2019年版 発達障害 就業実態調査から① 診断・告知・気づきのタイミングは世代と性別で異なる

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Kaien社長の鈴木です。

就業実態調査 発達障害者の働く「今」を知る

毎年行っている発達障害* 就業実態調査。昨年2018年も上のように記事にまとめましたが…

発達障害者の働く「今」を知る 2019 就業実態調査

…令和最初の今年(2019年)も調査を実施しました。なんと過去最高の500人以上の方にご協力いただいています。

ものすごい量の情報なので、色々な切り口で分析をしています。年末年始の休みが無くなりそうなほど興味深いインサイトが得られていることもあり、何回かにわかってアンケート結果を分析した記事を書いていきたいと思います。

※なお今回ご紹介する内容を共有したいということがありましたら、発達障害啓発目的・非商用利用の場合に限って引用・転載が可能です。その際は「©株式会社Kaien 発達総合研究所」と「2019 発達障害 就業実態調査」を引用元として明示くださいますと幸いです。

告知/診断と気づきのタイミング(年代別)

まずは就業の一歩前の情報を分析。それが告知・診断と気づきのタイミングがどうかということです。

以前から気になっていたのが、当社に来る人はいつ頃自分の特性(周囲との違い)に気づき、いつ頃それを受け止め、いつ頃医療機関にかかり、またその時周囲に連れられていったのか自分から行ったのかの別はどうで、その後どれぐらいして福祉機関などで支援を受けようと思っているのかということ。

就業実態調査のメインではないものの、やはり本人目線を知る上ではぜひ確認しておきたいということで今回のアンケート結果に何問か加えました。1つ目は10代・20代・・・50代までのデータです。それぞれの年代の方が、どのタイミングで自らの発達障害の特性に気づいたかという点を分析しました。

選択肢は下記の通り。nは494です。

  • 診断が先(4・5年後以降に気づき/告知)
  • 診断が先(2・3年後に気づき/告知)
  • 診断が先(1年後に気づき/告知)
  • 診断が先(数ヶ月後に気づき/告知)
  • 診断が先(数週間後に気づき/告知)
  • 気づきと診断がほぼ同時
  • 自らの気づき後、数週間に受診
  • 自らの気づき後、数ヶ月に受診
  • 自らの気づき後、半年後に受診
  • 自らの気づき後、1年後に受診
  • 自らの気づき後、2・3年後に受診
  • 自らの気づき後、4・5年後以降に受診

グラフの見方はわかりますか?濃い色の部分が、周囲が先に気づき、自分が詳しく知る前に医療機関などで診断を受けていて、あとで告知を受けたケース。薄い色ほど本人が先に気づいたものの(あるいは周囲は気づきを伝えないまま)最終的に時間がだいぶ経ってから診断にたどり着いたケースです。

予想通り、年齢が高い人のほうが、自分での気づくものの、診察までの距離が遠い、という事がわかります。それがどの程度なのかグラフの傾斜を見ていただければと思います。

LGBTも含めた分析 LGBT>女性>男性 で自らの気づきが早い

次はn=491の分析。性別です。性別といってもLGBTも今回は含んでいます。

左がLGBT。真ん中が女性。そして右が男性です。(ちなみに今回の調査では男性は6割強、女性は3割強、そしてLGBTは数%でした。)見ていただくと分かる通り、グラフが右になるほど色が濃くなってきている、つまり診断のほうが先で自分が知る・気づくのが後だということがわかります。

LGBTの人はサンプル数がどうしても少ないのですが、それでも自らの気付きのほうが早いことがわかります。最も遅いのはやはりというか男性ですね。

これはLGBTによる人との違いがあるからこそ、発達障害的な違いにも気づくのが早いと見るべきか、LGBTの場合、ASD的な特性が少なく客観的に自身を見ることが出来ていると考えるべきなのか、どちらかかなぁと思います。今回は残念ながら診断名を詳細に聞いておらず、これ以上の分析ができないのですが、性別による違いがここにもあるということがわかります。

医療と福祉 いつどちらに先につながる?

最後はグラフを作ってみたものの、どのように分析すべきか、情報を理解すべきか、私も結論が出し切れていないものをご案内します。

医療と福祉のタイミングというグラフ。nは546です。これは、既に見てきた診断のタイミングによって、当社を始めとした福祉などを利用して支援を受けようと思ったタイミングを聞いています。背景にある問題意識としては、発達障害の人がどのぐらいで自分の特徴を受け止めて、周囲の力を借りながら人生をより良くしようと行動できるかを知りたいと思ったからです。

で、グラフなのですが、右肩上がりなのがわかります。つまりなかなか病院・クリニックに行かなかった、切羽詰まっているタイプの方が、早めに、場合によっては診断前に福祉に繋がろうとしているということです。しかしその傾きは思ったほどではなく、なだらかだなということ。

(ちなみに、一番左の、家族が先に気づいて、本人が告知される前に、診断されていた人が、福祉へのつながりが遅く見えますが、これはおとなになって就労支援を受け始める時期までに数年かかったという理解をしていただければと思います。すこし曖昧な区分にアンケートを設計したので、子どもの頃から福祉に繋がっていた層と、診断は受けていたけれども子どもの頃は福祉にはつながらなかった層が混在してしまっています…。)

もう一つの気付きが、診断と自らの気付きのタイミングが近いタイプだとしても、すぐに福祉に繋がった人たちは半分もいないということです。1年以上かかっている人が半分ぐらいいます。案外時間がかかるなと…。

つまりは、福祉につながるのが早いタイプもいるし、医療につながるのが早いタイプもいるけれども、どちらも繋がって理解と行動がシンクロし始めるまでは1年や2年かかるのが普通だと考えたほうが良いのかもしれません。(これもアンケートの設計によってはもう少しクリアにわかったはずですが…)

次回は就労移行など福祉に繋がる前の就業状況を分析

いかがだったでしょうか?次回は福祉に繋がる前の就業状況を分析していこうかなぁと思います。(気が変わって下にリンクを貼るとおり給与水準を考察しています。)

2019年版 発達障害 就業実態調査から② 給与水準を性別・年齢別・職種別で考察する

2019年版 発達障害 就業実態調査から③ 正社員を考察する

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます