全国のハローワークには、障害者専用窓口が設置されています。障害者専用窓口には障害について深く理解している専門のスタッフが在籍していて、一人ひとりの特性などを踏まえて条件に合う求人を紹介してくれます。
この記事では、就職を考えている障害者の方に向けて、ハローワークの障害者専用窓口について詳しく解説します。相談できる内容や利用するメリット、実際に利用するときの流れなどを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
ハローワークの障害者専門窓口とは?
全国のハローワークには、一般の窓口のほかに障害を持つ人のための専門窓口が設置されています。「専門援助部門」という名前の窓口で相談すると、専門知識を持ったスタッフがそれぞれのニーズや特性に合わせたサポートを提供してくれます。
障害を持つ人が就職を目指す場合、この専門援助部門に相談するのがおすすめです。手話や筆談に対応できるスタッフや障害者支援に特化したノウハウを持つスタッフが在籍しているので、一般の窓口よりも手厚い支援が受けられます。
専門援助部門ではまず面談を行い、一人ひとりの障害の特性を把握したうえで適した職場を紹介してくれます。また、仕事の紹介だけでなく、希望の職場での実習や個別の求人開拓、就職後の定着支援まで一貫したサポートが受けられるのもメリットです。
障害者専門窓口で対応できる相談
ハローワークの障害者専門窓口では、以下のような相談に対応しています。
- 仕事をしたいが不安がある
- どのような仕事が向いているかわからない
- 採用面接で自分のことをうまく説明する自信がない
- 就職しても長続きしないのではないかと心配
上記5つの相談についてどのような対応をしてもらえるのか、以下で詳しく解説します。これらの不安を抱えている人は、ぜひチェックしてみてください。
仕事をしたいが、不安がある人からの相談
就職を希望しているものの、「就職活動の進め方がわからない」「自分が本当に働けるのか不安」といった悩みを抱えている人も多いでしょう。ハローワークの障害者専門窓口では、仕事の探し方や履歴書の書き方など、就職活動に関するさまざまな相談ができます。障害を持つ人を対象とした求人情報も提供しているので、「働ける職場が見つからないのでは」と不安に感じている人も、一度相談してみましょう。
また、ハローワークでは障害者就業・生活支援センターなど各支援施設と連携しているので、生活面を含め幅広い支援を受けたいという人からの相談も受け付けています。
どのような仕事が向いているかわからない人からの相談
「どのような仕事が向いているのかわからない」という人には、障害の状況や特性、これまでの経験などを専門スタッフがヒアリングしたうえで、具体的なアドバイスを行います。障害者専門窓口のスタッフは障害に関する専門知識があり、障害を持つ人の就職に関するノウハウがあるため、適切なアドバイスが受けられるでしょう。
現時点での職業能力や適性を把握したい場合には、必要に応じて専門機関による無料の職業評価の案内を実施しています。就職するために新たなスキルを身につけたいという人は、無料の職業訓練を案内してもらうことも可能です。
採用面接で、自分のことをうまく説明する自信がない人からの相談
障害を持つ人が働く場合、それぞれの障害や特性に応じた配慮を必要とすることがあります。しかし、面接の際に自分のことをうまく説明する自信がない人も多いのではないでしょうか。このようなときにも、ハローワークの障害者専門窓口を活用しましょう。
障害者専門窓口では、求人に応募する際に必要な配慮の内容などをハローワークから企業に説明します。また、不安な場合は採用面接に支援員が同行することも可能です。
就職しても長続きしないのではないかという心配がある人からの相談
「就職できたとしても長く働き続けられるか心配」という人もいるでしょう。ハローワークの障害者専門窓口では、仕事の紹介や面接指導といった就職までの支援だけでなく、就職した職場への定着支援も実施しています。
就職したあとも電話や訪問を通じて継続的に支援を行う体制となっているので、困りごとや不安な点があればすぐに相談できます。また、ジョブコーチという専門知識を持った援助者が就職先を訪問し、職場に適応できるようさまざまな支援制度を紹介することも可能です。
ハローワークはオンラインでも利用可能
障害を持つ人は、さまざまな事情でハローワークの窓口を訪れるのが難しいケースも多いでしょう。「窓口に行くのは難しいけどハローワークで仕事を探したい」という場合は、オンラインサービスの活用がおすすめです。
ハローワークは自宅のパソコンやスマートフォンから求人を検索できるサービスがあり、窓口を訪れなくても仕事を探したり求人に応募したりできます。また、オンラインでの求職活動に困ったら、オンラインでの登録内容をもとに窓口での相談にスムーズに対応してもらえるのもメリットです。
ハローワークのオンラインサービスを利用するには、まず「求職者マイページアカウント登録」からマイページを開設してください。マイページには、気になった求人の保存やオンラインでの職業紹介、気になった求人への直接応募などさまざまな機能があります。
