「どんな特性の人にも居場所を作ってあげたい」成果主義だったOさんが変わった理由

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▪年齢:20代半ば
▪診断名:ADHD
▪仕事における苦手なこと:時間や持ち物などの管理
▪就職した職種:事務職(特例子会社)

※記事に挿入しているお写真は実際にOさんからご提供いただいたものです。


成果が求められる業務で結果重視の価値観が重荷に

(Oさんが休日に描いた絵)

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

家族からは、落ち着きがない子だったと言われます。学校の勉強は苦手だったものの、好奇心が旺盛で、興味を持ったことを調べるために図書館に行くこともよくありました。

学校の同級生など周囲との関係は良好でしたが、そもそも人への関心は薄く、我が強い性格でした。思ったことを何でも口に出すタイプだったので、クラスメイトが直接ではなく大人を通して婉曲に意見を伝えることに驚くこともありました。

―――診断名と苦手なことを教えてください。

診断名はADHDで、20代前半の頃に診断されました。

特に苦手なのは、さまざまな物事の管理です。時間やスケジュールの管理は不得手ですし、持ち物の管理も不得意です。特に大人になってからは税金や公共料金の支払いなど自分で管理しなければならないものが増え、契約は問題なくできるものの支払いを忘れるといったトラブルもしばしばありました。

―――Kaienにつながる前はどんなことをされていましたか?

事情があって4回生になる前に大学を中退し、学生時代からアルバイトをしていた花屋に就職しました。入社して3ヶ月ほどで店長になり、1年ほど勤務していました。その後はバーのような飲食店で働きましたが、1年弱で退職しました。

花屋では店長として売上の責任を負い、飲食店では歩合制の給与体系だったため、自分が上げた成果によって報酬が大きく変動する環境でした。もともと曖昧な事象が苦手で白黒思考や完璧主義なところがある上に、この頃の働き方の影響があって、成果主義で100%を出し続ける働き方を続けることに限界を感じました。

事務職の正社員を目指して就労移行支援をスタート

(Oさんお気に入りのカフェ)

―――Kaienで訓練を始めようと思ったきっかけや理由を教えてください。

大学中退後にそのままアルバイト先に勤めたので、就職活動をしたことがありませんでした。また、飲食店は夜勤だったので自分一人の力だけで昼間の仕事に転職するのはハードルが高く、何かしら周りのサポートを受けた方が良いと感じたのが、就労移行支援を受けようと思ったきっかけです。

今まで以上に安定して長く働き続けることができる正社員での就職が一番の希望だったため、就労移行支援施設の選択にあたっては訓練が就職に結びつくかどうかを重視しました。何ヶ所か見学しましたが、自分がイメージする社会人像や就職への道筋が一番はっきり見えたのがKaienだったので、Kaienで訓練を始めることにしました。

―――訓練では主にどんなことをしましたか?

PCスキルなどの実用的なスキルをつける訓練を中心に受けました。

今までの職歴ではほとんどパソコンを使用する機会がなかったので、Kaienでの訓練を通じ、WordやExcelなどのソフトを使用する事務作業ができるようになることが目標の一つでした。実務に役立つスキルを重視したプログラムを受け、Kaienで得たスキルは現在の職場で非常に役に立っています。

1点だけ後悔を挙げるなら、何か資格を取っておけば良かったと思います。就職活動で資格取得が有利に働くかどうかは職種にもよりますが、資格は就職後に自分のスキルがどれだけあるのかを周りに示す客観的な指標になります。自己申告だけでは上司や周囲は本当にできるのか判断しかねるため、パソコンや事務に関連する資格があれば周囲にスキルを証明する手段になったな」と感じています。

がむしゃらに頑張るだけでなく、一旦立ち止まって思考できるように

(Oさんは「魚より牛派」だそう)

―――訓練を通して学んで良かったことを教えてください。

訓練を受ける前は、自分が成果主義的な環境にいたこともあり、自分だけではなく周りの人にも仕事に対する積極的な姿勢を求めすぎてしまう面がありました。

しかし就労移行支援施設にはさまざまな背景を持つ方がいて、働くことへの価値観もそれぞれ大きく異なっていました。今後も多様な価値観を持つ人と接する際には、過剰に求めすぎないこと、どのような姿勢の人にも居場所をつくることの大切さを実感できたのは、大きな学びだったと感じています。

また、飲食店の仕事をしている間に自分の常識が世間一般とずれていっていると感じる部分があったのですが、そこも訓練で修正できました。たとえば細かく報連相をすることや、「分かっているだろう」と曖昧にせずに伝えるべき情報を形で残すことです。公私を分け、他人の事情に踏み込みすぎないなど、人との適切な距離感の感覚も調整できました。

―――訓練開始前に比べてご自身が変わったと思うことはありますか?

