発達障害の人に年1回ご協力いただいているKaienの「就業実態調査」。今年は約600人の方に回答いただきました。
過去の記事「就業実態調査」 – 発達障害の方のための就職応援企業 (kaien-lab.com)
- 導入「人生の満足度 福祉につながっている人 vs. つながっていない人」
- 其の壱「障害受容のタイミング」
- 其の弐「就労移行支援 Before/After」
- 其の参「発達障害の人の就業実態(平均年収は236万円)」
- 其の四「一般雇用だがオープンにしている人が増加中!?」←今回
- 其の五「就労移行・生活訓練 Kaien利用者データ 2020年版」
今回はややオムニバス的。発達障害で働いている人の、幸福度や住まいの環境、そして一般枠でもオープンにしているかを分析していきます。
仕事の満足度 一般枠・障害枠での違いは?
まずは二つのチャートをご覧ください。上が一般雇用の満足度、下が障害者雇用の満足度です。
人間関係は職場での上司や同僚とのやり取り、業務時間は残業や休日出勤、給与は文字通り給与レベル、契約状況は正社員や契約社員はもちろん一般雇用や障害者雇用そのものについての満足度、そして最後に業務内容が自分に合っているかを聞いています。
二つを見比べるに、ほぼすべての項目で障害者雇用のほうが上回っているのですが、大きな差が開いたものでいうと…
- 人間関係…一般雇用だと成果を求められやすくぎくしゃくしやすい、あるいは障害オープンにはできていない場合は誤解を生みやすいのでしょう
- 仕事内容…出来ることと出来ないこと。前者に集中させてもらい、後者は配慮してもらえるということが一般雇用では難しいのでしょう。(とはいえ、合理的配慮は障害者雇用だけではなく一般雇用でも法的に担保されている権利です。)
恋愛・パートナーと経済面が人生の満足度を下げている
つぎは人生について。納得、満足のある人生を送れていますか?という問いです。この問いについては、次回の投稿でも分析をしますが、今回の回答者全員のデータが下記になります。経済面と恋愛パートナーの不満が多数ですね。
7段階のうち一番不満(数字でいうと1や2)が多かったのが、恋愛・パートナー。一方で満足度(数字でいうと7)が一番多かったのも恋愛・パートナーで不思議に思ったので、性別に分けてみました。すると…
まあそうだよね…。という結果。男性が不満が高く…。発達障害の女性はパートナーがいたり結婚をしている場合が多いと思いますが、男性の場合は少なめ、ということが背景にあるのは明確かなと思います。
一般オープン(オープンチャレンジ)は結構多い?
次に見ていくのは、発達障害の診断を職場にオープンにしていますか?という質問です。
障害者雇用の場合は、上司や人事など一部にせよ、社内全体にせよオープンにすることが前提ですので、今回は一般雇用において障害や診断を伝えていますかというのをまとめました。
結果を見ると、クローズド(つまり非公開)にしているのが半分はいるものの、一般雇用で働く4割の人がオープンにしているという結果…。驚きです。
そもそもKaienの就労移行支援やガクプロを経て就職している人が多く回答しています。一般雇用の就活でも障害を伝えていくという方には当社もサポートしている(オープンチャレンジと社内で言っています)形なのでその影響がありそうです。
また、福祉利用以外の回答者の多くはマイナーリーグという発達障害の方向けの転職サイトに登録している方なので、そもそも障害ということについて進歩的なのかもしれません。
それらを踏まえても、4割が一般オープン(オープンチャレンジ)で働いているというのは時代の流れなのかもしれません。この設問は、今回アンケート設計で失敗してより深い分析が出来ない形なので、来年のアンケートでも調査し続けたいと思います。
福祉の利用は親元からというのが多数
最後に、これもアンケート設計で失敗して、来年に詳しい分析を持ち越すであろうハウジング(住居)問題です。
簡単に触れると、福祉の利用中(つまり無職の間)は、自宅で親とともに暮らしながら、就職をしたときに一人暮らしを始める人がやや増えるかなという感じ。一方で、福祉利用無しの方は福祉を利用すると就活が有利に進むことがわかっていたとしても、実家に住めていないので今の仕事を不満がありながらも続けないといけないというような袋小路に陥りやすいということだと思います。
発達障害や仕事につきづらい方の支援をするときに、職業訓練だけではだめで、むしろ住居の問題とか、あるいは(無職になる前に)働きながら支援する仕組みがないと大きな問題解決にはつながらないと思います。
ただし残念ながら日本の福祉の行政府に(非常に政策的にお金がかかり、利害関係も多いであろう)住居問題まで踏み込む力はしばらくないでしょうから、自助努力が求められる部分でしょう。(※横浜などグループホームの制度を活用した動きも出ていると聞いています。そういった新しいムーブメントに少し長丁場で期待しましょう。)
いかがだったでしょうか?このシリーズ。年末年始にまだまだ続きます。お楽しみに!
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