就労移行支援事業所Kaien新宿の鈴木です。
発達障害のある方にはその場ですぐに指摘する
職業訓練の中で、「今業務説明のメモが取れてないですが取ってくださいね」「いきなり話したい事から話し始めたけど、まず最初に相手の名前を呼んで、今話していいか確認してから話しを始めてくださいね」など、職場にふさわしい振る舞いに変えていただくようその場でお伝えするようにしています。発達障害のある人の中には、ルールとして「メモを取りましょう」など学んでも、いつどうやって書けばいいのかまではわかりづらいという方も多いからです。
このように伝え方には気を付けてはいるのですが、当たり前ですがそれでもなかなか行動が変わらないこともあります。「こだわりがある」というように周囲からは見え、これは変えようとしない方がいいのかなと悩ましく思うこともあります。しかしご本人とお話をしていくうちに、どうしてその行動をし続けていたのか(別の行動をしなかったのか)がわかることがあり、「こういうことだったのか!」ととても納得してしまうことがあります。
その場で指摘してもメモ帳にメモを取らないのはなぜ?
職業訓練時にメモを全てコピー用紙のような1枚紙に書いている訓練生がいました。小さな字でぎっしり詰めて書くスタイルで、聞いた指示を丁寧にきちんと書きつけていることはわかりましたが、保管するには表紙もないので強度がないし、何回も見直すのにはあまり向いていないと思い、「職場ではメモ帳にメモしたほうが良いですよ」とお話しました。何回かお伝えしましたが、それからもその訓練生は1枚紙にメモを続けていました。きちんとメモは取れているし、どうしてもそちらの方がやりやすいと思うのであればそれでもことは足りるかと思い、強制するようなこともしたくないなという思いもあってそのまま訓練を続けていました。
コツコツ業務に取り組む実直さが企業さんに伝わったのか、利用から4か月程度という早いペースで就職されていきました。その後数回職場訪問させていただき定着支援を行いましたが、そこでお話を伺う中で企業の方から「最初は紙にメモをしていたが、メモ帳にメモするように指導しました」という話が出てきました。模擬職場形式とはいえ職業訓練は実際の職場ではないから注意されても変えなかったけど、やっぱりお給料をいただいて働いている職場で注意されたことはすぐ変えることができるんだなと勝手に推測をしていました。
訓練で指摘されたことは職場でも求められると「一般化」できていなかった
その後ご本人と1対1での面談の時に、「そういえばメモ帳でメモを取るようになったと先ほど聞きました」と話を振ってみたところ、どうして訓練では指摘を受け入れていなかったのかがわかりました。「Kaienで紙でなくメモ帳にメモをするように言われたことは覚えています。でもそれはKaienの職業訓練でそうするべきという意味だと思いました。自分が働く職場ではまだどちらかわからなかったので…」とのことでした。そこまで場合分けをして考えていたなんて全く想像していなかったのでただただ驚きました。多くの人は職業訓練で言われたことは自分が今後働く実際の職場でも求められるだろうと自動的に理解しますが、この訓練生はそうではありませんでした。(自閉スペクトラム症がある人は個別の事例から一般化してルールを学ぶことが苦手だと言われています。)
行動の背景をイメージする
職業訓練の時に、どうしてメモ帳を使わないのかという理由を、ご本人との話の中から引き出したりこちらがもっとイメージできていれば、もっと違ったお伝えの仕方ができて、メモ帳にメモを取り始めてもらえたかもしれません。ご本人の「こだわり」という先入観があり、なにか強固で変えることができないものだという私の側の思い込みもあったかもしれません。日々の訓練の様子やお話の中から、もっといろいろな角度から行動の背景を考え、その仮説に基づいて働きかけを行うことが必要だと痛感した出来事でした。
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