東京日本橋に本社を置く農薬大手メーカー三井化学クロップ&ライフソリューションでは2018年から発達障がいの方の積極的な雇用を進めています。
業務を切り出して複数名をチームで雇用する「集合雇用型」ではなく、一人ひとりの個性・強みに着目し、適性を考慮した「個別配属型」での雇用、定着に成果が出ており、なかには研究開発分野において高い専門性を発揮するような雇用事例も生まれているといいます。
一般に、個別配属型は、配属先の職場に馴染めずミスマッチとなり、雇用が定着しないケースも少なくないと聞きます。そうした中、なぜ同社では、コンスタントに雇用が安定し戦力として活躍することができているのでしょうか。
人事部長の岡田さんと、採用担当の山口さんに、障がい者雇用のこれまでの取り組みと、今後の展望について伺いました。
100年の歴史の中で培われた他者を尊重し合う企業文化
■三井化学クロップ&ライフソリューションについて教えてください
山口さん:当社は、日本で初めて合成農薬を製造・発売して以来、100年以上の歴史をもつ三井化学グループの企業です。具体的には農薬製品を取り扱うクロップソリューション事業と、シロアリや蚊から家財や健康を守る生活関連製品としての殺虫剤等を扱うライフソリューション事業の2つの事業領域でビジネスを行っています。
特色は単なるメーカーではなく、研究開発型企業として新しい技術開発に強みを持つという点です。主に千葉県茂原市、滋賀県野洲市、福岡大牟田市の3つの研究拠点で、約300名が研究開発に取り組んでいます。国内のみならず、世界100カ国以上で事業を展開し、過去5年間の平均成長率(利益ベース)は10%を超えています。
■企業としてどのようなビジョンをお持ちなのですか?
岡田さん:三井化学グループでは「化学の力で社会課題を解決する」を目指すべき企業グループ像として掲げていますが、私たち三井化学クロップ&ライフソリューションは、健康寿命の延長や食糧問題への対応など、重要な社会課題に向き合っているという自覚を持っています。
例えば、熱帯地域を中心に、毎年60万人以上が命を落とすマラリアなどの伝染病は主に蚊が病原体の媒介となります。ライフソリューション事業は、農薬開発の知見と技術を活かし、人の安全を脅かす害虫を防除することを目指しています。
また、貧困や飢餓の課題を解決するためには、農作物の安定的な生産が必要です。効率的で安定した農業生産のためには農薬の使用は不可欠です。クロップソリューション事業で提供する農業関連製品が、食糧問題を解決する一助になります。三井化学クロップ&ライフソリューションはグローバルな社会課題の解決に本気で取り組んでいる会社です。
参考ページ:SDGsに化学の力で貢献する三井化学クロップ&ライフソリューション
■組織としてはどのような社風、企業文化がある会社ですか?
岡田さん:組織・人材面での特徴の一つに、離職率の低さが挙げられます。一般的に、企業での離職率は5%から10%の間を推移していれば優良な水準だと言われていますが、当社の離職率は3%以下です。
当社では、フレックス勤務やテレワーク(在宅勤務)の制度、年休取得率の向上など、従業員の働きやすさを高めるための取り組みを行っています。しかし離職率が低い一番大きな要因は、「制度」ではなく、むしろ多様なバックグラウンドを持った人材が、お互いをリスペクト(尊重)しながら働く「企業文化」にあるのだと考えています。
当社は100年以上におよぶ歴史の中で複数の合併や吸収といった組織体制の変更を経験しました。その結果、様々なバックグラウンドをもつメンバーで構成される組織となっています。ビジネスパーソンとして育った環境が異なるメンバーが一つの集合体となって事業成長を実現するためには、それぞれが互いの価値観を尊重しながら同じゴールを目指して協業する「多様性を尊重する文化」が不可欠です。当社にはそのような文化を育んできた歴史的な背景があります。
他者の多様性を尊重する企業文化は、中途採用の定着にも表れています。現在の当社従業員のうち、20%以上が中途採用の社員ですが、中途で入った従業員が気後れせずに職場に溶け込み、退職することなく長期定着することができているのは、このような多様性を尊重する文化が少なからず影響しているのではないかと思います。
山口さん:私は新卒入社6年目になります。岡田が説明した通り、先輩社員のバックグラウンドは様々ですが、経験が浅いからといって自分の意見が軽視されることはなく、周囲の同僚は私のアイデアや意見を尊重してくれます。普段の業務マネジメントでも、上司は経験やスキル、知見だけでなく、私自身の性格や人となりも考慮して役割や業務内容を考え、指導していただいています。人として、一人ひとりと誠実に向き合う社風を感じています。
障がい者雇用においても、雇用を職場で受け入れる際に、障がいのある社員の職場定着に尽力してくれる社員がそれぞれの職場におり、「キーパーソン」になってくれています。「面倒見の良い」社風といえるかもしれませんね。
障がい特性の開示がマネージャー成長のきっかけとなる
■それは興味深いですね、ぜひ障がい者雇用の取り組みについて詳しく教えてください
岡田さん:当社では現在、障がいのある社員が計6名勤務しています。はじめて発達障がいの方を雇用したのは2018年です。親会社である三井化学では発達障がいの方を雇用する事例が増え始めていた時期で、親会社の人事担当と障がい者雇用に関する情報交換をする中で、発達障がいの方の活躍事例を聞き、当社でも積極的な雇用をスタートしました。幸いにもしっかりと安定して戦力になってくれる方に恵まれ、徐々に職域が広がり、発達障がいのある社員は4名まで拡大しました。
山口さん:当社で取り組んでいる障がい者雇用のスタイルは特例子会社のような、いわゆる「集合雇用型」ではなく、発達障がいのある社員が活躍している領域がそれぞれに異なる「個別配属型」の雇用です。配属先は個々に異なるのですが、どの部署にも共通して「キーパーソン」が存在し、早期に職場に馴染めるような橋渡しをしてくれています。こまめに声をかけたり、丁寧に仕事を教えたり、困っているときには相談にのったり、特にまだ会社に慣れていない時期には大きな支えになっているようです。
特に役割を明確にしているわけではないのですが、自然発生的にそのような存在がでてくるのは、チームワークを大切にする企業文化が根付いているからなのかもしれません。
■それぞれどのようなお仕事を担当しているのでしょうか?
山口さん:本社のコーポレート部門では、庶務業務を担いチームに貢献している社員や、専門性の高い事務領域でほかの社員の3倍以上の業務パフォーマンスを発揮する社員が活躍しています。研究所では大学院で学んだ高度な知識・スキルを活かして研究開発部門で高い成果を出している社員もおり、それぞれが得手を活かして活躍し、良い意味での驚きの声も社内から寄せられています。
■みなさん目覚ましい活躍ですね。発達障がいの方の雇用が広がる中で、社内にはどのような変化がありましたか?
岡田さん:発達障がいの社員の中には、自分自身の障がい特性を包み隠さず同僚にオープンにしてくれている人もいます。
私が現職に着任したのは2020年ですが、着任後まもなく、発達障がいの社員と面談を行ったことがありました。面談の中で自分にはどのような障がい特性があり、周囲にどのような配慮を求めているかを私に細かく説明し、さらに発達障がいを理解するうえで役に立つおすすめの書籍を紹介してくれました。
そのような話や書籍を通じて、発達障がいのことや、障がいの有無に関わらず人がそれぞれ個性として持っている能力について理解を深めることができました。私が人事の人間とはいえ、会ったばかりの人間に、自分のことを率直に開示してくれたことは、新鮮な驚きでした。
包み隠さず自分の障がい特性をオープンにすることは、勇気のいることですが、とても意義深いアクションだと思います。それによって、上司も遠慮することなく「どんな業務が得意で、どんなことが苦手なのか」や「どのような対応をすればより活躍してもらうことができるか」を踏み込んで話すことができます。そのように正面から向き合う経験を得ることで、マネージャーは自分自身のマネジメントを見直す「気付き」を得ることができます。いわば、「多様性を企業の力に変える」ということを、身をもって体験できる機会になっているのです。その気付きから生まれる変化は、障がい者雇用のみならず、一般社員にも影響を及ぼす、マネージャーの成長のきっかけになるだろうと感じています。
先輩社員に聞く「三井化学クロップ&ライフソリューションってどんな会社?」
私の周りは優しい人が多いなあ、という印象です。他部署の方も親しみやすく接していただけます。そのような風通しの良さもあってか、困ったことがあれば助けを求めやすいですし、何かを依頼するにも緊張せずお願いすることができています。
社内報の制作の仕事は、興味があったので自分からやりたいと申し出ました。やりたい仕事にチャレンジする機会をいただけるのも、やりがいにつながっています。
■取材協力 Aさん:介護や事務職を経験したのち就労移行支援に通所を経て2021年入社。現在は総務部で庶務、社内報制作、メール便配送。契約書管理などの庶務業務を担当。
この会社で感じていることは、優しい方が多いということ。困ったことがあると親身に対応してくれます。また、体調が優れない時も優しく配慮していただけるので、働きやすい環境だと思います。
現在、計算科学の業務を担当しています。大学での専門とは異なりますが、大学の研究経験を活かせて嬉しいです。研究も評価され、またスキル向上のための研修や学会参加の機会もあるため、自身の成長にやりがいを感じています。
■取材協力 Bさん:大学院博士後期課程を修了後に三井化学クロップ&ライフソリューションに入社。大学での研究開発の経験を活かし、研究開発部門で計算科学の業務に従事。
新しく加わるメンバーを排除せず、共に働く仲間として積極的にチームに巻き込む
■障がい者雇用について今後のビジョンがあればお聞かせください
山口さん:今後さらに求職者数が増えていくことが予想される発達障がいの方の雇用を、引き続き積極的に行っていたいと考えています。
そのためには今まで以上に多様な部門・業務内容での雇用を模索する必要があると考えています。障がい特性や能力に応じた働きやすさに配慮し、多様な能力を持った人材が活躍できるポストを拡大できるよう、各部門との連携に取り組む計画をすすめています。
岡田さん:この取り組みは、単なる障がい者の法定雇用の充足のみを目的にしたものではありません。多様な能力や特性を持った人材が多く活躍する組織を作ることは、組織の多様性を高め、企業価値の向上に直結するという手ごたえを、これまでの雇用実績から感じています。
しかし、いまはまだ雇用事例が少なく、その変化は障がい者の周囲にいる一部の従業員に限られます。さらに雇用数が増やしていくことで、会社全体に「気付き」が広がり、企業価値をさらに高める変化になることを期待しています。
■貴重なお話ありがとうございました。最後に三井化学クロップ&ライフソリューションへの応募を検討する方へのメッセージがあればお願いします
岡田さん:先ほどもお伝えしたとおり、当社は当初から同質性の高い人が集まってできた会社ではなく、多様なバックグラウンドを持った人が集まってできた会社です。だからこそ、一緒に働く人を尊重して思いやり、一人ひとりと誠実に向き合う社員が多いのではと考えています。
この記事を読んでいる人の中には、職場に溶け込むことができないのではないか?と不安を持つ方もいらっしゃるかもしれません。当社で働く従業員は、新たに加わる方に向き合って、一緒に働く仲間として誠実にサポートしようとする人がとても多いと思います。不安を覚える方にも、ぜひ安心して当社にご応募をいただきたいと願っています。
みなさんと一緒に働くことができる日を楽しみにしています。
■取材協力:
三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社
人事部長 岡田 英幹 様
人事部人事グループ 山口 弘司 様
聞き手:株式会社Kaien 大野順平
三井化学クロップ&ライフソリューションの求人に応募するには
三井化学クロップ&ライフソリューションの求人はマイナーリーグからご確認いただけます。
求人要項の確認、ご応募はこちら