苦手なことへの対策と成長〜Wさんのリアルな就活体験記〜

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▪年齢:30代半ば
▪診断名:ADHD、うつ
▪特性/苦手:こだわり強め、時間管理、口頭指示、細かなミスが多い、衝動性が強い
▪就職:事務職(障害者枠)

幼少期から診断を受けるまでの自分を振り返って

ー幼い頃はどんなお子さんでしたか?

幼い頃はよく泣いていたようです。動物が好きで、小さな鳥を飼ってお世話をしていたみたいです。動物は今でも好きですよ。

ー現在のご自身の性格を教えてください

さっぱりした性格で、あまり物事にこだわらない性格です。

ー周囲と自分は何か違うと感じたことはありますか?

小学校や中学校の頃、周りの人たちとノリが合わないと感じていました。友達同士で盛り上がっているときに、自分だけそのテンションについていけなかったり、興味の方向性が違ったりする場面がありました。

ー苦手なことや困ったことの具体的なエピソードを教えてください

耳から入る情報を処理するのが苦手ですね。診断でも、その傾向があると言われました。

電話で長く話をしていると、会話が終わった後に「何を話していたんだっけ」と内容を忘れてしまうことがあります。また、複数の情報を一度に聞くと混乱して「この人、何を話しているんだろう」と戸惑うこともあります。

特に、工事現場のような騒がしい場所や、他の人の会話が聞こえてくるような場所で話をするのが苦手です。いろいろな音が同時に頭に入ってきてしまい、混乱してしまいます。

ー診断を受けたきっかけは?

学生時代から夜眠れないことが多く、上京して3~4年経った頃に不眠がさらに悪化し、生活に支障をきたすようになりました。

そんなとき、友人から「一度病院で診てもらったらどう?」と勧められて受診したところ、ADHD疑いの診断を受けました。

Kaienでの訓練が与えた影響

ーKaienに入る前の就職先を教えてください

30歳くらいまで北海道で暮らし、地元のお弁当屋さんでアルバイトをして、主に接客を担当していました。その後上京してUberEatsで働き、次にリサイクルショップで3〜4年ほど勤めました。

就職先を選んだ理由は、歩いて5~10分ほどで通える距離で自宅から近かったことが大きかったです。また、接客業なら自分にもできそうだと思いました。

ーKaienで訓練を始めようと思ったきっかけは?

Kaienを選んだきっかけは、友人からの勧めです。その友人は別の就労移行支援を利用していましたが「就労移行支援を利用するならKaienがいいよ」と教えてくれました。

いくつかの施設を見学したのですが、他の施設と比べてKaienはより実践的で、職場を想定したトレーニングが充実していると感じました。そして体験に参加し、自分に合っていると感じたので選びました。

ー訓練で実現したかったことは達成できましたか?

実現したかったことは、事務作業やチームワークを実際に経験することです。それまで事務職の経験がなかったため、仕事としての事務作業に取り組み、「できる」という実績を積みたかったのです。

訓練を始めた当初は、何を目標にすれば良いかもよく分からない状態でしたが、取り組む中で徐々に目標を見つけていきました。

具体的な目標の一つ、就職をすることは無事達成することができました。もう一つ達成できた目標は、朝ちゃんと起きることです。もともとゲームを深夜まで続けてしまうことも多く、朝に起きるのが苦手でした。しかし、Kaienに通い始めてから、決まった時間に起きる習慣が身につき、改善できました。

Kaienへの通勤時間は40~50分ほどかかるため、早起きが必要でした。最初は大変でしたが、訓練を通じて生活リズムが整い、以前よりもしっかりと朝起きられるようになったと感じています。

以前は夜型で遅刻しがちでしたが、ゲームを深夜まで続けることもなくなり、生活リズムが整ったことで、今の会社では遅刻せずに出勤できるようになりました。

ー苦手なことへの対策は見つけられましたか?

着替えや必要なものを前日に準備しておき、朝起きてすぐ行動に移れるよう、工夫して遅刻を防げるようになりました。

また、マルチタスクが苦手なので、業務内容をマニュアル化して書き出して整理しました。

他に一つの物事に集中しすぎる「過集中」を防ぐために、1時間ごとにタイマーを使って休憩を取り、適度にリフレッシュするよう心がけています。こうすると、疲れによるミスを減らせます。特に、パソコンや経理の作業中は、休憩を意識することで効率的に作業を進められるようになりました。

ー訓練で印象に残っているエピソードを教えてください

Kaienでの訓練では、上長から細かい助言をいただける機会があり、それがとても印象に残っています。「移動しながら挨拶をするのは相手に失礼になる」という具体的な指摘で、歩きながら「おはようございます」と言うのではなく、立ち止まって相手に向き合って挨拶することが大切だと教わりました。

これまで自分では気付いておらず「言われなければ分からなかったな」と驚きました。今までこのようなアドバイスをもらえたことはなかなかなく、とてもありがたかったです。指摘の仕方も厳しい感じではなく、分かりやすく丁寧に伝えていただけたので、素直に受け入れられました。

ー所属したコースで取り組んでいた内容は?

最も長く所属していたのは、オンラインショップで中古本を扱うコースでした。主な業務は本の検品や出品作業、梱包・配送などです。

毎日の報告会や、何週間かに一度の業務改善会議で、スタッフ間で効率的に業務を進められるよう、ローテーションで役割を分担し、会議の書記も担当したことがあります。作業をサポートするためのマニュアルも整備されており、それに基づいてチームで取り組んでいました。

業務で得意だったことやうまくできたことは?

本を配送するために包装する作業を担当した際に、仕上がりについて周囲から「めちゃくちゃきれいですね」と褒められることが多かったです。テープの貼り方や整え方など、手先の器用さを活かせた点が、自分の強みだと感じています。

ー逆に難しかったことは?

少し難しく感じた業務は書記作業です。報告書を記入する際に、日々の作業内容を記録するだけでも、どうまとめるべきか迷うことがありました。特に会議の書記を担当したときは、内容を正確に整理するのが苦手で、Zoomの書き起こし機能やツールを使いながら工夫して対応していました。

また、経理作業の内容を同僚に教える際も苦労しました。月に1回程度の頻度で行う業務だったため、自分でも作業手順をすっかり忘れてしまうことがあり、説明がスムーズにできなかったのです。

ー訓練を通して学んだことや、今後働く上で役に立つと思ったことは?

Kaienでの訓練を通じて学んだことは、タスクの細分化の重要性です。具体的な作業が1から10までマニュアル化されていて、それに基づいて業務を進めれば効率的に作業ができることを実感しました。

また、コミュニケーションが苦手で、どう接すればいいか分からないときもよくありましたが、基本的なパターンがあることを知り、以前より自信を持って対応できるようになりました。

就活で直面した課題とその克服方法

ー訓練を開始されてからどのくらいで就活をスタートしましたか?

訓練を開始したのは10月の半ば頃からです。その後12月中旬に面接実習に参加しました。本格的に就職活動を始めたのは翌年の2月頃からです。

ー就活では何社受けましたか?

応募した会社は合計で100社ほどです。Kaienの支援を受けながら、転職エージェントやハローワークも併用していたため、同時並行で多くの選考に応募した結果、この数になったと思います。

転職エージェントでは、志望動機を個別に変更しなくても簡単に応募できる仕組みを活用し、効率的に応募数を増やせました。ただし、最初はなかなか内定を得られず、試行錯誤しながら進めました。

ー就活の軸はありましたか?

なるべく自宅から近く通いやすい職場で、収入が一定水準をみたしていることです。

ー就活で苦労したことや、どう乗り越えたのか教えてください

就活始めの頃は面接で落とされることが多く、自分の話し方や伝え方に課題があると感じました。

特に具体的な質問にどう答えれば良いのか、話の組み立て方が分からず苦労しました。最初は、質問に対して漠然とした内容で答えてしまい、結論やポイントが伝わらないことが多かったです。そのため、Kaienでの面接研修を通じて支援を受け、練習を繰り返して改善を図りました。

ーKaienでは面接指導でどのようなフィードバックを受けましたか?

話の冒頭で結論を述べ、その後にその結論に至った理由や具体的な内容を簡潔に伝えることが大切だと指摘されました。また、話が長くなりすぎないように意識し、要点を絞ることで聞き手に伝わりやすくなるとも教えていただきました。

さらに、自己紹介では自分の欠点やネガティブな部分を過剰にアピールしないことが重要であると指導されました。マイナス面に触れる場合でも、必ずプラスの要素で締めくくり、前向きな印象を与えられるように工夫すると良いとアドバイスを受けました。

すぐに指摘を受けることで、「自分はこういう話し方をしていたんだ」と素直に受け止め、癖や偏りに気付くことができました。

また、Kaienでの練習では、複数の人からフィードバックを受けることを意識しました。同じ人から継続して指導を受けるだけでなく、異なる視点を取り入れることで、自分の改善点を色々な方向から把握できました。

その後、転職エージェントでも面接練習を行い、具体的なエピソードトークを引き出してもらったり、まとめ方を教えてもらったりしたことも大きな助けとなりました。

ー就活を振り返って、対策しておけば良かったと思うことを教えてください

履歴書や職務経歴書は、なるべく多くの人に見てもらった方が良いかなと思います。書類の段階で通過しないと、面接に進めないので。

最初は書類の見た目をあまり意識していなかったのですが、PDFに変換した場合のフォントや文字サイズ、全体のバランスなどを細かく調整することで、見やすく整った書類を作成できました。最初から注意しておけば、もっとスムーズに進められたかもしれないと感じています。

ー現在の仕事内容は?

通勤がしやすいことと、年収などの条件が合っていたことで卸系の商社に就職を決めました。現在は事務職を担当しています。パソコン作業には問題なく対応できるため、業務には特に滞りはありません。ただし、デスクワークが多い分、長時間座りっぱなしになるため、1時間ごとに休憩を取るよう心がけています。適度に歩くことで集中しすぎるのを防ぎ、リフレッシュするようにしています。

ー仕事で楽しかったこと、嬉しかったことは?

面倒なExcelの作業を無事に仕上げて提出できたときは、とても達成感がありました。職場では、何度も改修されて複雑化したExcelデータを扱うことが多く、データの抽出や整理が大変でしたが、自分なりに工夫して区切りをつけて作業を進めました。職場のITリテラシーに合わせて、分かりやすい形に整えることも意識しました。

作業後には上長から感謝の言葉をいただき、さらに改善点も見つられたので、引き続き使いやすいものにしていきたいとやりがいを感じています。問題点が目についたら「やらなきゃ」と思う性格がプラスに活きたと思います。

ー今後挑戦したいことや目標を教えてください

職場に入って約4か月半経ち、業務にも慣れてきました。最近では新しい仕事も任されるようになってきたので、さらに多くのことに挑戦したいなと思っています。

付録 〜Wさんのこと

(Wさんの最近のお気に入り「ビリヤニ」)

休日は、友人と外食に行ったり、ゲームをして過ごすことが多いです。カレーが好きで、特にインド料理の「ビリヤニ」がお気に入りです。アルコールは飲まないのですが、美味しい料理を楽しむ時間がリフレッシュになっています。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。