Kaien社長の鈴木です。
毎年行っている発達障害* 就業実態調査。昨日は「告知・診断」を軸に検討しました。今日は給与を様々な角度から見ていきます。
※なお今回ご紹介する内容を共有したいということがありましたら、発達障害啓発目的・非商用利用の場合に限って引用・転載が可能です。その際は「©株式会社Kaien 発達総合研究所」と「2019 発達障害 就業実態調査」を引用元として明示くださいますと幸いです。
月給は約18~19万円が平均的 ただし12万円前後に「軽作業 週30時間」の山もあり
まずは全体の月給を検証します。今回のデータのnは260~272です。
30万円以上稼いでいる方が一定数いますが、それ以外は概ねベル型の緩やかな山と考えて良いでしょう。20万円というのは障害者雇用で事務職で働くときも、一般枠で新卒で働くときもこの程度の額になりやすいため、中央値も平均値もこのあたりに集まりやすいと考えられるでしょう。
ただし、12万円のところにもう一つ山があります。これは知的障害があるなど軽作業をメインにした障害者雇用の場合、勤務時間が30時間/週のことが多く、そうすると給与が12万円前後になりやすいという障害者雇用の特有な傾向がわかります。今回は勤務時間に関するチャートはお見せしませんが、最後に職種別の傾向をお見せします。そこで軽作業が低くなっているのは、作業自体よりも勤務時間によるものであり、そうした職種がまだ障害者枠には多いため、チャートで山がもう一つあるという風にご理解ください。
なお、赤い線は右側の%表示を見ていただきたいのですが、何%ぐらいの人がその給与水準に当てはまるかです。例えば月給23万円以上もらっているのは2割程度しかいない事がわかります。
年収は240万円ほどが平均的
次はボーナスも含めた年収版です。外れ値の方がいますが、多くは200~500万円に収まっており、特に200万円台と300万円台の前半に多いことがわかります。先の例で見たとおり15万円ぐらいに山があるのは障害者雇用の軽作業の枠と思われます。(あるいは、コンビニやレストランでの、時給制の一般枠アルバイトで働く人達です。)
年代別給与 年とともに微増と考えて良い!?
次は年代別です。月給で年代別でチャートを作ってみたものの、やや分かりづらいですよね。
20代は10万円台の月給が多いけれども、年代が上がると20万円台後半や30万円台の割合が高まると考えられるのでしょうか。
次は月給ではなく、ボーナスも含めた年収を世代別で分析しました。箱ひげ図というもの。箱の部分が半分の人が入る部分で、ひげのようになっているところは上下25%ずつの広がりを示した図です。
これを見ると年代が上がると年収も上がることがわかります。(データ数が10ほどしか無かったもの)50代になると下がっていることがわかります。障害者の就職事情で中高年が厚労省も当社も力を入れ始めていますが、それはこうした傾向(中高年になると、集中力や体力が衰え、新しい職場スキルや慣習にも追いつけず、離職しやすかったり、給与が下がりやすい傾向)が予想されるからだと思います。
一方で、発達障害の理解の状況はここ10年で大きく変わっています。今20代の人が10年後にこのチャートの30代のデータに当てはまるかというとそうではないでしょう。いま40代の人はおそらくここ数ヶ月や数年で発達障害の特性に職場や家庭で気づいたという人(つまり今までは気づかずともなんとか暮らしてきた人)である可能性も高く、小さい頃から診断を受けている現代の発達障害の人たちとの将来像としては考えづらい印象です。
性別・契約形態別・職種別の年収 誤解に注意
3つのチャートを一気に紹介します。いずれも万円単位の年収チャート。性別、契約形態、そして職種の別による分析です。
わずかに男性>女性
男女ではそれほど変わらないことがわかります。やや男性が多いのは、少し意外でした。障害者雇用ではむしろ女性が多い可能性があり、もう少し分析を続けてみたいと思いますが、今回は一般枠の(今では死語かもしれませんが)一家の大黒柱的に働く男性で結婚子持ちの人たちに引き上げられたのかもしれません。
正社員>契約(月給)>契約(時給) かつ 一般>正社員
契約形態別に見ると、まずはフリーランスや自営の厳しさはわかります。数は少ないのですが、夢はあるもの、やはり軽々にお薦めはできないなという印象です。
その他は、正社員>契約(月給)>契約(時給)の順で、一般枠にしても障害者雇用にしても並んでいるのがわかります。
もちろん一般枠で正社員でが良いわけですが、これも離職率が障害者雇用よりも明確に高いわけであり、瞬間風速的な分析だけではなく、(今回はできていませんが)積分的な分析が必要になるところです。また始めは一般枠正社員で自分の出来るできないを、つまり現実を知るという順番がしっくりくる人もいると思いますし、徐々に一般枠正社員を、障害者雇用の契約社員からステップアップで目指すという方が良い方もいるでしょう。
いずれにせよ人それぞれであり、狙うべき契約形態については、その方やご家族のお考えや状況などを勘案し、当社も何度も議論を重ねて就活の方向性を決めている、支援で最も難しい部分の一つでしょう。
専門職がトップ3
職種別です。こちらは専門職が高いことは予想通りです。オレンジのその他専門職は様々な職種が混ざっており、上を見れば上は高く、下を見ればかなり低いという状況です。
ここについてももちろん給与水準が高いところに飛び込みたくなるのが人情ですが、安定的に働けるか、ステップアップしていけるか、など多角的に考えて行動することが重要です。
また職業に貴賎はありません。軽作業や清掃が好きな人もいます。また能力的にある作業しかできないという人もいて、給与水準的には低くなりやすいという人もいるでしょう。(障害者雇用ではむしろこうした制約や限界を感じやすい方が大半とも言えますので、決して珍しくは有りません。)
いちばん重要なのはご本人や周囲が納得して楽しく幸せに人生を暮らせることです。また年収が高いから偉いわけではなく、私個人はその人の能力をどの程度フル活用できているかが尊いと思っています。年収が低い場合は(今回は設問から漏らしてしまっていましたが…)障害年金の申請など公的扶助も考えることが必要ですし、日本に暮らす一人として制度に頼ることは全く恥ずかしいことでもないことは、念の為お伝えしておきたいと思います。
次回は正社員までの道を分析
明日は大晦日ですね。仕事人間の私も明日はやや私用が多めになりそうで、もしかしたら次回記事は年越しかもしれませんが…、内容としてはRoad to 正社員という感じで考察したいと思います。
(追記:無事最後の考察をかけました。下記の記事もぜひお読みください)
文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS、大学生向けの就活サークル ガクプロ、就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます