前回のブログでKaienの就労移行支援が待機が無く、スグに利用できるようになった(スグ使えるKaien)のはお伝えしたばかりです。(参考)もはやKaienは待たなくてはいけない就労移行支援ではない 今日はそこでお約束した『発達障害*の支援のコモディティ化と個々の支援の難しさ』についてお話します。
コモディティ化 コーヒーの例で
コモディティ化とは、『市場参入時に、高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること』です。
例えばコーヒーを考えてみましょう。
コーヒーが日本に登場した当時に、そもそもどのような豆を使うのかとか、どのように挽くのが美味しいのかとか、それこそ職人技だったことが想定されます。世の中誰もがコーヒーを美味しく淹れられるわけではなく、それなりの技術が必要だったわけです。
それが様々な機器の導入や知識の普及によって、誰もが身近にそれなりに味の良いコーヒーを淹れられるようになっています。もちろんこだわりのコーヒーは今もそれなりのお金を出してそれなりのお店でそれなりの人に入れてもらわないといけませんが、そこまで舌の肥えた、違いの分かる人は少数派なわけです。
個人的な趣味でいうと、昔はパガニーニしか弾けなかったであろう超絶技法のヴァイオリン曲も、今では小学生ぐらいで弾きこなしている人が出てきていますからね…。商品も技術も陳腐化はするものです。
「発達障害に特化」と謳いやすい理由
まず発達障害に特化と謳いやすい理由、すなわち発達障害の支援って簡単だよね!ということから。ちなみに今回は@就労移行支援なので、大人の支援のお話に集中します。
発達障害に特化と9年前に当社が言い出した時は頭がオカシイのかと言われるほどでした。それだけ物珍しかったです。障害の中でも就職が最も難しい(参考:経営理念と事業内容「最も難しいと言われた発達障害」)とされていましたので…。
それが今や雨後の筍のように『発達障害に特化』したサービスがしのぎを削っています。当社もそれに負けじとサービスを展開してきました。でも徐々に差別化が難しくなってきます。理由は「発達障害の支援の味噌」ってだれでも言えるものだからです。ウェブサイトで宣伝も出来るし、パンフレットにも載せられるし。知識としてはそんなに難しいものではありません。
前回ブログでもお伝えしたとおり、発達障害の支援の味噌というのは下記の3つな訳です。
- 【自己受容】発達障害は苦手なところがある。その状態(一生お付き合いする特徴)を自分が受け止めるのが最初のステップ。
- 【苦手対策】苦手なものには、克服法や回避法が用意されている。それらを試すのが次のステップ。
- 【長所発揮】自分の特徴を生かしてくれる職場や仕事を探す。長所を認めてくれる人はかならずいる。
そして更にいうと、どの「発達障害に特化」したどの職業訓練でも言っているのが下記の点です。
- 【体験型】職場に近い環境で、仕事を体験できる
- 【トリセツ】職場に伝える”自分の取扱説明書”を作る
これ以外、ほとんど無いという要素です。これら5つを伝え続ければ発達障害の専門機関にはすぐになれます。間違えではないですから。そしてこれ以上無いと言うぐらいシンプルで正しいと思いますので。
じゃあ、なぜその5点が重要なのか?は言えない
次に発達障害の支援が難しい理由です。簡単なのになぜ難しいのか?ですね。理由は大きく分けて2つあります。
1つ目は、先に上げた5つのポイントがなぜ発達障害では重要なのかが言えないと思われることです。支援には必ず『原因』→『現象/症状』→『対策』があって、『対策』のところを連呼することは簡単だけれども、『対策』と『現象』の結びつけ、あるいは『対策』と『原因』の結びつけは難しいということですね。
例えば…
なぜ”体験型”が良いのでしょうか?身体障害や知的障害、うつや統合失調症の人と何が違うのでしょうか?どんな人でも、どんな障害特性でも、”体験型”は良さそうなのに、なぜ発達障害だと特に重要なのでしょうか?このあたりの”なぜ”に答えられないと、ほんとうの意味で効果のある支援はできないと思います(ちなみに、僕が思っている答えは端的にまとめると、この場合は「想像性」に根っこがあります)。
もちろん倍の時間、3倍の時間をかけたり、成功確率(つまり就職に導く確率)が三分の一、四分の一になっても良ければ、『対策』だけを打ち続ければよいでしょう。しかし下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式だと、支援をされる側は困りますよね…。
支援者となるには時間が必要。『原因』→『現象/症状』→『対策』を一本線で理解するには経験年数が必要です。そして経験というのは失敗の中でしか学べないものもあります。僕も支援では色々と今でも迷惑をかけている印象がありますが、その繰り返しを何度もして少しは良い支援ができるようになってきます。
また個人だけではありません。経験は組織で密にやりとりをしていないと、組織の知見にもならない。プログラムや支援の方法論の共有につながらない。なので簡単に「発達障害に特化」は出来ますが、「専門的に支援」が出来るとは限らない、むしろ別問題ぐらいレベルが違うのです。
全体的に言える方程式も、個別には異なることが多い
そして「発達障害の専門」が難しい2つ目の理由。それが、上記の”発達障害支援の方程式”そのままでは一人ひとりには当てはまらないからです。方程式通りに解ける支援はありません。
例えば先日行ったある男性のインテーク(支援のはじめにご要望を聞いたり、ご本人の状況をアセスメントしたりする場)をあげましょう。もちろんいくつかの事例を混ぜて、特定の人についてではないようにしてお話します。
その方は、典型的なADHDの学生(3年生)でした。でもお父様が非常に厳格。ADHD的な集中力のムラや、ミスの多さ、予定の時間までにタスクを完了させられない(ギリギリまで行動しない)ことについて、努力不足と思っているフシがある方です。一方でお母様は一人息子の思いを捉えてやや過保護的になっています。ご本人は一生懸命に行動しているのに認めてくれない父親との関係が悪化して母親の方を常に見ながらお話をする、母子カプセル的なところも見られます。就労意欲はありますが、そもそも単位が取れておらず、休学もしている。大学の卒業も5年かかることはすでに確定…。それを聞いたお父様はなおのことイライラして…。
さてここで先の5つの方程式をどのように当てはめていくかというと…難しいですよね。世の中そんなに単純でないことがわかります。
お父様のいらだちも、お母様も過保護ぶりも、愛情の裏返しなのでわからないわけでもない。ご本人の努力も認めるとして、そもそも一般雇用を狙ったほうが良いのか、卒業を諦めたほうが良いのか。ゴールの設定からなかなか難しいケースです。
ゴールが3人で共有できたとしても、どのように対策を考えていけばよいのか、そもそもADHDだけで原因を説明してよいのか。現象で見落としている部分はないのか。それらがわかったとしてどのように3人に伝えていけばよいのでしょうか?これらは単なる方程式に当てはめればよいというものではなく、支援者の人間性や価値観、支援しているチームが共有する感覚なども当然重要になってきます。
一見簡単そうな発達障害の支援、わかったように周囲に喧伝できる点ですら、すごーく奥が深いのです。だからこそ僕もこの世界で現場で支援するのが一番楽しいし、学びがあるので、仕事を続けさせてもらえているのだと思います。
負け犬の遠吠えはこれぐらいにしたい…自己満足を自戒する
残念ながら上記のことは、当社の中のスタッフも全員骨の髄まで理解しているかというとそんな事はありません。そうすると当社も『発達障害に特化』というのは本当は掲げてはいけないのかもしれません。そこまで皆が専門集団になっているかというと、まだまだですね…。
一方で気をつけないといけないのが、専門家の自己満足にならないようにということです。もしかしたら支援を受ける側はそこまでの専門性を求めていないかもしれない。コーヒーでも手軽に飲めればそこまで高い質は求めない、むしろ不味いぐらいでも飲みたい時に飲めるほうが重要という方も多くなってきているのかもしれません。
アンダードッグとしてスタートしたKaien。またその機会をいただけるようではあります。もう一度今の時代に求められている支援は何かを理解して、皆からお声を頂戴して、今の時代にあった内容を、身の丈にあったサイズで、日々の事業に落とし込んでいきたいと思います。
というわけで、色々なご意見やご感想がありましたら、SNSに書き込んでいただいたり、下記のサービス案内にある利用説明会などにお越しいただき、ご要望をお伝えいただけますと幸いです。もし何らかの足しになるのであれば講演に呼んでいただければタイミングが合う限り伺いますので、よろしくお願いします。
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴・社長ブログ一覧
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます