発達障害専門医を訪ねて…広がる支援とコモディティ化

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この一ヶ月間、首都圏と大阪において発達障害*の専門医(というか発達障害に関して定評のあるドクターと言ったほうが正確ですね)とお会いしています。

専門医を巡るのは創業の時以来ですので、2010年以来だと思います。その時はまったく右も左もわからず、発達障害の人の就職支援をしたいのだが良いでしょうか、とか、こういうプログラムをしているのでもしあった人があったら紹介してください、などと訪ね歩きました。

今回は発達障害の支援の風向きが変わってきたようなので、その点を先生方がどう感じているかということと、そもそも今Kaienに求められるものがあるとしたら何かを聞いて回っています。

発達障害を見られるドクターが増えた

その中で強く感じるのが一つ。「発達障害を見られるドクターが増えた」ということです。一昔前(というよりも半昔前ぐらいでしょうか)はなかなか発達障害を診断できるドクターがいなくて、少しでも待ちの少ないドクターを探すのが大変でした。例えばあるクリニックでは「以前は初診3・4ヶ月待ちだったけど、今の待ちは1ヶ月ぐらいかな」という感じで、あの名医でも案外予約が入りやすくなっているのが、少なくとも首都圏の現状です。

たしかにと感じることは多々あります。例えば今日も千葉の某駅に行ってきましたが、歩いて5分程度で4件程度の発達障害を診られるドクターがいらっしゃるのです。おそらく千葉の人でないと知らない駅名ですが、それでも4つとは…。それだけニーズが見込めるということなのかもしれません。あるいはドクターもおっしゃっていましたが、患者の確保で苦労されているところもあるために、新しい障害である発達障害に目をつけるドクターが多いのかもしれません。

一方で発達障害の診察は割に合わないとおっしゃるのが、これまで統合失調症を診ていたあるドクター。そのドクターによると発達障害の人の比率が上がっていることで、むしろ売上が落ちているとのこと…。薬の処方も必要で、2週に1度など定期的に通院してくれる統合失調症の人たちと違い、発達障害の場合は薬の処方されない割合も高く、診断だけしてくれればOK、というような困り感が出たときだけ来て診療を中断してしまう人が多いからとのことでした。初診ばかりになるとどうしても手間がかかり、効率的なクリニック運営が出来ないということなのでしょう。そのドクターは「もちろんクリニックに来るということは困っているということなんだけれども、繋がり続けるのが難しい。医療とつながらないタイミングでまた困っているのだろう」と言うような趣旨のことをおっしゃっていました。

ゴールドラッシュの末期的状態!?

個人的に発達障害の支援が広がるのは良いことだと思います。誰でも出来る=コモディティ化といいましょうか・・・

あるドクターは「2000年以降の高次脳機能障害のときとにている」とおっしゃっていました。つまり高次脳機能障害も2000年頃は診られる医者が希少すぎてものすごく待ちの状態だったそうですが、厚労省の施策などもあり徐々に診られる医者が増え、クリニック以外のところでの理解も広がり、徐々に沈静化していったとのこと。「発達障害も10年後にその流れを追っているようだ」とおっしゃっていました。つまり2010年ぐらいは困り感のピークだったが、徐々に行政の施策と、ADHD薬の販売プロモーションなどあって日常的な”疾患”になり、医者もその周辺もノウハウがある程度蓄積されてきたのだと思います。

でも今の発達障害ビジネスや、発達障害専門のクリニックが新興してきているのは、ゴールドラッシュの末期のような感じで、金脈を当てたところを嗅ぎつけた人たちが一気に集まってきたところかもしれません。末期といったのは、実は発達障害の人は雨後の筍のようには増えていないということだと思います。「凸凹クイズ研究会」の問題でも書きましたが、自閉スペクトラム症やADHDの割合はここ1・2年、米国の調査によると増加ペースが止まってきているとのことです。このためゴールドラッシュの金はもう限りある感じで、今は過当競争になりつつあるのだというのが、クリニックをまわっている印象です。

Kaienは新たな付加価値を目指す

じゃあ当社は何をすべきなのでしょうか?四苦八苦しながら発達障害の人を就職させていた時代は終わり、ある程度の場合は、ルートが開拓できて、順調に就職させることができるようになっています。そのようなベルトコンベアー方式を鉄壁にするのが良いのか?あるいは、「ある程度の場合」つまり簡単なケースではない難しいケースを上手に就職に結びつけたり、あっと驚くような視点で発達障害の力を使うような先進的なものを作り出していったりしたほうが良いのか?

答えはもちろんベルトコンベアー的なところではないものを当社には期待されていると思います。限られた金鉱をガツガツ奪い合うような戦いには弱い会社だと思いますし、そういうことをしたくてつくった会社ではありません。ほかの業者や支援者もある程度できるようなことをするところに存在価値を見出したくありません。

そうではなく、当社は発達障害の人といることを楽しみ、その価値を活かすことを企業に伝えていく会社であり続けたいです。なので当社ならではの半歩先、一歩先の支援を見つけ出していきたいと思います。ドクターのみなさんからいろいろ示唆をいただきました。それを形にしていけるかどうか、これから半年が正念場かなと思っています。いろいろと当社の形が変わっていくかもしれませんが、社会、そして何よりも発達障害の当事者・家族とその力を活かそうとする企業に必要としてもらえる企業であり続けられるように頑張りたいと思います。

詳しくは保護者会で…

このあたりの、発達障害の人たちの就業・雇用環境のホットな分析を保護者会でしようとおもっています。小中高生のご家族には「初級編」、大学以上のお子様をお持ちの親御さんには「応用編」という感じです。当社の利用以外の方もご参加いただけますのでぜひお越しください。

【参考】発達障害の就労の最新事情 2018 | 保護者会 11/23(金・祝)@秋葉原

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴社長ブログ一覧

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます