現在、障害者向けの就労支援サービスは着実に数を増やしており、国としても障害者の社会進出を推進しています。
そうした経緯から、「就労選択支援」というサービスが新たに仲間に加わることになりました。サービスの概要についてはまだ検討段階ですが、開始予定は2025年が目途とされています。
このサービスが導入されることで、よりご本人に合った働き方や就労先を選択できるようになるため、1人ひとりが本来持っている可能性をより広げていけることにつながるかもしれません。
本記事では、就労選択支援の概要について、分かりやすく解説しています。
「就労選択支援」とはどんなサービス?
就労選択支援とは、働く意志のある障害者の意欲や能力、適性などをアセスメントし、ご本人に合った選択やルートを提供するサービスです。
このサービスは、2022年10月に行われた「障害者総合支援法」の改正に伴い、創設されています。また、厚生労働省が発表した内容には、以下の文が記されています。
就労アセスメント(就労系サービスの利用意向がある障害者との協同による、就労ニーズの把握や能力・適性の評価及び就労開始後の配慮事項等の整理)の手法を活用した「就労選択支援」を創設するとともに、ハローワークはこの支援を受けた者に対して、そのアセスメント結果を参考に職業指導等を実施する。
厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の施行に関する政省令事項について」より
これまで、障害のある方が就労支援サービスを利用する際は、ご本人が希望するサービスを選び、直接支援先とコンタクトを取って利用を開始するという流れが一般的でした。しかし、合わないサービスを選んだ結果、希望通りに働けない、就労がなかなか定着しない、などのミスマッチが起こることがしばしばありました。
また、能力的に一般就労でも活躍できる可能性がある方の場合、一つのサービスや事業所を使い続けることで、新しい道を選択する機会や視野が縮小し、結果的にご本人の可能性を狭めてしまうという事態を招くことになります。
そうした課題を解決するために導入されたのが、就労選択支援です。知識や自己理解が十分でない方がご自身で方向性を検討する際に、就労選択支援の力を借りることで、よりご本人の希望や適性とマッチしたサービスや就労先を選択しやすくなります。
就労選択支援の具体的なサービス内容
就労選択支援のサービス内容について、まだ確定的なものは公表されていません。現時点では、検討段階であるため、今後も細かな部分は変更が加えられていくことが予想されます。
ここでは、検討されているサービス内容について、詳しく説明していきます。
就労選択支援の流れ
就労選択支援について、厚生労働省が発表している概要をまとめると、以下のようになります。
参照元:厚生労働省「就労選択支援に係る報酬・基準について≪論点等≫」
- 就労アセスメントの作成
利用者のご希望や就労能力などを査定し、ご本人の今の状況を把握します。- 複数の関係機関とのケース会議
作成したアセスメントの結果をもとに、市町村、地域障害者職業センター、医療機関、ハローワークなど、必要な関係機関と利用者の適切な方向性について協議します。- 就労アセスメントの結果をまとめる
利用者ご本人やそのご家族に対し、アセスメント結果を共有することで、ご本人が進む道を選択するためのサポートを行います。- 事業者や就労支援機関との連絡調整
アセスメント結果を踏まえて適切な支援を行えるように、就労支援機関と事前に情報の共有や連携を実施します。
なお、上記のプロセスについては、すべてご本人と合意形成を行ったうえで実施するため、就労選択支援を行う支援員がご本人の意思を尊重せず、一方的に見解を押し付けることことはありません。就労アセスメントに関しても、ご本人と相談しながら共同で作成を行います。
また、情報提供や助言についても、随時ご本人に行っていくというのが前提です。最終的に決めるのはご本人自身であるため、就労選択支援の立ち位置は、あくまでもご本人が適切な選択をするためのサポートをする立場になります。
就労アセスメントの方法
就労選択支援で採用された「就労アセスメント」という手法は、元々は、就労移行支援事業所が、就労継続支援B型の利用希望者に対して行っているものでした。
アセスメントの方法としては、1ヶ月間の作業活動の様子観察や面談を通し、そこからご本人の能力や職業適性、得意・不得意、必要な配慮などを、複数の関係機関と連携しながら見極めていくという流れです。
その結果をもとに、ハローワークで就職先を探すのか、あるいは就労系サービスなどを利用しながら就職活動をしていくのかなどを協議していきます。
サービスの質と中立性の担保について
利用者の方向性を検討する際、就労選択支援を行う事業所の一支援員が査定した情報だけで決定するのは、説得性としては不十分と言えるでしょう。
そのため、就労選択支援を行う際は、サービスの質と中立性の担保を図るために、②で示した「複数の関係機関とのケース会議」を実施しています。
各関係機関が、利用者へのサービス提供を通して把握した情報や、それぞれが保有している知識を相互に共有することで、より綿密なアセスメントを行えるようになります。
就労選択支援の運営主体は?
