日本はアメリカよりも発達障害フレンドリー?

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スタンフォード大学が行うニューロダイバーシティサミット2021。3度ほど寝落ちをしながらも1日目を聞き終わりました。

スタンフォード大学でニューロダイバーシティサミットが開催中

想像以上に刺激をもらいました。(これはイベント自体とは関係ないですが、コロナ禍でピボットして作られたというHublioというイベントプラットフォームがものすごく使いやすくてリアルイベント以上の双方向感が凄いです。)

強みを活かす例としてたくさんのビジネスパーソンが紹介されている。スタンフォード大学医学部の教授のプレゼンから。ポケモンがちらりと!

日本が進んでいる分野とその理由

初日の感想は、アメリカに比べて日本のほうが、特に就業分野では圧倒的に進んでいるなということです。

理由は、障害者雇用促進法があることが何より大きいと思います。もちろん発達障害*の人を「障害」に分類することは抵抗のある人も多いでしょう。しかしこの法律があるために相当数の人が雇用の枠に入っている印象です。

アメリカだと、かなり学歴があり、精神的にも安定していないと、就職が厳しそうでした。(障害者を別枠で雇うのはかえって差別に当たるということで、アメリカではいわゆる障害者雇用が無く、ガチンコで実力を見せないといけないからです。)実際にスタンフォード大学をドロップアウトした後、公共交通機関がない地元に帰り、車も運転できず、最低賃金で週10時間ぐらいの仕事しかできない人が涙ながらに訴えていました。

日本の場合は、学歴、知的水準、二次障害の状態、興味関心、などかなり幅広い人に対して、一般枠、一般枠オープン、障害者雇用と、様々な選択肢がある状況です。Kaienだけで、事務職からIT/デザイン職、軽作業、そのほか専門職など広範に1500人を就職させていると自己紹介をしたら、あまり信じてもらえませんでした。今回のスタンフォード大学が絡んでいるケースでも、グーグル、IBM、ウェルスファーゴなどで合わせても数十人程度ですし、基本的にIT系ばかりなので、桁が違います…。

障害者総合支援法や発達障害者支援法の存在も大きいですね。これによって、就労移行支援、就労定着支援、A型、B型、発達障害者支援センターなど、インフラが身近に整っているのは圧倒的な差につながっていると思います。もう少し日本は自信を持ったほうが良い気がします…

なおアメリカだと、発達障害=ITまたは起業、という感じ。それらを目指すときは日本と同じか日本よりも良いかもしれませんが、そのほかの専門性を活かす職への支援も受けづらい印象でした。セッション後の参加者のやり取りでも、I am not a Tech guy (自分はITが強くない)とか、My son is not … (息子は…)という感じで、ITに強みがない場合はなかなかチャンスが無いように感じました。

アメリカが進んでいる分野

一方で、今回のセミナーが「Neurodiversity」と銘打たれているように、ASDやADHD、SLDなどよりも、米国ではニューロダイバーシティがかなり広く使われる言葉になっていることを実感しました。(ただしこれは日本のほうが早かったとも言えます。Neurodiversityは日本の発達障害の概念とほぼ重なります。逆に言うと英語では発達障害にあたる言葉が無く、ASDやADHD、トゥレット症候群などと別々に言われることが多かったのが、今回はひとくくりで喋られています。)

発達障害とニューロダイバーシティ

また、学校での支援は圧倒的です。504とかIEPという法律に基づいた制度があり、高校や大学での学ぶ権利は手厚く保護されていると思いました。とはいえ、いじめやからかいが強くて特に中学校は黒歴史だというプレゼンテーターがいましたし、体育会系の部活の雰囲気についていくのは大変だという意見もあったり、偏見を恐れてマスキング(いわゆる障害をクローズにする)している子が多かったりと、日本と変わらない苦しみはありそうです。

そして、シリコンバレーに人材を輩出し続けるスタンフォード大学の主催イベントということもあるかもしれませんが、ITやサイバーセキュリティ、起業といったパネルディスカッションが別々に行われるほど、これらの分野への関心は強力だという印象です。たとえば、ASDの起業を支援するNPOもあるほどです。

でも、そういえば参加している人がBlue States(民主党が強い州)ばかりだった気がします。田舎や保守的(アメリカだとキリスト教が強い地域に重なる)などは共和党が強く、弱者に対する理解も弱いのでしょうか…

2日目も期待

なおニューロダイバーシティサミットは去年(2020年)から開催されています。今回のものも含めてYouTubeで見られますので、関心のある方はぜひご覧ください。(とはいえ今回は3日間で30時間ほどのマラソンイベントです。)

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス「TEENS」
大学生向けの就活サークル「ガクプロ」就労移行支援および自立訓練(生活訓練)「Kaien」 の立ち上げを通じて、これまで2,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます