就労移行支援事業所Kaien新宿の鈴木です。
前回の記事のように、職業訓練で少しずつ業務理解やコミュニケーションのコツをつかんでいく人と、それでもなかなか学びにつながりにくい人がいます。「わかってできればやる気になる」とすると、では後者の人はなにが「まだわかっていない」のでしょうか?私も支援をしていてなかなかご本人の行動を変えていく手助けができていないことに悶々とした時期がありましたが、その答えは支援の中で訓練生から教わりました。
「チャレンジ雇用」で実務に挑戦
言葉遣いが荒かったりやる気がなさそうな作業態度で、周囲から浮いてしまっている訓練生がいました。スタッフからもいろいろな働きかけをしていましたが、なかなか状況は変わりませんでした。就活でも面接態度のせいかうまく意欲をアピールしきれず、求人はもちろん、体験実習の募集でも選考を通過できない時期が続きました。そんなある日、社内のスタッフが以前スタッフブログでもご紹介したチャレンジ雇用の情報を私に教えてくれました。お給料をもらいながら省庁や自治体で就労の練習をする期限付きプログラムで、これで実務の経験を積むことができれば、次に求人に応募するときにもアピールしやすくなるだろうと思いご本人に紹介してみました。お伝えしてみて初めてわかったのですが、ご本人は公共性の高い職場での業務にとても関心が高く、是非チャレンジしたいということで応募することになりました。数十人の枠があったことも幸いし、無事選考を通過して勤務をスタートしました。
「模擬」でなく「実際の職場」「実際の業務」でないとイメージや意欲が湧きにくいことがある
データ入力や印刷など数種類の業務を行う中で、「自分には体を動かす作業が合っている」というご本人の気づきがありました。また上司や同僚とのコミュニケーションもまだまだ友達同士のようなラフな言葉遣いが出ることもありましたが、指摘をされたら自分から修正していこうという姿勢が見られるようになりました。そうして数か月勤務したころに、チャレンジ雇用先に他企業から選考を兼ねた実習の案内が届きました。こちらもやはり公共性の高い業種なのと、フィット感があると分かった軽作業系の業務ということで、ご本人の応募意欲も高く参加を希望されました。実習中の現場に私も伺いましたが、訓練のころとは見違えるような作業態度で、いい意味で驚いたことを覚えています。わからないことがあったら自分から近くのスタッフに確認に行き、確実に作業を完了させることに意識が向いていることがわかりました。
「現場」を超える学びの場はない
本当に心からしてみたいと思える仕事を、その現場で実際にさせてもらうことがご本人にとって重要だったことをこの見学で痛感しました。「本物」の職場がどんなものかわかることが必要だったのです。まず働くための最初の土台をつくるために、安心して成功や失敗をして学んでもらえるように模擬就労プログラムをつくっていますが、やはり実際の現場でしか味わえないことや学びにくいことがあると実感しました。その後は機会があれば訓練生にどんどん企業実習に行っていただけるように情報を集めて提案することを心がけています。この修了生は実習先で無事トライアル雇用から就労をスタートしています。
どう学ぶ環境を整えアプローチするかを考え提案する
ともすると訓練でうまく学びができていない人のことを「やる気がない」「働く意欲がない」など属人的な評価をしてしまいがちで、そうなってしまうと次のアクションが見えにくくなってしまうのではと思います。しかし「ご本人にとってどうしたら学びやすくなるか」という視点で見ると、できることは増えるのではないでしょうか。どれだけ想像力をもってご本人の支援の道筋を組み立てることができるかというのが、私たち支援者に求められていることだと思っています。
あなたの就労への道のりを一緒に考えましょう。当社の発達障害*のある人向け就労支援について詳しく知りたい方はぜひ利用説明会にお越しください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます