下の表で分かる通り、放課後等デイサービスの事業数は1万3千を超えました。これは全国にある中学校の数よりも多い事業所数です。コンビニが5万件ありますので、コンビニ4件みたら1つは放デイがあると考えると、その多さがわかると思います。
放デイ難民の定義が変わる
放デイ難民というと、数年前までは放課後等デイサービスに入れない”待機児童”の意味合いを想起される方が多かったかも知れません。しかし上述のように事業所はうなぎのぼりで増えています。これに伴い今では障害のある22万人の児童・生徒が放デイに通っています。これは1学年あたり1.5万人~2万人程度が使っていると推定されるほどの数です。
日本の現在の1学年の総児童数は約100万人。つまり放デイ利用率は1~2%となります。発達障害の子どもの割合が6.5%と言われる中、少ないと思われるかも知れませんが、すべての発達障害児が放デイが必要なわけではありません。例えば京都では総量規制(つまりこれ以上事業所を立ててはいけませんよという行政からの指令)も出てきており、私の周囲の現場をみるにすでに飽和してきていると思われます。
放デイ難民の新定義
このような中、新たな「放デイ難民」が生まれていると私は考えています。
それが「支援はされてきたけれども、療育はされていない」発達障害の若者です。お預かりの放デイが多かったり、専門スタッフを揃えて専門プログラムを実施していると言いながら中身が伴わない看板倒れの事業所が多かったりするために、放デイに通ったものの、自分の凸凹をしっかりと理解できていない若者がかえって増えているのではないか、と感じています。それが私の言う新たな「放デイ難民」です。そういった若者は生産的な活動にたどり着くことが出来ず、大人の入り口で難民化している印象です。
さらに今後、放デイがしっかりと本来のつとめを果たさないと、放デイ難民が増えるのではないか、と懸念しているところです。
支援はされてきたけれども、療育はされていない 発達障害の若者
もちろん放デイ難民が増えたとしても、「二次障害は防いだ」という放デイの存在価値は認めたほうがよいでしょう。その効果は計り知れないものがあります。
しかし、本来、等身大の自分を理解してもらい得意と苦手を理解して社会に出られる存在にするはずの療育を行う場である放デイが、単なる楽しいことをして配慮だけをされた中途半端な支援を受けた若者を多く輩出する場になる可能性が高い現状は改善すべきだと考えています。
実際、当社の支援事例を見ていても、二次障害はないが、自己理解が不十分であり、配慮されることが当たり前、自分が行動しなくても支援して欲しい、というような受け身の姿勢が強い若者が増えているようです。そしてそうした若者は、専門学校や大学に進んでも、なかなか合理的配慮が求められない(自己権利擁護/セルフアドボカシーが出来ない)です。また就職活動を支援しようにも、(ストレートに表現すると)無邪気に親のすねをかじり続けがちで、いつまでも支援を受けられる前提で物事を考えがちで、なかなか前に進んでくれない印象があります。
放デイは問題を先送りしているのか?
というわけで、本来療育を高校生の段階までしていけるはずの放デイが、実は問題を先送りにしているのではないか、という懸念にたどり着きます。そしてもしその先送りが(個別のケースは違うものがたくさんあるでしょうが、大きな意味で社会的に)事実だとしたら、どのように社会は対応すべきかということを考えないといけなくなります。
当社でも、この放デイ難民については昨年頃から認識をしはじめ、就労移行支援や、大学生向けのガクプロの現場で新たな支援方法を模索しています。例えば今までのプログラムを変えたり、対応の仕方を変えたりです。しかしそれだけでは追いつかない印象が出てきており、2020年から「自立訓練(生活訓練)」を立ち上げることにしました。就職活動の前に、社会に出る前に人生について考え、自立についての生活力をつける場です。(名称など詳細未定…計画はこちら)
放デイで不十分だったところを、さらに税金を使って育てていって良いのか…という疑問は自分の中で強いのではありますが、今後、年間万人単位で出てくるであろう「放デイ難民」を受け入れ、しっかりと生産的な人生を送る手助けをするのは今後の新たな障害福祉の課題になりそうで、当社もなんとか力になれないかと考えています。
なお、放デイ難民の課題は、実はこれは放デイだけに限らず、高校の段階でサポート校や通信制などに言った子どもにも起きやすいかもしれません。また地域や家庭の子育ての脆弱性も関連しているのかも知れません。なので放デイだけに責任をきするべきではないのでしょうが、あまりにも急増して、質の問題が各地で言われる放デイの果たしてしまった部分は大きいでしょう。今後さらに問題が顕在化してくるかも知れません。
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追記:当社でも現在8箇所で放デイ を運営しています。そこでももちろん価値のある支援ができるように少しずつ改革を進めています。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴・社長ブログ一覧