発達障害グレーゾーン在職者の支援を学ぶ

最新の発達障害者支援を学ぶセミナー第2弾を開催
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夏の支援者・医療従事者向けイベント3回シリーズの第2弾を、2018年7月25日にKaien秋葉原サテライトにて開催しました。テーマは、「発達障害*グレーゾーン在職者の支援を学ぶ」です。最も暑さの厳しい時間帯に、31名の大学関係者、医療・福祉、行政関係者にお集まりいただき、二つの講演と熱心な質疑応答、そして懇談会が行われました。

【参考】最新の発達障害者支援を学ぶセミナー第1弾 就労定着支援事業の可能性

普通にできる人は、我々の会社でスキルを身につけたら縛り付けずに卒業させる

最初の講演はサザビーリーグHR(株式会社サザビーリーグ特例子会社)の管理部部長である宮下茂樹氏から、会社の取り組みとグレーゾーンのケーススタディーが発表されました。

2009年設立のサザビーリーグHRは、2012年に11名の発達障害者をすべてKaienの訓練生から採用したことから始まり、おそらく数ある特例子会社の中で最も発達障害者率、そしてKaien卒業生率の高い会社になっています。

講演では同社業務の紹介の後、「頭のいい人が多い」と宮下氏が喩える発達障害者の能力を活かす試みとして、正社員登用、資格取得支援制度、プライバシーマーク取得、社内売り上げ制度、リーダー職・プロフェッショナル職制度を導入していることが紹介されました。

後半はグレーゾーンとも取れる社員のケーススタディで、どこが発達障害か全くわからないというADHDの診断のある女性の例や、ハードスキルは非常に高いもののソフトスキルには未熟さもある広汎性アスペルガーの男性の例などが紹介されました。

宮下氏は「発達障害の特性上すべてがスペクトラムであり、何をもってグレーゾーンとするかは難しい」と語り、「普通にできる人は、我々の会社でスキルを身につけたら、会社に縛り付けない方がいいのだろうな、と思ってやっている。できれば他社ではなく我々のグループ会社に転籍するのが一番いい。なんとかその道筋をつけようと、社内派遣のようなカタチで試している。」と説明。特例子会社からの「卒業」という表現で、発達障害者支援の一歩進んだ形を示唆されました。

【参考】発達障害「グレーゾーン」「傾向がある」の真意

グレーゾーンでも受けられるサービスは多様化

2つ目の講演は当社西河から。スペクトラムという発達障害の特性から、グレーゾーンの生まれる背景や影響を説き起こし、受容が固まらない訓練生を支援する際の重要点を紹介しました。

グレーゾーンの訓練生に障害者枠と一般枠をどう選択させるか、という問題については、本人の気持ちを汲み取って障害者雇用で得られるメリットとデメリットをきちんと伝えることの重要さを挙げ、また、見極めのポイントを「困り感が言語化でき、かつ自力で修正可能な方は一般枠も可。社会的・職業的スキルは高くでも、困り感が多ければ障害者枠」としました。障害特性上長いスパンでの未来が想像しづらいため本人が困る場合も多く、そんな時は「未来マップ」を見せることで判断材料を提供することを付け加えました。

さらに、確定診断の下りないグレーゾーンであっても、自治体が障害者福祉サービス受給者証を発行すれば就労移行支援は利用可能であることや、現在在職中で、困難を感じ障害者枠での転職を考えているが、退職して長期間無職になってまで就労支援に通えない、今すぐ転職したい、というニーズに対し、福祉の支援は切れるものの、そのニーズに応える当社の新たな試み――発達障害者のための就職サイト「マイナーリーグ」――について触れ、多様な選択肢があることを確認しました。

【参考】発達障害グレーゾーンの方が障害者枠での就労を選ぶ理由

支援者は気持ちの整理ではなく情報の整理をし、あくまで本人の納得感を引き出す

ケーススタディーでは、就活時も就職後も障害をオープンにすることに抵抗を示す、確定診断の下らない職業的スキルの非常に高い人物の例が紹介されました。本人の意向に沿いながらも実際のパフォーマンスや困難に応じてKaienが介入し、人事と相談の上障害をオープンにする対象を限定したり、指示系統を1本化するなどの対策を講じ、最終的に障害があっても能力に基づき給与が算出されるシステムが採用されたことに対し、ご本人が非常に満足している、と報告されました。

まとめとして、受容の固まらないケースでは、あくまでご本人の意向を尊重しつつ、その場その場での困難や問題に対し、優先順位の判断軸や判断材料をお伝えし、本人の納得行く決断を引き出すことの重要性が語られました。

講演後の質疑応答においては、特性からくる周りの反応を読まない権利主張や、合理的配慮を求める際のセルフアドボカシー(障害や困難のある当事者が、自分の利益や欲求、意思、権利を自ら主張すること)のあり方、そして発達障害独特の衝動性と長期的キャリアの問題、2次障害の問題などについて議論が交わされ、その後の懇談会では、今回思いの他参加の多かった大学や専門学校の就職支援担当者から、グレーゾーンの学生に対する問題意識と危機感についてお聞かせいただきました。

言葉ばかりが先行する感もある「グレーゾーン」。イベントを通して図らずも定義の曖昧さや各人の抱くイメージのズレが浮き彫りになったように思います。また、サザビーリーグHR社の、社員のプライベートには一切介入せず、できる人は積極的に外に「卒業」させようとする支援のあり方が新鮮でした。

【参考】発達障害のある人の「合理的配慮」とは 大学編

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます