Kaienで実施しているプログラムの一つである『ようこそ先輩』は、Kaienの就労移行支援を修了し、実際に働かれている先輩方の生のお話を聴ける会です。本記事は、そのインタビュー動画の内容を編集し、記事にまとめています。
今回取り上げるのは、数々の困難を経験しながらも、自分なりの方法で乗り越えてきたabenn先輩。これまでの人生について詳しくお話しいただきました。
インタビュー実施日:2024年5月18日
紆余曲折を経て自分が発達障害だと知りました
小中学校は不良の多いところに通っていたので、いじめられてばかりでした。その頃、家庭環境もあまり良くなくて、荒れてすさんでいたことを覚えています。
高校は進学クラスのあるところに通っていて、一浪して大学に入りました。その時から友人関係や恋愛が難しいと感じるようになり、もしかしたら発達障害なのかなと思うようになりました。
大学卒業後は、特別養護老人ホームで1年間勤務しました。特に夜勤がすごく大変で、夜勤後に寝ずにボランティアに行ったりしていたら身体を壊すことがありました。その後、営業職として7年くらい働きました。生活雑貨の法人向け営業をしていて、北は新潟、西は高知県まで出張があってとにかく大変でした。
それからはブラック企業で働いたり、営業事務職に就いたり、大変な思いをしながらも頑張ってはいたのですが、その辺りから自分が病気なのではと思うようになりました。電話を取りながら伝票を打つとかがとにかく難しくて。あとは、対人関係も上手くいかず、病院にかかったところASD・ADHDと診断されました。
不運はありつつも安定した今の職場へ
Kaienで訓練を開始したのは、2017年の4月くらいです。職業訓練では、主に「古書販売業務」を行っていて、店長や会計など、ほとんどの業務を担当していました。あとは、私がillustratorやPhotoshopなどを使えたので、スタッフからお願いされてKaienのパンフレット作成も行いました。
それから半年くらいで、IT系企業にて、サーバーエンジニアとして無事に就職します。サーバー系に従事し、今でも頼りにしている先輩からいろいろ技術を吸収させていただきました。
しかし、その頃ちょうどコロナが流行していて、そのせいで泣く泣く離職することになり、もう一度Kaienに戻ることになったんです。他にも家庭関係でいろいろ問題があって。担当医やカウンセラーの人にも相談していたのですが、本当に泣きたい気持ちでした。
けど、そこからまた2ヶ月ほどでまたWebエンジニアとしての就職が叶います。それが今の職場で、今年6月で3年目を迎えます。
会社へ配慮としてお願いしていることはいくつかあるのですが、それは実は入社前と今とでは内容がかなり違うものになっています。ちなみに入社前は2つ。「指示理解が難しいため、具体的な指示をしてほしい」。「不安になることが多いため、時々休憩をお願いしたい」というものでした。
現在の配慮は、「技術の向上や抽象的な指示理解の練習のために、判断推理(SPI問題)を解く時間をいただく」ということになっているのですが、これを配慮と言っていいのかは分かりません。
社内報に取り上げてもらえるまでに成長しました
これまで担当していた業務を、時系列でお話をしていきたいと思います。
<入社~1年>
初めは社外案件をいくつか担当しました。かなり順調にこなしていたのですが、家族との問題や在宅ワークに慣れていないこともあって、降格処分になってしまったんです。会社のソーシャルワーカーの人とも上手くいかなくて、結局自己改善の道に走りました。
<1年目~2年目>
独自ツールの作成により検証精度が高まったおかげで、仕事のクオリティもかなり上がりました。大阪のチームとタッグを組んで分析系の案件に挑戦したり、社内の女性の活躍推進サイトの運用に携わらせてもらったりもしました。
また、コミュニケーション能力の向上訓練を自分なりに続けていたのですが、この頃かなり無茶をしたためか、溶連菌やコロナに立て続けに罹ってしまいました。ですが、無事に復帰できて、次の年もちゃんと迎えられました。
<2年目~現在>
社内サイト2件と検証業務に従事しています。恥ずかしながらではありますが、実は検証精度98%という高い水準を維持できていることから、社内報に自分のことを掲載してもらえることがありました。
『確固たる自分』があればどんな壁も乗り越えられる
ここからは、私がこれまで「直面した壁にどう立ち向かっていったのか」ということをテーマに話をしていきたいと思います。
当時、私がハマっていた「鬼滅の刃」という漫画があるのですが、そこに「確固たる自分があれば両の足を力いっぱい踏ん張れる(時透無一郎)」という台詞が出てくるんです。
その言葉に触発され、「『確固たる自分』をどう作るか」というのを私は自分なりに見つけました。それが下記の5つ。
①オウム返しと共感法
先輩から「〇〇しておいてね」と言われた時、それを自分の理解のままに実行するとミスをしてしまうことが今までに何度かありました。
そこで、私は指示をされたら「〇〇ですね。それは▲▲(自分の解釈)ですよね」と答えるようにしたんです。解釈が間違っている場合は、その場で正しい答えを伝えてもらえるので、スムーズに仕事を進められるようになりました。聞き返すことで、先輩にも安心してもらえるので、信頼もぐんと上がるはずです。
②ミス防止ツールの活用
私はミスを減らすために、タスクをExcelの確認表で管理しています。タスクが視覚化されるので抜け漏れを減らし、仕事が円滑に進められるようになります。
他にも、「Gmailチェッカー」というツールを使うことによって、メールの誤送信を防止できるようにしていたり。あとは、週の予定をGoogleカレンダーとSlackで連携し、スケジュール管理をしていたり。工夫をいろいろ行っています。
③周りに相談しながら自分の人生設計をする
大谷翔平選手も導入している「マンダラチャート」というフレームワークを使って、自分がどういう存在なのかを考えることを実践しています。役所の人やKaienのスタッフにも相談に乗ってもらいながら将来設計をすることで、イメージを固めることが出来ました。
④工夫を取り入れながら仕事に臨む
私の仕事上での工夫は2つあります。1つ目は、「ポモドーロ・テクニック」という方法で、一定時間ごとに休むということを心掛けています。私の場合は過集中の特性があるため、60〜70分に一旦作業を止め、セーブするようにしていますね。
2つ目は、とにかく「困ったらすぐに相談する」ということです。我慢せずに周りに助けを求めることが、どんな場合においても有効だと思います。
⑤朝活の導入
私は朝のルーティンがあり、それを毎朝行っています。起床したらまずは15分瞑想し、その後に朝食。あとは、仕事が在宅ワークなので、始業前に40分ほど散歩をしています。
辛い経験をした先でしか得られないものがある
―――趣味はありますか?
食べ歩き、スポーツジムに通う、登山、プログラミング、音楽、アニメ、漫画です。上述もしていますが、特に私は漫画を読むことが好きで、中でも「鬼滅の刃」がお気に入りです。
あと、最近はKaienのサロン(Kaienの訓練生と修了生が交流できる茶話会)に参加した後に浅草に行くことがあって、そこでお土産を買っています。イシイの甘栗が美味しいので、ぜひ行く機会があったら買ってみてほしいです。
―――最後に皆さんに伝えたいメッセージはありますか?
自分はいつかは障害者手帳を返納し、副業などをして完全に自立できるようになることが目標です。
Kaienでの訓練は大変でしたが、仕事でも辛いことはたくさんありました。ただ、その分人から感謝されたり、いろいろな人から知らないことを吸収できたり、働くと充実した時間を過ごせることも多くなると思います。
無理をすると、私みたいに死にかけてしまうこともあるので、適度に頑張ることが大切です。皆さんのことを応援しています。
所属拠点:Kaien秋葉原サテライト
利用時期:2017年4月
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています
付録
下記は、abenn先輩の好きな景色と食べ物のお写真。