「好きな業界に携われていることが幸せ」紆余曲折を経て、Mさんがたどり着いた現在

HOME大人の発達障害Q&A利用者体験談「好きな業界に携われていることが幸せ」紆余曲折を経て、Mさんがたどり着いた現在
▪年齢:20代後半
▪診断名:自閉症スペクトラム
▪仕事における苦手なこと:他の人と話し合いながら物事を進める、臨機応変な行動
▪就職先:事務職(障害枠)


私だけ母に手を引かれて

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

人と関わりを持つのが苦手な子どもでした。通っていた幼稚園では、園児だけで集団登園することがあったのですが、母に連れられてよく泣きながら行っていました。

園生活を思い返しても、他の子とあまりなじめていなかったのを覚えています。

―――周囲と自分が違うと感じたことはありますか?

小学校に上がってからも、相変わらず人と関わることが不得手だったので、いつからか「精神障害などの何かがあるかも」と思うようになりました。

お昼休みの25分間、みんなは外に出て遊んでいるのですが、私は一人で校舎内の階段を上り下りして過ごしていたのです。学校にいる間は、いかに時間をつぶすかばかりを考えていました。

―――診断名と苦手なことを教えてください。

診断名は、自閉症スペクトラムです。苦手なことは、協調性を持った行動や、臨機応変な対応です。「人と関わりたい」という気持ちはあるのですが、いざ関わると息苦しくなってしまうことが多いです。

診断を受けたのは、20代前半のときです。当時服用していた薬の副作用の影響で緊急入院したときに、その病院の医師に勧められた検査で分かりました。私は精神障害だと思っていたので、発達障害だと聞いたときは驚きました。

―――Kaienにつながる前は何をされていましたか?

精神状態が悪化したのを機に大学を中退し、療養後に料亭で勤め始めました。そこで料理をより本格的に学びたいと思い、4ヶ月ほどで退職して調理師の専門学校へ入学しました。

料理人を目指した理由は、どこへ行っても活かせるスキルであることと、将来的にAIが発達してもなくならない仕事だと考えたからです。また、「中華調理やフレンチなどのシェフは、専門性がありかっこいいな」とも以前から思っていました。

ただ、調理の役割分担を決めたり、効率良く進めるために適宜話し合ったりと、料理人には協調性が求められます。私の特性上、そういったことが苦手なのでなかなかうまくいかず、専門学校も中退しました。

その後、少し経ってから百貨店の地下で食品販売のアルバイトを始めました。しかし、お客様に対して素直な言動ができず、何かとごまかそうとしてしまい、たくさん迷惑をかけてしまった後悔があります。4ヶ月ほど続けましたが、接客業も向いていないと思い退職しました。

Kaienが居場所となり、精神的な安定につながった

(「淀川は自然を感じられる場所なので、散歩でよく行きます」と教えてくれました)

―――Kaienで訓練をはじめようと思ったきっかけを教えてください。

Kaienに通うようになったのは、母から勧められたのがきっかけです。「すぐに就職したい」という思いがあったので、勧められたKaienの事業所の中から一番通いやすいところを選びました。

なるべく早く就職したかった理由は、あまり家計の状況が思わしくなかったことと、「新しいキャリアを歩み始めるなら年齢的にも早い方がいい」と考えたからです。

―――職業訓練ではどんなことをしていましたか?

週替(しゅうがわり)コースで、グループワークに取り組みました。決められた目標を達成するために、2〜3人で協力して業務を進めるというものです。

人と関わりたいとは思っていましたが、実際に関わるとやはり息苦しさを感じることが多く、頑張って何とか参加している状態でした。どうすればもっと関わりやすくなるのかは、今もまだまだ試行錯誤中です。

しかし、このグループワークをしたからこそ、どうにかして人と向き合わなければならないことを学べたように思います。

その他にも、個人ワークとしてプログラミングやExcelに関するテキスト学習に取り組みました。Office製品で利用できるプログラミング言語「VBA(Visual Basic for Applications)」に興味を持ったことがきっかけです。

知り合いのプログラマーからも、「やってみたら」と背中を押してもらったので、勉強してみることにしたのです。

―――就職に向けて、訓練で「もっとこうしておけば良かった」と思うことはありますか?

家にパソコンがなかったので、事業所以外でプログラミングの学習がほとんどできていませんでした。「パソコンを買って家でも勉強すればよかったな」と、少し心残りです。

もっと勉強できていれば、仕事の選択肢が増えたかもしれません。これから訓練を受ける方がいれば、プログラミングや動画編集など、プラスのスキルを得られるような勉強もしておくことをおすすめしたいです。

―――訓練で印象に残っていることはありますか?

何かを成し遂げたというよりも、所属していた約11ヶ月間、毎日通えたことが何よりもよかったです。行く場所があるだけでもありがたく、Kaienに通っていた日々が精神的な安定をもたらしてくれたと思っています。

立場は違っても、好きな業界に携われていることが幸せ

―――就活では、どういった業種・業界を目指しましたか?

一般枠でプログラマーとしての就職を目指していましたが、データ入力の職場体験に行った会社からオファーをいただいたため、その会社への入社を決めました。早く就職したかったこともあり、進路の変更には悩みませんでした。

―――現在の職場での仕事内容を教えてください。

外食チェーン店に関わるデータ入力です。たとえば、外注の報告書や店舗の水光熱費のデータ、食品のロスの報告書などをまとめています。

データ入力はひたすら指を動かさないといけませんし、正確さを求められるので、少ししんどさはあります。しかし、職場環境もよく、業務内容も自分には合っているなと感じています。入社して5ヶ月ほど経ちますが、今までで一番長く勤められている職場です。

立場は違いますが、憧れた飲食業界に関わる職場で働けていることがうれしいし、幸せなことだと思っています。

―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?

英語を使う仕事ができたらいいなと思い、勉強しているところです。訪日外国人向けにおすすめスポットを紹介するブログを作ったり、ゆくゆくは大阪でツアーガイドをしたりしたいなと考えています。

日本は観光資源が豊富な国ですし、さまざまな国の人がレジャーに来ます。観光客がどんどん増えていますし、今後も観光業はなくならないのではないでしょうか。いつか仕事につながることを期待して、英語力を高めていきたいです。

付録  ~Mさんのこと~

(Mさんが愛読している歴史書)

ふらっと散歩に出るのが好きで、大阪市内で自然が残っている淀川や、本屋などによく行きます。出掛ける際にはいつもかばんに英単語帳を入れており、時間があれば勉強をしています。

本屋でよく手に取るのは歴史書です。最近、シリーズの3巻目を読み終えました。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます