▪年齢:20代前半 ▪診断名:ASD、ADHD ▪仕事における苦手なこと:計算が遅いこと、パソコン入力でミスが多くなること ▪就職した職種:接客ー販売系(障害枠) |
説明上手だけど整理整頓は苦手だった子ども時代
――幼い頃はどんなお子さんでしたか?
幼稚園では、物事を説明するのは上手だと言われていたのですが、お道具箱とかの忘れ物が多かったですね。小中時代は机の中の整理整頓や部屋の掃除が苦手でした。
――周囲と自分は何か違うと感じたことはありますか?苦手なことを教えてください。
暗記ものは覚えていられる量が少なくて、周りと比べて違うなと感じました。
数学もずっと不得意でしたが、特に中学の最後の方になると、ついていけないぐらい苦手になってしまって。計算を間違えるより、計算が遅くてテストで最後まで解けず、70点ぐらいになってしまう感じでした。間違いは少ないのですが、制限時間内に問題をこなすのが難しかったです。
大学卒業前の心境とKaienとの出会い
――Kaien前に職歴はないようですが、状況や心情を教えていただけますか?
発達障害があると分かったのは大学に入る直前ぐらいです。配慮を受けながら大学に通いましたが、就活と大学生活を両立するのは難しいと感じていました。まずは卒業論文を頑張って完成させ、就職はその後の方が良いと思いました。
卒業する直前ぐらいから見学の予定を立てて、いくつかの事業所を1ヶ月ほど見て回りました。地元の障害福祉で紹介いただいた中で、Kaienが良いと思って決めました。
――Kaienを選んだ理由は?
説明会で就職までのプランがしっかり説明されていたからです。他の事業所よりKaienはしっかり順序立ててやっていくことが伝わり、道筋がはっきりしていて安心できると思って選びました。
Kaienで得た変化と成長
――「オンライン店舗」のプログラムでは、どのようなことに取り組まれていましたか?
オンライン店舗では、主に古本をECサイトに出品し、購入された商品を梱包・発送する業務を行いました。
――「オンライン店舗」のチーム内でのやり取り、得意・苦手だったことは?
僕がいた拠点には5人、もう1つの拠点に3〜4人、計9人ぐらいで話し合いながら作業を進めました。仕事の割り振りをまとめるのが得意な方と僕で話し合い、「今日は在庫を新しく処理しよう」とか「エクセル入力をこの人にお願いしよう」といった形で進めていました。
グループ作業で、コミュニケーションが不得意な方もいました。僕は会議で発言内容を要約して伝えたり、周りの人に指示を出したりが比較的うまくできたのではと思っています。ただし、障害特性は人それぞれ違うことを理解してサポートするのは難しかったですね。
また、僕はADHD特性のためエクセルの入力ミスが多かったので、正確に入力する作業では、苦労したこともありました。パソコン操作は得意な方に任せることが多かったです。
――訓練で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
訓練中に講師から、「報連相が上手だね」とか「指示をよく出せているね」とフィードバックをいただいたことがあります。
自分ではあまり得意なことがないと残念に思っていましたが、評価してもらえたことで、自分の長所に気づけて嬉しく感じました。
――訓練で学んだことや、今後働く上で役に立つ知識やスキルを教えてください。
説明や人に伝えることが得意である一方、パソコン作業は苦手なことに気づけ、仕事選びや今の仕事にも役立っています。
スキルの面では、会議の仕切りを任されることが多かったので、チームで何かを進める際に、調整力が身についたと思います。特に、相手が何を言いたいのかを考えながら対応するスキルが養われたのが良かったと感じています。
――Kaienでは、他人との関わり方やコミュニケーションなどを学ぶ機会はありましたか?
コミュニケーションの定型的なやり方を学んだというよりは、その都度考えて対応することを学べました。訓練場では障害がある方だけが集まっていたので、さまざまな特性を持つ方がいることを理解する良い機会にもなりました。
午前中には座学の時間もあったのですが、僕はどちらかというと午後のグループワークを重視していました。
――Kaienで、他人と関わる中で難しいなと思ったことや工夫した点はありますか?