今までは困難な仕事を勢いや自分の力のみで対処しようとする傾向がありました。物事の管理が苦手なため、その抜け漏れをカバーするために過剰に無理をして限界がくることを繰り返してしまうことも前職の退職要因の一つでした。しかし訓練を通して、一旦落ち着いて何をするべきかしっかり理解し、ベストな手段を考えられるようになりました。

何でもかんでも個人の頑張りだけで解決しようとするのではなく、優先順位をつけたり効率的な手段を探したりと、より良い解決方法を模索する思考ができるようになったと思います。

自己分析が鍵!希望の正社員就職を実現

―――訓練を開始してからどのくらいで就活を始めましたか?

訓練開始3ヶ月目からは入社を前提としない企業内実習を受け、4ヶ月目には企業にエントリーシートを出し始めました。

正社員雇用かつ自立して生活できる給料をいただける会社への入社をめざして就活し、幸い2社受けた段階で現在の職場へ正社員で採用が決まりました。

―――就活の際にしておいて良かった対策を教えてください。

特例子会社や障害者枠での就職を希望していたのですが、面接でよく聞かれたのが、就労移行支援訓練の出席率でした。僕は訓練を始めてから休むことなく出席しており、100%の出席率がかなり有利に働いた実感がありました。

また、経歴の空白期間や夜の仕事などの説明が難しい職歴も事前に整理し、きちんと経緯や理由を説明できるように対策しておいたのも役に立ちました。嘘をついたり故意に経歴を隠したりすることは決してありませんが、必要のないことまであえて触れないためにも、過去の分析や整理、言語化は重要な対策だと思います。

―――就活で「もっとこうしておけば良かった」と思うことはありますか?

企業側がどのような人材を求めているのか、どこを目指しているのかを詳しく調べておくことです。

ある企業の面接中に「自分はこの企業が求めている人物像とは異なっているのではないか」と感じ、なんとなく違和感を抱えていたら案の定落ちてしまった、ということがありました。より合う職場に就職するためにも、求める人物像に自分が当てはまっているかのリサーチや確認は重要なポイントだと思います。

同じ悩みを持つ人に可能性を示せる生き方がしたい

―――現在の職場での仕事内容を教えてください。

職種は事務職で、グループ内企業で発生するさまざまな事務仕事に対応しています。たとえばパソコンが苦手な営業担当者のサポートやデータ入力、書類や荷物の発送といった軽作業など、業務内容は幅広いです。また、VBAやGASなどのプログラミング言語を使用し、プログラミングで作業を自動化する仕事も担当しています。

幸い人に恵まれ居心地の良い環境で、仕事に関する希望も聞いていただけており、満足しています。

―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?

短期的には、作業の自動化など一定のスキルが求められる業務の範囲を広げていきたいです。対応できる人が限られる仕事がこなせるようになれば、自分の価値をどんどん上げていけるのではないかと考えています。

もう一つは長期的な目標ですが、自分と同じ特性や悩みを抱えた人の力になりたいです。

僕は幼い頃からADHDの診断を受けていたわけではなく、発達障害特性のない人たちに囲まれて生きてきました。現在20代半ばですが、Kaienでの就労移行支援や当事者の会への参加を通して、自分と近しい悩みや困りごとを抱え、居場所を見つけられずにいる人がこんなにいるんだと驚き、力になりたいと強く思うようになりました。

特性に悩んできた僕から、「こんな生き方もできる」と可能性を示していきたいです。

付録  ~Oさんのこと~

(「甘いものも嫌いじゃありません」とOさん)

休日は外に出て、友達と過ごすことが多いです。お酒を飲んだり、カフェを巡ったりすることもあります。

現在の会社に入社してからゴルフも始めました。コースを回れるようになることを目標に、打ちっぱなしで練習中です。


*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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