Kaienで実施しているプログラムの一つである『ようこそ先輩』は、Kaienの就労移行支援を修了し、実際に働かれている先輩方の生のお話を聴ける会です。本記事は、そのインタビュー動画の内容を編集し、記事にまとめています。
今回取り上げるのは、大人になってからASD・ADHDの診断を受けてKaienに入所したHさん。その後就職した会社では2年目を迎え、正社員登用を目指して資格勉強に励んでいます。そんなHさんに「今」の心境について、お話を伺いました。
インタビュー実施日:2024年11月16日
運動や音楽は苦手だが、座学が得意な子どもだった
私は幼少期から、ちょっとしたトラブルでパニックになって泣いてしまう子どもでした。
そのため、親や先生に迷惑をかけたと思います。
また、運動神経が極端に悪く、鉄棒や縄跳び、徒競走や跳び箱などで教わった動作ができませんでした。音楽も苦手でしたが座学は得意で、特に国語と社会科が得意でした。
ただし、発表のなどの大事なときは、緊張し過ぎて頭が真っ白になってしまうことも多かったです。
中学校ではいじめに遭いましたが、高校では自分を押し殺してなんとか学校生活を送りました。同じようなタイプの友達と遊ぶことが多かったです。
地方公務員を希望したが、民間企業を目指すことに
大学に入学して、法学と政治学を専攻しました。ディスカッションサークルでは部長を務めるなど、比較的平和な日々を過ごしました。講義をサボることもほぼなく、成績も良かったです。
社会貢献したいと考えて、地方公務員を目指しましたが試験にすべて落ちてしまい、民間企業への就職を目指すことにしました。就活では、筆記は問題ないのですが、面接でとても緊張して苦労しました。
民間企業を30社ほど受けた末に、信用金庫に内定をいただいたときは心から安堵したことを覚えています。
社会に出たことが、発達障害に気付くきっかけ
その信用金庫に入社したのですが、業務で自分が臨機応変な対応ができないことに初めて気付きます。
お金を数えて揃えるなどの単純作業はできたのですが、仕事中にメモを取る・電話応対・窓口のお客様対応などができませんでした。先輩に何度教えてもらっても、業務をメモして覚えることができなかったのです。大きなミスをしたことをきっかけに、逃げるように入社数ヶ月で退職しました。
その後、東京都の就職斡旋事業に応募して、1ヶ月の訓練を経てITパスポートの資格を取りました。その後、訓練したIT企業に入社します。
最初に派遣されたキッティング業務(PCなどのIT機器を、業務利用できる状態にセットアップする)は何とかできたのですが、次に派遣されたコールセンターで電話対応がまったくできませんでした。
退職することになったのですが、その際に社長や親から精神科の受診を薦められたのです。受診したところ発達にかなりの凹凸があり、ASD・ADHDの発達障害と診断を受けました。
幼少期から人と違うことは認識していましたが、私自身も両親も発達障害に関する知識がほとんどなかったため、病院に行く発想がありませんでした。そのため、社会に出るまで気付けなかったのです。
障害をなかなか受け入れがたい気持ちでしたが、診断が明確だったことで最終的には受け入れてKaien秋葉原に入所しました。
ASDとADHDの両方の特性がある
私はADHDとASDの両方の特性を持っています。極端なネガティブ思考で、対応できないことが起こるともうダメだと思って焦り、パニックになってしまいます。緊張すると早口になるのも特性の一つです。
また、裁縫や折り紙のような細かい作業が苦手です。靴紐やネクタイを結ぶのに苦労しますし、字も極端な悪筆です。時間は守れるのですが、遅れることへの恐怖心から極端に早い時間に待ち合わせ場所に行ってしまいます。
興味がある分野について話すのは得意ですが、それ以外の勉強は苦手です。悪筆とパニックになる特性のため、メモを取るのも苦手です。「このファイルを消してしまったんじゃないか」などと、実際には起こっていないのに、失敗したと思い込む加害恐怖もあります。
Kaienに入って、希望が湧いた
Kaienに入った理由は、雰囲気が良かったことと、就労実績が良かったことです。さまざまな仕事がある中で、事務職が一番手堅いと考えて訓練を受けました。訓練内容はタイピングの練習や週替(しゅうがわり)のグループワーク、Excelの練習などです。
訓練・就活を通じて、自分と同じような悩みを抱えている人がたくさんいることに気付きました。そして、障害がある=働けないのではなく、工夫と努力次第で働けると感じました。
これらは、発達障害の診断が下りたときに「まともに働けないんじゃないか」と悩んだ私にとって、とても希望になりました。
また、自分の焦りやすい性格を計算に入れて、余裕を持って業務を行うことが大切だと学びました。
Kaienの求人サイトで現職の企業に出会った
事務職で高い専門性が求められない会社を探しました。マイナーリーグ(精神・発達障害の方に特化したKaienが運営する求人サイト)から5社を受けて、そのうち3社が書類選考を通過しました。その中で第一志望になったのが現職の企業です。
現在勤務している企業を選んだのは、他の候補より先に面接があったことと理念に共感したためです。また、Kaienの先輩が何人も在籍していたことも理由の一つです。自己PRを書き、何度も面接練習を行いました。
筆記試験と15分の面接を経て合格しました。面接は和やかで、自己PR・志望動機・配慮事項などの質問が中心でした。
勤務時間は8時45分から17時30分です。7時30分から10時までの時差出勤も可能で、遅く出勤した場合は、退勤時間も遅くなります。週5日出勤のうち、2〜3日は在宅勤務できます。
業務内容は時間外労働時間の集計、派遣社員の書類の整理と返送、社内の郵便物の配達など、一般雇用の方の事務業務の補助です。単純作業ではなく、自分で工夫することが求められています。
同じ障害者雇用の先輩や後輩と協力しながら、一般雇用の方の事務業務の補助を行っています。フリーアクセス(自由に座る場所を選べる)の職場なので、一般雇用の方との壁は心理的に物理的にもほとんどありません。
ミスを減らし、手本になれる先輩を目指す
仕事には慣れましたが、まだケアレスミスがあって不安になるため、ミスをなくす工夫が必要です。例えば、「チェックリストを業務ごとに作ってチェックする」「フォルダーを整理してデータの保存先を分かりやすくする」などの工夫を行っていきます。
また、在宅勤務日と出社日では起きなければいけない時間が違いますが、起床時間を合わせて体内時計を一定に保つことも行っています。
そして、資格取得が正社員登用につながると考えて、上司に勧められた「ビジネス実務法務検定」を勉強中です。2024年は惜しくも落ちてしまいましたが、2025年に再チャレンジする予定です。
入社して2年目になり、後輩もできました。3年後、5年後にはさらに多くの後輩が増えると思うので、手本になれるような先輩になることが目標です。
諦めずに努力すれば必ず道が開ける
今、訓練中・就活中の方は、不安なことも多いと思いますが、諦めずに努力すれば必ず道が開けます。できるだけネガティブにならず、ポジティブに毎日の訓練や就活を楽しんでください。Kaienで訓練したことは、必ず就活でも役に立ちます。
所属拠点:Kaien秋葉原
※インタビュー内容については、表現を一部改変しています。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。