厚生労働省のホームページには、ハローワークのオンラインサービスの操作方法の動画が掲載されているので、こちらも参考にしてください。
参考:厚生労働省「ハローワークのオンラインサービスのご案内」
障害者の方がハローワーク利用するメリット
障害者の方がハローワークを利用する主なメリットは、以下の2点です。
- 障害者専用求人の案内がある
- 障害について専門的な知識を持つ担当者の支援が受けられる
ハローワークは国が運営する機関で、求職者が無料で利用できるのと同じく企業側も無料で求人を掲載できます。そのため、一般求人に加えて障害者雇用の求人も多く掲載されています。また、企業向けに障害者雇用の理解を深めるセミナーや求職者とのマッチングなども実施していて、障害者雇用を進めたい企業との結びつきがあるのも特徴です。
ハローワークの障害者専門窓口には、障害について理解のある専門の相談員が在籍しています。そのため、専門性の高い支援が受けられるのもメリットです。一人ひとりの障害や特性を踏まえて、就職から職場への定着まで丁寧な支援が受けられます。
障害者専用求人の利用に必要な持ちもの
ハローワークが扱う障害者専用求人に応募したい場合は、以下の持ちものを用意する必要があります。
- 障害者手帳
- 医師の診断書
障害者雇用の求人に応募するには、障害者手帳が必要です。障害者専用求人を利用したい場合は、まず障害者手帳を取得しましょう。また、場合によっては障害の特性や程度を把握するために医師の診断書が求められることがあります。現状を正確に伝えられると自分に合った求人を紹介してもらいやすくなるので、最新の診断書を用意しておくとよいでしょう。
必須ではありませんが、希望の勤務条件をメモに書き出しておくのもおすすめです。窓口で希望条件を明確に伝えられ、求人探しがスムーズに進みます。勤務地や勤務時間、バリアフリー設備など、求める条件をピックアップしてみてください。
ハローワークで障害者専用求人に申し込む方法
ハローワークで障害者専用求人に申し込むには、以下の手順で進めます。
- 求人申し込み手続きを行う
- 求人を検索する
- 求人について相談する
- 求人へ応募する
それぞれのステップについて、以下で詳しく見ていきましょう。
求人申し込み手続きを行う
ハローワークを利用するには、まず求職申し込み手続きが必要です。お住まいの地域のハローワークの障害者専門窓口(専門援助部門)で仕事を探したい旨を伝え、登録を行います。ハローワークに設置されたパソコンで必要事項を入力して登録するほか、パソコンの操作が難しい場合は紙の求職申込書による登録も可能です。
登録時に希望の仕事や勤務時間などを入力するので、事前にメモなどに書き出しておくとスムーズに登録を進められます。
手続きが完了すると、ハローワークカードが発行されます。ハローワークの窓口で相談や仕事の紹介を受けるには、このハローワークカードが必要です。
求人を検索する
求職申し込み手続きが完了したら、ハローワークが取り扱っている求人を検索できるようになります。ハローワークに設置されているパソコンはもちろん、自宅のパソコンやスマートフォンからも求人検索ができるようになっているので、希望の仕事を探しましょう。
求人について相談する
気になる求人があれば、窓口に相談すると求人に関する詳細な情報を提供してもらえます。求人票に不明な点や気になる点がある場合は、窓口で確認しましょう。必要に応じて、企業に直接問い合わせて確認してもらうことも可能です。
「自分に合った仕事がわからない」「仕事探しで不安なことがある」といった人も、窓口で相談してみましょう。障害者専門窓口では、専門知識を持った相談員がさまざまな不安や疑問に答えてくれます。
求人へ応募する
希望に合う求人が見つかったら、ハローワークを通じて応募します。面接日が決定したら応募先の住所や面接日時などが記載された紹介状がハローワークから発行されるので、紹介状を持って面接に行きましょう。
応募する前に、応募書類の作成支援や面接指導などを受けることも可能です。必要に応じてこれらの支援も活用してください。
ハローワークで利用できるその他の支援制度
ハローワークでは、仕事の紹介や就職活動のサポートのほかにも利用できる支援制度があります。ここでは、障害を持つ人の就職を支援するためにハローワークが用意している制度を紹介します。
トライアル雇用
トライアル雇用とは、経験不足などで就職が困難な人が試行雇用を経て無期雇用への移行を目指せる制度です。3〜6ヶ月の試行期間が設けられ、この期間で労働者と企業がお互いを理解できるため、ミスマッチを防いで長く働ける職場を見つけやすくなります。
また、精神障害や発達障害*のある人で週20時間以上の勤務が難しい場合、週10〜20時間から始めて最大12ヶ月間のトライアル期間に週20時間以上の就業を目指せる「障害者短時間トライアル雇用」という制度もあります。
職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援
障害を持つ人が職場に十分適応できていない場合、職場に職場適応援助者(ジョブコーチ)が出向いて支援を行う制度があります。障害の特性を踏まえて専門的な支援を行うことで、職場への適応や定着を図る制度です。
障害を持つ人に対しては他の従業員との関わり方や仕事の効率的な進め方などのアドバイス、職場に対しては特性に合わせた作業の提案や仕事の教え方のアドバイスなどを行います。
障害者就職面接会
障害者就職面接会は、求職者と採用を希望する企業が集まって開催される合同面接会です。各地域のハローワークが主催していて、参加するにはお住まいの地域のハローワークで申し込みが必要です。
一度に多くの企業の話を聞くことができ、書類選考なしで面接を受けられるなど、多くのメリットがあります。他の人の面接の様子を見ることができ、1日に複数回の面接を経験できるので、面接に慣れていない人や自信がない人にもおすすめです。
ハローワーク以外の仕事に関する相談窓口
ハローワーク以外にも、障害を持つ人の就職をサポートする施設があります。ここでは、ハローワーク以外の仕事に関する相談窓口を3つ紹介するので、必要に応じて利用を検討してみてください。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワークと連携しながら障害を持つ人へ専門的な職業リハビリテーションを提供する機関です。希望の職種に応じて職業能力などを評価し、それぞれに合った支援計画を立ててサポートします。
センター内での作業体験や職業準備講習など求職者に対する支援のほか、事業主に対する相談・援助や職場へのジョブコーチの派遣など、障害者を雇用する企業への働きかけや支援も実施しています。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害を持つ人の職業生活における自立を図るための支援機関です。就業だけでなく生活面の支援も行っているのが特徴で、利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付いて一体的なサポートを提供します。
ハローワークや職場、福祉事務所や医療機関など、必要に応じて地域のさまざまな機関と連携しながら支援してくれるので、生活面も含めて困りごとや心配事がある人におすすめです。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、一般企業への就職を目指す障害者の就職や職場への定着を支援する機関です。事業所に通って職業訓練やマナーの習得、職場見学や就職活動などに取り組みます。ハローワークと同様に、応募書類の作成支援や模擬面接といった就職活動のサポートや、就職後の定着支援にも対応しています。
就労移行支援事業所は全国に多くあり、体験できる職業などプログラムの内容は事業所によってさまざまです。例えばパソコンを使った仕事に就きたい人は、「就労移行支援事業所 パソコンスキル」といったキーワードで検索すると希望に合った職業訓練が受けられる事業所を見つけられるでしょう。
ハロワークの障害者専用窓口で相談してみよう
全国のハローワークには障害者専用窓口が設置されていて、専門知識を持ったスタッフが利用者の特性に応じた支援を提供しています。障害によって就職に関する不安や心配事を抱えている人は、ハローワークの障害者専用窓口で相談してみましょう。
ハローワーク以外にも、就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなど障害を持つ人の就職を支援する窓口があります。職業訓練や生活面でのサポートを受けたい人は、これらの窓口の利用も検討してみるのがおすすめです。
就労移行支援の利用を検討中の方は、ぜひKaienにご相談ください。特性を活かして働きたい人を応援するKaienでは、専門家が推奨する充実したプログラムの就労移行支援を実施しています。ご利用説明会・見学会も開催しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
ハローワークから手厚い就職支援を経て就職される方は実際に外来でも経験します。私が障害者専用窓口の存在を知ったのは発達特性外来を開いてしばらくしてからでした。それまでは、ハローワークというと、自分で求人を探す場という認識でしかなかったので、障害者専用窓口でかなり突っ込んだ支援まで得られることは意外でした。恐らくそのような方が多いのではと思うので、気になる方は是非本記事も参考にしてくださればと思います。もっともあくまでも個人的感想ですが、支援の手厚さは、若干担当者さんの熱意やお人柄にも依るような…それは他のサービスにも言えることかもしれませんが。いずれにしても様々な就労支援系のサービスがありますので、その中の1つとして考えると良いのでしょうね。障害者専用窓口を経て、就労移行支援などよりその人にふさわしい場所を紹介されることもありますし、外来受診に繋がるケースもあったりします。また、今回オンラインサービスのホームページに行ってみたら就職の際に参考になる動画も多数ありました。医師というのはこういう就職活動の実践には疎いものです。私も参考にしようと思います。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。