
▪年齢:20代後半 ▪診断名:ASD ▪仕事における苦手なこと :指示が理解できない、場の空気が読めない ▪訓練修了後の出口:IT企業のインターン(障害枠) |
言葉を理解するのが難しい。それが僕の特性です
僕は昔から言葉を理解できないせいで、空気が読めず、相手に不快な思いをさせてしまうというところがありました。人にいじめられそうになった時に、話をして上手く解決するということができないんです。
言葉は遅れていましたね。そもそも本も漫画もテレビも映画も何も見てきていないんです。僕は昔から人の感情とか、日本語の意味とかが関係しない数学とかゲーム、電車、運動にしか興味がありませんでした。
だから、親からも「興味の範囲が少ない」とずっと言われてきました。好きなことだったらとことん調べるけど、興味のないことはそもそも話を聞こうとしませんでした。それが自閉症ってやつなんだと思います。ただ、数学はずっと得意で、大学院でも数学を学んでいました。
また、前職ではIT業界でSEをしていました。やめた原因は仕事の内容が全く分からなかったところにあります。上司から指示や説明があった時にそれを理解するのが難しかったんです。
あとは、普通の人だったら暗黙の了解でくみ取れるような部分も、自分は全くくみ取れないんです。真面目にやってもやっぱりちゃんと理解することができなくて、仕事を任せてもらえませんでした。
訓練では「指示」や「意図」の理解に注力することに
Kaienで訓練を始めたのは、自分の苦手なコミュニケーションスキルを向上したいと思ったからです。前職の仕事は続けるのが無理だと思ったので、一旦Kaienで訓練をしようと思いました。
初めは単純な事務作業から始まり、後にグループワークの訓練を行いました。僕はやはり言葉を理解するのが苦手なので、メンバーや講師の発言内容や意図をきちんと理解することを意識しました。
また、業務マニュアルも一生懸命に理解しようとしていましたが、結局そのまま馬鹿正直にやっても失敗することが結構あって。意図の汲み取りが足りていないんです。
対策としては、2つのことをしていました。1つ目は「周囲に質問すること」。これは前職の時から意識はしていたので、引き続きという感じですね。2つ目は、「新聞を読むこと」。頑張ってやってはいたけど、結局あまり実績はあまりなくて、語彙力向上は出来ませんでした。なかなか改善するのは難しいなと思います。
世の中、完璧な人間ばかりではないことに気付きました
訓練を通して学んだことは大きく分けると2つです。「業務マニュアルをきちんと読むこと」、「人の話を積極的に理解すること」。当然のことですが、マニュアルを読まないと仕事を理解できないし、人の話をちゃんと聞かないとコミュニケーションが取れない。だから、これは本当に意識して行いました。
前職は、今と比べると人の説明も積極的に理解する姿勢は薄かったと思います。「苦手だから」という理由で、そもそもやる気がなかったんだと思います。でも、それをやらないと仕事にならないというのが訓練を通して分かったんです。
それに、Kaienに入る前までは、コミュニケーション力がない自分は人間の一番底辺なんだと勝手に勘違いしていました。けど、そのうち別に全員が全員そんな完璧な人間ばかりじゃないということに気付き始めました。それで、少しは頑張れるかなと思えるようになったんです。
苦手と向き合い、これからも努力し続けていく
就活は、IT業界を中心に行いました。前職の経験や、大学院で培った論理的思考が活かせると思ったからです。一般枠は40社ほど、障害者枠は3社受けました。
最初は一般枠狙いで就活をしていたのですが、面接に行けてもほとんどの企業から「実務経験がない」という理由で落とされてしまい、正直厳しいと感じました。コミュニケーションの部分も指摘されたと思います。そのため、そこからは障害者枠に切り替え、”自分の特性を許容してくれる会社”という軸で就活を始めました。
正直、書類作りも面接もスムーズにはいきませんでした。文章を作るのがやっぱり得意ではないので、スタッフや講師に何度も添削してもらいました。あと、志望動機に関しては、単純に自分のこういうスキルを活かしたいというだけで通用すると思っていたのですが、そうではない。それをただ言うだけでは通用しないということが分かりました。
結果、僕はあるIT企業のインターンに進むことが決まりました。世界でも優良な企業ですし、優秀な理系の方がいっぱいいる中でシステム開発を学べるのは楽しそうだと感じたんです。目標としては、今後はほぼ命がけでインターンをこなし、一生そこの企業で働くことです。
また、今後も苦手としているコミュニケーションの部分は、引き続き勉強していきたいと思っています。よく苦手なことよりも得意なことを伸ばした方が良いということを言われるけど、僕は正直得意なことは十分やったと思っています。苦手なことに関しては、まだ伸ばせる余地があるから、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。
付録 ~Kさんのこと~
前職での健康診断で悪い数値が出てしまって、それからは健康に気を遣わなきゃいけないと思うようになりました。そのため、今は頑張って泳いでいます。もともと、水泳は小学生の頃から続けていて、運動するなら水泳かなと思って。
上記の写真は、今年(2024年)の4月に大会に出場した時のものです。高校の水泳部のOBだけで集まって、年齢関係なく出場できる大会に出ました。現役の頃に比べて、いろいろ落ちてしまったなとは思いましたが、水泳はやっぱり楽しいです。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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