「私は何者?」~診断名に振り回される当事者~

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こんにちは。就労移行支援事業所Kaien池袋の湊です。
発達障害の診断を受ける方の中には、自分のことを客観視することが苦手、とにかく不安が強くて断言することが苦手等と言った特性をお持ちの方が多くいらっしゃいます。そのため、診断名を頼りに「自分探し」をしてしまっている方がいらっしゃいます。今回は「自分はいったい何者なのか」を考えた時に診断名によって振り回されてしまっているような方についてお話をしたいと思います。
精神疾患の診断マニュアル、DSM-5

診断名に頼り切ってしまう人

訓練を受けている方の中には、発達障害と診断されたことをきっかけに、インターネットや書籍で調べまくり、発達障害に関する話になるとつい饒舌に語る方がいらっしゃいます。過去には履歴書の添削をしている時に、障害特性について記載する欄が「自閉スペクトラム症という障害は…」から始まり、ウィキペディアのように診断名の説明で埋めて来た方もいました。診断を受けるまで、辛く大変な経験ををしてきたために、診断名がある意味で、その大変さから抜け出すための解決の糸口と感じられ、こだわってしまったのかもしれないと感じました。しかしながら、履歴書などの書類は、その人がどういった人なのかを示す手段の一つなので、「一般論ではなくて、あなた自身のことを書いていただきたいです」とお伝えしてしています。結果、今まで診断名に頼り切ってしまっていたので、なかなかこれだ!という自分の特性や性格を見つけることが出来ず、「自分の特性がよくわからない」と悩まれてしまいました。そういったご様子を見ると、発達障害の方は自分のことを客観視したり、言葉で表現して伝えることが苦手というかたも多いので、すでに診断として型の決まったものに対して安心感を覚えるのかもしれないですね。

診断名によって自分を見失ってしまう人

発達障害に関連して、「重ね着症候群」という言葉があります。発達障害の傾向はあるが、知的レベルがIQ85以上で学業成績等には目立って悪くはないため、成人するまで発達障害と診断を受けない方が多くいらっしゃいます。背景には発達障害の傾向がある人にもかかわらず、ひきこもり、うつ、不安などといった様々な精神症状を訴えて精神科を受診し、発達障害ではない異なる複数の診断をされてしまう方々を「重ね着症候群」と言います。個別相談にいらっしゃる方の中にそういった状況の方もいらっしゃいます。

私がお会いしたその方は、お母様と一緒に個別相談にいらっしゃいました。いくつもの病院・クリニックを転々とし、行く先々で全く異なる診断名をつけられていました。躁うつ病と診断されたかと思えば、人格障害と言われたり、発達障害と言われたりしていました。まさに、「重ね着症候群」の状態です。毎回違うことを言われてしまうので、「自分が何者なのかわからない。どうしていいかわからない。」と細々とした声でおっしゃっていたのが印象的でした。一緒にいらしたお母様も精神医療に対する不信感をお持ちなのが伝わってきましたが、それでもKaienに来ていただいたということは何とかしたいという気持ちがどれだけ強かったのか、とても伝わりました。おそらくそれぞれの診断名に紐づくような要素はお持ちなのかもしれないけれど、最終的に私からお伝えしたことは診断名よりも、自分が何が得意で何が苦手なのかをはっきり言葉で伝えられるようにすることが大切であることをお伝えしました。

診断名に縛られず、自分の行動から自己分析

診断名に振り回されないようにするには、まず自分の行動を振り返ってみたり、周囲の人にフィードバックしてもらうことが大切だと思います。Kaienでは自己分析シートというものを活用して診断名ではない視点から得意・不得意を見つけられるようにサポートをしています。例えば、協調性という項目には、周囲の人とうまくやっていけるのかどうか、エピソードを交えて記入してもらい、それが働くうえで配慮を頂いたほうが良いのか検討してもらいます。また、キャリアカウンセリングでは、訓練中に失敗してしまったこと・うまくいかなかったことをフィードバックし、なぜそれが上手にできないのかを分析することによって、ご自分の苦手(障害特性)を整理するようにしています。

確かに診断名は、知っている人には使いやすい言葉なのかもしれません。しかしながら、世の中の人すべてが知っているわけでもなく、専門家でさえ誤解を生じさせてしまう可能性のある言葉です。だからこそ、まずは自分の行動から得意と不得意を、誰でもわかる簡単な言葉で説明できる力が社会生活を送るうえでは大切なのだと、私は日々訓練を見ていてそう思います。