発達障害のある方の進学進路とは?高卒で就職か?大学・専門学校に進学か?選択肢や選ぶポイントを解説

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厚労省の令和4年度(2022年度)調査によると、高校生の就職内定率は99.3%と前年比0.1ポイント上昇しました。この統計は発達障害*のあるなしに関係のないすべての高校生に関する統計であることに注意する必要はありますが非常に高い数字であるのは明らかです。

別の厚労省の調査によると大卒者の内定率も98.1%と高い数字です。しかし、高卒と大卒の差はわずかであるうえに数字上は高卒者のほうが上回っており、単に就職をするためだけに大学に行くということはそれほど意味を持たなくなりつつあると言えます。それほどまでに今の日本は働き手が不足しています。

それでは発達障害のある学生にとって高卒で働くことが良いのかどうか?それは一概には言えません。そもそもご家庭の経済状況によって進学を諦めざるを得ないこともあるでしょう。しかし、ここでは経済的には大きな課題はないケースを前提に、高卒で就職を目指すべきか、大学進学を考えるべきかを、いくつかポイントを挙げ、検討していきます。

高校卒業後の進路はどうする?主な選択肢

高校卒業後の進路の一般的な選択肢としては、進学や就職、起業やフリーランスとして働く、就職の準備をするなどが挙げられます。進路を決める際には、どの道が自分に合っているか、一通り可能性を検討してみることが大切です。各進路の概要や特徴を解説します。

大学や専門学校へ進学する

高校卒業後に大学や専門学校に進学する選択肢があります。大学は理論と研究を重視し、幅広い教養科目を提供しています。自分の興味や関心に基づいて学問を深められますし、キャリアの選択肢も広がります。一方、専門学校は特定の職業に就くための実践的な学習が多いことが特徴です。いわゆる「手に職」を付けたい方に向いています。

2004年の発達障害者支援法の制定以降、大学や専門学校では、発達障害の方の特性に応じて適切な教育上の配慮を個別にすることが義務付けられました。例えば、感覚過敏の人が別室で受験できたり、コミュニケーション支援ツールの使用を許可されたりしています。このため、発達障害の症状が重い人でも、進学の可能性が広がっている状況です。

企業に就職する・公務員として働く

社会に出て働く道もあります。民間企業に就職する場合には、企業と労働契約を結び、給与を得ながら働く形が一般的です。

また公務員として働く場合は、政府や地方自治体などの公共機関に所属します。公務員は基本的に解雇がなく安定して働ける点と、福利厚生が充実している点が魅力です。

発達障害者の方が就職する際は、障害の有無に関係のない採用プロセスを経て就職する一般就労と、障害者手帳を持つ人を対象にした障害者雇用のどちらにするか検討します。障害に応じた職場環境の整備や特別な配慮を求める方は、障害者雇用を検討するとよいでしょう。

また、企業や公共機関で働くことが難しい場合には、福祉就労という選択も可能です。福祉就労では、福祉サービスを受けながら、障害者就労施設などで働きます。

起業する・フリーランスとして働く

独立心が強い方や、組織や団体に属したくない方に向いているのが、自ら事業主となる進路です。

起業は、自分で新しく事業を始めることです。法律上、15歳以上であれば会社を設立できるため、高校卒業と同時に起業できます。自分の興味や得意分野を自由に追求できるため、発達障害の特性に関連して特別な才能を持っている方が、自分の可能性を広げられる場合もあるでしょう。

一方、フリーランスは個人事業主として働く方法です。代表的な職種にはプログラマー、デザイナー、ライターなどがあります。

近年は、フリーランスがクラウドソーシングサイトを通じて仕事を受注し、生計を立てやすくなりました。対面コミュニケーションや職場生活が苦手な人は、在宅で働けるフリーランスが向いています。

就労移行支援の利用など働く準備を行う

高校卒業後、すぐに働くことが難しい場合は、就労移行支援制度を利用して、働く準備をする選択もあります。就労移行支援とは、障害のある方が一般企業に就職するための準備を支援する福祉サービスです。

利用者は、国から認可を受けた就労移行支援事業所に通って支援を受けます。専門的な知識と経験を持ったスタッフからのサポートを得ながら講座や訓練を受けるため、他の進路に比べて負担が少ないといえるでしょう。

利用できるサービスは、就活サポートや職業訓練、求人紹介などを受ける「就労移行支援」と、コミュニケーションスキルや衣食住の管理スキルといった生活面・社会面のスキルを習得する「自立訓練(生活訓練)」に分けられます。これらについては後ほど解説します。

就労移行支援の利用期間は最長で24カ月です。この期間内に一般就労を目指し、就職先が決まったらすぐに働く流れになります。

高校卒業後の進路を考える上でのポイント

高校卒業後の進路を決める際は、進路に対する発達障害の方の希望や住んでいる地域、経済的な状況なども含めて考えることがポイントです。広い視野で進路を考えておけば、前向きに人生を歩みやすくなりますし、予期せぬ問題や後悔も起こりにくくなります。

本人の希望はあるか?

保護者が子どもの進路を考えるにあたっては、本人の希望に寄り添う姿勢が大切です。本人が納得した上で進路を決めるか、他人から押し付けられるかによって、その後の人生を前向きに歩めるかどうかが大きく変わります。

将来を話し合う際には、下表のようにWill(やりたいこと)、Can(できること)、Must(すべきこと)の3つに分類するとよいとされています。

項目内容
Will(やりたいこと)自分がやりたいこと、興味のあること・イラストを描くのが好き・エンジニアになりたい
Can(できること)自分が得意なこと、できること・数学が得意・コンピューターの知識がある
Must(すべきこと)社会や周囲の人から求められていること、役割・仕事に就いて生計を立てる・必要な資格を取得する

本人との話し合いが進まない場合は、就職支援機関のカウンセラーなどの第三者に入ってもらうことも効果的です。

大都市圏に住んでいるかどうか?

まず重要なのはどこに住んでいるかということです。大都市以外ではまだ高卒での就職が一般的であり、地域で一緒に育った子どもたちも多くが高卒で就職をする環境です。この中では発達障害のあるお子さんも高卒で就職を目指すことに違和感はないでしょう。かつ大学など高等教育機関もごくごく限られており、進学しようにも選択肢が乏しいのが実際です。

一方で大都市圏では高卒で就職をする人は少なめ。かつ様々な大学・専門学校が存在します。一緒に育ってきたお友達も多くが進学されるでしょう。こういった環境の中で人と違う道を進むのは、親子ともどもそれなりに勇気のいることです。小さいうちから相当の覚悟で「高卒で就職をさせる」という判断を下していない限りは、大学や専門学校に進学させることが多くなるでしょう。

知的障害があるかどうか?

今では大学全入時代になりましたので、実は知的障害があっても大学に進学できるようになりました。実際大学関係者にお話を聞いても、また当社の大学生向けのプログラム(ガクプロ)を利用する方の知的検査の結果を聞いても、相当の数の知的障害の方が大学に通っています。

しかし履修登録で苦労をしたり、グループワークで発言がかみ合わなかったり、レポートの作成に大きな困難を感じたりするなど、大学のレベルについていくのに厳しい状況に置かれることは多いと言えます。知的障害がある場合は、学問に対する適性があったり学ぶことが好きである場合を除いて、進学よりも就職を目指した方が、ご本人のその後幸せに生きる可能性は高まる、と当社では考えています。

ただし、繰り返しになりますが、知的障害の人でも入学できる大学は多くありますし、そこでご本人が充実感を得られるケースも多数みています。就職のためというよりも、ご本人の社会性向上のためや豊かな人生を過ごすために進学されることは、知的障害があってもなくても、好ましい考え方でしょう。

なお、知的障害の人が18歳で就職を目指すことが多い理由はもう一つあります。それは就職支援が非常に充実している特別支援学校や高等養護学校(※)に通うお子さんが多いからです。知的障害がないと、なかなか特別支援学校の高等部には通おうとしないですし、実際入学できない場合が多いでしょう。知的障害があまり見られない場合でも、何とかして特別支援学校(あるいは高等養護学校)に通わせようという親御さんが多いのは、特別支援学校等が就職に非常に強いということがあります。

※ 特別支援学校 高等部 … 障害児が通う、一般で言う高校にあたる学校のことを言う。
※ 高等養護学校 … 通常の特別支援学校には小・中・高とあるが、高等養護は高等部のみしかない学校のことを言う。

つまり学力的に厳しさがあるという消極的な理由と、就職サポートが手厚い特別支援学校等に入ることも出来るという積極的理由から、知的障害のある人の場合は18歳の段階での就職を目指す方が多いということになるでしょう。

大学生・専門学校生向け 発達障害の特性を活かした就職支援

プラス2~3万円の月給UPが見込めるかどうか?

今度は純粋に経済的に見てみましょう。学力に凸凹のあるお子さんが多い発達障害児の場合、私立大学に進学するケースが一般的と言えます。それを前提に、進学するといくらかかるのか、高卒後すぐに働き始める場合と比較して考えてみましょう。

進学する場合と、すぐに働いた場合の差は 1120万円

仮定 1)私立大学の学費・経費を総額100万円/年とする
仮定 2)高卒で働いていれば稼げたはずの額を月給15万円とする

  • 大学にかかる経費 100万円×4年=400万円
  • 稼げたはずの給与 15万円×12ヵ月×4年=720万円

つまり、4年間で1100万円の意味が進学することで得られないと経済合理性はありません。また留年する率も高いのが発達障害のあるお子様の現状ですので、それによっては1200万円、1300万円と負担が増えることが考えられます。

40年間働くことが出来るとすると…

大学に行って稼げる額が月1万円増になる(つまり月給16万円になる)
 月給の差 1万円×12ヵ月×40年=480万円

大学に行って稼げる額が月2万円増になる(つまり月給17万円になる)
 月給の差 2万円×12ヵ月×40年=960万円

大学に行って稼げる額が月3万円増になる(つまり月給18万円になる)
 月給の差 3万円×12ヵ月×40年=1440万円

これらの計算からわかる通り、(税金・年金など複雑な計算を抜きにした)単純計算だけで考えると、月給が2~3万円上がる力が大学で得られるかどうかが、進学するかしないかを経済的に判断するうえでの基準になることがわかります。現実問題、これだけの稼ぎの力が上がることは稀であると言えますので、経済合理性だけで進学を目指すのではなく、それ以外の価値(社会性を高める、教養を高める、それらによって豊かな人生を送る)を大学の4年間に求める必要があるでしょう。

発達障害の方の進路に関する相談先

発達障害の方の進路に関する相談先は複数あります。発達障害の方とそのご家族だけでは話し合いが進まない場合や、専門家からの意見を聞きたい場合は、積極的に利用するとよいでしょう。相談先によっては、進学や就職に役立つ具体的なサポートを受けられます。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害者の職業生活の自立と安定を支援するための機関です。各都道府県に設置されています。

障害者就業・生活支援センターは、就業面と生活面の両方で一体的な支援を提供していることが特徴です。職業訓練や職場実習のあっせんといった就職支援とともに、生活習慣の改善や健康管理など、日常生活についての支援もしています。

この点、先ほど紹介した就職移行支援事業所と似ている部分があるといえるでしょう。ただし、障害者就業・生活支援センターは雇用、保健、福祉、教育などの関係機関の橋渡し役的な存在であるため、一カ所で一体的な支援を受けられるとは限りません。

参考:厚生労働省「障害者就業・生活支援センターについて」

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、その名のとおり、発達障害に特化した専門的な支援機関です。専門的な知識を持つスタッフから、進路相談や就労支援、日常生活に関するアドバイスなどを受けられます。例えば、発達障害の方が障害者雇用を利用するべきか相談した際は、専門家から助言を受けられます。

ただし、発達障害者支援センターは、全国に83カ所(令和3年時点)しかないため、通いやすい場所にないかもしれません。また、就労支援について実施していないところや、一部しか実施していないところもあるため、事前に調べておくとよいでしょう。

参考:発達障害者支援センター「発達障害者支援センターとは」

地域若者サポートステーション

地域若者サポートステーション(通称:サポステ)は、働くことに悩む15歳から49歳までの方を対象とした就労支援機関です。運営しているのは、若者支援の経験とノウハウを持ち、厚生労働省の委託を受けた民間団体などで、全国177カ所にあります(2024年8月時点)。

サポステでは、発達障害やコミュニケーションの困難さなど、個別の特性を持つ人の就労支援をしている支援機関です。例えば、「働きたいけれども、発達障害の症状が不安で一歩を踏み出せない」「職場に定着するまでの支援を受けたい」といった悩みに対してサポートを受けられます。

参考:地域若者サポートステーション「サポステとは」

職業能力開発校

障害者職業能力開発校は、障害者の職業訓練を専門に行う施設です。障害者の就労機会の拡大を目的に国や都道府県が設置・運営しており、障害の特性に応じた職業訓練を提供しています。

職業能力開発校では、基礎的な知識や技能を学ぶための知識・技能習得訓練コースや、就職のための実践的なスキルを習得する実践能力習得訓練などがあります。一般的な能力開発施設と違い、個別の特性やニーズに応じて柔軟に対応してもらえることが特徴です。

教育内容は学校によって異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

参考:国立県営 神奈川障害者職業能力開発校

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、発達障害などの障害がある方が一般企業での就職を目指す際に利用できる支援機関です。地方自治体から許可を受けた民間企業やNPO法人などが運営しています。

就労移行支援事業所の提供するサービスは個々に違うため、発達障害の方向けのサービスが充実している事業所を選ぶことが重要です。発達障害に特化している就労移行支援事業所では、以下のような支援を受けられます。

【就労支援】

  • 実践的な職業訓練 :経理や人事、データ分析、伝統工芸、軽作業などの体験実習
  • ライフスキル講座、スキルアップ講座、就活講座
  • 求人紹介、適職を見つけるための就活サポート、など

【自立訓練(生活訓練)】

  • 食事や生活リズムなど自律的な日常生活を営むためのスキル習得訓練
  • コミュニケーションや人間関係構築など、社会生活を営むためのスキル習得訓練、など

なお、就労支援と自立訓練は併用できませんので、目的や状況に応じてどちらかを選びましょう。

メリット・デメリットを踏まえた上で、納得する進路選びを

進学か就職かを決める中では、ご家族やご本人の人生観が大きく影響します。ご本人が15・16歳の時までにどのような人生設計を作れるか、上手に考え方をサポートしてあげるのが親の役割ということになります。もちろん想像が苦手な発達障害の傾向のあるお子さんの場合はゼロから将来を考えるのは至難の業です。選択肢とメリット・デメリットを保護者の方が用意し、そこからご本人が選ぶような形にするのが良いのではないでしょうか。

また、大学に進学しないとそもそも就けない仕事も技術・専門職を中心に多数あります。最終的に経済的に損をしたとしても、納得感を大事に人生の選択をすることは重要です。早いうちから親子で話し合うことを強くお勧めします。

本当に就職できるの?適職がわかるの? 発達障害の特性に適した就活をご説明します

※Kaienでは、職業訓練や求人紹介を通じて適職を一緒に探す「就労移行支援」や、自立に向けた基礎力を養う「自立訓練(生活訓練)」、学生向けの「ガクプロ」などを通じて、発達障害やグレーゾーンの方の就労支援を行っています。「ガクプロ」には知的障害もある発達障害・グレーゾーンの学生が多数所属していますし、進学しない場合はまず「自立訓練(生活訓練)」に所属し学校や家庭で学び漏れた自立へのスキルを習得している方が多くいます。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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