▪年齢:40代後半 ▪診断名:ASD ▪仕事における苦手なこと:臨機応変な対応、口頭指示、同時並行で作業を行う ▪就職:専門職(IT・障害枠) |
仕事で出会ったお子さんが、幼少期の自分と重なった
―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?
とても大人しい子どもでした。他の子が外で遊んでいてもほとんど参加せず、家の中で静かに遊んでいることが多かったです。手先が器用だったので、パズルや折り紙をしたり、プラモデルを組み立てたりして遊んでいました。
両親からは、「あまり手がかからなかった」と言われました。ただ、パズルやプラモデルが思うようにできないと、癇癪を起こして壊すこともあったので、そういったときには苦労をかけていただろうなと思っています。
―――これまで経験してきたお仕事について、教えてください。
もともとはリハビリ士として病院で働いており、急性期で約2年、回復期で約4年、主に成人の患者さんを担当しました。
病院を退職した後は、一般社団法人の事務局で働きました。たまたま参加した勉強会でその法人を知り、展開している事業に興味を持ったからです。その法人ではeラーニングやLPを作って集客動線を組み立てるなど、システム関連の仕事を任せてもらいました。
この仕事は本当に面白かったのですが、残念ながらコロナ禍で継続が難しくなってしまい、訪問看護ステーションに転職しました。
―――発達障害に気付いたきっかけを教えてください。
発達障害に気付いたのは、訪問看護ステーションで担当したお子さんの姿が、幼少期の自分と重なって見えたことがきっかけです。
初めてお子さんとじっくり関わる中で、“些細なことでも気に入らないことがあれば不機嫌になる”といった姿を見て、「自分もこれだ」と思ったのです。
―――診断名と苦手なことを教えてください。
診断名はASDです。苦手なことは、マルチタスクや臨機応変な行動、口頭指示、感情のコントロールなどです。
医療業界は、私の苦手なことの連続でした。目の前に苦しんでいる人がいて、もしかしたらその人の命に関わるような状況になるかもしれない中で、今やるべきことを判断して行動しなければなりません。
また、他の職員と廊下や階段ですれ違ったときに、その場で患者さんに関する情報共有を行うこともあります。リハビリ士と看護師では専門性が異なるので、看護師の専門用語を使って話をされると単語を聞き取るだけで精一杯になり、文章として理解するのが難しかったのです。
さらに、端的にまとめて相手に伝えることも不得手なので、刻一刻を争う場面が多い医療業界は本当に向いていないと感じました。
テレビのニュース番組を見て、Kaienを知る
―――Kaienで訓練をはじめようと思ったきっかけを教えてください。
Kaienを知ったのは、テレビで“Kaienが某企業と提携を始めた”というニュースを見たのがきっかけです。皆さんがイキイキと働いている姿が映されており、とても興味を持ちました。
提携したその会社はグローバル企業で、今までは雲の上の存在のように感じていたのですが、そのときはなぜか身近に感じられたのです。ちょうど「この先どうしようかな」と思っていたときだったので、「私もこの会社に行きたい」とKaienに問い合わせをしました。
―――職業訓練ではどんなことをしていましたか?
大きく分けると、3つの訓練に取り組みました。1つ目は、Kaienの担当者と行う「自己分析」。2つ目は、複数人で取り組む「グループワーク」。3つ目は、プログラミングなどを学ぶ「パソコンの訓練」です。
「プログラミング=難しそう」と思う方もいるかもしれませんが、Kaienの訓練は取り組みやすいよう工夫が施されています。パズルのような感覚で取り組める内容だったので、訓練へのモチベーションを高く保つことができました。
―――訓練で特に印象に残っていることや、うれしかったことを教えてください。
グループワークで、購買部と営業部に分かれて営業ゲームを行ったのですが、最後に「もう一度取引をしたい取引先No.1」に選ばれたことがうれしかったです。
また、そのグループワークでは同じ事業所に所属する人だけでなく、他の事業所にいる人ともオンラインツールを使ってやり取りをしました。いろいろな人と関われる、貴重な機会になったと思います。
自己分析を通して、自分に対する理解を深められた
―――訓練を通して学んだことや、変わったことがあれば教えてください。
自分を見つめ直すきっかけになったのは、Kaienの担当者とマンツーマンで行った自己分析です。幼少期から現在に至るまでをすべて振り返ったことで、自分の特性やその対処法などをきちんと把握することができました。
以前は、“私のやり方に合わせてもらう”という癖があったので、職場でもKaienのグループワークでも人と衝突することが多かったのです。
しかし、担当者は「そのやり方はみんなが嫌がっている」「ファシリテーションはみんなの意見をうまく引き出して、一番いい形に持っていくことです」とはっきり教えてくれました。それが、私にとっては良かったのだと思います。
自分の持ち味や活かし方が分かったことで、今までよりも人と接することが好きになりましたし、自分の気持ちをぐっと抑えてその場の空気を大切にできるようにもなりました。担当者は、私の人生を大きく変えてくれた人の1人です。
―――就活では、どういった業種・業界を目指しましたか?
一般社団法人で経験したシステム関係の仕事がとても楽しかったので、IT関連の業界を目指しました。目標にしたのは、Kaienに通い始めたときから行きたいと言っていた会社への就職です。
担当者から、「その会社だけに絞りすぎるのはあまりよくない」とアドバイスをいただいたので、同じ業種の他企業にも応募しました。最終的には目標にしていた会社への就職が決まり、本当にうれしかったです。
―――ご自分の就活を振り返って、やっておいて良かったことを教えてください。
やっておいて良かったのは、面接の前に担当者と想定問答集を作り込んだことです。Excelに100問ほど質問とその答えを書き出し、やり取りの整合性がとれるよう何度も見直しました。
自分の経験と、その企業で活かせることを関連づけたアピールポイントを考えておいたことで、面接の際には相手に好印象を抱いてもらうことができました。
就活に向けた準備は、「誰よりも準備した」と思えたことで、面接の際にも気持ちにゆとりが生まれたと感じています。苦手な口頭でのやり取りも、気負いすぎずに乗り越えることができました。
常にステップアップを目指して
―――現在の職場での仕事内容を教えてください。
会社では、AIが作った文章が基準に合っているかのチェックをしたり、パスワードの発行代行をしたりしています。「AIに関連する仕事をやりたい」と私が伝えていたので、その希望を汲んで仕事を割り振ってくれたのだと思います。
職場には同期もいますし、仕事に関することはすべてマニュアル化されているので、何一つ困ることがありません。恵まれた環境だと感じています。
―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?
IT関連の仕事に就いたからには、業界に関する資格を何か取得したいと考えています。今は、基本情報技術者試験の合格を目指して勉強しているところです。
去年より今年、今年より来年と、少しずつステップアップしていけたらいいなと思っています。
付録 ~Oさんのこと~
料理を作るのが好きで、在宅勤務の日にはよく昼食を作ります。すぐに作れるよう、野菜などは切って小分けにして冷凍保存しているのです。仕事柄、どうしてもパソコンに向かう時間が長くなるので、料理することがいい気分転換になっています。
また、私は神奈川県が好きなので、横浜や鎌倉、湘南などをよく散歩します。最近、鎌倉の小町通りの建物が新しくなり、今まで以上に食べ歩きがしやすくなりました。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます