雑音が気になってイライラする、普通の明るさでも眩しく感じるなど、人とは違う感覚にお悩みの方もいるのではないでしょうか。五感のうちのどれか、またはいくつかの感覚が人よりも鋭敏なことを感覚過敏と呼び、人よりも暑さや寒さ、痛みなどを感じにくいことを感覚鈍麻といいます。感覚過敏・鈍麻は、発達障害*の特性の1つにあらわれることも多い症状です。
本記事では、感覚過敏・鈍麻の原因や症状ごとの対処法、発達障害との関連性を解説します。
感覚過敏・鈍麻とは?
人が何かを感じるには、①耳などの感覚器官で情報を受信し、②①の情報が神経回路を通って脳に伝わり、③脳がその情報を解析する、という段階を経ます。
感覚過敏は①・②・③のいずれかで情報を過剰に感じる状態で、逆に感覚鈍麻は①・②・③のいずれかで情報が著しく欠損した状態です。感覚はおそらくすべての人で異なるものですが、これが日常生活や社会生活を送るうえで支障をきたすレベルになると、感覚過敏・鈍麻と言われます。感覚の問題にはこの他に強い刺激を求める「感覚探求」や刺激を避ける「感覚回避」も含まれます。
感覚過敏・鈍麻は五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)のいずれでも生じえます。また、平衡感覚や第6の感覚ともいわれる固有受容覚(関節の曲げ伸ばしや筋肉を動かすときに、関節や筋肉の位置や状態、重さを感じる感覚)が上手に機能していない人も目立ちます。
感覚過敏・鈍麻があるとたくさんの感覚が個々に存在しているように感じています。重みづけ、概念化、原因などが想像できないことで、心も不安定になりがちです。
感覚過敏・鈍麻が起こる原因
感覚過敏・鈍麻が起こる原因は、以下の3つの可能性が考えられています。
- 刺激に対する脳の反応の異常:何らかの要因によって刺激を感じても脳が上手く機能しないために、感覚が過敏、または鈍くなる
- 目・耳・鼻などの器官の異常:目・耳・鼻などの感覚を受ける器官に疾患があり、刺激を正しく感じられず感覚が過敏、または鈍くなる
- 強いストレス:ストレスが過剰になることで感覚が過敏、または鈍くなる
ただし感覚過敏・鈍麻が起こる確かな原因は分かっておらず、個々により症状や程度もさまざまです。
感覚過敏・鈍麻に発達障害は関係する?
感覚過敏・鈍麻は発達障害の特性の1つとしてあらわれるケースがあります。とはいえ、全ての発達障害の方に当てはまるわけではなく、感覚に異常を訴える方もいれば、あまり気にならない方もいます。発達障害の中でも、診断基準(DSM‐5-TR)に感覚に関する項目が含まれるASD(自閉スペクトラム症)の方は、感覚過敏・鈍麻の特性がある割合が高めなようです。
なお、発達障害の方で感覚過敏がある方は、音に敏感な聴覚過敏の症状が最も顕著になる傾向があります。ただし、特性や年齢、環境などにより抱えやすい感覚の悩みは異なるため、感覚過敏・鈍麻の程度は個人差が大きいのも事実です。
主な感覚過敏の症状
ここでは感覚過敏について、以下の主な6つの症状を紹介します。
- 聴覚過敏:物音や人の話し声といった音に対する感覚過敏
- 視覚過敏:光や複雑な模様、人混みなど視覚に関する感覚過敏
- 嗅覚過敏:さまざまなにおいに過剰に反応する感覚過敏
- 味覚過敏:味や口の中の触感などに対する感覚過敏
- 触覚過敏:肌に触れる刺激への感覚過敏
- その他の感覚過敏:五感以外の感覚過敏
それぞれ具体的な症状を交えて解説します。
聴覚過敏
発達障害の特性の1つとして感覚過敏がある方の中で、最も多く見られるのが聴覚過敏で、ASDの方に特に多い特性です。聴覚過敏は気の持ちようや慣れで解決する問題ではなく、何度も苦手な音を聞かされると苦手意識が強まり、より一層聴覚過敏の症状がつらくなる場合があります。以下で、よく挙げられる症状の例を紹介します。
- 小さな物音(空調の稼働音、時計の秒針など)が気になってしまい眠れない
- 大きな音(雷、工事現場、ドライヤーなどの家電)が耐えられないほど苦痛でその場にいられない
- 飲み会など騒がしい場で話している相手の声が聞き取りづらい(いわゆる「カクテルパーティー効果」が効きづらい状態で、音の取捨選択が難しくすべての音が聞こえてしまう)
- 雑音が多い場所だとすぐに疲れてしまう
- 聴覚に異常はないのに特定の音や声のみ聞こえにくい
- 遠くの音が聞こえすぎたり、音の遠近が付きづらかったりする
聴覚過敏は周囲から理解を得にくい症状であるため、本人が我慢を続けた末に体調を崩したり、苦手な音がトラウマとなり外出が困難になったりするケースも少なくありません。
視覚過敏
発達障害の感覚の違いがはっきり表れるのが視覚です。ただKaienでお会いする当事者の中では日常生活に大きな困難を抱えるほどの苦しさがある方は少ない印象です。典型的な例を以下に挙げます。
- わずかな明かりが気になる(例:外の街灯のわずかな明かりでも眠りが浅くなる)
- 連続する図柄などの些末な違いが気になったり、目に飛び込んできたりする感覚がある
- 蛍光灯のちらつきが気になる。パソコンの画面を長時間見ていられない
- いろいろな模様がちらついて見える(サンド・ストーム現象)
特定の色の光の波をカットしてくれるカスタムメイドのサングラスなど、視覚過敏を緩和するツールの開発は進んできています。
嗅覚過敏
嗅覚過敏の方は、においに対する感覚が敏感で、他の人が気にならないにおいや良い香りと感じるものであっても過剰に不快感があらわれます。よくある症状は以下の通りです。
- タバコ、化粧品、香水など特定のにおいで気持ち悪くなったり頭痛が起きたりする
- 他の人がそれほど気にならないにおいも敏感に気づく
- 苦手なにおいのある場所に行けない(動物園やドラッグストアの化粧品売り場など)
- 街中や飲食店など複数のにおいが混ざった環境が苦手
苦手とするにおいには個人差があるものの、日常生活で感じるさまざまなにおいに人よりも過剰に反応してしまうため、外出先での体調など生活に影響を及ぼす場面も多くなります。
味覚過敏
味覚過敏とは、口の中の感覚が敏感で、味や触感に過剰に反応してしまう状態のことです。症状は以下のような例があります。
- 苦手な味が多く食べられるものが限定される
- 味が混ざると食べられない
- 辛いもの、甘いものなどが極端に苦手
- 同じ料理でも味が濃くなると食べられない
- 苦手な触感だと食べられない
味覚過敏があると、特定の味以外を受け付けず偏食になりがちです。必要な栄養がしっかり摂れなくなるケースがあるため、苦手な味を避けながらも調理法を工夫するなどして栄養バランスを考えた食事をする必要があります。
触覚過敏
触覚についての感覚過敏もよく話題になります。どちらかというとお子さんの例が多く、働く年齢に達する当事者から触覚の異常に関する深刻な悩みはそれほど聞きません。ただし以下のような訴えはよく耳にします。
- 他人から触られることが苦手だったり、痛みを感じることもある
- 手や足にものを付けることを著しく嫌う(例:靴下、手袋)
- 特定の衣服や布でないと身に着けられない(家の中では裸を好むことも)
- 触診や超音波検査などを著しく不快に感じる
なお特定の食べ物が苦手な人がいますが、その場合味覚にほかの人との違いがあるとは言い切れません。歯ごたえや口の中での動き、溶け方など、触覚で違和感を訴えているケースもあります。噛んでいる途中で感覚が変わる、しいたけ、焼きなす、グリンピースなどが苦手な人も多いでしょう。
その他の感覚過敏
発達障害の方の隠れた苦しみが体内の感覚過敏・鈍麻です。発達障害の方は体調を崩しがちですが、実は感覚過敏の影響を強く受けている可能性もあります。例えば以下のようなケースです。
- 生理痛が人よりも著しく重い(感覚過敏だからかもしれません)
- 空腹の感覚が乏しく、食事をたびたび忘れる(空腹はいつも同じ感覚とは限りません。概念化が出来ないので分かりづらいのです)
- 気圧の変化に弱い(例:台風や大雪のときなど頭痛や気持ち悪さから動けない)
- 疲れているという感覚がわからない。このため急に倒れる(身体感覚と感情などによるラベリングが出来ていないからです)
【種類別】感覚過敏の対処法
ここでは、感覚過敏の対処法を種類別に紹介します。感覚過敏においては、主に苦手な刺激を軽減もしくは避けることが大切です。おすすめのグッズや日常生活のポイントなど詳しくお伝えするので、感覚過敏の対策に役立ててください。
聴覚過敏の対処法
聴覚過敏の対処法で大切なことは、苦手な音を避ける工夫をすることです。例えば、以下のような方法があります。
- 耳栓やヘッドホン、ノイズキャンセリングイヤホン、イヤーマフなどを使用する
- 買い物などは人の少ない場所や時間帯に行く
- ドアや椅子にクッション性のあるテープを貼るなど防音対策をする
- 苦手な音がする場所から離れる
- 周りの人が大きな音や声を出す前にひと言伝えてもらう
苦手な音を我慢したり、無理して慣れようとしたりするとストレスが増すため、聴覚への刺激を減らす対策を心がけましょう。
視覚過敏の対処法
視覚過敏の方は、光や文字、人混みなど、視覚から入る情報を減らす工夫をしましょう。以下の方法がおすすめです。
- 光が眩しい場所ではサングラスや遮光メガネをかける
- 室内照明が眩しいときは明るさを抑える、間接照明を使用する
- パソコンやスマホの文字情報は音声読み上げ機能を利用する
- インテリアは落ち着いた色を選び、苦手な色は避ける
- 人の多い場所や時間帯に出かけることを避ける
眩しさを抑えることや、目から多くの情報を一度に取り入れないようにする対策が効果的といえます。
嗅覚過敏の対処法
嗅覚過敏の対処法は苦手なにおいを避けることです。以下のようなグッズを使用して、できるだけ苦手な臭いをかがずに済むようにしましょう。
- マスクを着用する
- ハンカチやタオルで鼻を塞ぐ
- 好きな香りのものを周りに置く、身につける
また、苦手なにおいのするものや場所には近づかないようにすることも大切です。周囲にも苦手なにおいを伝え、協力してもらえるとより不快感を避けて過ごせるでしょう。
味覚過敏の対処法
味覚過敏があると、食べられる食材や味が偏るため栄養バランスが乱れる心配があります。しかし、無理をして苦手な味や触感の料理を食べると食事が楽しくなくなったり、気分が悪くなったりする可能性があるのでおすすめできません。食べられるものの中で調理方法や味付けを工夫し、栄養バランスを整えるよう心がけましょう。
味が混ざると食べられない場合は、それぞれお皿を分ける、プレートを使って仕切るなど、盛り付けを工夫するのも対策の1つです。
触覚過敏の対処法
触覚過敏では、苦手とする肌への刺激を抑える対策が重要です。身につける衣類は着心地が良いと感じられる素材を選び、チクチクする、縫い目やタグが気になるなど苦手な肌触りのものは避けましょう。マスクや化粧が苦手な方は、なるべく必要ない場所やシーンを選んで生活するようにしてみてください。人に触れられることが苦手な方は、周囲に伝えて理解を得ておくことで誤解を防げます。
その他の感覚過敏の対処法
五感以外の体内感覚の不調は、専門医にかかっても異常がないといわれることが多いようです。その場合、「風邪をひいているからだるい」など、身体感覚を言葉で示しましょう。定期的にリラックスする状態を作り、緊張感を和らげることも重要です。ストレスがかからないようにする、適度に運動する、規則的に生活する、食事もバランスよく腹八分目にする、など健康に良いといわれていることをコツコツ実践していくことが、不快感を緩和する近道です。
広がる感覚過敏の方に対する取り組み
感覚過敏の方は苦手な刺激に耐えるのではなく軽減することが重要ですが、社会全体で感覚過敏の方に配慮した環境を整えていくことも大切です。そのため、公共施設を中心に感覚過敏の方が安心して過ごせる環境を整える取り組みが広がってきています。
例えば、イギリスで始まった「クワイエットアワー」は、日時を限定し館内放送や照明を抑えることで、感覚過敏の方が安心して買い物などができるようにする取り組みのことです。日本でも実際に埼玉県の施設で試みが行われました。また、博物館などの施設では、音や光の刺激を受けやすい場所や休憩できる場所を記載した「センサリーマップ」の導入も進んでいます。
感覚過敏・鈍麻の診断方法
感覚過敏・鈍麻の症状により日常生活に困りごとが生じている方は、各器官の診療科を受診すると良いでしょう。症状の種類別の診療科は以下の通りです。
- 聴覚過敏:耳鼻咽喉科
- 視覚過敏:眼科
- 嗅覚過敏:耳鼻咽喉科
- 味覚過敏:口腔科、耳鼻咽喉科
- 触覚過敏:皮膚科
なお、発達障害の方で感覚過敏・鈍麻がある方は、上記の診療科を受診しても身体には異常が見られない場合もあります。発達障害の方は、精神科や心療内科の担当医に相談してみると良いでしょう。
会社や就活における感覚過敏・鈍麻の伝え方
感覚過敏や感覚鈍麻は、発達障害の支援に慣れた人でもなかなか理解が難しいもので、発達障害のことをあまり知らない上司や面接官にはなおさらわかってもらうのが難しいでしょう。中途半端に伝えると「努力が足りない」「大げさに言っている」などと誤解され、かえって職場の上司・同僚や面接官などとの距離を広げてしまいかねません。対策として、このページを印刷したり、発達障害の解説書を持参したり、感覚過敏・鈍麻の困難さを上手に説明してくれる支援者に”通訳”・”解説”してもらうなど、職場の人が理解しやすい手段を考えましょう。
視覚や聴覚過敏の場合、サングラスやノイズキャンセラーなど個人で対応できる場合もありますが、周囲が配慮をしたいと思っても、そう簡単に対策を打てないのが感覚過敏・鈍麻に対する配慮の難しさです。オフィス内の環境を感覚過敏を抱える人に合わせて劇的に変えることは現実的ではないからです。感覚の違いによる苦しさが極端な場合は、在宅勤務(テレワーク)などを活用する対応策が、今後増えていくでしょう。
Kaienでは、自分の特徴・強みを生かして就職を目指す就労移行支援や、自立に向けた基礎力を上げる自立訓練(生活訓練)、また学生向けのガクプロというセッションを運営しています。それらの中で独特の感覚やその対応方法についても専門のスタッフに相談できますので、支援者の伴走を活用することもご検討ください。
感覚過敏・鈍麻は環境を整える対策が大切
感覚過敏・鈍麻は、刺激に対し脳が上手く機能していないことや感覚器官の疾患、ストレスなどが起因すると考えられ、発達障害の特性の1つにも当てはまります。個々によって感覚過敏・鈍麻の症状や程度は異なり、一般的な感覚の人からは理解を得にくい場合もありますが、本人にとっては日常生活に支障がでるほど悩まされていることも少なくありません。
感覚過敏・鈍麻の場合は、自身の困りごとを理解し、無理なく生活しやすい環境を整える対策が大切です。症状に応じた診療科への受診や、発達障害の方は精神科や心療内科など、通院先の主治医に相談することも検討しましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
感覚過敏と鈍麻は客観的指標をもとに説明することが難しい状態です。特に過敏のある方は、環境に苦手な感覚が強く刺激されることがあると、非常に苦しいものです。その人固有な感覚であるだけに、身近な人さえその辛さを理解に苦しむ点で、当事者の方は理解されない苦しさを持つのは記事の通りです。医療的にも選択肢が少ないのが事実。ただし、ノイズキャンセリングイヤホンを代表に、過剰な感覚に対処するツールは進化してきているので、何か自分に合ったものがないかは是非探してみてください。個人的には、サングラスやノイズキャンセリングイヤホンなど、職場で気軽に使えるといいのに、とは思います。上司やグループの人に理解してもらえると過ごしやすくなることも多いので、検討してみてください。
近年、感覚過敏に関してはHSPという用語も出てきたりしました。HSPそのものは医学的診断では無いのですが、これまで医療があまり関心を払えてこなかったからこそ、苦しんでいる人が共感を覚えているという側面があったのだろうと思います。今後はこの領域の医学的理解が進み、今はない解決策が実現されることを願っています。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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