鉄道各社で「精神障害者」における電車料金の割引制度が拡大

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障害者における電車料金の割引制度は、これまで身体障害者と知的障害者のみを対象としている鉄道会社が多くありました。

そんな中、JRグループ6社は、2025年4月から「精神障害者」を新たに対象に加えることを発表し、その他私鉄各社も相次いで9社が導入することを決定しました。ただ、割引適用には各社でそれぞれ条件が設けられているため、その点は注意する必要があります。

本記事では、精神障害者における電車料金割引制度の概要とその懸念点について、詳しく解説しています。なお、ここで述べる「障害者」は障害者手帳を所持している方を指します。

目次


精神障害者における割引制度拡大の背景

現在、身体障害者と知的障害者においては、電車料金の割引制度はすべての鉄道会社で適用されています。しかし、精神障害者にいたっては、2022年4月時点でおよそ6割程度という結果になっており、当事者の中には不平等だと感じていた方も少なくないでしょう。

実際、当事者やその関係者からは、以前より改善を求める声が上がっていました。今回の制度拡大は、それを受けた国土交通省がその必要性を説いたことで、鉄道会社各社が実施に踏み切ったことが背景にあります。

参考:障害者割引制度のご案内(JR東日本)

JRグループが導入予定の精神障害者における割引制度の概要

電車料金の割引率は、どの鉄道会社でも一律「5割」です。ただ、適用される条件等は、各社により異なるため注意が必要です。

ここではまず、鉄道会社の中でも最大手であるJRグループが発表している概要を取り上げ、詳しく解説しています。

①導入日

上記でも述べましたが、「2025年4月1日」から導入される予定です。

②割引の対象となる人

精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方です。ただし、「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額欄に第1種または第2種の記載のあるもの」と定められています。

POINT1:「第1種」「第2種」とは?

「第1種」「第2種」とは、精神障害者の等級によって区分けされています。

第1種:第1級精神障害者第2種:第2級/第3級精神障害者

POINT2:精神障害者における等級とは?

精神障害者保健福祉手帳には等級が1〜3級まであり、数字は障害の程度を表しています。

1級日常生活に困難が生じており、サポートがなければ生活に関するほとんどのことを自身では行えない
2級サポートが必須とまではいかないが、障害により、日常生活に著しく制限がある
3級日常生活や社会生活の中で制限を受ける、あるいは制限を設けた方が生活がしやすい

参照元:精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(厚生労働省)

③割引制度の概要

電車料金が割引となるのは、「手帳保持者のみ」または「手帳保持者とその介護者の2名」で乗車するケースがあります。

手帳保持者のみで乗車するケース

精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方がお一人で乗車される場合は、片道の営業キロが100キロを超える場合にのみ、割引が適用されます。

割引が適用されるケース対象の乗車券
第1種精神障害者の方・第2種精神障害者の方普通乗車券


手帳保持者と介護者の2名で乗車するケース

介護者の方は、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と同じ金額で乗車券を購入することができます。なお、割引が適用されるのは、同乗される介護者の方1名のみです。

割引が適用されるケース対象の乗車券
第1種精神障害者の方と介護者の方普通乗車券・回数乗車券・普通急行券・定期乗車券(小児定期乗車券を除く)
12歳未満の第2種精神障害者の方と介護者の方定期乗車券(小児定期乗車券を除く)

参照元:精神障害者割引制度の導入について(JRグループ)

精神障害者向け鉄道会社各社の割引制度の比較

ここでは、鉄道会社各社の割引制度を一覧にまとめています。ちなみに、今回の制度拡大より前に精神障害者の割引制度を導入していたのは、「西武鉄道」「近畿日本鉄道」「京王帝都鉄道」「東京急行電鉄」「京浜急行電鉄」「南海電機鉄道」「名古屋鉄道」の私鉄7社。

そして、今回新たに導入・拡大に踏み切ったのが、JRグループ6社に加え、「京成電鉄」「東京メトロ」「阪神電気鉄道」「阪急電鉄」「東武鉄道」「西武鉄道」「小田急電鉄」「相模鉄道」「京阪電気鉄道」の私鉄9社です。

なお、以下の表は、成人の方が乗車することを想定しているため、お子さまの場合は適用条件が異なります。また、今回は「普通券」購入の想定で表記しているため、回数券や定期券の適用条件等の詳細を知りたい方は各社のリンクを貼っていますので、そちらからご確認ください。

鉄道会社各社の比較表

鉄道会社名(略称)導入時期割引の適用条件
西鉄2017年4月・第1種/第2種の当事者
・第1種のみ介護者にも適用
近鉄2023年4月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
京王2023年10月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道100キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
東急2023年10月(2025年4月より拡大)・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道100キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
京急2023年10月(2025年4月より拡大)・第1種/第2種の当事者
・第1種のみ介護者にも適用
南海2023年10月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
名鉄2024年3月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道100キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
京成2024年6月・第1種/第2種の当事者、介護者の両者
東京メトロ2024年8月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
阪神2025年1月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
阪急2025年1月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
JR2025年4月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道100キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
東武2025年4月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道100キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
西武2025年4月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道50キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
小田急2025年4月・第1種/第2種の当事者のみの単独(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者
相鉄2025年4月・第1種のみ、介護同行者がいる場合に限り適用
京阪2025年4月・第1種/第2種の当事者(※乗車距離が片道101キロ以上に限る)
・第1種は介護者同行の場合、当事者・介護者の両者

※割引価格は一律「5割」

参照元:鉄道大手私鉄とJR運賃割引一覧(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会)

電車料金の割引制度における懸念点

精神障害者の割引制度が鉄道会社各社で導入・拡大が実施されることは、インクルーシブ社会を推進するための一歩であるように感じられます。ただ、ここまで読まれた方の多くは、この制度の欠点についてお気づきになられたのではないでしょうか。

この制度の一番の懸念点は、「西鉄」「京急」「京成」を除く、各社の電車を単独で乗車する場合、100キロまたは101キロを超える距離でないと割引が適用されないことにあります。100キロ以上の距離を移動されるケースは、旅行でもない限りなかなか考えられませんし、日常的にその距離を移動されている方はほとんどいないのではないでしょうか。

また、おそらく電車料金の割引を切に願う方は、電車をそれなりに利用される上に、且つ一人で移動される方が多いと予想されます。そのため、今回の制度拡大は果たして意味のある施策と言えるかはいくつか疑問が残ります。