調査方法と目的
2017年から年末に行っている「就業実態調査」は、発達障害*のある方へ、仕事や生活について伺うオンライン調査です。5回目の今年は1,000人を超える方から回答がありました。
- 調査期間: 2021年12月
- 有効回答: 1,072名(うち Kaien利用者・修了者3 50名)
- 調査方法: オンラインフォームによる回答
なお過去の記事もぜひ参考にされてください。
参考:「就業実態調査」一覧
回答者
- 平均年齢: 30代前半
- 男女比: 56:43
- 居住地: 関東1都3県72.9%(特別区25%、都下10%など)、関西2府4県12.1%
- 職業: 一般枠27%、障害枠41%、失業26%
調査報告
この投稿では「仕事と生活 各種チャート」を取りあげます。
- 第1回 「診断後すぐ特性受容が出来た?」
- 第2回 「一般枠 どこまで診断をオープンにしている?」
- 第3回(この投稿) 「仕事と生活 各種チャート」
- 第4回 「Kaien 就労移行・生活訓練 利用データ」
仕事編
第3回の今回は仕事と生活に関する分析をべたべたと貼っていきたいと思います。なお有効回答数は591人でした。
一般枠と障害枠
現在の状況については下記のようなデータになりました。Kaien未利用者は当社のガクプロ(学生向け)や就労移行・生活訓練を経ていない人です。この場合一般枠が27%近くあります。(n=557) 失業・無業などを除くと一般枠と障害枠の比率は4:6程度です。
一方でKaien修了生に限ると、福祉を経由した方がほとんどであるため、一般枠の割合は12%まで落ちます。(n=182)
障害者雇用 正社員化の時期
先のデータでもある通り、実は障害者雇用は契約社員が多いです。とはいっても、下記の通り入社3年目ぐらいまでにおおむね正社員化されていることがわかります。
勤務時間 平均33.8時間/週
障害者雇用の方がいるため週30時間が多いのが特徴です。逆に30時間未満の多くは一般枠となります。過去の記事でもお伝えした通り、時給換算ではそれほど給与水準は変わらないのですが、勤務時間の長さで最終的な手取りが変わるのが発達障害の方の支援を見ていると感じるところです。(n=591)
月給 平均17.7万円
残業を含む額です。いわゆるフルタイムの方だけを見ると20万円前後まで上がりますが、パートや短時間労働などを含めると18万円を若干切るぐらいになるのは例年と同じです。今後最低賃金が上がっていくとこの数字も徐々に上がっていくでしょう。
年間賞与 有りは6割 平均41.2万円
賞与は4割の方はゼロ。一方で有りの方の平均は40万円を超えています。年間の所得は先の月給に合わせると250万円前後の方が多そうです。なお、年間賞与ゼロも平均に含めると賞与の全体平均は24.2万円でした。
昇給 半分が経験なし
勤務年月にもよりますが、昇給していない方はほぼ半数。上がっている場合の平均は1.3万円。平均勤続年数が3.7年でしたので、単純平均で年に3,500円ほど昇給があるという形です。
転職歴は?
特にADHD傾向の強い方は転職歴が多いと言われますが果たして…。案外に転職が少ない人が多いなという印象です。これはアンケートの回答の平均年齢が30代であることを考えると、①そもそも働ける期間が短かったので勤務社数が少ないとも考えられますし、②案外ジョブホッパーは少な目という風に考えることもできるかもしれません。ただし例えば6社以上の割合は3割を超えますので、一般の感覚に比べるとやはり転職傾向が極端に高めの人が一定数はいらっしゃることになります。
各種満足度
その他、障害者雇用が多く家庭の支援を受けることが多い障害福祉(Kaien)修了生の満足度と、一般枠が多く福祉を頼らず就職を果たしている人が多いKaien未利用者との満足度をチャート化しました。Kaien経由の人のほうがすべての数値で高いのはKaienが優れているのか、Kaienを使える家庭や周囲の支援があったからというと後者の気がします。本来はここを調べて政策提言などにつなげられれば良いのかもしれませんが…。分析できる大学の研究機関の方などいらしたらぜひお声をおかけください。
生活編
次は生活編です。これもまず、Kaien利用者と未利用者に分けて聞いています。
不安の内容
今後の人生。どのあたりに不安を感じているのかも今回尋ねました。お金が圧倒的と予想していたのですが、実は心や体の維持が高い不安になっていることがわかります。
生活状況
生活状況を伺えるアンケートも取りました。
お付き合い・結婚のところは男女差が非常にあるところです。
■異性などとのお付き合いの有無を教えてください(割合は女性・男性の順)
- 今までお付き合いしたことはない 33%、59%
- 現在お付き合いしている 23%、9%
- 過去にお付き合いしたことがある 44%、32%
■結婚の有無を教えて下さい(割合は女性・男性の順)
- 一度も結婚していない 75% 90%
- 現在している 20% 9%
- 過去にしていた 7% 2%
就業実態調査を更に分析(動画)
2022年1月に筑波大学准教授の佐々木銀河先生を招き「就業実態調査」を読み解くウェビナーを開催しまいた。動画もぜひご参加ください。
再掲:「就業実態調査」一覧
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます