発達障害の方が無理なく自立した社会生活を目指すための準備や支援機関を紹介

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自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などの発達障害*の方は、障害の特性により日常生活や仕事などで人間関係や業務に関する困りごとが多くなりがちです。将来、自立した生活を送ることができるのか不安に感じる方もいるでしょう。

本記事では、発達障害の方が無理なく自立した社会生活を目指すために必要な準備や、自立を支援する機関を紹介します。

自立した生活のために必要な要素

自立した生活とは、「親や他者の助けを借りずに自分の力で生活をすること」が一般的な考え方です。しかし、障害のある方にとっての自立とは、周囲のサポートや福祉支援等を活用しながら自分の意思で物事を決め、収入を得られること、主体的に生活ができること、社会活動に参加できることをいいます。そのためには、「仕事」「生活能力」「社会性」の3つの要素が必要です。

仕事

自立した生活のためには、仕事に就いて継続的な収入を得る必要があります。障害のある方は、一般雇用が難しい場合に障害者手帳を取得していれば、障害者雇用での就職も可能です。他にも、生活や仕事で必要な福祉支援を受けながら賃金を得る福祉的就労という働き方もあります。

ただし、障害者雇用や福祉的就労は一般雇用で働くよりも収入が少なくなるケースが多いため、生活を維持するには家族の支援が必要となる場合も考えられるでしょう。障害のある方が生活に必要な収入を維持するためには、公的な経済支援や成年後見制度などの利用も考えていくことが大切です。

生活能力

身の回りのことが自分でできる生活能力も重要です。食事や掃除・洗濯、身なりを整えることなどが自分でできないと、家族や周囲のサポートが必要となるため自立した生活は難しいでしょう。

しかし、このような日常生活を維持するための能力は、障害の特性や程度によっても得意不得意が異なります。はじめから全てを自分でできなくても、自立に向けた生活の援助や訓練などの障害福祉サービスを利用し、徐々に生活能力を高めていくことも可能です。まずは自分ができることからはじめ、難しい部分は障害福祉サービスを受けることも検討すると良いでしょう。

社会性

自立した生活を送るうえで、社会や人々との関わりは避けて通れないものです。仕事などの経済活動はもちろん、地域の人々との関わりや地域行事への参加といった社会活動では、コミュニケーション力や協調性、ルールを守るなどの社会性が求められます。

ただし、発達障害の方の場合は、特性によって社会性に抱える困難が異なります。まずは自身の障害への理解を深め、福祉支援を受けながら社会的自立を目指したり、必要な配慮を求めたりすることも大切です。

発達障害の方が自立するうえで気をつけたいこと

ASDやADHD、SLDの方が自立した生活をするうえでは、特性により生じやすい困りごとやトラブルの傾向を知り、気を付けた行動を心がけることが大切です。ここでは、仕事面と生活面においてどのような点に注意が必要なのか、発達障害の種類ごとに一例を紹介します。

ASD(自閉スペクトラム症)の方の場合

ASD(自閉スペクトラム症)の方の場合、こだわりの強さや人の気持ちを汲み取るのが苦手といった特性が見られます。自立した生活をするうえでは以下のような点に注意しましょう。

仕事面:指示に従えず自己流で進めてしまう

業務の手順などの指示を受けていても、「こうした方が良いのでは」と自分のやり方にこだわってしまったり、「よく分からなかったけれど、きっとこうだろう」と確認をせず自己判断で手順を変えてしまったりと、指示通りに進められないことがあります。

生活面:こだわりやご近所との人間関係トラブル

ASDの方はルールを守ることに強くこだわる傾向があります。周りがルールから外れたことをしていると見逃せず、自分に関係がなくても注意をしてしまい、印象を悪くしたり、揉めごとに発展してしまったりするので注意が必要です。

ADHD(注意欠如多動症)の方の場合

大人のADHD(注意欠如多動症)の方の場合、じっとしていられない、思いつきで行動してしまうなどの多動・衝動性は幼少期よりも目立たなくなる一方で、以下のような不注意特性による行動が多くあらわれるようになります。

仕事面:時間を守れず遅刻が多い、スケジュール管理ができない

時間を考え余裕を持って行動することが苦手で、ギリギリになって慌てて準備をはじめるため遅刻が多くなりがちです。また、中枢性統合や実行機能の弱さから優先順位をつけることが難しく、気になったものから取り組んでしまったり、注意散漫でやるべきことを忘れてしまったりするなど、スケジュールやタスク管理も苦手な傾向があります。

生活面:カギの閉め忘れや忘れ物が多い、衝動買いによりお金を使いすぎてしまう

注意力が持続できない傾向があるため、慌てていてカギを閉め忘れて出かけたり、忘れ物が多くなったりしがちです。欲しいと思ったものに対する衝動が抑えられず、お金を使いすぎてしまうこともあります。

SLD(限局性学習症)の方の場合

SLD(限局性学習症)の方は、読み・書き・計算の困難を伴う特性があり、仕事面や生活面で以下のような困りごとが多くなります。

仕事面:読み書きや計算などができず業務が困難になる

話を聞きながらメモがとれない、マニュアルの内容が理解ができない、何回計算しても数が合わないなど、苦手な学習分野を含む業務が困難で、ミスが続いてしまうなど仕事に支障が生じるケースがあります。

生活面:お金の計算や管理ができない

買い物をする際にいくらになるのか計算できないなど、お金の管理が難しい傾向があります。

発達障害の方が自立した生活を送るポイント

発達障害の方が自立した生活を送るためのポイントとなるのは、主に以下の4つです。

  • 障害について理解を深める
  • 障害者手帳を取得して支援の幅や選択肢を広げる
  • 困ったときの相談先や支援機関を知る
  • ソーシャルスキルを身につける

それぞれ詳しく見ていきましょう。

障害や特性の自己理解を深める

まず、発達障害や特性に対する自己理解を深めることが大切です。障害の特性による不得意分野だけでなく得意分野も知ることができれば、どのような仕事が自分に適しているか、活かせる能力なども見つけやすくなります。特性に適した職場をしぼって探すこともでき、職場にどのような配慮を求める必要があるのかも明確にできるため、自立した生活に向けた仕事探しがスムーズに始められるでしょう。

また、苦手なことに対しての対策も立てやすくなり、仕事や日常生活で生じやすい失敗やトラブルを事前に防げるメリットもあります。

障害者手帳の取得

障害者手帳を取得すると、障害者雇用や経済支援の幅が広がります。取得することで得られる主なメリットは以下の通りです。

  • 一般雇用と障害者雇用での就職ができ、就労の選択肢が増える
  • 障害者控除・減免の対象となり、支払う税金が安くなる
  • 医療費の助成が受けやすくなり、通院費用等を軽減できる
  • 公共料金の割引サービスが受けられる

発達障害の方で知的な遅れのない方は精神障害者保健福祉手帳を、知的な遅れを伴う方は療育手帳をそれぞれ取得できます。障害者手帳の取得には公的な手続きや医師の診断書が必要ですが、取得により自立した生活を送るうえで数多くのサポートが受けられるため、就労や経済、医療、日常生活面などでの不安が軽減できるでしょう。

相談先や支援機関を知る

発達障害のある方が利用できる相談先や支援機関には、就労移行支援事業所、発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワークなどがあります。

発達障害の特性による日常生活での困りごとや、仕事に関する悩みなどを相談できる専門機関は複数あり、自立した生活を送るうえで心強い存在となるはずです。困ったときに頼れる支援先があることも押さえておきましょう。各相談先や支援機関について、詳細は後述します。

ソーシャルスキルを習得する

発達障害の方は人の気持ちを汲み取るのが苦手だったり、逆に過剰に空気を読もうとして疲弊してしまったりと、良好な人間関係を築くうえでの困りごとが多い傾向があります。しかし、自立した生活を送るうえでは、家族だけではなく職場や地域の人々など、人との関わりを避けて通ることはできません。

周囲の人々とスムーズなコミュニケーションをとるためのソーシャルスキルを身に付けることも、大切なポイントといえるでしょう。ソーシャルスキルトレーニングは、医療機関をはじめ福祉施設等でも受けることができますので、利用を検討してみることをおすすめします。

発達障害の方が自立のために利用できる相談先や支援機関

発達障害の方が自立のために利用できる相談先や支援先をまとめました。困りごとの内容に応じて利用することで一人で悩みを抱えずに済み、明確な仕事の方向性や日常生活の改善策等を見つけることができます。障害のある方だけでなく、その家族も一緒に悩みを相談できる機関もありますので、各支援機関とその特徴を押さえておきましょう。

仕事に関する支援機関やサービス

障害の特性に合った仕事先を探したいときや、就職に向けてスキルを磨きたいときなどには、以下のような支援機関やサービスが利用できます。

  • 就労移行支援事業所:一般就労に向けて必要な知識やスキルを学び、就活支援や就職後の定着までサポートが受けられる
  • 自立訓練(生活訓練):生活習慣を整えるための訓練や、将来の就職に向けての計画設計などのサポートが受けられる
  • ハローワーク:障害者雇用の相談や求人の紹介などが受けられる
  • 地域障害者職業センター:障害のある方を専門とした職業訓練が受けられる
  • 地域若者サポートステーション:障害の有無に関わらず利用でき、就労の悩みを持つ15~49歳の方に就労支援を行う

住居に関する支援施設

障害のある方が、実家を離れて生活をする際に利用できる支援施設には、グループホームや障害者支援施設があります。それぞれの特徴は以下の通りです。

グループホーム

専門スタッフが在籍しており、日常生活の支援を受けながら障害のある人達と一緒に共同生活を送る。一人暮らしに近い形で必要なときに支援を受けるサテライト型等もある

障害者支援施設

障害のある方が入居し、食事や日常生活上の支援、介護を受けながら生活する施設

施設を利用するには申請が必要です。また、定員数をすでに満たしていて入居までに時間がかかることもあるため、早めに調べておく必要があります。

生活に関する相談先

日常生活に関する困りごとを相談したいときには、以下のような支援機関が利用できます。

  • 発達障害者支援センター:発達障害の方とそのご家族が困りごとを相談でき、特性に応じた支援を受けられる
  • 精神保健福祉センター:発達障害や精神疾患のある方、そのご家族に治療の相談や支援を行う
  • 日常生活自立支援事業:認知症高齢者、知的障害、精神障害のある方などが自立した生活を送れるよう福祉的援助を行う
  • 障害者就業・生活支援センター:障害のある方の職業生活において、仕事・生活の両面から自立を支援する
  • 自立生活援助事業:施設やグループホームに入らず一人暮らしをする障害のある方を定期的に訪問し、日常生活の困りごとへの支援を行う

Kaienの障害福祉サービス

Kaienでは、発達障害のある方の自立をサポートする就労移行支援と自立訓練(生活訓練)を提供しています。

就労移行支援では、自分に向く適職を見つけるための職業訓練や、障害の自己理解を深め、対策を立てるための講座などが豊富に実施されています。求人数も200以上揃い、担当カウンセラーのサポートを受けながら自分に合った職場への就労に向けて準備を整えられる環境です。

自立訓練(生活訓練)では、生活習慣の改善をはじめ、人間関係を構築するためのコミュニケーションスキルや、自分に合った進路を選択するための知識なども学べます。専門知識を持ったスタッフが揃い、自立した生活を送るためのサポート体制が整っていますので、ぜひお気軽にご利用ください。

無理なく自立を目指すための準備を

発達障害の方が無理なく自立した生活を目指すのは、一見するとハードルが高いように感じられるかもしれません。しかし、発達障害のある方の自立を支援する相談先や支援機関は数多くあるため、困りごとや悩みに応じて活用しながら自立を目指していくことが可能です。無理なく自立を目指すために、障害の理解や利用できる支援機関を知り、計画的に準備を進めていけると良いでしょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

自立した社会生活は、発達障害の方々にとって重要な目標となります。ですが、自立は一朝一夕に達成されるものではなく、段階的なプロセスでもあります。特に学生から社会人への移行期では、家事や金銭管理など、できることから少しずつ責任範囲を広げていくことが望ましいでしょう。学生時代に独居生活を検討できる環境にあるならば、是非実現できると良いでしょう。社会人になる前に良い練習機会となるでしょうね。さて、完全な経済的自立が困難な場合でも、個々の能力や状況に応じた「その人らしい自立」を目指すことが大切です。家族との同居を継続する場合でも、家事分担や生活費の一部負担など、できる範囲で自立度を高めていくことができます。また、福祉制度や支援機関の積極的な活用も、社会的自立への重要なステップとなります。支援機関では、就労支援に加えて生活技能の向上も相談可能です。適切な支援を活用しながら、着実に自立への歩みを進めることを目指しましょう。そして自立を目指す年齢は、たとえ遅くなろうとも、遅すぎることはありません。自立した社会生活は、どの年齢からでも目指して欲しい目標と考えてください。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。