就労選択支援のサービスを実施するにあたって、新たに「就労選択支援事業所」を設立するということはありません。
現時点では、既存の障害者向け就労系サービスを運営する事業所が実施する、という方針で検討されています。ちなみに、厚生労働省が提示している運営主体は、以下の通りです。
就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、障害者就業・生活支援センター事業の受託法人、自治体設置の就労支援センター、人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)による障害者職業能力開発訓練事業を行う機関、これらと同等の障害者に対する就労支援の経験及び実績を有すると都道府県等が認める事業者
引用元:厚生労働省「就労選択支援に係る報酬・基準について≪論点等≫」
上記で挙げられている支援機関は、サービスの質と中立性を担保するという意味でも、重要な役割を担っていると言えます。
厚生労働省が公表している運営主体の条件にも、「障害者就労支援に一定の経験・実績を有し、地域における就労支援に係る社会資源や雇用事例などに関する情報提供が適切にでき、過去3年間において3人以上、通常の事業所に新たに障害者を雇用させている」というのが付け加えられています。
就労選択支援を利用できるのは?
就労選択支援は、働く意欲があり、就労系サービスを利用して就職したいと考えている、すべての障害者の方が対象です。なお、ここで述べている就労系障害福祉サービスとは、就労継続支援A・B型、就労移行支援などを指します。
また、今後の方針として、上記のサービスを新たに利用する意志がある方、あるいは既にサービスを利用しており、支給決定の更新意志がある方に関しては、就労選択支援の利用が「原則必須」となるサービスがあります。詳細は以下の通りです。
①新たに利用する意志がある方
サービスの種類 | 利用方針 | |
---|---|---|
就労継続支援B型 | 下記に該当しない方 | 2025年10月から原則利用必須 |
・50歳に達している方 ・障害基礎年金1級受給者 ・就労経験がある方 | 任意 | |
就労継続支援A型 | 2027年4月から原則利用必須 | |
就労移行支援 | 任意 |
②既に利用しており、支給決定の更新意志がある方
サービスの種類 | 利用方針 | |
---|---|---|
就労継続支援B型 | 下記に該当しない方 | 任意 |
・50歳に達している方 ・障害基礎年金1級受給者 ・就労経験がある方 | ||
就労継続支援A型 | ||
就労移行支援 | 2027年4月から原則利用必須 ※標準利用期間を超えて更新を希望する方 |
参考元:厚生労働省「就労選択支援に係る報酬・基準について≪論点等≫」
さらに、特別支援学校に通う生徒に関しては、卒業後にご自身の希望に合った働き方が叶うよう、在学中に就労選択支援を利用することを基本とする方針が打ち出されています。
就労選択支援の利用が自身の可能性を知る機会に
ここまで、就労選択支援の概要についてご紹介してきました。文中でも何度か説明させていただきましたが、就労選択支援が行うことは、ご本人の就労に対する可能性を見定め、就労選択の機会を適切に提供することです。
最終的な決定権はご本人にありますが、就労選択支援を利用することで、自分が本来持っている就労の可能性を知ることができるとともに、選択肢の幅を広げることが可能になります。
この就労選択支援が一般に広まることで、働く意欲や能力がある障害者すべての方が、ご本人に合った適切なフィールドで活躍していけるようになれるとよいですね。
監修者コメント
新しい支援、ということで私自身今日は記事を読みながら勉強しました。新制度が実際どのように運営されるのか、またメリット・デメリットは想定通りかは、動き出してみないとわからないことはこれまで経験しています。正直ちゃんとした就労支援サービス事業者は既に事実上やっていることも含まれている気もしましたが、どうなのでしょうか。特別支援校在学中など、学校に今いる人にとっては是非使うと良い制度には感じられました。2025年から開始が見込まれるとのことですから、来年ですね。利用者にとってよりメリットのある制度が加わるのであれば有り難いと思いますし、私も注視していきたいです。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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