は途中で返却することはできる?

取得した障害者手帳は、有効期限を待たずに途中で返却することができます。「一度取得してみて、不要だと感じたら返却する」という対応でも大丈夫です。障害者手帳の返還については法律で定められていて、症状や特性がなくなったり不要になったりした場合には返却しなければなりません。必要なくなったからといって、無断で捨ててしまわないように注意してください。

障害者手帳がなくても就労支援などのサービスは利用できる?

障害者手帳を取得しなくても利用できるサービスはあります。もし利用したいサービスが障害者手帳の取得必須でなければ、手間や時間をかけて手続きをする必要はないという考え方もあるでしょう。障害者手帳を取得するかどうかは、利用したいサービスで取得が求められるかどうかも判断ポイントになります。

例えば、障害を持つ人の就職をサポートする就労移行支援は、障害者手帳がなくても利用が可能です。就労移行支援事業所に通所し、就労に向けたトレーニングや応募書類の作成、面接対策などの支援が受けられます。

就労移行支援を利用する際に必要となるのは、「障害福祉サービス受給者証」です。障害者手帳と同じく、自治体に申請して取得します。

障害者手帳の等級と障害年金の等級は同じ?

障害者手帳と障害年金は、全く別の制度です。障害年金も障害者手帳のように障害の程度に応じた等級がありますが、区分や等級の定義は異なります。障害年金を受給している人が障害者手帳を取得するとき、2つの等級が同じになるわけではありません。

障害者手帳の等級は、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳それぞれの基準によって定められます。

障害者手帳をもらうには?申請方法を紹介

障害者手帳を取得するには、お住まいの自治体の障害福祉窓口で手続きを行います。自治体によっては申請から交付まで数ヶ月かかることもあるので、障害者手帳が必要な人は申請の流れを把握して早めに手続きを始めるのがおすすめです。

手帳の種類ごとの申請方法を紹介しますので、チェックしておきましょう。

身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳の申請方法

身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳は、以下の方法で申請できます。

  1. お住まいの自治体の障害福祉窓口で必要書類や手続きの手順を確認する
  2. 必要に応じて医師から診断書をもらう
  3. 申請書類や顔写真、身分証明書など必要なものを用意する
  4. 自治体の障害福祉窓口に申請書や必要書類を提出する

申請内容に問題がなければ、審査を経て1〜3ヶ月ほどで障害者手帳が交付されます。

本人による申請が難しい場合は、家族などが代理で申請することも可能です。この場合は、委任状や代理人の本人確認書類などを追加で用意しましょう。代理人による申請時にどのような書類が必要になるかは、お住まいの自治体の窓口に問い合わせてみてください。

また、窓口での申請が困難な場合は、郵送で申請する方法もあります。こちらも、詳細については自治体の障害福祉窓口に確認してみてください。

療育手帳の申請方法

療育手帳を取得する場合、次のような流れになります。

  1. お住まいの自治体の障害福祉窓口で必要書類や手続きの手順を確認する
  2. 申請書類や顔写真、身分証明書など必要なものを用意する
  3. 自治体の障害福祉窓口に申請書や必要書類を提出する
  4. 児童相談所もしくは知的障害者更生相談所で面接や知能検査を受ける

身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳は医師の診断後に手帳の申請を行うのに対して、療育手帳は申請をしてから面接や知能検査を受けるのが特徴です。

療育手帳の取得を申請すると、判定のための面談を行う日時・場所の連絡があります。面談を受けて申請手続きに問題がなければ、申請から1〜2ヶ月ほどで療育手帳が交付されます。

原則として本人もしくは保護者が申請をする必要がありますが、自治体によっては代理申請も受け付けているので、詳細はお住まいの自治体に確認してみてください。

障害者手帳について理解を深めよう

障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3種類があります。障害の分類によって取得できる手帳の種類が異なり、同じ障害でも状態や程度によって等級が変わります。

障害者手帳を取得しても自分から話したり見せたりしなければ周囲に知られることはなく、取得するデメリットは基本的にありません。障害者手帳があると各種支援や税金の減免が受けられるので、手帳の取得を希望する人はお住まいの自治体の障害福祉窓口で手続きを行いましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

私は外来で書く診断書として、年間を通じて精神障害者保健福祉手帳を書くことが診断書の中では一番多くなりました。それだけ当事者の方にとってメリットが大きいのだと感じています。思うに、「障害者」手帳という呼称に抵抗を感じられる方が多いかと思います。実際私はこの呼称がどうにかならないかと思っていますが、手帳の取得自体は、記事にある通り、それが必要な方にとってメリットが極めて大きいはずです。特に、就職活動を、一般就職と障害者雇用と選択肢を増やして探すことができるのは、チャンスを広げる意味でもとても大きいメリットです。就職を考えるときだけでなく、就業先でも、障害者手帳の取得により、適切な配慮をしつつも、給料/待遇は変えないという会社もありますので、その場合はより良い形で働く手段としても役立てることが可能です。是非、ご自分の状況に照らして取得のメリットがありそうなら、周囲の方や、支援機関、そして主治医と相談してみてください。尚、取得しようと思ったら、また更新の時期には、できるだけ早く主治医にその旨を伝えてみてくださいね。主治医も作成に数週間から1ヶ月程度必要とすることが多いはずです。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。