Kaienでは、他の人が想定外の行動をして「なんでそうなっちゃうのか」と不思議に思う場面がよくありました。そこで、特に失敗した際は、まず理由を聞くように意識しました。
例えば、本の清掃作業で、汚れを落とそうとして本が破れてしまい、売り物にならなくなってしまうことがありました。理由を聞くと「どこまでやっていいか分からなかった」ので、失敗を報告せずに作業を続けてしまう方が多かったのです。
そこで、基準を設け、「破れそうになったらやめましょう」とか「汚れが取れなければ一度止めても大丈夫ですよ」と伝えることにしました。その結果、皆が過剰に頑張ってしまうことが減り、商品が破損することも少なくなりました。
――訓練を通してご自身が変わったと思うことはありますか?
Kaienに入る前は、仲の良い人とは普通に話せても、初対面の人と話すのはなかなか難しいときがありました。でも、訓練の中でいろんな人と接するうちに、初対面の人とも話せるようになったと思います。
Kaienでは「生活訓練」と「職業訓練」の2つのプログラムがあり、最初に生活訓練を半年間受けました。そこでは、自分の障害がどんなものかを理解する勉強をしたり、日常生活で必要なスキルを身につけたりしました。その後、職業訓練に進み、オンライン店舗のプログラムなどを経験し、トータルで1年くらい参加しました。
Kaienでは周りに自閉スペクトラム症(ASD)の方が多く、特性を理解するのに役立つ経験ができたと感じています。
訓練で知識が身についたおかげで、「この人はどうしてこういう行動をするんだろう?」と悩むことが減り、相手の背景や特性を踏まえて接することができるようになりました。周囲の人を理解する力がついたのも、Kaienで得られた大きな学びの一つだと思います。
接客業が得意分野だと気が付くまで
――就職活動を始めたタイミングを教えてください。
Kaienに入って約2ヶ月後から職業体験を始め、事務職を2ヶ所、アパレルの倉庫業務を3ヶ所体験しました。生活訓練に半年間通って心の準備が整い、職業訓練に慣れてきたタイミングで就活に進みました。
――会社は何社受けましたか?
履歴書を送ったのは5ヶ所ほどで、面接まで進めたのは2社でした。両方の面接に受かり、第1希望の企業に就職しました。
――接客ー販売業を選んだ理由を教えてください。
就活を進める中、事務職と接客業のどちらにするか迷いました。障害者枠の仕事は事務職が多いのですが、2ヶ所で体験した段階で自分には適性がないと感じ、接客業に気持ちが傾きました。
現在の就職先を選んだ理由は、会社規模の大きさによる安心感や配慮が得られる点です。一般枠で応募しましたが、面接で障害を伝えたところ障害者枠で雇っていただけることになり、その柔軟さも魅力でした。
実際に、レジ業務やパソコンを使った在庫の処理業務は配慮として免除され、得意な接客業務に集中できる環境を整えてもらえました。自分の得意なことをやらせていただいているので、非常に働きやすいです。
――就活で苦労したことと、どう乗り越えたのかを教えてください。
一番苦労したのは履歴書の作成です。Kaienの講師が相談に乗ってくださり、「この人と面接してみたいと思わせるにはどう書けばいいか」という視点でアドバイスをいただきました。
――就活を振り返ってやっておいて良かったこと、もう少し対策しておけば良かったことがあれば教えてください、
受かった企業に進めましたが、落ちた場合に備えてもっと多くの企業を調べておいてもよかったかなとは思います。
努力が評価され、念願の配属先で新たな一歩を
ー今後、挑戦したいことや目標を教えてください。
今はスポーツコーナー担当ですが、スポーツをしてないこともあり、入社当初から「ファッションアイテムコーナーに行きたい」と希望を出していました。ようやく来月からそのフロアに立たせてもらえることになりました。
「スポーツをやってないから適任ではない」という理由ではなく、一生懸命頑張って仕事を覚え「いい接客ができていたから」と評価されて移動できたので嬉しいです。これからも、もっと良い接客ができるように頑張りたいと思います。
付録 〜Kさんのこと〜
休日はゲームをしていることが多いですね。最近は「ストリートファイター」という格闘ゲームや、「FPS」(シューティングゲーム)をしています。ポケモンも好きですよ。
僕はあまりスポーツをしていなかったので、面接の際にチームワークを心配されたことがありました。でも、シューティングゲームでチーム戦の経験があり、大会に出場したことをアピールできました。おかげで、少しは経験を補えたのではないかと思っています。
好きな服を探しに行くことも多いです。あるコラボアイテムを買うタイミングを逃してしまっていたのですが、先日、店頭に残っていたのを見つけたのでサイズは1つ大きかったのですが、思わず買っちゃいました!嬉しかったです。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。
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