Kaienで実施しているプログラムの一つである『ようこそ先輩』は、Kaienの就労移行支援を修了し、実際に働かれている先輩方の生のお話を聴ける会です。本記事は、そのインタビュー動画の内容を編集し、記事にまとめています。
今回取り上げるのは、自分の才能を見つけたことで、やりがいを持って働けるようになったHさん。辛い状況から、どうやって今の姿にたどり着くことができたのか、詳しく語っていただきました。
インタビュー実施日:2024年3月23日
実は私、人生を詰みかけていました
中高ではいじめを受けていた経験があります。大学時代は、ほぼバイトに明け暮れる生活を送っていたのですが、研究が好きで続けたかったので大学院まで進みました。けれど、なかなか上手くいかなくて、周りから「あなたは向いていない」と言われることもありました。
その後、一般枠で就職をするのですが、そこでも言われたことを忘れてしまうというようなミスが多く、ろくに仕事ができませんでした。そこで、診断を受けて自分が「発達障害*」ということが分かりました。
そんな感じで人生を詰みかけていた私ですが、今は自分の”才能”を知ったおかげで、自分に合った仕事と出会い、才能を活かしながら楽しく働くことができているのです。今回は、そこに至るまでの経緯をステップに分けて、皆さんにお話したいと思います。
まずは自分を知るための「自己分析」
①過去を振り返り、「得意」を見つける
まず、どうやって自分の才能を見つけるのか。私の場合、ヒントは大学時代のアルバイト経験にありました。当時、私は塾講師をしていたのですが、その仕事はいくら続けても”苦にならなかった”のです。
この「苦にならない」というのがポイントで、今考えると、塾講師の仕事は自分の「得意」とマッチしていたのだと思います。
そもそも私は、人に教えることが好きで、どうすれば分かりやすく伝えられるのかを考えることも好きです。その上、他人の感情に寄り添うことやが得意で、生徒だけでなく、親御さんに対しても親身になって相談に乗り、アドバイスをすることができていました。
②自分の苦手を洗い出す
- 耳だけを頼りに情報をキャッチし、整理すること
- 目的のない雑談
- 工夫の余地がないこと
上記が私の苦手なことです。
まず、「耳だけを頼りに情報をキャッチし、整理すること」。情報を瞬時に構造化することが苦手です。そのため、以前仕事で議事録を頼まれたことがあったのですが、文字起こしをすることができませんでした。
そのせいで学生時代は、ノートを取るのにも苦労しましたね。当時は、発達障害という概念自体なかったので、対策はとにかく教科書を読み込むことくらいしかなくて。大学院で研究が上手くいかなかったのも、それが原因のひとつでした。
続いて「目的のない雑談」。こちらは文字通りで、目的もなくだらだら話すのが得意ではありません。
最後に「工夫の余地がないこと」。例えば、データ入力をするとしたら、自分の性格上、あれこれ工夫してさらに極めていこうと考えるんですね。しかし、これ以上工夫できない、方法が思いつかないということになった時、心が折れてしまうことが分かりました。
こうしたことが原因で、一般枠の仕事をすることが難しかったのかなと思います。
③他人に憧れず、自分らしく生きる
憧れるのをやめましょう(by 大谷翔平) |
上記は、大谷翔平選手の名言です。「あの人すごいから自分も目指そう」というような、人に憧れるのをやめることが、自分だけの才能を知るポイントです。
私は、自分が本来持って生まれた資質を活かすには、他人と比較するのをやめることが必要だと思っています。才能を見つけるヒントは、今まで夢中になっていたこと、ついつい夢中になってやってしまうこと。そこには、前提として苦にならないことが条件に入ります。
夢中になってできることを解像度を上げて分析する
ついつい夢中になってやってしまうことを見つけられたら、それをさらに細分化してみるのがおすすめです。
例えば、夢中になってしまうことが「プログラミング」だとします。しかし、プログラミングと一口で言っても、プログラミングのどの部分に魅力を感じるかは人それぞれですよね。
コードを書いている時が好きだったら、黙々と作業できる才能。コードが思った通りに動く瞬間が好きだったら、仕組みを作る才能。新しい言語を学ぶのが好きだったら、新しいことを受け入れる才能。こんな風に好きな部分によって、才能も変わってくると思うのです。
そのため、こういった方法で自分を振り返ることが、自分の才能を見つける近道だと考えます。
自分の才能を活かして働く
- 耳より視覚から入る情報の方が得意
- 物事をわかりやすく教えることができる
- 物事を丁寧に進めることができる
- 人を笑かすようなことが好き
- 工夫をし、細かなところまで気を配って仕事ができる
- 新しい物事に触れることが好き
上記は、自身を細かく分析して出てきた才能の一例です。これらは、学生時代や塾講師、これまでの仕事経験などを振り返ることで、気付くことができました。
ちなみに、私が今の職場で取り組んでいる業務は、SNSの投稿調査、キャラクター考案、メディア調査、データ入力、ポータルサイトの作成など多岐にわたりますが、どの業務も自分の才能を活かせていると感じています。
例えば「SNSの投稿調査」は、視覚情報がメインなので、自分でも細かな誤字脱字を見つけることができますし、長時間見ていても苦になることはありません。新しい情報がどんどん入ってくるのでそれらを追う必要がありますが、それ自体も楽しいです。
「キャラクター考案」は、自分の手で細かなところまで設定を考えていけることが楽しいですし、何より自分が考えたもので、誰かを喜ばせられることにやりがいを感じます。
一方で、今の課題はスピードと正確性の両立で、この点は努力中です。リーダー的な役割も一部任せていただいていますが、まだまだ習熟度を上げていく必要があります。そして、今後は周囲の期待以上、給料以上の仕事をしていきたいと思っています。
また、最後に皆さんにおすすめした本があるので、ご紹介します。私はこの本を読むことで、自分の才能を見つけることができました。機会があれば、是非読んでみてください。
八木仁平著 『世界一やさしい「才能」の見つけ方』詳細はこちら |
所属拠点:Kaien代々木
利用期間:9ヶ月(2022年5月)
※インタビュー内容については、表現を一部改変しています
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
付録
下記の2枚は、Hさんのお気に入りの私物。実際にHさんに撮影いただいたものをご提供いただきました。